第4話 友情契約
圭はここでくだらない話に終止符を打つべく、ポケットからスマホを取り出した。
「次郎、話変わるけどさ。俺、スマホ手に入れたんだよ」
「ん? おお、遂に買ったか!」
中庭の女子から視線を圭が持つスマホへ移し替えた次郎。本来なら昨日さっさと話すべきだったのだが、昨日は金のことで悩んでいて今になっていた。
「なんか、アプリとか入れたのか?」
「とりあえずLION」
「なら、さっさと交換しちまおう」
次郎の連絡先が圭のアプリの中に登録される。
「あ、そうだ。もう一つ、アプリ入れたな」
昨日、亜壽香に入れてもらった(と言うより強引に入れられたに近い)アプリを立ち上げた。
「コントラクトってアプリだな」
スマホに視線を落としていた次郎の手が少し止まった。一秒ほど停止した後、ふっと顔を上げ圭のコントラクトの画面を見てくる。
「マジか……」
なんか妙な反応だった。驚きや関心とはやはりどこか違う。しかし、そんな反応は嘘だったかのようにすぐ次郎もスマホであるアプリを立ち上げた。
「偶然、俺も入れてるんだよ。そのアプリ」
次郎はさらに身を乗り出し、周りに聞こえないような程小さい声で言ってきた。
「圭。どうだ、俺たちでなんか契約しないか?」
「……え? 今? ここで? なんで?」
別に契約しようってやるものじゃないだろう。次郎の発言には疑問が残る。
だが、圭が抱いた疑問には次郎がすぐに気付いたようで、自分の画面のある場所を指差した。
「Gだよ、G。ゴキブリじゃねえよ。ゴールド。初めて契約した相手同士だと百Gがもらえるんだよ。それでアバターを着せ替えるアイテムがもらえる」
確かに次郎が指差す先には三百Gの文字。そして次郎のアバターは割としっかり着せられていた。どこかのTシャツ短パン小僧とは違う。
「なるほど……ケータイゲームでよくあったな」
「な? 良いだろ? 別に減るもんじゃねえんだしよ」
次郎の話を「ふ~ん」程度で聞きながらもやがて契約画面を出す。
「で、圭。どんな契約する?」
「なんでもいいよ。面倒じゃなけりゃ。ようは、金が欲しんだろ?」
「ゴールド、ゲームマネーな。人聞き悪い言い方はよそうぜ」
そういって次郎がしばらくうなるがやがてスマホに手をかざし始める。そのまま気が付けば、圭のスマホには契約書が作られていた。
『友情契約』
第一条 ドラゴン@ハンターGXアーキタイプ(以下「A」)と仮面ファイター5103(以下「B」)の間にある友情は永遠である。
第二条 AとBはグループ:ネイティブに賛同すること。
……まあ、ネーミングについては適当に置いとこう。人のこと言えん。書き方も堅苦しかった亜壽香と違うが、それはは何の問題もないのだろう。だが、
「グループ、ネイティブってなんだ?」
西田は軽く人足し指一本を立てた。
「このアプリで作ったサークルの一つって感じのやつだな。別に参加しろって言っているわけじゃない。ただ、ネイティブの存在を認めてくださいってだけ」
「……認めてどうなる?」
「……だからより確かな……まあ、あれだ。支持するみたいなもんだよ。公式じゃない同窓会より、学校が認める部活とじゃあ、立場が違うだろ?」
「なるほど……その言いたいことは分かる。でも……俺にデメリットがあったりするのか?」
「いや、まったく」
「ならいい」
実際認めろというだけで、参加するわけでもない。
アプリのサークルみたいなものだと言っていたし、もし気に入ったらお前もどうだっていう勧誘みたいなものなのだろう。
「ネイティブ、機会があったら紹介してくれよ」
「ん? おう、もちろん。なんなら、それも契約するか?」
「いいや、結構。口約束で十分」
圭はさっさと成立の同意ボタンをタップした。次郎もタップし終えたみたいで顔を上げた。
「どうだ、圭。百G入ったか?」
そう言われマイページのほうを確認した。確かにそこには所持金百Gプラスで増えていた。亜壽香の時に得ていたのであろうGを含めると合計二百G。
「単純に着せ替えアイテムを買うこともできる。ただ、二百ゴールドじゃレア度1程度ぐらいだけどな」
「ふ~ん……着せ替えねえ」
だが、コントラクト……契約アプリなのになぜこんなアバター機能などあるのだろうか……
って、単純にたくさん契約させるためか。ゴールドを餌に契約をさせると……。
そう思いながらスマホをまさぐっているとガチャのページが見つかった。一番安い奴だと二百Gで一回まわせる。
「ああ、ガチャもあるな。レア度4以上はガチャでしか手に入らない。もっともその一番安いガチャの確率はクズだけど」
「……ふ~ん」
と言いながらも特に買いたいアイテムなどないので適当にそのガチャを購入してやった。一秒もたたないうちにガチャの演出に入りカプセルが一つぽんと飛び出す。それでもってまぶしい光が放たれるなか、出てきたのは……。
レア度5なんてものとは程遠いレア度2、安っぽいヒーローのマスクが画面上に映し出されて終わりだった。
「いや、うん……まあ、そのガチャならレア度2でも得した方だと考えていいから」
と言う割にはすごいというような反応は全く見せない次郎。まあ、それは圭自身もよく分かっている。
試しにTシャツ短パン小僧にそのマスクを装着させてみるもまあ、不恰好。変質者よりも変質者な恰好である。
「うん、マスクより先に服が欲しかったな」
「この格好で次郎の家に行ってやろうか?」
「やめてくれ、全力で断る。着くより先に警察に捕まってろ」
「いや、それはないだろ。ちゃんと服は着てる。シャツと短パンは立派な服だ」
「……職質は避けられないだろうな」
「……せめてマクスを外せばワンチャン」
「それだと意味がなくなるな」
「……」
「……」
結論、マスクは外した方がいい。よって、圭のアバターはTシャツ短パンのままとなった。
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