第12話 素早い決着

 机に投げ出された2枚のジョーカーでないカード。

 あまりにもあっけなく、躊躇なく引かれてしまったので何が起こったのか一瞬分からなかった。


「どうした? ずいぶんと様子が変わったな? 焦ったか?」


「……それは質問ですか?」


「いや、気にしなくていい。聞き逃せ。ただし、二枚既に俺が引いた事実は変わらんぞ」


「確率的には最初二枚を引いた場合、ジョーカーではない確率の方が高いですよ」


「そうか……、まあいい。続けるぞ」


 ネイティブは再び人差し指をゆっくりこちらの手札に伸ばしてきた。一番初めに人差し指が付いたのは真ん中、ジョーカー。続いて右端、左端とネイティブの人差し指が移動していく。


「ど~れ~が~、怪しいかな? これか?」


 そう言って最初に指差すのは一番左端、五番目のカード。


「なるほど……ならこれか?」


 続いて真ん中、ジョーカー。しかし、そんなところでもう揺さぶられない。奴の狙いをとにかく暴くしかないのだ。

 奴は何を見ている?

 鉄板の上で土下座でもしたヤクザみたく、時計でも見ているのか? でも、当然チップも埋められていなければ、変な耳当ても付けられてはいない。なら今、自分の手に持っているものはなんだ?


 トランプ……それだけか? あとは……スマホをポケットに入れている……だが、これが意味を持つのか? たとえば圭が持つアプリが圭の脈を探知して、実は奴のスマホにつながって……って、ことはさすがにないか……。

 いくらスマホのことはよく知らないといってもそんなチートができるとは……、


 ああ、やばい。迷走してきた。


「おい、好きな数字はなんだ?」

「え? 好きな数字? ……う~ん、特にないですね」


 またどうでもいい質問で揺さぶってきたのか……?


「ふ~ん。まあ、契約上、本当にそう思っているんだろう。まあ、好きな数字と言われて根拠も含めてこれだ、と言えるものを持っている人は、それで珍しいかもな」


 どうでもいい。こいつは思考を邪魔する気だ。そうはさせせまいと意気込む。


「で、これも質問だが、このエンゲーム。実際にやってみてどうだった?」

「クソゲームだ。勝手に人を巻き込んで無理矢理契約させようなど冗談じゃない。こんな面倒なことに俺を巻き込みやがって、クソ!」


 ……ん? ……え?


「あ……あの……その……」


「いやあ、いいよ。契約上質問に対して嘘はつけない。それが本心なんだから仕方がない」

「いや、……その……」


 なんだ、この感覚? さっきの質問に対する答え……ほとんど無意識のようなレベルで口から出てしまっていた。

 普段の圭なら、せめて先輩であるはずのネイティブに対して敬語は使う。それどころか、そこで本当に本音など……少しは口を取り繕うと思う。


 たが、さっきは何も考えずありのまま口にしていた。それはまるで自分の意思とはかかわらず言葉が出てきたような……意思そのものが曲げられたような、操られたような……。そう……強制的な何か……。


 思わずネイティブのヘルメットと顔を合わせた。そして思い出す大原則。


『このアプリで結んだ契約は“絶対に”破ることができない。』


 絶対。強制的。質問に対して嘘は言ってはいけない……いや、違う。今、圭は相手の質問に対して嘘をつくことが絶対にできない。

 心なしか手が震えはじめた。冗談じゃない、本当の強制力が……このコントラクトに眠っている“絶対”を……確かに今、感じた。


 圭がパニックに陥ろうとするその瞬間、ネイティブの両手が動いた。その両手の人差し指がそれぞれ圭の握るカードの両端を指してくる。“ジョーカー以外”の二枚を。


「あっ」


 ネイティブのヘルメットから笑みを零す声が漏れた。


「お前の負けだな」


 躊躇なくネイティブは両端のカードを摘み引き抜いた。そして机の上にゆっくりと表向きで置かれる。机には四枚のカードが出そろった。全て……ジョーカーではない。


 残ったのは……ジョーカーただ一枚。

 圭の手の中でジョーカーの悪魔が嘲笑っていた。

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