第3話 落ち込み人生

 午後になり、ステージイベントの目玉である芸能人歌手の歌が始まっているころ、亀ちゃんは祭りの広場のはずれで頭を抱え、この世の終わりのような顔をしていた。

 イベント会場と駐車場の中間に位置する、草一本も生えないむき出しの更地からは、野外ステージが小さく見えて観客は米粒ほどだった。その様子を強司と亀ちゃんは並んで座りぼんやりと眺めている。

「まあ、亀ちゃんそんなに落ち込むなよ。失敗は誰でもあるんだから。はっちゃけていこうぜ」

 マイクを投げてしまい固まったままになった亀ちゃんに、ステージ袖から駆け寄ってマイクを拾ったのは強司だった。そこでようやく呪縛から解かれ、歌を再開できた亀ちゃんだったが、二度と忘れられないステージになってしまった。しばらく夢に出てきそうだった。

「いやあ、無理だよぉ……」

 強司の励ましもむなしく、いつも以上に弱気になってしまう亀ちゃんだった。

 そこへ現れたのは葵衣だった。朝と同様に忙しそうな様子だが、今は表情に余裕の色が出ていた。

「ここにいらしたんですね。探しましたよ。亀澤さんお疲れ様でした。大変でしたね。ステージイベントが一段落ついたので、私の役目は終了しました。ライブは予想外のことも起きるから、見ている側もハラハラします」

「うう、ごめんなさい。私があんな大失敗しちゃったから、葵衣さんたちに迷惑をかけてしまって……」

「ああ、そういう意味で言ったのではなくてですね。あのー、どう言ったらいいか。とにかく気にしないでください」

「葵衣さんご心配ありがとうございます。亀ちゃんの失敗は今に始まったことじゃないですから。過去にも色々とやっているんです。その内復活しますから。大丈夫です」

「ですが……。そうそう、実はおふたりをちょっとご招待したくて探していたんです。神社の集会所で今、氏子たちが集まって昼食をとっているんです。そこの席に亀澤さんにお越しいただきたいんです。あと部長さんも。いかがです?」

 葵衣は下からのぞき込むように誘う。その表情には期待を込めるような色合いが見て取れる。

「いいんですか。そんな席に我々が呼ばれても。亀ちゃんどうする?」

「えー、知らない人ばかりですよね。私緊張しちゃいますよ。やっぱりステージでの失敗をお説教されるんですか?」

「違います違います。逆です。おふたりの功労をねぎらってのお誘いです。是非とも、と神主も申しておりますし」

「功労って程のこともしてない気もしますが。じゃあせっかくなんで呼ばれましょうか。俺たちまだお昼ごはん食べてないし」

 強司は空腹のお腹をさすりながら亀ちゃんを見る。

「ありがとうございます。氏子たちも喜びます」

「えー、私行くって言ってませんけど。まあいいですけど」

 やはり空腹の亀ちゃんもお腹をさする。

「じゃあ、そこの駐車場に私の車があるので神社まで乗せていきますね」

 そういって臨時就社場を見渡す葵衣だったが、その動きがピタリと止まる。

「えーとどこに停めたっけ……」

 強司と亀ちゃんにも手伝ってもらいながら、葵衣は自分の車を探し出すのにたっぷりと時間を使ってしまった。なかなか連絡のない葵衣にまたしても電話がかかって来て、ひたすら謝るのであった。

「すみません私いつもこうで……」

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