第43話 地下3階 貪欲な者
翌日も『我々の中に裏切り者ガイル』の五人は、『タルタロスの口』へ向かう前に、冒険者ギルドに立ち寄った。
「地下三階のクエって、盗賊とかの人型の魔物を討伐するみたい」
「人型か、あまり人に近いとやりにくいんだよな……」
「そうね、無駄に断末魔がリアルだったりするからね……」
「私は別に平気ですけど?」
「我らに敵意を向けてくれれば、斬るのに
そう話しながら歩いていると、クロウの足元に何か小さい物が落ちた。
「クロさん、何か落としましたよ」
リノはそれを拾い上げ、クロウに渡す。何かの金属片のようだ。
「あっ、ごめん、何だろうこれ?」
そう言って彼は身に着けている装備を調べた。
「これ、剣の柄の飾りだ……」
「大丈夫なのか? その剣」
「まだ使ってないけど、カッコいいからな~」
「名前が『定価三〇〇円』でしょ? すぐ折れるんじゃないかしら?」
「どうだろな? 一応予備に初期装備の剣も持ってきたけど」
「何でそんな名前なのよ……」
「俺に言われても困る。使い勝手が良かったら名前変えるか……」
そんな事を話しつつ、彼らはダンジョンに向かう。
――地下三階。
地下三階は洞窟になっていた。
自然にできた鍾乳洞のような物ではなく、誰かが掘った坑道のような雰囲気だ。
この階には盗賊などの人型の魔物が出るらしいが、どうだろうか。
一行は道なりに進んで行く。進む道はいつもの通り、クロウの直感頼みである。
道の折れた場所に差しかかると、向こうから盗賊型の魔物達が二匹現れた。
出会い頭であったが、一行はその盗賊達をすぐ斬り捨てた。
「…………」
クロウは昨日拾った剣、『定価三〇〇円』を見て考えていた。
「どうした、クロ? その剣どうだった?」
エリーが彼に声をかけた。
「この剣、普通すぎる……」
「普通ってなによ?」
「初期装備の剣とほとんど変わらん……」
「ハズレなんじゃないの?」
「いや、1ポイント位攻撃力が上がった気がする……」
「1ポイントの加減が分からんって」
「とりあえず、まだ使ってみるよ」
クロウはそう言って、その剣を鞘に収める。
すると、再び剣から何か落ちたようだ。
「……」
彼は無言でそれを拾い上げ、先へ進んだ。
そこの道の先を進んで行くと扉があった。
エリーがその扉を調べて聞き耳を立てる。
「中に何人かいるね、多分盗賊だろうけど」
と、皆に注意するように言い、扉を開ける。
中にいたのは盗賊三人と戦士二人だった。
その盗賊の中に弓を持つ者がいたが、その五人も一行はあっさり倒してしまう。
キャラクターが弱くなっても、プレイヤーの経験は健在のようだ。
「弓持ってるのもいるのか」
「そりゃいるだろうね」
「後衛が狙われたら面倒だわね」
「でも、私も銃を持ってますし」
「弓を持つ者を先に倒した方が良さそうだな」
そう言って彼らは、奥の扉を開けて、さらに先に進んで行く。
魔物達を倒しながら先へ進むと、そこは分岐路になっていた。
エリーがクロウに聞こうとすると、右手の通路から誰かがこちらに来ている。
冒険者、ドワーフ、女性の三人のようだ。魔物ではないらしい。
前の二人は知っている、ウィグラフとドルフだ。
奥の髪の長い女性は誰だろうか。
「よお、また会ったな」
「久しぶりじゃの」
ウィグラフ達は一行にそう挨拶する。
「おっさんと爺さん! それに後ろの方は?」
その魔法使い風の女性はこちらにお辞儀した。
「何だ、もう忘れたのか、ソフィアちゃんだよ」
「えっ? ソフィっち僧侶辞めたの?」
「いえ、今は『賢者』なのです……」
「賢者!?」
「それで服装が変わってたのね」
「ああ、ソフィアちゃんの爆発は結局バグだったらしくてさ、図書館で調べ物してたら、賢者の資格が手に入ったらしい」
「それは凄いですね……」
「なんでも賢者になる条件はかなり厳しいんだけど、その条件をソフィアちゃんは満たしたようなんだ」
「はい、そうなのです。皆さんにはお世話になりました……」
そう言ってソフィアは再度お辞儀する。
「良かったではないか、これでソフィア殿も思う存分に回復魔法が使えるのだし」
「おっさん、このダンジョンでも魔物食べてるの?」
「いや、それ目的なんだけどさ、まだ人型しか見てなくて食べられてないんだよな」
「ダンジョンで魔物を食べてたら、別の漫画になりそうだわ……」
「おお、それだよ、俺もその漫画のファンでさ。その漫画見てから魔物の肉食べたくなったんだよな」
「パクリですね……」
「そう言うなよ、ホントにおいしい物もたまにあるんだって」
「たまに、か……」
「話変わるけど、二階のボス、強くなかったか? 十二匹同時に倒さないとダメって。お前らはどうやってやったんだ?」
「そうだったの? あたしらの時はグレイス達が倒しちゃったからね……」
「そっか~、やっぱりここのボスを倒すにはそれなりに戦力が必要みたいだな」
「そうなの?」
「どうもこのダンジョンは難易度が高いらしい。一階で
「それはウチらも見たというか、手なずけたというか……」
「お前ら……、どこのバケモンだよ……」
「彼は激辛せんべいが好物だったみたいです。それに子供のようでした」
「へぇ~、観察力も凄いな。さすが二回も勝利者になっただけはある」
「いやただの偶然……」
「ともかくだ、この階でボスを見たら、要注意だな」
「でもまだあたし達もこの階のボス見つけてないんだよね」
「まあな、戦うなら準備しっかり整えた方がいいって事よ」
ウィグラフはそう言って別れの挨拶をした。
「おお、そうじゃ。前回お主らに世話になったからの、儂からの贈り物じゃ、これを持って行け」
ドルフはそう言って、剣と小さな包みをクロウに渡した。
「爺さん、これは?」
「試しに作ってみた水属性の剣と、武器に火属性を付与する道具じゃ。どちらも微妙な物じゃが、お主らなら使えるかもしれん」
「それは助かるけど、爺さん、また変な物じゃないでしょうね? あの短剣、酷い目にあったんだけど?」
「武器は使い手次第じゃよ」
「そんなもっともらしい事言って……」
「まあな。とりあえず、お主らの健闘を祈る。じゃあの」
ドルフもそう言って、ソフィアと共に別れの挨拶をし、ウィグラフを追って行った。
「火属性を付与するのか、ヒナ、付けてみる?」
そう言ってクロウはヒナに小さい包みを渡した。
「ふむ、そうだな、試しに付けてみるか」
ヒナはそう言って、小さい包みを開けると、中には炎の形の飾りがあった。
それを自身の『小烏丸』に装着してみる。
「これは……、弱いが確かに火属性になったな……」
スクリーンを開き、武器の性能を確認したヒナはそう呟く。
「あら、あの爺さん、たまにはマシな物作るじゃないの」
「クロ、その剣はどう?」
「今見てみるよ」
クロウはそう言って、ドルフに貰った剣を鞘から抜いた。
その剣は鞘から抜くと、濡れた紙のようにグニャリと垂れてしまった。
「なんだこれ……、ん? メモが貼ってある」
〝この剣は水属性の剣を作ろうとして失敗したものじゃ。名前を『フニャチン』という。大切に使え。―ドルフ―〟
と書いてあった。
「あのジジイ……!」
クロウは怒りに手を震わせ、『フニャチン』を道に投げ捨て、先へ進む事にした。
左の道を進み、角を曲がった先には扉があり、その扉は少し隙間が空いていた。
エリーが覗き込むと、弓を持った盗賊が六人、中にいるようだ。
「全員弓のやつみたいだけど、どうする?」
「ウチにアイディアがあるわよ」
「大丈夫かな……?」
「召喚! ミニゴーレム・チョースケ!」
唇の厚いミニゴーレムが現れた。〝オイッス!〟
「召喚! ミニゴーレム・コージ!」
黒縁メガネの体操選手のようなミニゴーレムが現れた。
「召喚! ミニゴーレム・ブー!」
太ったミニゴーレムがウクレレを弾いている。
「召喚! ミニゴーレム・チャ!」
ハゲヅラ丸メガネにチョビヒゲのミニゴーレムが酔っぱらっている。
「召喚! ミニゴーレム・チュウ!」
おっさんが何かの機材を持ちながら逆ギレしている。〝ナンダバカヤロウ!〟
「……フェイ、最後の人が違うんだけど?」
「元メンバーよ、友情出演だわ」
「あたしは知らないけどさ、それにこの機材は?」
「カラオケ機器よ、カラオケボックスの入り口に入らなかったらしいわ」
「ネタが古すぎて分からないよ~」
「大丈夫よ、さあ、扉を開けましょう」
そう言ってフェイさっとは扉を開けてしまう。
中にいた六人の弓盗賊は、こちらに気づくと案の定弓を撃ってきた。
一行はその矢をカラオケ機器に隠れて凌ぐ。
「矢が次々飛んで来るって!」
「顔すら出せないよ!」
リノは隙を見て銃を撃つも、敵の攻撃が厳しく当たらないようだ。
「フェイ、魔法は使わないのか?」
「待ってて、今からカラオケ機材ごと移動するから」
フェイがそう言うと、五匹のミニゴーレムがカラオケ機材を押しながら敵に近づく。
もちろん彼らもそれに続き、距離が縮んでから飛び出し、一気に盗賊達を斬った。
「フフフ、どう? ウチの頭脳プレイは」
「ネタが古すぎてリアクションに困るんだよ!」
さすがのエリーも、知らないネタだとツッコミづらいようだ。
こうして弓の盗賊達を倒した彼らは、さらに先へと進む。
一行がさらに進んで行くと、そこには地下二階と同じ青銅の扉があった。
エリーが罠の有無を調べた後、五人で一斉にその扉を押して、開く。
その扉の先にいたのは、三つの頭を持つ、大型の狼だった。
「こいつは……、強そうだな……」
「ボスみたいだね……」
「調べてみるわ。
「頭が三つありますからね……」
「食べ物で手懐けられないかな?」
「やってみるか……」
五人はもしもの時に備えて、それぞれおやつを持っていたのである。
「それ!」「ほいっ!」「はい!」
クロウ、フェイ、リノが三人同時におやつを投げた。
「三人同時に投げなくても……」
「タイミングが被っちゃったわね」
するとケルベロスの三つの頭が、足元に投げられたおやつを食べ始めた。
「何やったの?」
「草餅」
「カステラ」
「チョコレートです」
「チョコはマズくない? あれ犬っぽいし」
「そうなのですか!?」
「うむ、犬にチョコを食べさせると、最悪死んでしまうな……」
「どうしましょう……」
「うん、まあ、敵だけどね……」
そう話しているうちに、ケルベロスはおやつを食べてしまった。
ケルベロスの右の頭、草餅を食べた頭は、餅が喉につかえたらしく苦しみだした。
「ああっ! ちぎってあげればよかった……」
「敵なんだよね……」
ケルベロスの左の頭、チョコを食べた頭は、口から泡を吹きぐったりしてしまう。
「ごめんなさい……」
「だから敵なんだってば……」
ケルベロスの中央の頭、カステラを食べた頭は、大喜びでもっと欲しそうに舌を出して目を輝かせていた。
「よし!」
フェイはガッツポーズを取った。
「いやもう……、なんか違う遊びになってるし……」
だが三つの頭のうち、両脇の頭が深刻なダメージを受けたようだ。
そのことに気づいた中央の頭は、怒ってこちらに襲いかかって来た。
「やっぱりこうなるよね……」
「二つ頭を潰しただけでも上出来だ!」
こうして五人はケルベロスとの戦いになった。
ケルベロスは三つの頭を持ち、それぞれの口から炎を吐く恐ろしい魔物だ。
だが、一行の手によって二つの頭が潰されてしまい、その強さは半減してしまった。
彼は中央の口から炎を吹きかけるも、
「
と、フェイの魔法によって防がれてしまう。
そして、クロウ、ヒナ、エリーの三連続攻撃で彼に傷を与える。
「
フェイの魔法で彼の足が止まってしまうと、再び三人の連続攻撃を受け、悲鳴を上げながらケルベロスは倒れた。
この時、五人の腕輪が光を放ち、この階層をクリアした事が証明される。
彼らの手によって倒されたケルベロスは、その死体が消えると何かを残した。
「何だ、これ?」
クロウがそれを拾い上げると、それは鈍色に光る『金属製の右腕』だった。
「腕……」
「クロ、それ何?」
「金属の腕みたいだ」
「何かしら? 義手?」
「何でしょうね……?」
「見た事の無い金属だな……」
「後で使い道あるかもしれないし、持って帰って倉庫に置いておくよ」
クロウはそう言って、その腕を持ち帰る事にした。
一行はその後、ゴンドラに乗り、街へ戻った。
冒険者ギルドでクエストを報告して報酬を受け取った後、拠点へ帰る。
クロウは拾った『金属製の右腕』を倉庫に入れ、カギをかけて保管した。
その後、五人はそれぞれ次の冒険に向けて準備をして、今日は休む事にしたのだ。
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