第40話 暴風、迫りくる終焉
――クロウの名剣『フルティン』はもげてしまった。
クロウハが白目を剥いて口から泡を吐き、倒れた。
かどうかは定かではないが、心に深い傷を負ったのは間違いない。
それはともかく、ハッカー『ナナシ』の攻撃は続いていた……。
「追いかけられるのも面倒だからね、ここで終わりにしよう」
ナナシはそう言って、次の攻撃の準備に入る。
「
「壱式物理結界 破っ!」
「弐式魔術結界 破っ!」
リノとイヨの補助魔法が立て続けにかかり、彼らを守る。
再びナナシの指先から光線が放出されるも、六人はなんとかそれを躱した。
クロウを除く五人は反撃に出た。
リノが狙撃するも、彼の額に当たるが傷一つつかない。
「それ、痛いんだけど?」
ナナシがリノの指を向けると、フェイの氷魔法、イヨの矢がそこを狙い、放たれる。
彼がその二つを手で簡単に払うと、エリーとヒナが距離を詰め、斬りかかった。
その二人の斬撃を、ナナシはそれぞれ二つの腕で受け止めた。
「硬すぎだろ……」
「鋼鉄を斬るようだ……」
二人の顔に冷や汗が流れる。
「服が破れるだろ、勘弁してよ」
ナナシはそう言い、二人を振り払うと、十本の指から光線を出した。
エリーとヒナはそれを飛んで躱し、後ろの四人は身を伏せて躱した。
「この技、ダメだな。当たらないや……。もっといい物使おう……」
ナナシはそう呟くと、自分の両手を見る。
その一瞬の隙を狙い、エリーが両手の短剣を振り、つむじ風を出した。
「これでも食らいな!」
エリーはさらに短剣を振り、つむじ風を成長させると、ヒナがそれに刀を刺す。
「
つむじ風がさらに成長し、炎を纏って渦巻いていく。
「「火炎竜巻地獄!」」
二人がそう叫ぶと、炎を渦巻く竜巻が、ナナシを襲った。
炎の竜巻がナナシを巻き込み、彼を上空へと飛ばす。
その竜巻は、そのまま遠ざかって行き、彼を倒したかに見えた。
「いや~、凄いね、今の技。あれはすぐにコピーできそうにないよ」
六人の後ろの方から、ナナシの声が聞こえた。
〝!!!〟
一同、後ろを振り返ると、そこには上空に吹き飛んだはずのナナシがいた。
「なんで!?」
「どういう事だ!?」
技を出した二人が動揺すると、
「さっきのはコピーだよ」
ナナシはそう答え、指先をこちらへ向け、広げた。
彼が微笑むと、その指先から十本の電撃が、六人めがけて放出された。
「うぐっ」「きゃあっ」
その電撃を避けることが出来ずに浴びてしまう六人。
全員大きなダメージを受け、たまらずにその場に倒れてしまった。
イヨの障壁が無ければ即死だったかもしれない……。
この時、リノの鞄に穴が開き、何かがこぼれ落ちた。
(これは……、ドルフさんの……)
「君達、頑丈だね。じゃあ、もう一回」
ナナシはもう一度、十本の指をこちらに向けた。
ところが、そのナナシの背後から光線が飛んで来て、彼の肩を貫いた。
その光線の出た方向、そこを見ると、マオがいた。
彼女は両膝をと片手を使い、ギリギリで体を支えていた。
かなり重症のようだが……。
「まだ生きてたのか、しぶといね」
ナナシは彼女に指を向けた。
だが、背後から彼に組み付いた者がいた。
「好き勝手させるかよ!」 ――ライシスだ。
ライシスはナナシに組み付くも、すぐに十本の電撃を浴びてしまう。
「ぐああぁっ!」
たちまち黒焦げになり、その場に倒れ込み、頭がアフロになるライシス。
「その技、連発できないんだろ?」
さらにダーティがナナシの背後に現れ、苦無で斬りかかる。
「くっ!」
ナナシは手刀と蹴りで、ダーティを振り払おうとするも、分身で躱されてしまう。
「もらった!」
ダーティは彼の首めがけて苦無で斬りかかるが、彼は指先から再び電撃を放出した。
「うっ!!」
ダーティも十本の電撃を浴び、黒焦げになり、その場で崩れるように倒れてしまう。
しかし、その時突き抜けた電撃が地面に当たると、二人のいた場所が轟音を立てて沈下し、窪みになってしまった。どうやらここは、魔王城の真上だったらしい。
だがナナシは、沈下した窪みから軽快に飛び上がり、地表に出てきた。
……しかしその首には、例の首輪が付けられていたのだ。
(ザマぁないぜ……)
ダーティはナナシに中指を立てると、意識を失ったようだ。
「くっ……、なんだこれは……、コピーガードのようなものか……」
ここでナナシは初めて動揺した。
おそらく、今までは攻撃を食らう直前にコピーに入れ変わり、凌いできたのだろう。
「クロさん!」
リノがクロウに小さい包みを放り投げた。
クロウがそれを拾い、中を開けると、そこには『小便小僧の
(!? 何だこれ……?)
彼はそれを見て、使い道に困ったが、その彫像の背中を見て、把握した。
そこは、丁度剣を差し込むような隙間になっていたのだ。
クロウは折れた剣先を拾うと、剣の折れた部分に小便小僧を繋げ、剣先を差した。
(……フルチンなんか鍛えたらフルボッキンになっちまうぞ?)
以前、ドルフに言われた言葉が頭をよぎるも、首を横に振ってかき消す。
(嫌な事を思い出しちまった……、だがこの剣は使えそうだ)
彼は手にした剣を軽く振ってみる。
その剣先から、大型のバケツで水を撒いたように、大量の水が出てきた。
(あのジジイ、加減ってもんをしらないな……)
(それにこんなに大量の水どっから出してるんだ? 手品かよ!)
そうは思ったが、この剣は使えるようだ。剣を構えると、再び闘志が湧き出てきた。
クロウは折れた剣を小便小僧で繋いだ物で、ナナシに向って斬りかかって行く。
その一振りごとに辺りに大量の水がばら撒かれた。
ナナシはその剣撃と水を一つも受け止めず、ひたすら避ける事に専念する。
(くそっ! 当たらねぇ)
クロウは何度も剣を振るが、ナナシにはカスリもしなかった。
それを見ていたヒナが叫んだ。
「クロ! そいつは水に弱い!」
それを聞いたナナシは、表情に余裕が消えてしまった。
(そういうことか……)
クロウは剣を大振りにして大量の水を浴びせようとするも、ナナシに腕を掴まれ、後ろへ投げられてしまう。
「くそっ! もう一度だ!」
クロウは立ち上がり、再びナナシに斬りかかろうとするも、ナナシは両手を前に出し、彼に電撃を出そうとする。
しかしその手は、リノの狙撃とイヨの矢で手を弾かれてしまい、目標を失った。
その時、エリーが両手の短剣で、つむじ風を出し始める。
「みんな、頼む!」
エリーがそう叫ぶと、彼女の前に竜巻が発生した。
「うりゃあああぁっ!」
次にクロウが剣を大きく振り回し、その竜巻に大量の水を混ぜ合わせる。
「
最後にフェイの魔法が水の竜巻めがけて飛んだ。
竜巻の中の大量の水は、フェイの氷魔法で氷のつぶてとなり、高速で回転しだした。
「「「雹弾竜巻地獄!!!」」」
三人でそう必殺技の名を叫ぶと、その氷の竜巻がナナシへ進んで行った。
彼は竜巻を避けようとしたが、そこに吸い込まれるように巻き込まれてしまう。
(……これはまずい!)
ナナシはそう思ったが、竜巻に巻き込まれた上に、さらに大きな雹が彼の体に何度も直撃し続け、全く動けなくなってしまった。
そして彼は大量の雹に全身を撃たれながら、上空へと飛ばされて見えなくなる。
それから彼が落下してきてその姿が再び見えてくると、ダーティが落とされた大地の窪みへと落ちて行った。
ナナシは、その体が傷と穴だらけになり、窪みの底に倒れていた。
クロウが大地の窪みに近づくと、
「水に弱いんだよな……」
そう言って、剣の先から大量の水を放出した。
「プールでも作るの?」
エリーはそう思ったが、試してみる価値はありそうだ。
窪みの中では徐々にと泥水が溜まり、そこが池のようになっていく。
ナナシは体はあちこちに傷と穴が開いていて、もう動けないようだ。
それとも、水に弱いらしいので、水に浸かっていると動けないのかもしれない。
彼はただ、ぼんやりと空を眺めているだけだった。
その彼が、その時何を考えていたかは彼自身にしか分からないであろう。
とにかく、彼の体は泥水に浸かりながら、ゆっくりと沈んでいった。
最後に彼の拳だけが水面に残ると、親指を立てながら泥水の中へ消え去っった……。
「……あいつ、復活する気マンマンじゃねぇか……」
「映画だったら、感動シーンなんだけどね……」
「続編でも復活しないで欲しいわね……」
「彼は主役じゃないですしね……」
「本当に困ったものだな……」
「私、ラスボスを倒しに来たのでは無かったのですが……」
六人はそれぞれそう思った。
一行がそうして黄昏ていると、辺りに例のシステム音が鳴り響いた。
【パンピンプンペンポン♪
システムメッセージです。
『ハッカー・ナナシ』は……、
えっ、何? ちょっと、何よ?
ええっ!? それどうなってんの?
おかしくない? やばいって!
……失礼しました。少々お待ちください……】
と、音声が流れた。
「何、……これ?」
「さあ……?」
「開発サイドが混乱してるの?」
「どうでなのでしょう? こちらからは見えませんが……」
「一体何だというのだ……」
「ラスボスを倒したのではないのかしら……?」
彼らは、上空を見上げて、戸惑っていた。
おそらく、このアナウンスを聞いていたプレイヤーは、皆、戸惑っていただろう。
皆が沈黙していると、再びシステムのアナウンスが流れだした。
だが、先程とは違う人の声だった。
【えー、システムメッセージです。
『ハッカー・ナナシ』は倒されたので、『シーズン5』はこれで終了です。
このサーバーは二十四時間以内に停止されるので、
プレイヤーの皆さんは用事が済み次第ログアウトしてください。
以上、システムメッセージでした。
パンピンプンペンポン♪】
このアナウンスを聞いた六人は、困惑していた。
「なんだこれ……?」
「あたしらがラスボス倒したんじゃないの?」
「どういう事なのかしら……?」
だがその時、遠くから風が唸る音と、何かが落ちてくる音が聞こえてきた。
六人は一斉にそちらの方を見る。
そこには、先程放った竜巻がこちらへ向かってきているのだ。
「あれは……、エリーさんが作った竜巻でしょうか……?」
「何か降ってきてるな……、雹か?」
「これって一体……」
「やばいな、逃げよう!」
「あたしのせいじゃないからね!」
エリーはそう言ったが、自ら白状してるようなものである。
イヨがエリーをじっと見つめる。
だが、竜巻はこちらへ向かい、迫って来ている。
一行は、とりあえずここから逃げようと走った。
幸い、彼らが魔王城へ来た時の馬が残っていたので、それぞれその馬に乗る。
馬に走るように手綱で合図すると、馬は走り出した。
だが、彼らの右前方に、別の竜巻が森の木を上空へ巻き上げながら、こちらへ向かって来ているのだった。
この竜巻は、一度目にエリーとヒナが放ったものだろうか?
「やばい! とにかくここから逃げよう!」
「あ~もう、どうしてこうなるのよ!?」
「あの竜巻、やっぱエリっちが……」
「わ~違う違う、全部爺さんが悪いんだよ!」
「エリーさん、後で話が……」
イヨはエリーの肩に手を触れ、ニコニコと見ている。
「話は後だ、逃げるぞ!」
ヒナがそう言って、六人は南へ向かって馬を走らせた。
ナナシ達はどうなったのだろうか……。
魔王の城の入り口があった場所は、二つの竜巻に飲まれ、見えなくなってしまった。
一行はとにかく、ベルギス騎士団領まで馬を走らせ、やっとそこで一息ついた。
この後、イヨとエリーの何があったのかは彼女達しか知らない。
だが、イヨの手には、いつの間にかエリーを模した藁人形があったのだ……。
かくして、リベルタスに戻った一行。
街のあちこちはまだ崩れたままであったが、次のシーズン6までには元に戻っているのだろう。
今のシーズン5のラスボスを倒したのは誰だったのか、システムの方からはアナウンスがないので街の人々は知らなかったが、きっと彼らだろうと噂した。
六人はギルド拠点に戻ると、ささやかながら祝宴を開いた。
そこには、ドルフ、ウィグラフ、ソフィア、グレイスなどもいつの間にか駆け付けて来て、宴は賑やかなものになった。
こうして、彼らのシーズン5は終わりを告げた。
次のシーズンでは、どのような冒険が彼らを待ちうけているのであろうか。
それはまだ、誰も知らない……。
――第二部・完
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