アノコロ日記

棚助

発見

「やっぱこれだわ〜」

 と俺は休日の安らぎを噛み締めていた。働いて休む、ごく普通の生活を送っている俺・橘柊弥にはこれが最大級の幸せだ。

「今日は暇だし、片付けでもしてしまうか。」俺は今1人暮らし。彼女なんてのは昔いたが、結局結婚まではいかなかった。けど、今の生活に案外不満はないから気にしてない。

 とりあえず押し入れを見ておこうかと思い、押し入れを開けてみる。するとふと、昔の写真を探してみようという衝動が俺を襲った。

「写真、探すか。」

 と簡単にそれに屈し、片付けを放り投げてむしろアルバムを出すべく散らかしてしまった。

 懐かしさに浸った後入れたアルバムの中にもう1つ冊子があることに気がついた。

「ん?なんだこれ。今まで最後まで見る時間もなかったから気づかなかったな」

 どうやらそれは日記らしい。日付は確認できる。しかし肝心の内容は下手な字と絵でメチャクチャになっていて、全く察しがつかなかった。

「かぁ〜〜〜わからん!なんだこれ?てかそもそも俺が書いたのかこれは?」

 そう言うのも、どうやらこの日記は1人で書いた物ではなさそうだったからだ。字と絵のタッチが何ページか毎に違うあたり、恐らく複数人で書いたのだろう。ここにあるということは少なくとも俺はこれに関係していることになる。でも自分がこんなものに関わっている記憶など俺は一欠片も持っていない。

「まあ、最近の物じゃないな。きっと俺が小さい頃遊びでやった日記なんだろう。」

 そう俺は結論づけ、散らかしてしまった部屋を片付けようとした。しかしどうも気が進まない自分がいるようだ。日記が気になってしょうがない。

「しょうがない、一応母さんにでも聞いてみよう...」

そういって俺は母に電話してみることにした。

「あら、柊弥からかけてくるなんて珍しいわね」

と母さんは驚いた。無理もない。俺から電話するなんて1人暮らしを始めてから久しくないからな。

「母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なに?お見合いの話ならまだ来てないわよ。」

―そんなことは気にしてないから...気を取り直して俺は切り出した。

「日記のことなんだけど。」

「日記?」

「今日俺の部屋見たら出てきたんだ、多分小さい頃に書いたやつ。どうしても気になったから聞いてみたんだけど...」

少しの間母は考えた。そしてああ、という声が小さく聞こえてきた。

「ああ、日記ね。思い出したわ。」

「あ、マジで?」

小さい事ながら嬉しい。俺は期待を抑え

「で何?あの日記」

と聞いた。すると、

「言わないでおくわ。」

とやけにハイテンションな母の返事が帰ってきた。

「どうして?」

 と拍子抜けした自分を隠しきれない返事を俺はした。

「それも言わないでおくわ。」

―なんなんだあの日記。続いて母は、

「自分で探してみなさいね。」

といって唐突に電話を切った。

 やっぱりこの日記は何か特別らしい。俺はそう確信した。

 次の朝、俺はとりあえず仕事に出た。勤続7年、いつも通りの業務をこなしているものの、どうしても例の日記の事が気になってしょうがない。

「俺は女より紙を愛するようになってしまったのか...」

と小さく呟き、早く帰宅することだけを考え続けた。

 帰宅後、俺はこの日記の内容を考えてみることにした。

「ん〜これは...なんだろう」

 1ページ目の絵、というか光景には見覚えがある。大きな湖に木々。これは多分幼稚園の頃の物だろう。そして並ぶ三人の子供、このうち1人は俺、もう2人は...誰だろう。時の流れってのは恐ろしいものだ。こうやって友人のことを忘れさせてしまうなんて。

「字に関しては相変わらず解読不能だが、恐らく場所は合ってる。次の休みに行ってみるか。」

と俺は次の休みにその場所・畑湖に行ってみることにした。

 ―懐かしい。そしていい空気だ。

 そう思いながら俺は畑湖に向かった。着いた先には日記で見た光景とよく似た光景が広がっていた。

「多分ここだな...」

といってそこにしばらく居座ったが、何もそこから進展することはなかった。

「せめて友人の1人か2人はいてくれれば...」

 俺は残念ながらこの地には長く住んではいなかった。だから全く人脈には期待できない。幼稚園も出入りが激しくて有名だった所だし、恐らく当時の友人もいないだろう。

「今日の所はここで引き上げるか...仕事もあるしな」

 と、俺は引き返すことにした。

「2ページ目の解読もやってみないとな」

俺はそう独り言を言い、畑湖をあとにした。

―その後、1人の男がここにやってきた。同じように畑湖にやってきて、しばらく居座ってその男はいなくなった。男と柊弥が出会うのは、そう遠くない話である。

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