第6話 友人の闇
女子生徒とのやり取りを呆然と見ていた次郎へ、今度は話しかける。
「おい、次郎。お前とも契約だ。お前の口も封じさせてもらうぞ」
次郎は特に驚きもせず、分かっていたというように、頷きながら圭のほうを見た。
「だろうね……で、俺に出せる条件は?」
圭も予想打にしていなかったセリフが次郎の口から放たれ、少し思考を挟む。
「……本気で言ってるのか? お前に出す条件なんざある訳無いだろ。お前は俺を裏切ったんだぞ、その報いだとでも思えよ。
お前にとってデメリットもないんだから、それぐらい無条件で受け入れてもらえる権利ぐらい、俺にあるだろう」
もう、友達でも何でもないんだ。とことん、突っ込ませてもらうぞ。そう生き込んでのセリフだったが、次郎はこれまた予想外の方向へと話をもって行き始めた。
「じゃあ、ってことは……その……俺はお前のことを黙っている代わりに……俺がお前を騙したって事実を、許してくれる、って契約でいいのか?」
その契約内容に頭にまで血が上った。冷静ながらも怒りもまたこみ上げてくるのだ。
「随分なお友達だな、次郎。仲直りを契約でするのか? 本当にお前ら、コントラクトとかいうアプリに毒されているんじゃねえのか?」
圭は自分の指で自分の頭、脳がある部分をつついてみせた。
「で、でも……そうでもしないと、お前……俺の話を聞いてくれえじゃねえかよ!」
「当たり前だ! 聞くわけねえだろ!」
「でも。聞いてくれよ! でなきゃ、なにも進まねえだろ!」
「お前とはここで終わりだ。進む必要なんかねんだよ!」
「いやだ、俺はお前とこれからも友達で有り続けたい!」
「お前のやったことは……友達に対してすることじゃないだろうが」
「……そうだよ、本当に悪かったよ。でも、お前は……俺の謝罪すらも聞いてくれないんだろ!」
「当然だ! こんな面倒なことに巻き込まれて、これ以上……」
「だから……!!」
二人で言い合う中、次郎はビシッとスマホを前に突きつけてきた。コントラクトの契約画面を圭の目に焼き付けさせるように、ひたすら突き出してくる。
「契約しかない。俺はお前のことを黙っている。だから、許してくれ、俺のやったことを。この契約に……賛同しないなら……俺はお前のことを、学校中に言いふらす」
次郎の目は間違いなく真剣だった。真剣に、このセリフを吐いている。
「お前、自分が言っていること、わかっているのか?」
「もちろんだよ。最低のクズだと思ってる。友情を売って金を得て、友情を契約で保とうとしているクズだ。
それでも、俺は……お前に許してもらいたい。俺の言い分、聞いて欲しい」
……なんなんだよ、こいつら。頭おかしいよ。契約契約って、なんなんだよ……なんなんだよ……。狂ってるよ、イカれてるよ……。
「……お前のことを、許すぐらいなら……言いふらせよ、俺のことを。もう……どうでもよくなった」
好きにすればいい、冷静に考えれば、言いふらされたからどうだってんだ。注目をあびたから、どうだってんだ。
全て無視してやればいいんだよ。契約? くそくらえ!
「本当にいいの?」
「……あぁ?」
次郎はまるで真剣な表情を変えず、圭と顔を合わせようとしてくる。
「今、この学校には……いや、学校の外にも、コントラクトによって作られたグループが無数に存在する。どのグループも、自分の勢力圏を伸ばそうと動いている。
そんな中で、そいつらに抗おうとしている、圭の存在が広まったらどうなると思う?
あるグループは君に接近して、ネイティブを潰そうと君を利用するかもしれない。あるものは、自分たちの驚異になりうる革命家として君自身を複数の勢力で潰しにかかるかも知れない。
どのみち、圭は……振り回されるだろうね」
「……お前はゲーム「信長の野望」でもやってるつもりか?」
「実質、そんなもんだ」
……否定しないのかよ……。
「……お前は……人に銃口を突きつけて、「友達になりましょう」って言ってくるやつと、友達になれる自信はあるか?」
「……」
「喧嘩した友達に、「俺と仲直りしないなら、お前の秘密をばらす」っていうやつと、よりをもどせる自信はあるか?」
「…………」
次郎は黙っている。当然だ、これに答えられるわけがない。だから、代わりに圭が答える。
「俺は無理だ。絶対にな。それをはっきりといった上で、言おう。その契約、乗った」
「……え?」
「おそらく、その契約を結べば、俺は本当にお前のことを許すんだろう。だがな……契約だけでばどうにもならない溝は絶対にあるぞ」
「……ああ、……わかってる」
非常に複雑な気持ちだ。こんな友情、あってたまるか。こんな許し方、あってたまるか……。
でも、今は、お互いにとって、一番かしこい選択になるのだろう。このコントラクトのせいでな……。
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