第44話 地下4階 絡みつく糸
――翌日。
クロウが目を覚ますと、ベッドの脇のチェストに鞘に入った剣がかけてあった。
(こんなとこに剣置いたっけ……? どっかで見た事ある鞘だな……)
そう思いつつ、何の剣かと思い、鞘から引き抜いてみる。
すると、中の剣が濡れた紙のようにグニャリと垂れてしまった。
(これは……、昨日ジジイが持って来た『フニャチン』じゃねぇか……)
(昨日ダンジョンの中に捨ててきたのに、何で俺の部屋に……)
(クソッ、この剣、呪われてるんじゃないのか……?)
クロウはこの剣を不気味に思い、ギルド倉庫の中に鎖で縛りつけて、とりあえず放置することにした。
(今度暇な時に店に売り払おう……)
そう考えつつ、身支度を整え、食堂へ降りて行った。
一行は朝食を取り終えると、いつものように冒険者ギルドへ向かう。
「今日のクエストは『獅子の封蝋がされた巻物を探せ』だって」
エリーがクエストを受けて来て、皆に説明した。
「今日は討伐系じゃないのか」
「討伐系もあったけど、毎回同じじゃ飽きるかと思ってね」
「そうよね、どっちみち地下四階もほとんど調べる事になりそうだしね」
「そうですね、今日も気楽に行きましょうか」
「時にはこういうのも悪くないな」
五人はそう話して、今日もダンジョンへ向かう。
――地下四階。
地下四階は今までとうって変わって和風の屋敷のようになっていた。
廊下は木の床張りで、廊下の先には
「和風だな……」
「敵も忍者とか侍かな?」
「床下に気を付けた方がいいぞ。畳の下から槍が出てくるかもしれん」
「畳の下まで全部調べるのかしら……」
「結構大変そうですね……」
五人はそう話しながら、先へと進む。
四階の敵は多彩で、侍、忍者だけでなく、西洋風の騎士や女僧侶、はては芸者まで出てくる。三階とは大違いだった。
それぞれの敵が多種多様な攻撃を仕掛けてきて、一行はその攻撃に最初は困惑するも、戦いに慣れてくると、苦戦せずに倒せるようになった。
「芸者が手ごわいな……」
「歌で敵が強化されるからね……」
「クロっちは敵でも女キャラは斬りにくいみたいね」
「私は平気ですけど」
「某もだな」
「いやでも気分的にさ」
「じゃあセクハラ攻撃でもしたら?」
「味方に殺られます……」
そんな感じでさらに進んで行く五人。
敵を倒しつつ進んで行くと、行き止まりの部屋に着いた。
そこは壁際に掛け軸、壺が置いてあり、客間のような雰囲気になっていた。
「ちょっとこの部屋怪しいから調べてみよう」
エリーはそう提案して、皆でこの部屋を色々調べ始めた。
「ん? これ……」
クロウが壺の中から何か見つけて取り出した。巻物である。
「これかな?」
彼はそう言って、皆にその巻物を見せようとすると、突然掛け軸が
すると、掛け軸の裏から赤い装束の忍者が体を出し、クロウの手から巻物を奪うと、その掛け軸の奥へ消えて行ったのだ。
「あっ!? 巻物が!」
クロウが驚いて叫ぶも、遅かったようだ。
「取られた!?」
「赤い忍者だったわ」
「何故ここにいるのでしょうか?」
「分からん、だが奪われた事に変わりはない。追うぞ!」
五人は掛け軸の裏にあった隠し通路を抜けて、赤忍者を追いかける。
隠し通路の先は、左右に襖があり、赤忍者はどちらかに逃げたようだ。
「こっちだ!」
クロウの勘を頼りに右の襖を開けると、そこに赤忍者が二人いたのだ。
「二人!?」
「分身の術!?」
彼らが驚いてそう言うと、二人の赤忍者はそれぞれ奥と右手の襖を開けて、逃げて行った。
「くっ、どっちだ?」
「二手に分かれる?」
「罠かもしれないわね」
「こっちだ」
クロウが奥の襖を開けると、その右手の襖が閉まり、そちらへ逃げたようだ。
そしてそこを開けると、今度は三人の赤忍者がいたのだ。
「三人!?」
「増えた!?」
「あっ!」
リノが驚きの声を上げたので、皆で後ろを見ると、そちらの方にも赤忍者が襖を開けて立っていたのだ。
「四人!?」
「どうなっているのだ!?」
困惑する五人。
「あっちだ!」
「待って!」
クロウが赤忍者の一人を追いかけようとすると、フェイが彼を制した。
「襖の下を凍らせて、見通しを良くした方がいいんじゃないかしら?」
「分かった、頼む」
フェイが氷の魔法で襖の一部を凍らせて、襖を閉められなくしてしまった。
再びクロウの勘を頼りに赤忍者を追いかける。
赤忍者は部屋に二人、三人と見かける場合もあったが、襖が閉められないせいで、徐々に逃げ道が制限されてしまう。
こうして五人が赤忍者を追いかけていると、ついに彼らの逃げ場が無くなってしまったようだ。
そこは突き当りの部屋で、そこでは五人の赤忍者が一行を待ち構えていた。
「お前、また盗みやがって!」
クロウが怒って言った。
「何だ、前に世話になったアホ共か」
赤忍者はそう言ってクロウを挑発する。
「痛い目にあいたくなかったら、とっとと巻物を返すんだな!」
クロウはそう言い返し、剣を抜く。
「バカめ、これは分身では無い!」
そう言って赤忍者は、一人ずつ喋り始める。
「赤忍者・
と言い、ポーズを決める。
「赤忍者・
と言い、ポーズを決める。
「赤忍者・
と言い、ポーズを決める。
「赤忍者・
と言い、ポーズを決める。
「赤忍者・
と言い、ポーズを決める。
「「「「「五人揃って赤忍ジャー
と同時に台詞を言いつつ、五人揃ってポーズを決めた。
「赤ばっか……」
「全部赤だよね……?」
「リーダーは誰なのかしら……」
五人の赤忍者が全員同時に自分自身を指差す。
「分からんって!」
「微妙に違いますが、名前の区別が……」
「区別がつかん……」
「フハハ、バカめ、我らの『シャッフル・赤忍者・アタック』を受けるがいい!」
そう言って彼らは立ち位置を取り換えながら、こちらに斬りかかって来た。
クロウ達は、それぞれ武器を手に取って応戦する。
だが赤忍者は所詮未熟者。五人集まっても強くなかった。
赤忍者達は一行にあっさりと倒されてしまったのだ。
「くそっ!、我らの攻撃が効かないとは!」
赤忍者の一人、誰だか分らない者がそう言って悔しがった。
「みんな攻撃方法が同じだったからね……」
「入れ替わっても攻撃方法に違いは無かったわね……」
「分身の方がすごかった気が……」
「
「さて、盗んだ巻物を返してもらおうか?」
クロウは剣を赤忍者に向けて脅してみる。
「分かった、返す。だが我々も手傷を負ってしまった。慰謝料を貰いたい」
赤忍者はそう言い返す。
「あんた達、この期に及んで何言ってるの?」
「慰謝料を貰ったら、前回の事も含めて、全て手打ちにしよう、な?」
「厚かましいわね……」
「どうしましょう?」
一行は顔を見合わせ、少し考えた。
確かに前回はやりすぎたかもしれない、と。
そこでクロウは一度うなずいてから喋り始める。
「分かった、この高かった剣をやろう。それで手打ちだ。もう俺達に手を出すんじゃねぇぞ」
「クロ……」
ヒナが彼に声をかけようとするも、クロウは手で制した。
「へっへっ、話が分かるじゃねぇか」
「まず巻物をよこせ、それから俺の剣をやる」
「同時だ」
「分かった」
二人はそれぞれ交換する物を投げて、相手に渡した。
クロウは巻物を拾い上げ、それを確認する。
赤忍者も剣を拾い上げ調べる。
「なんだこの剣は! 『定価三〇〇円』って何なんだよ!?」
赤忍者は怒って、クロウに食ってかかった。
「違うな、それは『ていかまるまるえん』と読むのだ」
クロウは真顔でそう言い返した。
「何っ!?」
赤忍者は再び驚いて、クロウの顔を見る。
「正式名称は、『定価三億万円』だ」
クロウは再び真顔でそう言った。
「嘘だろ……? そんな金がどこに……」
赤忍者は、剣をじっと見つめながら呟いた。
「いいか、おれは過去二回、勝利者になっている。その時の報酬を使えば、その程度の金額を稼ぐのは難しくない」
「その値段の物を持ち歩くのは不用心だからな。剣の名前を削って盗まれないようにしたんだ」
クロウはさらに真顔でそう言い続けた。
「それは本当なのだな……」
赤忍者は再びクロウの顔を見る。
「そうだ、だがその条件では俺達に分が悪すぎる。だから何か武器をくれないか? 俺の愛剣を渡すんだ、それ位いいだろ?」
クロウは口元に微笑を含み、そう言った。
「くっ……、確かにな。愛用の武器を失うのは厳しい。それに値段も張る物だ。ふむ……、わかった。この刀をやろう……」
そう言って赤忍者は、畳を捲り上げ、その下から刀を取り出した。
「この刀をやろう。Aランクの『
「どうせ盗品だろ?」
「へへっ、それは言いっこ無しだぜ」
そう言って赤忍者は、クロウにその『
「じゃあな、あばよ! お前らとは二度と会いたくないがな」
そう言って赤忍者は仲間を起こし、彼らは襖を開けて隣の部屋へ消えて行った。
かくしてAランクの刀、『雷切』を手にしたクロウであったが、その顔は浮かないものだった。
「刀貰ってもな……、ヒナ、使う?」
「いや……、某は火属性の刀の方が使いやすい。それにその刀は盗品らしいしな」
「だよな~、俺には使いづらいし」
「もよ、さっきの定価三億円とかはウソなんだろ?」
「もちろんウソさ。赤忍者がアホでよかったよ」
「でもウチらが盗品手にしたらマズくないかしら?」
「そうだよな……、店に売るとか?」
「足がつくかもしれませんよ?」
「むぅ、それは困る。まあ、ほとぼりが冷めるまで、ギルド倉庫に放置するか……」
「そういえば巻物はどうなのだ?」
「ああ、一応、獅子の封蝋がされてる巻物だな」
「クエストは達成してますね……」
「そうらしい、本物だな」
「じゃあ、次はこの四階のフラグ探さないとね」
「そうね、行きましょうか」
こうして五人はクエストの条件である『獅子の封蝋がされた巻物』と、盗品らしい『雷切』を手に入れ、先に進む事にした。
一行は侍や忍者といった雑魚敵を斬り払いながら進んで行く。
そうして廊下を歩いて行くと、先の方に青銅の門があり、そこを抜けると大型の魔物がいた。恐らく、四階のボスであろう。
その姿は大きな蜘蛛に鬼の頭がついた者だった。
「
「あれは買収できなさそうだな……」
「せめて餌付けって言いなよ」
「強そうですよね」
「望むところだ」
五人はそう話すと、『土蜘蛛』と戦い始めた。
土蜘蛛は動きが早く、フェイの氷魔法は当て難いようだ。
こちらの攻撃から身を躱しつつ口から糸を吐き、こちらを縛り付けようとする。
そしてこちらから斬り付けると、武器を持った手が痺れてしまうのだった。
「
「助かる!」
リノの魔法で麻痺を治療しながら戦う五人。
その戦いの中、クロウの剣が糸に巻き付かれ、奪われてしまう。
「あっ! 剣が!」
仕方なく彼は『雷切』を抜き、これで戦うことにする。
彼が不慣れな刀で斬りかかると、驚いたことに、彼の手は痺れなかった。
(これは使えるかも……)
幸いにも、その雷切は麻痺を防ぐ効果があるようだ。
そこでクロウは遠慮なく土蜘蛛の足を数本切り落とすと、その足は遅くなっていき、フェイの魔法とヒナの斬撃でやっと倒す事に成功した。
そして彼らの腕輪が光りだす。四階のフラグは立ったようだ。
「ふぅ、強かったな……」
「刀、使えるの?」
「いや、半分の力も出せて無いんじゃないかな」
「店で刀術のスキルを買えば、使えると思うよ」
「そうだけど、ヒナと武器が被るかもしれないし、長剣でいいよ」
「でも、あの剣は糸で巻かれてしまいましたよ?」
「あの剣はここで捨てて行こう。初期装備の剣だし、街に戻ったら何か買うよ」
「では、その刀を売るのか?」
「どうしよう? 元の持ち主がいたら返してもいいかな、と思ったり」
「ふむ、それが良いかもしれんな……」
「酒場の掲示板にでも張り紙しとこうかな」
「そうよね、赤忍者みたいに盗っ人になりたくないしね」
「土蜘蛛が落とした『蜘蛛の糸』ていうのを拾ったんだけど、何に使うのかしら?」
「製作用、ですかね……?」
「ギルド倉庫に入れておくわ、後で使い道あるかもしれないし」
「じゃあ、四階でやることも終わったし、帰ろうか」
こうして彼らは四階を攻略し、街へ戻って行った。
一行が街に戻る頃には夜になっていて、冒険者ギルドはまだ開いていたものの、他の店は閉まっていた。
彼らがクエストの報告をして報酬を貰うと、全員Dランクへ昇格した。
クロウはドルフに貰った剣の隣に『雷切』を置くと、倉庫にカギをかけて、残りは明日やることにした。
かくして彼らの今日の冒険は終わり、それぞれ休む事にしたのだった。
――そして話は昨日に戻る。
ウィグラフ達が洞窟の中を歩いていると、捨てられていたドルフの作った剣を見つけたのだ。
「何と、あやつら……」
ドルフが剣を拾い上げ、そう嘆くも、
「そんなフニャフニャな剣、何に使うんだよ……」
ウィグラフに呆れられてしまう。
「まあ、な。あやつらなら使い道を見つけられるかと思ったのじゃが……」
ドルフは少し考えた……。
「そうじゃ、こっそり奴に返してやるか……」
そう呟いたドルフは、街に『フニャチン』を持って帰った。
そして夜中にこっそりとクロウの部屋に忍び込み、彼のベッドの脇にその剣を立て掛けたのであった……。
このVRMMOは色々と異常な気がする 酒屋陣太郎 @Sakaya_Jintarou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。このVRMMOは色々と異常な気がするの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます