第3話 圭の友人
次の日の昼休み。
クラスメイトで一番の友人、西田次郎(にしだじろう)と昼食を取っていた。
場所は学校内の二階に用意されている「フライハイト」と呼ばれるフリースペース。たくさんの机いすが並べられおり、昼休みには生徒おのおのが弁当やら購買で買ったパンやらを持ち寄って友だち同士昼食を取っている。
割と田舎町と言われる地域の学校であるがゆえ校内は広々としていた。この学校の校舎は南から通常教室棟二つと特別教室棟一つ。東側が通路で繋がっている。
また、生徒に比べ教室が多いため、空き教室も多かった。
そんな学校の一角、フライハイトの中でのお気に入りの場所がある。南西端にある一角のテーブルだ。
綺麗なセカンドパティオを一望できる場所。
まず、噴水が中央にありそれを囲うようにベンチがある。さらに芝生が広がり花というように、円状に広げられた中庭。もうそれは庭園と言っていいレベル。
そしてそこに群がる女子も一望でき……いまのはなし。
「圭、いっつもここでパティオを見るよな」
「うん、まあな。この景色好きだし」
購買で買ったパン、卵サンドをかじりながら、なおも見続ける。すると次郎も同じように視線をセカンドパティオへと向けた。
「なんか、観察におすすめの女子とかいるのか?」
「んな、キモいことしてねえよ。まあ、あの子は可愛いかもな」
そう言ってノリで中庭にいる女子一人を指差す。亜壽香とは対照的に茶色のショートヘア。校内で履くサンダルの色が赤色なので一年生だと分かる。
ちなみに二年は緑で三年は青。
「え? どの子どの子?」
「向かって左側……つまりこっち側のベンチで座る子。ちょっと、周りの人と距離おいて座っているやつだよ」
適当に言ってみた子なのに次郎に対してしっかり説明している自分も自分だ。
「あ~あの子か。あれだな、大人しいタイプだな。……って、お前の本命、泉とは正反対じゃねえか、このやろ! 浮気か? え? 浮気か?」
「本命とかじゃねえよ」
泉とは亜壽香の苗字だ。こいつは圭が亜壽香のことを好きだと勘違いしているらしい。もう、散々弁解しているが、無意味らしいのでほとんど諦めている。
圭が卵サンドを食べ終えパックに入ったコーヒー牛乳の残りをストローで吸い出している時も、次郎は中庭を見続けていた。おそらく視線は例の一年女子に向けられたままだ。
「むしろ、お前が興味あるんじゃねえのか?」
「うん、だってあの子悪くないじゃん。見るだけならタダだしな」
「タダってなあ、おい。てか、タダじゃねえだろ。「あいつコッチ見てる、キッショ」っていうレッテルを相手から貼られるぞ」
「あ~……、やっぱチラ見が正解かな」
と言いつつ次郎は最後の一口のパンを口に放り込み、手を付きながらまた中庭の方を見た。
「ってかさ、中庭の奴らから俺たちの顔見ることができると思うか? というか、まず視線に気づけるかどうかって話か」
「……ん?」
どういう意味か分からず首をかしげてみせる。すると圭は窓から空を指さした。
「いやだって、特に今のこの時間は太陽真上じゃん?
中庭にいる人がわざわざ太陽の方に目を向けるかって話だ。逆光とかでさ」
「いや、ここ二階だぞ。学校自体も四階までだし。十分、見えるだろ。まあ、でも少し部屋の内側で立って覗くように見たら中庭の人には気づかれないかもな」
「……だよな! ってことは女子を覗きほ」
全て言い切る前にとりあえず次郎の頭を叩いておいた。
でも、確かにここはセカンドパティオを見下ろせる。まさに、ゆったり座り隠れながら観察できる場所であり、される場所。すなわち……、
「絶対誰にも見られたくないならセカンドパティオは絶対避ける場所。そして誰かを陥れるならセカンドパティオに呼び出し、上で観察すれば……」
「お前……何するつもりだ?」
「ハッ!?」
気が付けば妙なことを考え出してしまっていた。慌ててさっきの思考を吹き飛ばす。
「なんでもない。ちょっと考えただけだよ。何もしない。いや、する必要がない」
「いや……あるぞ。男女どちらにも偽物のラブレターを送り込んでさ。もちろん、待ち合わせ場所はここで。そしたら面白いもの見れるかもよ」
「……………………」
次郎が言い放つあまりにもゲスな作戦にもはや返す言葉が見つからなかった。
と言うか、よくよく考えれば、中庭なんてどこからでも観察し放題の場所じゃないか。特に四階は空き教室が多いときた。簡単に盗み見られる。
……どこからか人が付け狙っていたとしても不思議じゃない。狙撃手にとったらパティオは恰好の場所ではなかろうか。むろん、狙撃手なんて輩がこの学校に潜伏するはずはないが。
「う~ん、お! あの子もなかなかかわいいじゃねえか?」
……狙撃手はいなくてもストーカーにとっても最高の場所らしい。悲しいかな、次郎の発言でそう思えてしまった。
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