第38話 占見、イトの国の巫女
――翌朝。
リベルタスの街の広場に人が集まっていた。
街の広場にNPCが現れ、ハッカーを倒すためのアイテムを配っているらしいのだ。
エリーはその話を聞きつけ、早速そのアイテムを貰い、ギルド拠点へ戻った。
「……ていうわけで、これがそのハッカーを倒す為のアイテム」
「首輪みたいだな……」
「首輪そのものね」
「この首輪をハッカーにつければ、追跡できたり逃げられないようするんだって」
「そうなのですか、以前、街でマオさんが倒した時は逃げられたみたいですしね」
「ふむ、だがどうやって
「まずそこからだよね~」
「とりあえず、一人一個貰っておいた方が良さそうだな」
「本人しか貰えないみたいよ?」
「じゃあ、今から貰ってくるよ」
クロウはそう言って街の広場へ向かい、例の首輪を貰いに行った。
街の広場は依然として人混みに溢れていた。
広場にいるNPCに話しかけ、その首輪を貰う。
そして帰ろうとすると、目の前に以前会った巫女がいたのだ。
「あなた、何か知ってるでしょ?」
彼女はクロウにそう聞いてきた。
「えっ? 何を?」
突然そう言われたクロウは困ってしまう。
確かに、二度ほど話しかけられたが、彼女の名前を知っている訳でも無い。
「私ね、イトの国を崩壊させた犯人を捜しているの」
「犯人? 誰かがわざとやったのか?」
「そうらしいの、私は『
「そう言われても、心当たりは無いし……」
「ふ~ん、おかしいわね……」
彼女はクロウの顔をじっと見つめた。
「立ち話も何だし、俺達のギルドで話そうか、お茶くらい出すよ」
そう言って、クロウは巫女を連れて、ギルド拠点へ戻って行った。
「クロ、その人だれ?」
「……そういや名前も聞いてなかったな」
クロウは彼女の顔を見て言った。
リノが彼女に席を勧め、紅茶を出す。
「私は『イヨ』っていうの。永遠の十六歳よ」
「……歳はいいとして、どうしてここへ来たのかしら?」
「さっきそこでナンパされて」
クロウはそう答えたが、
「違うわ」
「ナイナイ」
「隕石が降ってもありえないわ」
「失礼だな、世の中にはゲテモノ食いという……」
皆に一斉に否定されてしまう。
「……冗談は置いといて、イヨさん、話しをどうぞ」
「……そうね、私はイトの国を崩壊させた犯人を捜しているの」
一瞬、エリーの表情に陰が見えたのは、気のせいだろうか。
「犯人……? 誰かがそれをやったというのか?」
ヒナはイヨに尋ねた。
「確信がある訳じゃないけど、私は『占筮』ってスキルを持っててね。彼にその手がかりがあるらしいの」
全員クロウの顔を見つめる。
「俺に言われても、心当たりは無いしな……。例のハッカーがやったんじゃない? この街も結構やられたし」
「それならそうでやり方はあるわ。でも、私の占いが違うって言ってるのよ」
エリーは目を逸らして、彼女の話を聞こうとせず、口を閉ざしている。
「う~ん、じゃあ、クロっちに手掛かりがあるってこと?」
「多分、ね」
「そうなのですか、私達も犯人探しに協力しましょうか?」
「ふむ、例のハッカーを探すのにも何か手掛かりは欲しい、手伝おう」
「そうだな、でもどうしたらいい?」
クロウはイヨに尋ねた。
「そうね……、私の占いには、あなたと、城と、魔王が手掛かりと出てるのよね」
「城って、『王都ルティア』か『ベルギス騎士団領』かな?」
「前のシーズンでウチらが行った、旧魔王の城もあるわね」
「旧魔王の城は、今回どこにあるのでしょうか?」
「某は、その話を聞いたことは無いな……」
「その占いで場所は分からないのか?」
「待ってね、今やってみるわ」
イヨはそう言い、袖口から
……そして彼女の占いが終わると、再び話し始めた。
「ここから北東ね、そこに何かあるかもしれないわ」
「イヨの占いって、どれくらい信用あるの?」
今まで口を閉ざしていたエリーが喋りだした。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うし、絶対当たるものでは無いわ。精々参考にしている程度かしら」
「うん、分かった、ありがとう」
エリーはまたそう言って、口を閉ざした。
「ここから北東って言うと、『ベルギス騎士団領』かな?」
「そこからもっと北か東かもしれないわ」
「そこからの東に行くと『ドワーフ族の洞窟』がありますよね」
「その騎士団領の北には、『滅びの大地』という荒野があって、昔はそこに魔王の城があったらしいな」
「じゃあ一旦ベルギス騎士団領に行って、そこでまた占うってのはどうだろう?」
「それがいいわね。皆さん、よろしくお願いしますね」
こうして五人は、イヨと共にベルギス騎士団領へ向かった。
――『ベルギス騎士団領』
『王都ルティア』の東にあり、『ベルギス騎士団』の領地である。
入り口には町があり、戦士や騎士の訓練場になっているので、人の出入りは多い。
一行がこの町に着く頃には日も暮れてきたので、ここで宿を取り、イヨの占筮を見てから、次の行先を決める事にした。
「……ここより北ね」
「というと、『滅びの大地』か」
「そうみたいね、明日に備えて準備しましょうか」
六人はここで宿を取り、旅の準備をしてから、休みを取った。
翌日。一行はそれぞれ数日分の食糧を持ち、馬に乗って滅びの大地を進んだ。
この場所は荒野になっていて、日差しは厳しく、他のプレイヤーは一切見えない。
昔はこの荒野のどこかに魔王の城があったらしいが、今はどこにあるのだろうか。
六人はイヨの占筮を頼りに進んで行った。
しばらく進んだ後、岩と木の影になっている所を見つけ、馬を休ませた。
「ふ~、暑いな。水が足りなくなりそうだ」
「三日分は持って来たはずだけど」
「いざとなったら、この剣から出る水を飲むしかないか」
「それだけは嫌ね……」
「私もですね……」
「酷いな……、俺の愛剣なのに」
「そんな変な名前を付けるからだ」
「どんな名前なの?」
「『フルティン』だ」
「それは私も嫌ね……」
「しょうがないだろ……、泉の女神から奪った物なんだし」
「どうやったらそんな名前になるのかと……」
こうして彼らは休憩を取ると、馬に乗り、目的地を探す。
日が高くなり、空に雲が出てきた頃、それらしき物を見つけた。
古くなった廃墟のような石造りの建物である。
その建物に近づくと、それはどうやら城の上層のようなものだと分かった。
地面から突き出た塔のような物もあり、ここから中に入れるようだ。
一行はここに馬を繋ぎ、下へと降りて行くことにした。
塔の中にある螺旋階段のようなものを降りて行くと、そこは通路になっていた。
通路を進んで行くと、曲がり角から不意に魔物が現れた。
この姿は知っている。『
六人はそれぞれ武器を取り、戦い始める。
イヨの武器は弓のようだ。彼女の背丈程ある長い和弓だ。
その弓で矢を放つのかと思われたが、彼女は袖から札を出し、術を使い始めた。
「壱式物理結界 破っ!」
彼女はそう叫ぶと、六人の体に何か透明な盾のようなものが付与されたようだ。
名前からすると、対物理攻撃の障壁のようなものらしいが。
リノの防御魔法もかかり、戦いは有利に進む。
前にも戦った事のある敵だ。彼らは程なくアークデーモンを倒した。
「イヨ、さっきの術は巫女の術なのか?」
「そうよ、物理攻撃に対するバリアみたいなものよ」
「ふむ、便利だな」
「でも、一撃で貫通されることもあるから、当てにしないでね」
「そうだな、受ける傷を浅くする位に考えておくよ」
こうして、彼らはアークデーモンを倒し、先へと進む。
通路の奥は右に折れており、その手前には例の鉄格子の扉があった。
六人は警戒しつつも、その格子扉の中を覗き込む。
中にいた魔物は、六本足のトカゲのような姿をした竜だった。
そしてその魔物の奥には、『斧』が掛けられていたのだ。
「どうする? 戦う?」
「どうしよ? 斧だしね」
「誰か欲しい人いるかな?」
「斧だったら、ドルフさんへお土産にするのはどうでしょう?」
「某は戦いたい所だな」
「私はどちらでもいいわ」
「じゃあ、貰っておくか」
「そだね」
六人は格子扉を開けて中へ入り、戦うことにした。
一行は、リノの魔法で防御を上げ、イヨの術で障壁を張る。
「
「それはいいとして、口から炎を吐きそうだな」
「顔の向きに注意しないとね」
「良し、行くぞ!」
ヒナが斬りかかろうとすると、タラスクは急に腹に力を入れ、ウンコをしだした。
その挙動に驚いて、敵と距離を取るヒナ。
そのウンコは赤く燃えていて、さながら燃える石炭のようだ。
そして、タラスクは前足で赤い燃えるウンコを掴むと、こちらへ投げてきたのだ。
「げぇっ! ウンコ投げてきやがった!」
「サイアクだよ!!」
「逃げるのよ!!」
「あれはやはり燃えているのでしょうか……?」
「どうでもいいけどそんな物投げないでくれ!!」
「もう、なんなのよ~」
六人は予想もしなかった突然の出来事に混乱し、各自逃げ回る。
タラスクはさらに燃えるウンコをひり出し、こちらに投げつけてくる。
「何食ったら燃えるウンコが出るんだよ!」
「知らないよ!」
「原油でも飲んだの!?」
リノは冷静にM16カスタムの準備をしだした。
「くっ、逃げてばかりでは……」
「封じるしか……」
リノは銃の準備が整うと、タラスクを狙撃した。
その弾丸は彼の背中に当たるも、甲羅に弾かれてしまう。
次に彼の頭を狙ったが、頭も固いようで、傷しかつかない。
その隙に、クロウとヒナはタラスクに斬りかかるも、彼の首は硬く、致命傷にはならないようだ。
「
次にフェイがタラスクの尻を狙い、魔法を放つ。
彼の尻は凍り付いたように見えたが、すぐ燃えるウンコで溶かされてしまった。
「くそっ! ウンコ野郎に苦戦するとは!」
「ダジャレかよ!」
「エリー、アレはやらないのか?」
「竜巻じゃウンコまき散らしちゃうよ!」
「くっ……、それは困る!」
「クロっち、水で流して!」
「トイレかよ!」
クロウはそう言ったものの、フルティンを床に擦りつけながら振り上げ、タラスクに向かって水を撒いた。
「
フェイの魔法がタラスクの周辺を凍り付かせる。
彼は足を交互に上げて凍らないようにするも、それには限界があった。
クロウはさらに剣から水を振り撒き、彼を凍らせる。
次第にタラスクの体が霜で包まれ、動きが鈍くなってきた。
リノが彼の脚の付け根を撃ち抜き、ヒナは彼の首を斬りつける。
そこへクロウがタラスクの口めがけて、強烈な突きを放った。
彼の口の中は表皮のように硬くなく、剣はその頭を貫き、ついにタラスクは倒れた。
一行は足元に散らばったタラスクのウンコを避けながら、斧を入手した。
――『タラスクの斧』のようだ。
彼らには使い道が無いかもしれないが、お土産にでもしようか、そう思いながらこの部屋を出て、奥へ向かった。
通路を右に折れると、その先に階段があり、下へ降りる。
そこは通路が奥へ伸びていて、さらに上と下へ向かう階段があった。
「……この景色、見たことあるな」
「魔王の城、二回目だしね」
「……ここ、二階だわ。前にこの階から入ってきたのよ」
「前に来た時にふさがっていた三階から、私達は入ってきたのでしょうか?」
「そうかもしれない、一応この階も調べてみるか」
彼らはそう言って、この階を探索した。
道すがらアークデーモンが出るも、程なく倒して進んで行く。
やはり、ここは以前入って来た時の部屋があり、ここは二階で正しかったようだ。
二階の探索が終わり、何も見つけられなかった六人は、一階へと降りた。
一階。前にここに来たときは、伝説の武器が置いてあったが、今は無いらしい。
この階にもいたアークデーモンを倒し、探索を続ける。
一通り探索すると、昔は土で埋もれて進めなかった所が通れるようになっていた。
その場所を進むと、その先は大広間というか、王の謁見の間のような感じだった。
天井は高く、部屋は広く、床には赤い絨毯が敷いてあり、その奥に何者かが見える。
目を凝らしてよく見ると、壁から上半身だけ出ている魔物の石像らしき物だった。
「あれは……、『魔王・バアル』ね……」
イヨがそう呟いた。
「あれが魔王のバアルなのか……」
「初めて見た……」
「そうね……」
「石像のようですが、封印されているのでしょうか?」
「願っても無い、こんな場所で出会えるとは……」
「どうかしら……? 彼、動くの?」
六人それぞれ思う事はあるようだが、彼らはこの『魔王』に直面して、どうするのだろうか。次回へ続く……。
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