第42話 地下2階 牢獄の魔導士

 ――翌日。

 『王都・ルティア』で、冒険者の間に奇妙な噂が広まっていた。

何でも、地下一階で上級悪魔アークデーモンを見た、とかいう話だ。

だが、噂が噂を呼び、アークデーモンが手下を五匹連れて冒険者を襲った、とか、アークデーモンが六体のグループを組んで冒険者を貪り食べた、とか、その噂は恐ろしい方向に広がっていた。

 その噂を信じた冒険者には、よその街に逃げ出した者もいるようで、新ダンジョン『タルタロスの口』は、初日に比べ、訪れる者が減ってしまったようだ。

 そんな中、『我々の中に裏切り者ガイル』の五人は、今日も『タルタロスの口』へ挑むのだった。


 いつものように、冒険者ギルドでクエストを受けてきたエリー。

「地下二階のクエって、ゾンビ、スケルトンとゴースト退治しかなかったよ」

「そうなの? 地下二階はアンデッド系?」

「うん、それぞれ五匹ずつ、計十五匹だって」

「ゾンビや骨はいいとして、ゴーストが厄介だな」

「だよね。ゴーストは魔法のかかった武器でしか攻撃効かないしね」

「フフフ、フフ。ウチはまだ、初級魔法しか使えないわ」

「そんな得意げに言われてもね……」

「私はメイドですから、僧侶と違ってアンデッドを祓えませんね……」

「そうか、ではゴーストが出たら魔法頼みか」

「途中で武器が出るかもしれないし、何とかなるさ」

そうして、彼らはいつも通りダンジョンへと向かう。



 一行はタルタロスの口の地上部分を通り、ゴンドラのある場所まで向かった。

ゴンドラの場所に着くと、腕輪が光りだす。

「このゴンドラ、どうやって動いてるんだろ?」

「謎技術だよね。レバーで行く階層指定できるし」

確かに、このゴンドラには、地下五階までのレバーがある。

「そこを深く突っ込むと、話が進まないわ」

「そうですね、ゲームだからと割りきったほうがよさそうですね」

「深く考えない方が良いのだろうな」

五人はゴンドラに乗り込むと、エリーがレバーを三階の所へ倒した。

「うん、やっぱ階を飛ばすのは無理か」

「そりゃそうだ、二階でフラグ立てないとな」

エリーはレバーを二階の所に倒すと、ゴンドラは動き出した。



 ――地下二階。

 地下二階で降りると、そこは石作りの牢獄のようになっていた。

大きな部屋は中央が吹き抜けになっていて、上層と下層に分かれている。

四方の壁際には鉄格子があり、上層には十二個、牢があった。

恐らく下層も十二個、牢があるのだろう。

「地下牢というと、彼女だな……」

「やっぱり捕まってるのかな……」

「捕まるのが趣味みたいだしね……」

そう話しつつ、一行は地下二階を探索し始めた。

 その途中に出たゾンビを倒し、進んで行くと、牢の中に老人が捕らわれていた。

その老人はこちらに気づくと、

「儂じゃ、儂が大魔導士・ロゴスじゃ。あ奴に騙されて閉じ込められてしもうた。助けてくれ!」

と言って、鉄格子を掴んで、こちらに頼んできた。

「これって……」

クロウは老人を見て、さらに皆を振り返り言った。

「大魔導士のロゴスって、ラスボス?」

「ラスボスがここにいる訳はないし、おかしいわね……」

「NPCなのでしょうか?」

「だろうな、だが何故ここに?」

「儂じゃ、儂が大魔導士・ロゴスじゃ。あ奴に騙されて閉じ込められてしもうた。助けてくれ!」

再び牢の中の老人は、同じセリフを言い、こちらに助けを求めてくる。

「NPCを救出するクエじゃないよな?」

「うん、魔物倒すやつ」

「彼には悪いけど、NPCなら牢屋で待ってもらうしかないわね」

「仕方ありませんね……、魔物に襲われたら大変ですし」

「うむ、仕方なかろう」

「じゃあ、後回しだな」

五人はここのNPCを後回しにする事にして、さらに進んだ。


 その道中にスケルトンとゴーストが出るも、一行にすぐ駆逐されてしまう。

その先の牢の中には、先程と同じ老人が捕らわれていたのだ。

「ここにもいるのか……」

牢の中の老人は、前と同じセリフを言い、こちらに助けを求めてくる。

「って言っても、NPCだからね……」

五人はその老人の前を通り過ぎ、さらに探索を続ける。

 そしてさらに、別の牢にも同じ老人を発見した。

もちろん、彼も同じセリフを言って、助けを求めてくる。

「三人目か、気味が悪いな……」

「そうですね……、でも一通り調べてからにしましょうか」

五人は三人目の老人の前を通り過ぎ、先へ向かう。

 地下二階の上層の魔物を掃除し、捜索を終えた一行。

見つけたのは、下層へ降りる階段と、例の老人三人だった。

結局の所、地下二階の上層の牢には、合計六人の老人が捕らわれていたのだ。

「六人も同じ人が……。こいつら何松だよ……」

「兄弟な訳ないでしょうに」

「全部偽物だろうけどね……」

「気味が悪くなってきたな……」

だが、上層の捜索は終えたので、下層へ降りていく。


 下層にはギロチンが置いてあり、見せしめの処刑を行う場所なのかもしれない。

とにかく、五人は下層を捜索し始める。

また例の老人がいたが、そこを通り過ぎると、牢の中に別な人達が捕らわれていた。

 ……その顔に見覚えがある。グレイスの部下だ。

彼、マーカスはこちらに気づくと、鉄格子に近づいて、言った。

「君達か……、今回は僕らが捕まってしまった……」

「グレイスは?」

「隊長は僕達を助けようと、牢を開く仕掛けを探しに行ったよ……」

「あたしじゃ開けられないかな……」

そう言ってエリーは鉄格子を見たが、鍵穴は無いようだ。

「どこかにここの牢を開ける仕掛けがあると思うんだけどね……。申し訳ないけど、隊長を見かけたら、助けてあげてくれないかな?」

「分かった、じゃあちょっと見てくるよ」

クロウはそう言って、五人は再び下層の捜索を始めた。

 ……五人は下層の魔物を退治して、ここの捜索を終える。

結局、下層にあったのは、奥へ向かう通路と、例の老人六人だった。

つまりここ地下二階の牢には、計十二人の魔導士を名乗る老人がいたのだ。

「六つ子どころか十二つ子って……」

「なんでこんなにいるの……」

「不気味よね……」

「でも、今の状況では、何も分かりませんね」

「奥へ行くしかないな……」

彼らは不気味な感じを背負いつつ、奥へと向かう。


 通路を進むと、その先には青銅の重そうな扉があった。

エリーが罠の有無を調べた後、五人で一斉にその扉を押し、開く。

そこには、真っ暗な空間が広がっていた。

底が見えないのだろうかと思い、床をよく見ると、床は確かにあるようだ。

突如、上から細い光が降りてきて、部屋の中央だけを照らした。

そこには、スポットライトを浴びたグレイスが立っていた。

だが彼女の顔には、骨で作られたメガネがかかっているようだ。

「グレイス!」

クロウが彼女の名を呼ぶと、さらに天井から光が降り、今度は部屋全体を照らす。

急な光に、五人の目が眩む。

 そしてそこには、グレイスを中心に無数のゾンビ達が整列していたのだ。

この謎の展開に困惑する五人……。

そして曲が流れだした♪。

グレイスとゾンビ達は、BGMに合わせて、キレッキレの踊りを踊り始めた。

〝コレハ、コワイ~~~ コワ、イ、ヨ~ル♪〟

「なんだこれ……」

目の前の出来事が信じられず、唖然としてしまう五人。

〝ダレッモ、タスケニコナイヨ、ゾンビガ、デテッモ♪〟

だが、目の前のグレイスとゾンビ達は、一心不乱にキレッキレで踊り続ける。

「……これ、ス〇ラー?」

「グレイスは何ジャクソンになったのかしら……」

〝アゥ!〟

「この動き、かっこいいですね……」

「素晴らしい……、どんな武術なのだろう……?」

〝コレハ、コワイ~~~ コワ、イ、ヨ~ル♪〟

彼女たちは相変わらずキレッキレの踊りを踊っていた。

「このスリ〇ーダンスどうしよう……?」

〝ゲラッ! ゲラッ!♪〟

「キレッキレだし、止めるのも悪いような……」

〝ゲラッ! ゲラッ!♪〟

「ウチは嫌いじゃないけど、このままループされるのは……」

〝ポゥ!〟

「そうですね……、では天使の癒しエンジェルヒーリング!」

リノはグレイスに向けて、回復魔法をかけた。

 グレイスのメガネが壊れ、BGMがばったり止み、グレイスもばったり倒れた。

ゾンビ達の視線が、五人に集中する……。

そして彼らは、怒ったようにこちらに襲いかかって来たのだ。

「ちょっ! これ!?」

「えぇっ!?」

「ど~すんのよ!?」

「あれっ!? ごめんなさい……」

「来るぞ!」

リノは少し落ち込んだようだが、そんな暇は無い。

彼らに二十以上のゾンビ達が襲いかかってきたのだ。

五人は通路へ少し下がると、そこで迎え撃つ事にした。


 ……その後、一行はゾンビ達と十数分斬り合って、何とかこの戦いに勝利した。

「ぜぇっぜえっ、キツかった……」

「ほんとに、もうダメ……」

「魔力が……」

「本当にすいませんでした!」

「……まあ良い、いい修行になった」

五人はかなり疲弊してしまい、リノは深々と頭を下げて皆に謝った。

「まあ、やってしまったのは仕方ない、そういやグレイスは?」

「そうね……、まだ倒れてるね……」

彼らは疲弊していたが、部屋の中央のグレイスの安否を確認しに向かった。

「……くっ、殺せ!」

「またかよ……」

五人は呆れていたが、グレイスは無事なようだ。

「すまない……、この先にある武器庫で変わったメガネを見つけてな。つい、かけてしまったのだ……」

「あ~もう、そんなことだと思った」

「それでこそグレイスなのかもね……」

「そうだ、私のメガネは……」

「武器庫にあるのではないでしょうか?」

「そうか……、案内する、来てくれ」

グレイスは立ち上がると、五人を引き連れ、武器庫へ向かった。

 その武器庫には、グレイスのメガネだけでなく、様々な武器が置いてあった。

「これは……、いいものだ」

「何個か貰っていこうよ」

「そうね、誰の物でもないしね」

「銃は無いのでしょうか……」

「この刀、属性は無いが悪くないな……」

五人はそれぞれ、気に入った武器を手にし、持ち帰る事にした。

「あたしはこの『切り裂きの短剣』ってやつにしたよ」

「ウチは『虹の杖』にしたよ」

「私はまた『ベレッタナノ』にしました」

「某はこれ、『小烏丸』にしたぞ」

「あれ? クロは?」

一方クロウは、まだ選んでいた。

「早くしろよ~」

「えぇ……、こっちとこっち、どっちがカッコいいかな?」

「こっち」

エリーは投げやりに答えた。

「よし、これにするか」

「何て名前なの?」

「これは……、『定価三〇〇円』という物だそうだ」

「何その名前……」

「見た目はいいし、とりあえずコレだな」

「……そろそろいいか?」

自分のメガネをかけたグレイスはそう言って、皆を促した。

五人はそれぞれ手持ちの武器に満足したようで、先へ進むことにした。


 その先にあったものは、『巨大なレバー』だった。

これを動かすことが出来れば、牢が開くかもしれない。

「でかいレバーだな……」

「三メートルはあるね……」

「巨人族じゃないと動かせないかも?」

「私に任せてくれ」

グレイスはそう言うと、手にしたムチを一閃させ、レバーの先端に絡みつけた。

それを彼女は引き始め、クロウ達もそれに加わると、何とかレバーを動かせた。

……遠くから何かが動く音が聞こえてくる。

どうやら牢が開いたのだろうか。

皆、そう思い、牢のあった方へ向かった。

 すると、通路の向こうから誰かが走って来る。マーカス達だ。

「隊長、ご無事でしたか!」

「皆、済まない。時間がかかってしまった」

「いえ、隊長さえご無事であれば……。あっ、そうです。牢の方が大変な事に!」

「どうしたのだ?」

「ともかく、こちらへ!」

マーカス達四人は、先に立って牢のあった方に進んだ。


 牢のあった上層と下層に分かれていた場所へ着いた一行は、目を疑った。

牢に捕らわれていた例の老人が、輪になって回りながら喋っているのだ。

「儂じゃ、儂が大魔導士・ロゴスじゃ。あ奴に騙されてしもうた」

「儂じゃ、儂が大魔導士・ロゴスじゃ。あ奴に騙されてしもうた」

「儂じゃ、儂が大魔導士・ロゴスじゃ。あ奴に騙されてしもうた」

計十二人の大魔導士を名乗る老人は、そう言いながら部屋の中央を輪になって回っていた。

「気味が悪いな……」

「そうだね……」

「倒した方がいいのかしら……? もう魔力が無いけど……」

「困りましたね……」

「敵意の無い者は斬り難いな……」

五人がそう戸惑っていると、グレイスが、

「君達は消耗している。助けてもらった事もあるし、今回は我々に任せて欲しい」

「行くぞ! マーカス、ラビッシュ、ダミット、ラーク! サザンクロスだ!」

「「「「はっ!」」」」

マーカス達はグレイスに敬礼すると、四方に散った。

 四方に散った彼らは老人たちを囲むように陣取り、老人達を中央へ弾き飛ばす。

さらに彼らはロープや魔法を使い、部屋の中央で老人達を拘束し始めた。

そして、その場所から十字四方にマーカス達が立つ。

「「「「サザンクロス・ボンテージ!」」」」

マーカス達ががそう叫ぶと、老人達はさらにきつく縛られ、身動き出来なくなった。

そこでグレイスが投げ輪を上に投げると、広間のはりを越えて老人達の首にかかる。

処刑執行エクスキューション!」

グレイスがそう言ってロープを引き、老人達の首を締め上げる。

十二人の老人達は、全員同時に首を吊られてしまい、苦しみもがいた。

「……グレイス達、強かったんだな」

「いつも捕まってたからね……」

「五人いないと強さが出せないのかも……」

「きっと、盗賊がいないから、罠に弱いのでしょうね……」

「成程、誰か一人が罠にかかり、離脱されると、もう戦えなくなるのか……」

「でも、いつもしょうもない罠に引っかかってるよな?」

「それさえ無ければね……」

そう五人が話していると、十二人の老人達は全員同時に首を絞められ、ついに息絶えてしまった。


 すると一行の腕輪が光を放ち始めた。もちろん、グレイス達もである。

どうやら彼らは、地下二階のフラグを立てる事に成功したようだ。

グレイスは、こちらに近寄り、話しかけてきた。

「また世話になってしまったな。我らもまだまだ修行が足りないようだ、これからも互いに意識し合い、鍛え上げようではないか」

そう言って、彼女達は一行に別れを告げ、先にゴンドラへ向かった。

「グレイス達はアホじゃなければ強いのにな……」

「あたし達も人の事は言えないけどね……」

五人はそう思ったが、今日は余力も無くなったので、街に戻って行った。


 街に戻り、クエストを報告して報酬を受け取ると、全員Eランクへ上がった。

今回の冒険で力を使い果たした五人は、ギルド拠点に戻り、休息を取って明日の冒険に備える事にしたのだ。

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