第三部

第41話 廃城の地下で蠢く魔物


 ――シーズン6が開幕された。

 シーズン6のアップデート内容は、このような感じだ。

まず、勝利条件の変更である。

『魔王・バアルを倒す』、『プレイヤー魔王を倒す』、『不死の魔導士・ロゴスを倒す』、『古代遺跡に眠る古代文明の遺産を復活させる』、『伝説の七つの秘宝を手に入れる』、などの五つに変更された。

 そして、地下二十階に及ぶダンジョン、『タルタロスの口』と、そこの魔物のボスとなるNPC、『不死の魔導士・ロゴス』の実装。

 新職業として、攻撃役の『武闘家』、回復役の『ヨガインストラクター』、が実装される事。

 さらに、キャラクターのランク、アイテムは初期化されるものの、ギルド関係は前回の物を引き継ぐ事。

……などである。

 公式に前回の勝利者が発表された。その名前は、クロウ、リノ、エリー、フェイ、ヒナ、イヨ、マオ、ライシス、ダーティ、ドルフの十人となり、賞金はその十人で分ける事となった。

 また、リベルタスの街とイトの国はまだ復旧しておらず、全てのプレイヤーの開始地点は『王都・ルティア』だけとなった。




 こうした中、前回の勝利者のギルド、『我々の中に裏切り者ガイル』の五人は、王都ルティアに新しいギルド拠点を借りて、食堂に集まっていた。

「今回のシーズン6、どうしようか?」

クロウは皆に聞いた。

「新ダンジョン、行ってみる?」

エリーは答えた。

「そうね、ウチら、全員Fランクに戻ったしね」

フェイもそう答えた。

「ダンジョンの中だけだと、飽きてしまいそうですね」

リノはそう返事した。

それがしは戦えるなら何処でも構わん、だが以前と違い弱くなった、修行もしたい」

ヒナは少し不満そうに答えた。

「しかも新職業の『ヨガインストラクター』って何だよ? ヨガ教えるの?」

「さあ? ヒーリング効果はあるんじゃない?」

「きっと手足が伸びたり、口から火を吹いたりするのよ」

「でも火を吹くのって、ヨガじゃないですよね?」

「戦い方に柔軟性が出そうではないか」

「とりあえずさ、新ダンジョン行ってみて、飽きたら次の事考えようか」

「そうだね、あたしらにはてきとーが似合ってるしね」

「新ダンジョンの入り口は、ルティアの郊外らしいよ?」

「私は早く銃が欲しいですね……」

「某は刀が欲しいな、新ダンジョンには『村正』がありそうじゃないか」

「俺は前持ってた『フルティン』が無くなったし、何かいい物欲しいな」

「あたしはまだイヨに呪われてるのかも。たまに首が痛いし……」

「イトの国破壊するからよ」

「不可抗力だって! 悪いのは全部あのジジイ!」

「でも、エリーさんの竜巻がイトの国を破壊した証拠は無いはずですが……」

「そうは言ってもねぇ……」

「とりあえず、ここで話しても仕方無いではないか」

「そうだよな、よし、今まで通りいきあたりばったりで行こう!」

「じゃあ、新ダンジョン関係のクエあるか見てくるよ」

こうして彼らは、冒険者ギルドでクエストを受けに行った。


 ルティアにある冒険者ギルドは、リベルタスより少し広い程度で、中はほぼ変わりが無いようだ。

そしてエリーはクエストを受注してくると、皆の所へ戻る。

「ゴブ三匹、オーク三匹、コボルト三匹倒すんだって」

「初心者に戻ったみたいだな」

「みたいじゃなくて戻ったのよ。ウチらは今、Fランクだからね」

「いつも通り、のんびりやりましょうか」

「そうだな、戦っていれば何時かは強くなる」

五人はそう話して、新ダンジョンへ向かった。



 ――新ダンジョン『タルタロスの口』

 このダンジョンの最奥には『不死の魔導士・ロゴス』がいて、彼を倒す事でもシーズン6の勝利者になれるそうだ。

タルタロスの口の入り口は、巨人の頭部とその開いた口の石像のような形をしていて、口から巨人の体内に入って行く感じがした。

 その入り口には衛兵が二人いて、このダンジョンに挑戦する者に何か渡していた。

一行がその衛兵に近づくと、彼らは敬礼して、

「ご苦労様です。こちらがタルタロスのカギになります」

と言って、五人に腕輪を渡した。

彼らが衛兵から受け取ったものは、手錠のような形の腕輪だった。

もちろん彼らを拘束する為の物ではなく、ここのカギの代わりに使う物らしい。

一行はそれを受け取ると、巨人の口のような入り口を抜け、中へ入って行った。



 入り口を抜けると、そこは崩れた城のようになっていた。

崩れた天井や石壁、ボロボロの石床、あちこちに土砂が散乱し、人が住んでいるようには見えない。ここには魔物しかいないようだ。

 一行は魔物に警戒しながら、ゆっくりと進んで行った。

床には冒険者らしき大勢の足跡があり、その足跡を辿れば奥へ行けそうだ。

だが、先頭を歩いていたエリーが何かを見つけた。

「あそこ、なんかおかしくない?」

そう言って彼女が指差した先には、行き止まりの通路があった。

「ただの行き止まりだろ?」

「いや、足跡が行き止まりの手前で途切れてる」

確かに、行き当たりの奥の方まで、床の足跡は続いていない。

「行き止まりの奥の壁まで行く必要は無いと思うわ」

「そうなんだけどさ、秘密の入り口がありそうな気がしてね。ちょっと調べてみる」

エリーはそう言って、突き当たりの壁の手前で床や壁を調べ始めた。

他の四人はエリーの後に続き、彼女が調べ終わるのを待った。

 その時、彼らの背後から何者かの足音が近づいて来た。

彼らはその気配に気づき、後ろを振り返る。

そこにいたのは、雑魚の魔物、キングオブ雑魚、『ゴブリン』である。

ゴブリンが一匹、彼らの後ろに立っていたのだ。

だが、彼らの一番後ろにいたのはリノだった。

((((まずい!))))

リノを除く四人は、そう思った。

「私の後ろに立たないでください!」

 急に背後を取られたリノは、メイド13サーティーンモードに変貌し、ゴブリンを背負い投げで投げ飛ばした。

「うっ!?」

その投げられたゴブリンの足のかかとが、ヒナのあごにヒットしてしまい、ヒナは思わずよろけてしまう。

「わっ!」

そのヒナは思わず手でフェイを押してしまい、フェイはバランスを崩し、倒れる。

「えっ!?」

フェイの転んだ先にはエリーがいて、エリーはフェイに巻き込まれつつ、転んだ。

〝チーン〟

その転んだエリーの足がフェイの杖を蹴り上げてしまい、フェイの杖はクロウの股間に直撃してしまった。

「おぅhっ!?」

クロウは突然の出来事に、股間を押さえ、膝から崩れ落ちた。

〝カチッ〟

そこで何かが作動した音が鳴ると、その床が開き、五人は悲鳴を上げる間も無く下へ落ちて行った……。


 五人の落ちた所は、わらのような枯草が敷き詰められていて、少し臭かったが怪我をせずに済んだようだ。

「いてぇ……」

クロウは、股間を押さえながら、何とか立ち上がる。

「何が起きたのよ……」

エリーも頭を横に振って、枯草を払い落としながら立ち上がった。

「ヒナっちに押されて……」

フェイも服に付いた枯草を払いながら立ち上がる。

「ゴブリンの足が某のあごに……」

ヒナは自分のあごをさすりながら立ち上がった。

「急にゴブリンが……」

リノも立ち上がったが、その足元には首を折られたゴブリンが死んでいた。

幸いにも、下に落ちた時にメイド13サーティーンモードは解けたようだ。

「ここ、どこだよ……」

クロウは周囲を見回した。

「地下じゃないの……?」

エリーは上を見上げた。天井の高さは十メートル程あり、落とし穴の跡が見えた。

「困ったわね、落ちたんじゃ上に行く階段が分からないわ……」

フェイも天井を見上げた。落とし穴の先には空が見える。

「ここ、どこかの部屋みたいですね……。あそこに扉が」

リノが見ている先には、扉があった。

「出口か、とにかく、上への階段を探さねばな」

ヒナも立ち上がり、刀の無事を確認した。

「とりあえず、ここから出ようか、どうせ地下一階だとゴブリンとかオークだろ? 俺達がFランクの強さでも楽勝だし、さっさと蹴散らして上に戻ろう」

クロウはそう言って、この部屋の扉へ進み、そこを開けた。


 クロウが扉を開け、そこで目に入ってきたものは、♂のオークの上に♀のオークが乗り、全裸でプロレスをヤっている光景だった。

「ごめんなさい……」

その二匹と目が合ってしまい、思わずクロウは、二匹に謝りながら扉を閉めた。

「何かあったの?」

エリーが尋ねると、

(シーッ! 開けちゃいけない扉だったんだよ!)

クロウは口に人差し指を当てて、静かに喋るようにと、言った。

(どうしたの?)

フェイは小声で聞いてきた。

(中でヤってるんだって!)

(何をですか?)

リノも小声で聞いてくるも、

(リノにはまだ早い!)

クロウはリノに中を見せないように立ちふさがる。

(さっきから何を……)

ヒナがそう言って一歩踏み出そうとすると、扉が開き、オークが出て来た。

 オーク二匹はもちろん怒っており、般若のような形相で彼らに襲いかかって来た。

だが所詮はオーク、いかに五人がFランクに戻ったとはいえ、ベテランの冒険者だ。

二匹は一瞬のうちに倒され、地面に倒れた。

「本当にごめんな……」

クロウは再び二匹に謝り、扉の先に進んだ。


 扉の先は小部屋になっていて、部屋の中央に汚れた生臭い布があった。

そして左奥に扉が見える。

一行は生臭い布を避けて、奥の扉へ向かう。

 その扉を開けると、正面に扉があり、左手に通路が伸びていた。

エリーは罠を警戒しながら、正面の扉をそっと開ける。

「……ごめんなさい」

エリーも思わず謝って、扉を閉めた。

彼女はクロウの胸倉を掴み、

(なにここ! どうなってんのよ!?)

小声で聞いた。

(知らないって!)

クロウはエリーに首を絞められそうになりながら、辛うじて答えた。

そうして二人でコソコソ喋っていると扉が開き、怒り狂ったコボルトが二匹現れた。

 もちろん、一行はそのコボルト達をもあっさり倒してしまう。

エリーは横たわる二匹のコボルトに、

「本当にごめんなさい……」

そう両手を合わせて謝った。

「中でなにがあったのでしょうか……」

リノが気になって聞くも、

「リノにはまだ早いって!」

エリーはそう言って、扉の中を覗いた。

 コボルトのいた所も小部屋になっていて、中央に生臭く汚い布があった。

ここを探しても何もありそうにない、というか、何か出てきたら本当に困るので、五人はその部屋を避けて通路を進んで行った。


 通路を進むと、左手に扉と、右に折れる通路があった。

クロウとエリーが扉を開けるのを押し付け合っていると、リノが、

「私が開けますよ」

と言って、さっと扉を開けてしまう。

「「あっ!」」

二人が止めようとしたが、遅かったようだ。

 だがその中には、ゴブリンが二匹、上級悪魔アークデーモンが一体いたのだ。

三匹は部屋の中央で輪になって座り、手にカードを持ち、何かのゲームをしていた。

〝ウノ!〟

と、ゴブリンの一匹が言うと、リノは上級悪魔アークデーモンと目が合ってしまい、

「……まちがえました」

と、謝って扉を閉めた。

「リノっち、どうしたの?」

リノは首を横に振った。

「さっきから何をしているのだ!」

ヒナはしびれを切らし、そう言って再び扉を開けた。

 五人が中を見ると、ゴブリン二匹は怒って手に石斧を持ち、立ち上がった。

もちろんその奥にはアークデーモンもいる。

(アークデーモンがなんでここに!?)

(場違いすぎるだろ……)

(召喚魔法の準備が……)

(銃が無い……)

(修行がまだ……)

五人それぞれそう思ったが、気づかれたものは仕方がない。

とりあえずこちらも武器を取り、こちらに襲いかかって来たゴブリン二匹を倒す。

 そして、アークデーモンはどうしたのかと思い、そちらに目を向けた。

……だが彼は、部屋の隅でこちらを見向きもせず、積み木で遊んでいたのだった。

「なんだ? あいつ……」

「積み木? あれ」

「どうしたのかしら……」

「子供、なんでしょうか?」

「こちらに敵意を持っていないだと……」

アークデーモンの突然の出現に当惑していた一行であったが、彼がこちらに敵意を持っていないようなので、ひとまず胸をなでおろした。

「どうする?」

「某がお菓子をあげてみよう」

ヒナはそう言って、アークデーモンに近づき、懐からお菓子を取り出して与えた。

「ヒナ、それって……」

エリーは尋ねるも、

「もちろん激辛せんべいだ」

ヒナは当然のごとく、そう答えた。

一方、ヒナに激辛せんべいを貰ったアークデーモンは、それをボリボリと食べた。

「大丈夫なのかしら……」

四人は息をのんでアークデーモンの様子を見つめる……。

……アークデーモンは、仲間になりたそうにこちらを見ている、ようだ。

ヒナは彼の頭を撫でると、彼を仲間にしてしまった。

「大丈夫なのでしょうか……」

リノは不安そうに聞くも、

「大丈夫だ、此奴こやつに敵意は無い」

ヒナはそう言って、部屋から出て来た。

もちろんアークデーモンも、尻尾を振りながら付いてきている。

「うん……、まあ、こっちに敵意はないようだし……」

「そ、そうね……」

四人は不安に感じていたが、今戦ったとしても到底勝てる相手では無い。

「良し、其方の名は『悪出門』だ」

ヒナは彼の頭を再び撫でて、上機嫌になっていた。

こうして彼らは、仕方なくアークデーモンを連れて、探索を始めた。


 一行はこの階層を再び探索する。

途中に出てきた敵は、皆、悪出門に倒され、武器を抜く暇もなかった。

五人と悪出門の楽しい時間は、瞬く間に過ぎて行く。

そして彼らの進む先には、大きな銅像のような者が動かずに立っていた。

彼らがそこへ近づいてみると、そこに立っていたのは『青銅の巨人』であった。

「強そうだね……」

「ああ、初期装備で行けるか……?」

そう思っていると、悪出門は彼らを押しのけて前に進み出た。

すると彼らの目の前に何か障壁のようなものが張られ、前に進めなくなってしまう。

「悪出門、戻れ!」

ヒナがそう言うも、悪出門は振り返り、こちらを見た後、青銅の巨人と戦い始めた。

「悪出門!」

ヒナが悲痛な声で叫ぶも、悪出門は青銅の巨人と戦い続ける。

彼らの目の前には障壁らしき物があり、近づけない。

目の前で繰り広げられる戦いは熾烈を極めたが、ついに決着は着いた。

 勝ったのは、悪出門である。

青銅の巨人が倒されると、障壁は解除されたようだ。

一行は悪出門に近づくも、彼は体中傷だらけで、立っているのもやっとであった。

天使の癒しエンジェルヒーリング!」

ヒナが彼に回復魔法をかけたが、悪魔には効果が薄いのか、傷は塞がらなかった。

 ……ついに、楽しい時に終わりが来てしまった。

悪出門の姿がゆっくり薄くなり、間もなくお迎えが来るようだ。

「悪出門!」

ヒナは悪出門を抱きしめようとしたが、彼の体は実体を失い、消えてしまった。

そしてこのタイミングで、腕につけていた腕輪が光りだした。

「何かのフラグかしら?」

「そうみたいだけど、まだ上にも下にも行く道は見つけてないよね?」

「探すしかない、か……」

 一方、ヒナは悲しみをこらえていた……。

「ヒナ、悪出門を街に連れて帰るには無理がありすぎる……」

「そうね……、戦いどころか戦争になりそう」

「街のみんなもFランクだしね……」

「街の中が大変なことになりそうですね……」

「……そうだな、行こう、我々はここで立ち止まる訳にはいかない」

ヒナは気丈にそう言うと、先へ進んで行った。


 その後、一行は地上へ戻る場所を見つけた。

ゴンドラのような物があり、そこへ近づくと腕輪が光りだしたのだ。

五人で乗り込み、レバーを上げると、ゴンドラは上昇して行く

 こうして彼らが地上へ出ると、帰り道は床の足跡ですぐ分かった。

一行は寂しげな顔をしているヒナを連れて街に戻り、冒険者ギルドでクエストの報告をして報酬を受け取った。

そして彼らはギルド拠点へ戻ると、明日の冒険の準備をしてから、今日はもう休む事にしたのだった。

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