第6話 状況分析
教室に入ると同時、ネイティブが呟く。
「しっかし、ノックって律儀だな」
そんな声を聞きながら教室の奥に足を進めようとする。だが、そんな圭をよそにして、背中からガチャっと鍵がしまる音がした。
あわてて顔をそちらに向けると教室の内鍵に手をかける男の姿が。平然と閉じ込められたのだ。むろん、圭でも開けられる簡単な内鍵でしかないが。
「あの……先輩……ですよね?」
圭が二年の意味を示す緑のサンダルを見せながら訪ねる。
「これって……なんの冗談です?」
教室を見渡すが、ネイティブのメンバーらしき人物は誰もない。それどころか次郎もいない。この教室の中にいるのは圭とフルフェイスヘルメット男のみ。
教室の奥の方に一つの机とその両端に向かい合うように並べられた椅子二つ。窓からのぞく日差しがその机に当たっている。
それ以外の机椅子は全て端に追いやられ非常に殺風景な教室だった。もう見るからに普段は使っていませんよ、という教室。
「ふっ、冗談だと思うか?」
「冗談にしちゃあ……大掛かりですよねぇ……ハハ」
本当に何なのだ、この人は? 圭が知っている人物なのか? 三年生に知り合いなんていない……いや、サンダルなどいくらでも偽装できるし……。
まず、知り合いのわけないのか。もし、そうなら最初に「小林桂だな」なんて確認をすることをまずしない。
「あの……その……あ、なんて呼べば?」
黒いヘルメットに向かって恐る恐る聞く。しばらく無言の時間が続いたがその後、適当な感じで言い放ってきた。
「ネイティブとでも呼べばいい」
ネイティブ……やはり、あのコントラクトのアカウント『ネイティブatp』本人……少なくとも関係がある人物。なおもネイティブと名乗る生徒はゆっくりと迫ってくる。
反射的に後ろに下がるが奥に置いてある机にぶつかり行き場をなくす。それでも構わず近づいて来るネイティブ。黒く光るヘルメットの面が真正面に吸い込まれるよう。
マジで怖いマジで怖い、怖い怖い怖いっ!?
「おい、さっさとそこ座れ」
ヘルメットの向こうからドスが聞く声を震わしてくる。
どう考えても逆らうといろんな意味で終わりだ。慌てて足を滑らせ、机にあたり静かな教室に大きな音が響き渡る。
だが、ネイティブは何一つ反応せず、こっちを見ていた。どうしようもなく、素直に椅子に手をかける。
「おいおい、違うだろ。奥の椅子に座れ」
荒げられた声に圭は椅子にかけていた手を慌てて引っ込めた。代わりに少し首を回し、奥にある椅子に目を向ける。
圭が今手をかけた椅子とは反対方向にある向かい合った椅子。
「お客様には上座で座ってもらわないとな」
お客様相手だったら、まずそのヘルメットを取るのが常識だろうに。なんて言葉を返す余裕と勇気は当然ない。
そんな圭は言われるまま奥の椅子に近づいた。
意味があるわけではないがとにかく音を立てないようゆっくりと座り込む。
だが、相手の男はそんな座り方にじれったいと抗議をするがごとく、乱暴に音を立てまくって座った。それも実に偉そうにふんぞり返って。
しかし……なにげにちゃんと考えている。
この机と椅子の配置。まず机だが、いざ座ると改めてよく分かる。かなり西より……すなわち廊下から離れた奥の位置に配置されているのだ。
しかも、座る位置もネイティブが廊下側で、圭が西の窓側。
この配置の意味……。
圭が男の隙を見て逃げ出したとしよう。隙を見せるかどうかも分からないが、隙をつけたら恐らくドアまではたどり着ける。
でも、鍵がかけられているのだ。
教室のドア……特にあまり使われていない空き教室の鍵がそうすんなり空くだろうか?
空いたとしても鍵を開けるだけで数秒のロスがある。その時間があれば、隙を突かれたネイティブでも追いつき圭を押さえ込むことは十分できるだろう。
正直、こんな状況なのに割と冷静に状況を分析できている自分に驚いていた。
だけど、今はその驚きに引っ張られているわけにも行かないという冷静さもなぜか出てくる。
その冷静さをより、脳全体に支配させて思考、巡らせる状況の対処法、……打破法……それを探り寄せ始めた。
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