第13話 ネイティブの策

 こっちが考える間もなく……負けていた。そんな事実が頭をよぎる。そして次に来るのはコントラクトの強制力だった。

 エンゲーム開始前にした契約により、絶対この後契約をしなければならない。そしてその契約には……絶対に従わなければならない。


「さて、こっちからの要求を決めるぞ。契約条文の変更を求めるから同意しろ」


 圭のスマホに移りだされた『ネイティブatpさん が契約「エンゲーム契約」の変更を求めています」という文字のポップアップ画面。これは自分の意思なのか、コントラクトによる強制なのか、分かりもしないまま圭の右手は下にある同意ボタンをタップする。

 すると、すぐさまネイティブは条文作成に入っていった。そんなネイティブににらみを利かせつつ呟く。


「なぜ……そんな……簡単にジョーカーが分かったんですか?」

「……」


 返事は来ない。


「どういう仕掛けを……したんですか?」


 どうしても納得ができない、そんな負け犬根性みたいなものが必死に言葉を述べる。するとネイティブはため息を浮いたが、スマホを操作しながら答え始めた。


「ただ、お前の心理を読み取っただけだ」

「それは……建前でしょ。本当の狙いを」


「バカか。本当にそれが狙いだ。まず、お前は部活をやっていないと聞いた。スポーツもやっていない。西田次郎から聞いていたお前の性格も含めたら、まず一番目や二番目などで早々に勝負をするようなタイプではないだろうと踏んだ」


 次郎!? やはり、あいつが絡んでいたか。


「それで、お前がジョーカーの位置を決めるとき、俺が左から順番に調べると宣言し、手札に仮想的な順番を作りあげたんだ」


 ……なるほど。確かに本来手札には右か左か真ん中しかない。でも、圭はネイティブが調べる順番を決めたときに、右端から何番目かを意識してしまっていた。

 その後も……何の違和感もなく…。ありもしない番号を頭の中で作ってしまっていたと言うわけだ。


「次に残った三四五番目。でも、五番目……一番端はやはり心理的に置きづらい。何しろ、最初の鎌かけで五番目にした場合、最後まで気を抜けない状態になるから。

 なりより端。チャンスが一度しかない位置決めで端は置きづらい。勝負師でもなければな」


「……」


「まあ、残り三枚になった時、さすがに焦ったのかボロがお前から出始めた。最初真ん中に指を指した後、横に移るとき顔の頬が緩んだ。そして反対の端に移動するとき、真ん中の時だけ少しこわばって、端につくとまた緩む。


 お前に取っちゃ無意識だろうがな。そして最後の質問でパニックになったお前は俺が手札の両端を指差した時、はっきりと動揺した。それが完璧な決定打だった」


 余りに衝撃だった。圭が必死に裏を見ようとしたが……相手は裏の裏をかいていた……いや、真正面から向かっていたのだ。


「でも、しょせん間違える可能性もある推理でしかないでしょ!」


「悪いが俺は心理を読むことにそれなりの自信がある。むろん、確率百パーセントで勝てるわけではないが、八十パーセント以上の確率で勝てる自身もあるな。

 もちろん、二十パーセントの確率で負けるが……それを恐れたらゲームにならねえだろうが」


「……そんな考え……」


「まあ、お前の反応を俺が分析するに、お前にとって一番の敗因は俺のやり方の裏をかくことに必死になったことだろうな。


 相手は心理を読み取ると考え、その対策に全力を注げば少しはましになっただろうが、お前は別のほうに意識を向けたが故、心理の読み取りの対策を怠ってしまった。そのおかげで俺の確率は上がっていた」


 本当に……心理を読むことにすべてをかけていたのか? それでいて……確率五分の一を選んだと? いや、それこそが奴の狙い……だったのかもしれないか。

 三分の一ではなく五分の一。それが……心理を読む以外の方法で勝つだろうと思い込んでしまった。

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