第10話 取り決め(ネイティブのターン)

 こちらの条文の提示終了と同時、ネイティブは仕切り直すように、腰を動かし座り直した。

「さて、次はこっちが条文を作らせてもらうぞ。まず、ジョーカーの位置に関する条文だ」


 間髪入れずネイティブはそういうとヘルメット越しというにも関わらず慣れた手つきでスマホにテキストを入力していった。


『第四条 乙はゲーム開始から終了まで、ジョーカーの位置をしっかり把握しなければならない。また、最初にジョーカーの位置を決めた後、位置を変更してはならない』


 脳を働かせて、その条文に含まれる意味をしっかり読み取る。


「……つまり、目を閉じてシャッフルしたり、机に伏せたりするのは禁止と言うわけですね。ゲーム途中でシャッフルしなおすことも」


「ああ、それぐらいならいいだろ? あともう一文」


『第五条 ゲーム中、乙は甲からの質問に対しては必ず答えなければならない。この時、嘘をついてはいけない。』


「……え? なにこれ?」


 あまりに唐突な内容に本音が意思を介さず口から出てしまった。


「好きな数字とか、聞けば素直に答えろってことだ。ジョーカーを探るヒントにする」


 そう言われネイティブの意図が見えてきた気がした。


 質問による相手のリアクションやらなんらやで相手の考えを読もうとでもいうのだろうか。相手の心理状態を測る……。


「なるほど……いや、待て!」


 危うく納得するところだった。でも、こんなとんでもない条文……。


「それだと、あなたがジョーカーの位置を俺に聞けば俺がそれを嘘つかず言わなければならなくなる。それはさすがにだめですよ」


「ふっ、試しただけだよ。条件を付け加える。ジョーカーの位置などゲームの勝敗を直接決めるようなもの以外の質問だ」

「そ……それなら……問題ないですけど」


 なんてやろうだ。こっちがうっかりこの条文を飲んでいたら、ゲームで一方的にやられて負けていたところだ……。


 宣言通り第五条が書き加えられる。

「確認するぞ」

 圭、ネイティブともに確認ボタンを押し契約書をスマホに表示させた。


 『エンゲーム契約』

 第一条 ネイティブatp(以下甲という。)と仮面ファイター5103(以下乙という。)はこれからゲームを行う。

  2 そのゲームの勝敗に基づき優劣を決めたうえで新たな契約条文を作り、お互いその契約に同意しなければならない。


 第二条 甲乙双方は不正及びイカサマをしてはならない。


 第三条 ゲーム開始後、甲は乙が握るカードの内容情報をルールによって引く、又は推測や憶測、推理といったもの以外の方法で意図的に得てはならない。

2 もし、意思を介さず情報を得た場合にはゲームを一からやり直す。


 第四条 乙はゲーム開始から終了まで、ジョーカーの位置をしっかり把握しなければならない。また、最初にジョーカーの位置を決めた後、位置を変更してはならない


 第五条 ゲーム中、乙は甲からの、ジョーカーの位置などゲームの勝敗を直接決めるようなもの以外の質問に対しては必ず答えなければならない。この時、嘘をついてはいけない。



 これでイカサマはされる心配は……ないのか?


だが、この契約内容で相手はこちらの心理を読み取ってジョーカーを取る作戦なのは間違いない。だが……本当にそれだけか? どれだけ心理を読み取ろうが、五分の四の確率をそう簡単に覆せるものだとは思えない。


 もし、仮に圭がこのルールのゲーム内容にするなら、それ以外に何かプラスの要素を持ち込む。

 心理を読み取るだけではどうしても確実にはならない。もっと確かなものでジョーカーの位置を知りたい。


 お互いフェアなゲームを提示するならそこまでせず、運に任せるゲームにするのかもしれないが、こんな相手に有利なゲームなら……。


 ここまでくれば相手が出した契約の条件で普通、まず心理戦を予想する。

 ならば、ここで完璧なポーカーフェイスを作る準備、相手の言動に惑わされない覚悟を自身の中で作り出そうとするだろう。とにかく相手に心を読まれまいと。


 だが、そうやってそこに全神経を集中させたところこそが隙。あとはこの隙に……何を……仕込むか。


 ネイティブ……お前は何を仕込んでいる?

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