第7話 エンゲームなるもの

 ネイティブと対面し、思考すること、数秒。


 ここで一番問題にすべきことは……相手の目的だ。何が目的か、それに対してこちらはどう対処すればいいのか……。

 そんなことを考える中、ネイティブが口を開いた。


「さあて……、早速だ。”エンゲーム”をやろうか」

「え……エンゲーム?」


 聞いたことない単語だ。


「あ? お前コントラクトのアプリをスマホに入れてるだろ? でないと俺が送ったチャット通りお前がここに来ることはなかっただろうが」

「いや……でも……エンゲームってのは……?」


 質問を返すとヘルメット越しにネイティブによるため息を吐いた音が聞こえた。


「エンパイアリズムゲーム(帝国主義ゲーム)、略してエンゲーム。コントラクトによる契約を利用して行うゲームだ」


「契約を……利用して?」

「実際に説明しながら進めるほうが早いだろ」


 そういうと男、ネイティブは自分のスマホを操作し始めた。


 よくヘルメットをかぶったまま操作が行えるよ。

 しかも、電気もつけないこの暗い教室で……。でも、それによって圭はネイティブの顔など輪郭すら見えないのだから……それが狙いなのだろう。


 やがて圭のスマホにコントラクトからの連絡が届いた。契約の誘いだ。むろん、相手のアカウントは『ネイティブatp』。


 しばらく契約画面で待機しているとある条文が出来上がった。


『第一条 ネイティブatp(以下甲という。)と仮面ファイター5103(以下乙という。)はこれからゲームを行う。

 2 そのゲームの勝敗に基づき優劣を決めたうえで契約条文を作り、お互いその契約に同意しなければならない。』


「……なんだこれ? どういうことなんです?」


「分からんのか? 言ってしまえば戦争と同じだ。互いに力を示しあってどちらが強いかはっきりさせたうえで勝者が敗者に賠償金やら権利やらを要求するだろ? 同じことだ」


「せ……戦争?」


 あまりに普通を一脱した単語。悪いジョークにしか聞こえない……。コントラクトで……そんなことを? それで……帝国主義ゲーム、エンゲーム……。


「だ、大体……所詮データ上の契約。しかもアプリで行った契約です。そんなのに……大した拘束力も……ないんじゃないですか?」


「は?」


 突如ネイティブは間抜けな声を出した。ヘルメット越しでも表情が分かるぐらい、間抜けた声。その後、ネイティブは盛大に笑いながらスマホを操作し圭の前に突き付けた。


「コントラクトのルール。「第一章 大原則」も確認していないのか?」

「ルール? 大原則?」


 そんなのは知らない。まずルールなんてものがあるってことが知らない、聞いていない。だが、ネイティブが差し出してきたスマホの画面には文字がつづられていた。


『このアプリで結んだ契約は“絶対に”破ることができない。』


 なんだそれ? 絶対に? ……絶対に? 破れない?


「……なにそれ……」


「信じられないか? 今はそれでもいい。どちらにしても後々……否応に分かる」


 そんな……あるわけがない。絶対などという強制力が……でも、この状況……。


「言っとくが……たとえ、このルールが本当であれ嘘であれ、今のお前にエンゲームの拒否権はないぞ? ここからお前は逃げられん。

 これでもゲームというわけでお前に逆転できるチャンスがあるだけ俺の優しさをくみ取ってほしいな」


「……」


 残念だが……ネイティブの言うとおりだった。


 契約の強制力がどうこう言う前にネイティブから逃げるのがまず不可能だということは、さっきしっかり理解してしまった。

 ならばせめて……そのエンゲームに勝てる方法を模索するしかない。


 パニックや疑問は際限無く湧き出てくるがそういった感情をとにかく押し殺し、必要な思考のみを頭に起こす。

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