第9話 取り決め(圭のターン)
イカサマをしないという契約を持ちかけた圭。それに対し、ネイティブは秒の間を空けたあと、軽く喉を鳴らした。
「ほう、それはコントラクトの強制力を前提での話だな?」
「そういうことになりますね。どうします? それともそれでは何か不都合でも?」
うまくいけたか? こっちの考えでは相手は何かしらイカサマを仕掛けている。ならばネイティブの選択肢は二つになる。
イカサマをせずにゲームをするか、イカサマをしないという契約をせず、イカサマをすると公言したうえでゲームをするか。
少なくとも一瞬躊躇するはず……。
「いいんじゃねえか。その方が早い」
あっさり認めたよ、こいつ……。本当にイカサマをする気はないのか? でも、あの確率で勝負など……。
だとすればネイティブの狙いはルールに穴を作ることなのか?
今一度スマホ画面を見た。条文は第一条が埋まっている。その下に亜壽香や次郎と結んだ時と同じように2から6の数字が打たれている。なら……
「第二条……あと、三条を俺が決めていいですか? 俺の考えではこの第一条はエンゲームをするためお互いにとっての必須条件。
全部でおそらく六つ条文が作れるところから、甲乙それぞれ条文を二つずつ、決める権利ぐらいあるんじゃないですか?」
「ほう、ずいぶんと冷静だな、お前。エンゲームのルールを的確に理解しているじゃないか。いいぞ。好きにしろ」
とにかく平常心の表情をしっかり保ちながら圭自身のスマホに手をかけた。数字の2をタップし、テキストを表示させる。
『甲は不正及びイカサマをしてはならない。』
打ち終え、下に『提示』ボタンがあったので押した。それに伴い文面が画面に表示される。
「待て。さすがにそこは“甲乙双方”だろうが」
……まあ、だろうな。圭自身も試してみただけだったので、すぐに対象を『甲乙双方』に変更する。
更にもう一つ、新たな条文を付け加えるが、その前に確認をしなければならない。
「ゲーム進行の仕方はどうします?」
スマホに手をかけたままネイティブに質問をすると、ネイティブはしばらく考えるしぐさをした後、身を乗り出した。
そしてトランプの束から一枚ジョーカーを取り出す。
「まず、ジョーカーを一枚出す。そしてジョーカー以外のカードをしっかりジョーカーでないことを確認しながら四枚選ぼうか。
で、あとは君がそれを手札に持てばいい。
手札をシャッフルして俺にカードの中身を見えないように向けたらゲーム開始。後は俺が引いていくだけ」
「……シンプルですね」
「ゲームの内容がシンプルだからな」
とにかく、ジョーカーはしっかり一枚だけ入った手札になるには違いない。二枚ジョーカーがくる手札になるようにはそのやり方ではできない。
なら……後は……。
『第三条 ゲーム開始後、甲は乙が握るカードの内容情報を意図的に得てはならない。
2 もし、意思を介さず情報を得た場合にはゲームを一からやり直す。』
「……これはなんの意図がある?」
「あなたが俺の手札を覗き見しないためです。隠しカメラなどの可能性も考慮してこの条文を付け加えようと思います。
正直、二条のイカサマ封じがどこまで適用されるのかはっきりしないところが気になるので特に危険と思われるイカサマの方法は直接排除します」
ここにきてネイティブは顔をうつむかせた。ヘルメットの上から顎あたりに位置するところへ右手を当てる。
「そうだな……」
ネイティブが持つスマホに顔は向けられているが、果たして視線はどうか。ヘルメット越しではどこを見ているのかは分からない。
圭の表情でも探っている可能性を考慮して表情は平常を保たせる。
そのなか、ネイティブはゆっくりと慎重に言葉を発した。
「このままじゃ……だめだな。……これだと、ジョーカーの位置を知るためお前に探りを入れる行為が禁止になってしまう。まさか、お前はババ抜きするとき、相手の表情でジョーカーかどうか推測したことないなんて言わないだろう?
それがこの契約だとできなくなる。
それにババ抜きのルールで引いたカードを見るのすら制限されかねん」
「……なるほど……」
「だから……こうさ変えさせてもらうぞ」
『第三条 ゲーム開始後、甲は乙が握るカードの内容情報をルールによって引く、又は推測や憶測、推理といったもの以外の方法で意図的に得てはならない。』
「2はさっきのままで問題ないだろう。これでいいか?」
変更が圭のスマホにも反映される。それを今一度確認、しっかり頭の中で意味を解釈。
「推測や憶測、推理。これはさっき言った表情を読み取るだとか、今までの動きから~みたいな方法のことですよね? 覗き見や隠しカメラなどで直接的に情報を得ない」
「そういうことだ。それはこの契約をもって誓おう」
これで通ったか……。まあ、とにかくこれで隠しカメラや覗き見などの方法を利用したイカサマは封印できたはずだ。
さて……ここからは奴のターンか。
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