第7話 最低の友情成立
普通ならありえない、コントラクトがあるからこそ起きてしまった、仲直りの仕方に複雑極まりない気持ちを抱えながらも、自分のスマホに手をかけた。
が、次郎との契約「友情契約」を変更するため、画面を開いていおやっ、となった。
それは最初に作ったある契約文「友情は永遠である」というもの。これ……今でもなお、実行されているものなのか? 今でも圭と次郎は永遠の友情を保っているのか?
疑問は膨れ上がり、次郎に顔を向ける。だが、どう考えても、コイツとの友情が続いているようには思えない。
「……契約は……絶対じゃないのか?」
考えられる可能性は二つ……いや、三つか。
一つは、友情という定義がはやふやのまま契約されたということ。そうであれば、今でもなお、圭と次郎の中には、定義が定まっていない友情の契約がまだ実行されている。
二つ目は、どうあがいても継続を保てない契約は、その限りではない可能性。その場合、絶対も、完璧な絶対ではない……ということ……。
三つ目、そもそも、なんらかの事情で、この契約が実行されなかったという可能性。契約が実際に効果を得ているかどうかなんて、目で見ても分からない。そもそも、絶対なんて……ギャグではないが、絶対じゃない……。
「じゃ、じゃあ、契約の変更……しようか」
「まて!」
契約を進めようとする次郎に圭は待ったをかけた。この疑問は……ほうっておくわけにはいかない……。
「一条の「友情は永遠」ってやつは残したままだ。二条の「ネイティブの賛同」ってところから書き換える」
「お、おう。分かった……って、ん? 友情は永遠?」
どうやら、次郎も疑問を持ったらしいが、こいつは話し合うつもりもない。圭はさっさと契約文の作成に入った。
『友情契約』
第一条 ドラゴン@ハンターGXアーキタイプ(以下「A」)と仮面ファイター5103(以下「B」)の間にある友情は永遠である。
第二条 Aは今日ネイティブとの集会で起こったこと及びBのことを口外及び発信してはならない。
第三条 BはAが行った、Aを騙し陥れた行為について、許すこと。
こうして、圭と次郎との間に、最低な友情契約が完成された。そして、される成立。
すると、同時に圭の奥の中にある何かが消えていく不思議な感覚に見舞われた。沸騰していた何かが、そっとモヤモヤっとしたものに変わっていく感じ。
消えたといっても、完全に消えたわけでなく、なんか引っかかるような。
「そうか……許したわけか……」
契約によって、圭は強引な形で次郎のことを許していた。確かに、次郎に対する怒りなどといった感情はどっかに消えていった。
でも、違和感は残り続ける。
「じゃ、じゃあ……」
ふと声をかけてくる次郎、その声に対してもさほど、嫌悪感を抱くこともなく振り返った。
「話を……聞いてくれるか……」
「あぁ…………、悪い、また今度にしてくれねえか……明日だ、明日」
「え……? 契約が……効い」
次郎が今、聞きたいことはすぐわかった。だからこそ、最後まで言わさずに手を前に出し、次郎の言葉を遮る。
「大丈夫、安心していい。気持ち悪いぐらい……お前に対する怒りは消えてしまったよ。同時に、この契約アプリがガチでやべえやつ、ってのも理解したしな。
ああ、許したよ。お前の俺のことを口外しないというというのを条件に、合わせて、お前のことは許した」
「あ……そ、そう……か……」
次郎は少し、言葉重そうにそう言う。
「なに複雑そうな顔をしてるんだ? 俺とお前との間で決めた契約通りじゃないか?
まあ、でも、今の俺じゃ、いろんなことがありすぎて、お前の話をまともに聞ける気がしない。
だから、一晩置いて、本当の意味で冷静になった俺に……お前が話したいことを話すといい」
「……わかった。悪かったな……」
「……今更……謝る必要はねえよ。契約で……許したんだからな」
そのまま、圭は次郎に背中を見せると、ひとりで帰宅した。
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