第14話 不平等な契約と騙した次郎
ネイティブの手で完璧に踊らされていた事実に、ショックを隠せないでいると、ネイティブが声を荒らげながら言ってきた。
「おい、契約が完成したぞ。確認しろ」
支持通り、スマホに視線を寄せた。
『ネイティブ小林間契約』
第一条 仮面ファイター5103(以下甲という。)はグループ:ネイティブの存在を認め、これに加入する。
第二条 甲は集団契約である『グループ:ネイティブ』(代表者ネイティブatp)の契約に加わらなければならない。
「……集団契約?」
「すぐに分かる。とにかくこれに同意しろ」
そう言われれば同意するしかなかった。その後、続いて圭のスマホに別の知らせが届く。ネイティブatpから集団契約「グループ:ネイティブ」の誘いが来た。確認ボタンを押すと契約書が表示された。
集団契約『グループ:ネイティブ』
第一条 ネイティブatp(以下主という。)は主以外の契約者(以下民という)のリーダーとなる。
第二条 民は毎月一日(学校が休みの場合、次に学校に来る日)三千円を主に支払わなければならない。
2 金は毎回グループチャットで指定したところに投函すること。
3 手持ちがなく、どうあがいても払えないという場合、次回の回収日にまとめて支払ってもらう。ただし、滞納した月につきプラス五百円となる。滞納が三か月以上になると主から取り立てに動き出す。
第三条 民は主に対して片務的最恵待遇を与えること。
第四条 民はグループ:ネイティブとして主に集合を求められた場合、これを行わなければならない。
2 もし、集合が不可能な場合、個々で主に理由を説明しなければならない。その説明を受けた主が許可を出せば、集合しなくてもよくなる。
第四条 主がこの契約の変更を求めた場合、民はそれに同意しなければならず、その変更内容にもまた同意しなければならない。
第五条 民が主に貢献した場合、主は貢献した者に貢献度に相応する報酬を与える。この時の貢献度とその報酬内容は主が決めるものとする。
第六条 民はこの契約を解除する場合は、主の同意がなければ行うことができない。
その契約内容はもう不平等契約というにふさわしいものだった。
そんなものを平然と押し付けてくるこのネイティブ。しかも、圭は意思に関わらずこれに同意しなければならない。圭の手はスマホ画面に出ている同意ボタンへ静かに伸びていった。
「よし、契約完了だな」
エンゲームの敗者は……否応なく「グループ:ネイティブ」の契約に同意せざるを得なかった。圭にそれを……抗う力はなかった。
ネイティブは満足したようにぽんと手を打ち立ち上がるとドアのほうへ向かっていく。ガチャリという音と共に鍵が開けられるとこの閉ざされた空間に出口が出来上がる。だが、その出口の前には人が立っていた。
それは圭にとってとてもなじみある人物。
「西田次郎、お前はよくやった。よってお前に報酬として一万を与える」
「ありがとうございます。ネイティブ」
ヘルメットの男から一万円札を受け取る次郎の姿。唇の両端は上に吊り上り笑みを隠しきれていない。だが、すぐに表情はこわばったものへと変わった。視線は圭に向けられる。
「すまん、圭。悪くは思わないでくれ。これには……俺の考えが」
もうすでにわかっていたことだ……。次郎がこれに関与していたこと、それは重々承知していたはずなのに、いざ、次郎の姿を見ると、それをより実感させてくる。
まざまざと見せつけられる現実に、パニックや絶望を押しのけて、怒りがこみ上げてくる。
「……黙れ!」
次郎から来た謝罪の言葉は余りにありきたりな言葉。悪く思うな? だったら、だったらまず、こんなことするんじゃねえよ! チクショウ。
「黙れよ……」
圭が放てた次郎に対する言葉はこれが精いっぱいだった。次郎は圭の言葉に返事も返すことなくこの教室から去っていく。そんな次郎の後姿を見てヒシヒシと感じた。
ネイティブに負けてひどい契約を結ばされたという事実よりも、ずっと苦しい思い。圭は……西田次郎、友だちに今日……裏切られた。
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