第37話 再会、遺跡の三人

 一行は馬車に乗り、『遺跡の街・ロゼルタ』へ向かっていた。

フェイが、ロゼルタでヤバい魔物がでる遺跡が見つかったらしい、という情報を聞きつけて、五人でそこへ向かうことにしたのだ。

「本当にそんな魔物いるのかねぇ?」

「らしいよ? フェイの情報だけど」

「酒場で飲んでる時に聞いたのよ。ロゼルタの新しい遺跡で上級悪魔アークデーモンが出たって」

「それが本当だとしたら、いい物があるかもしれませんね」

上級悪魔アークデーモンか、戦ってみたいものだな……」

「そんな遺跡、罠なんかも多そうだよな」

「あたしの罠解除の腕を信じないの?」

「エリっちはうっかりさんだからね~」

「罠解除に絶対なんてものは無いんだからね!」

「悪魔か、楽しみだ」

そんなことを話しながら馬車は進み、彼らロゼルタへ到着した。


 ロゼルタへ着くと、そこは新しい地下遺跡の話で盛り上がっていた。

アークデーモンが出るのは本当らしく、今まで何人もの冒険者が挑んだが、皆返り討ちにあい、大怪我して戻って来たり、帰って来ない者もいるそうだ。

そんな中、一行はロゼルタで地下の遺跡に入る準備をし、その中へ足を踏み込んだ。

 遺跡の中は他の遺跡と同様に石造りであり、巨人でも歩けそうな程、通路は広く、高かった。

一行はエリーを先頭に、罠を警戒しながら進んだ。

「あれ? ここ罠が解除されてる」

エリーがそう言った。

「俺達が初めて入る訳じゃないし、先客がやったんだろ?」

「そうよね……」

「でも、解除されてない罠もあるかもしれないから、油断しない方がいいわ」

「はいはい、分かってますよ」

エリーは気を引き締め、罠を発見することにより注意しながら進む。

 通路を進み、広間に出た。そこには魔物の姿は無く、ガランとしていた。

広間の右と前方に通路が伸びていて、どちらかに進まねばならないようだ。

「クロ、どっち?」

「ん~、右で」

クロウの直感を頼みに、一行は進んだ。

その通路は左に折れ、そこを曲がると何者かがいた。

灰色の天使のような体に黒い翼、顔は猛獣のようで額にはねじれた角が生えている。

――『上級悪魔アークデーモン』だ。

この敵は戦うしかない、五人はそう思い、武器を手にする。

向こうもこちらに気づくと、襲いかかってきた。

 フェイの魔法とリノの狙撃で先制すると、クロウとヒナが斬りかかる。

上級だけあって、その体は鋼のように硬く、こちらの攻撃を通さないようだ。

そして悪魔が何かを叫ぶと、片腕を上げ魔法を使おうと試みる。

その挙動を、エリーが彼の右腕を斬りつけ、リノが左目を狙撃して、潰した。

悪魔は言葉にならない咆哮を上げ、怒り狂ってこちらを攻撃してくる。

だが理性を失った分、あちこちに隙ができ、フェイの魔法、クロウの攻撃で体勢を崩されると、ヒナが彼の首を斬りつけ、勝負は決まった。

「さすがに強かったな」

「上級の悪魔だしね」

「これが大勢で来て魔法を連発されたら、たまったものじゃないわ」

「なるべく狭い所で戦った方が良さそうですね」

「強敵だったな、ここへ来た甲斐があった」

彼らはアークデーモンを倒すと、罠を警戒しつつ先へと進んだ。


 その先には小部屋があり、下級悪魔レッサーデーモンが二匹いた。

だが今の彼らの敵ではなく、あっさりと倒し、さらに奥へと向かう。

そこには下へ降りる階段があり、そこを降りた。


 地下二階、そこの通路の先には空洞があった。

奥には先へと続く通路らしきものが見えるも、足元の空洞には足場になる物は何も見えず、崖と漆黒の空間が広がっていた。

下の方から冷たい風が吹き上げ、彼らの髪を揺らす。

「これは……、下に落ちたらヤバイな」

「ちょっと調べてみるよ」

「ここを飛んで行けとでもいうのかしら?」

「銃弾なら向こう側へ届きますが……」

「あっ! これ!」

「何だ?」

エリーが空洞の一部を指差した。

「ここだけ透明な床がある!」

「そういう仕掛けか……」

「幅はどれくらいあるの?」

「一メートルも無いけど、透明な場所さえ分かれば、歩けそうだよ」

「私に考えがあります」

リノはそう言って、鞄から袋を出した。

「それは何だ?」

ヒナが聞く。

「小麦粉です、これを透明の床に撒けば、足場が見えると思います」

「ナイス! リノ」

「じゃあ、やってみますね」

リノはそう言い、透明の床らしい所に小麦粉を撒く。

幅五十センチ程度の足場が小麦粉の白と共に見えてきた。

「よし、これで進めるな」

五人はリノを先頭に、小麦粉の足場を頼りに進んで行く。

彼らが透明な足場を渡り、向こう側へ着くころには小麦粉が切れてしまうも、何とか全員渡ることが出来た。


 通路を進んで行くと、この道は右に折れて、さらに先へと通路が見える。

そこを進んで行くと、左手の壁に、鉄格子の扉が見えた。

中を見ると、上半身は美しい女性、下半身は蛇、背中には竜の翼がある魔物がいた。

そして彼女の奥の方には、壁に長い杖が飾ってあるのが見えた。

「これ、前にあった『伝説の武器』かな?」

「そうみたいね」

「奥にあるのは『長い杖』みたいね」

「中に入ってみます?」

「戦ってみようか」

五人はそう話して、中に入り、戦うことにした。

健康分析ヘルスアナライズ! 彼女の名は『メリュジーヌ』よ。入浴中に覗かれると相手を呪い殺すらしいわ」

「風呂覗かれたら誰でも怒るよな……」

「あたしでも殺すよ……」

「そうですね……」

「皆、行くぞ!」

そう言って、ヒナはメリュジーヌに斬りかかって行った。

「ちょっ! 待てよ!」

「またセクハラする気か!」

「アレはキモかったよね……」

「彼女にとっては良かったのかも……」

四人もヒナに続き、戦い始めた。

 ヒナの斬撃を長い爪で受け止めるメリュジーヌ。

彼女は背中の翼で宙に浮かぶと、下半身の蛇でヒナを薙ぎ払う。

「ぐっ……」

不意の攻撃で、腰にダメージを受け、吹き飛ばされてしまうヒナ。

それをリノが回復魔法で治療すると、彼女は再び立ち上がり、刀を構えた。

メリュジーヌが右腕を上げ魔法を使うと、指から氷の槍が飛び出し、彼らを襲う。

五人それぞれその魔法を躱し、クロウが距離を詰め、斬りかかった。

リノの銃撃、フェイの魔法でその翼を攻撃するも、大きなダメージを与えられない。

「ヒナ、アレをやるよ!」

「承知!」

エリーそう言うと、両手の短剣を同時に振り、つむじ風を巻き起こす。

そのつむじ風をさらに成長させて、ヒナの刀の炎を混ぜ込む。

すると、つむじ風が炎を巻き上げ、炎の竜巻と呼べるものになっていった。

エリーがその炎の竜巻を、二本の短剣を振り、メリュジーヌめがけて押し出す。

彼女はそれを躱そうとするも、竜巻に巻きこまれ、炎に焼かれながら悲鳴をあげた。

そして、メリュジーヌの悲鳴が聞こえなくなると、徐々に炎の竜巻は消えていき、そこには焦げた彼女の死骸が残されたのだ。

 エリーとヒナは、互いにハイタッチで手を合わせ、技の成功を喜んだ。

「凄い技だな……」

「爺さんにこの短剣を作ってもらったおかげだよ」

「短剣で魔法を使うなんて、ずるいわね……」

「でも、フェイさんもこの前一緒にやってたじゃないですか」

「そうだぞ、これで某も協力技に参加できた」

「とりあえず、ここの杖を貰おうか」

フェイは壁に掛けてあった『長い杖』を手にした。

「これは『メリュジーヌの杖』ね、前に持ってたラミアの杖よりもいいわね」

そう言って、フェイは満足そうにその杖を眺めていた。

五人はここで少し休憩を取り、さらに奥へと進んで行った。


 遺跡の通路は左に折れ、そこをさらに進むと階段があり、そこを降りる。

地下三階になったようだ。通路は先へと伸びていて、その先には小部屋がある。

その小部屋にはアークデーモンがいたものの、先程と同じく彼らに倒されてしまう。

五人は通路の罠を解除しつつ道なりに進み、右に折れて行くと、その先は道は二つに分かれていた。正面と左へ、である。

 どちらに進もうか両方の道を除くと、正面の道から誰か来たようだ。

歩いてきたのは三人、知っている顔だ。

中央にマオ、右にライシス、左に目隠し黒忍者だ。

「アンタ達、こんな所で会うなんて、奇遇ね」

「マオか、やっぱり君らも伝説の武器を取りに?」

「そうね、そんなとこかしら」

「あれ? ライスは前の仲間どうしたの?」

「てめぇらが変なあだ名つけるから辞めちまったんだよ! チクショー! ……それに、今はマオ様と行動を共にしているのだ」

「マオの子分になったのかしら?」

「楽なんだよ! 戦闘が! ほとんどビームで終わるしな」

「それでマオさんと一緒にいるのですね」

「おい、目隠ししてる忍者か犯罪者か分からん奴、其方は何故そこにいるのだ?」

「さあな……、金払いがいいんでな」

「ロリコンだからじゃねぇの?」

「ちが……」

マオはダーティの言葉を遮って喋りだす。

「ダーティはね、アタシの魅力にメロメロなのよ☆」

彼女はそう言って、きゃるーん☆キメ顔を見せた。

「違う! 断じて違う!」

ダーティはマオに怒るも、彼女に無視されている。

「あんた達、仲良さそうだね~」

「そういうことよ、宝は早いもの勝ちだからね!」

そう言ってマオは走り出し、続けて二人も追いかける。

……だが突然、彼女達の足元の床が開き、三人は悲鳴を上げて下へと落ちて行った。

「罠があったのか……」

「アホね……」

「でも、彼女達が本気で戦ったらかなり強そうだわ……」

「……あの、きゃっ!」

突然、床から光線が次々と飛び出してきた。多分マオの八つ当たりだろう。

「やばい、走ろう!」

下からこちらが見える訳はないので当たる心配は無いが、念のため五人は走って通路の奥へと進んだ。


 さらに奥へ進む一行。左手に例の鉄格子の扉が見えてきた。

その鉄格子を覗き込むと、やはり魔物と、その奥に槍が掛けてある。

その魔物は、馬の頭に羊の角を持つ、悪魔のような姿だった。

「……強そうだな」

「槍か……、どうしようか?」

「面倒ならスルーしてもいいわよ」

「あの悪魔、結構背が高いみたいですね」

「強い者とは戦ってみたいが……」

「とりあえず戦ってみるか、何とかなるだろう」

五人はいつも通り、何も考えずに格子扉を開け、中に入る。

この部屋の天井には槍のような突起が下へ向けて尖っており、天井の罠のようだ。

「この天井、罠っぽいな……」

「上から落ちてくるのかな?」

「それは困るわ……。あれ!?」

「何か……、あっ!?」

彼らの前の床が膨らんでいき、床の下から何かが盛り上がってきたのだ。

「何だこれは!?」

戦う前に部屋の床が破裂しそうになり、動揺してしまう五人。

だが、目の前の悪魔は宙を舞い、こちらへ襲いかかって来ている。

その時、何かが地面を突き破り、飛び出してきた。

……頭、だろうか。それも巨大な……。

そしてこの髪色には見覚えがある。マオだ。

「これ……、マオの頭?」

「また巨大化したのかな?」

「何してるんだろ……?」

「ニンニクでも食べたのでしょうか……」

「おい、悪魔が死んでるぞ……」

ヒナにそう言われて天井を見上げると、こちらへ襲いかかってきた悪魔は、マオの頭と天井の槍に挟まれ、いつの間にか死んでいた……。

 五人は目の前の出来事に呆然としてしまった。

「こんな狭いとこで巨大化しなくてもいいのにな……」

「そうだ! 額に『肉』って書いてやろう、マジック持ってない?」

「それもいいかもね。そういやリノっち、牛乳持ってる?」

「はい、一応持ってますが……」

「何する気だ?」

「マオの頭にかけるのよ」

「あ~、そういや牛乳に弱いんだっけ……」

「こう書いて……、こう」

エリーは床から突き出たマオの額に、『肉』と書き込んだ。

〝クヒヒヒ、クヒ……〟

そのくすぐったさに下からマオの笑い声が聞こえてくる。

 五人は笑いをこらえつつ、奥の武器を手に取ろうと、奥へ進んだ。

牛乳を頭にかけられたマオの頭は、徐々に縮んできたように見えた。

だが、床から立て続けに光線が飛び出して来たのだ。

「やばい! マオがキレた!」

当然の事であるが、マオは怒り狂い、下から次々と光線を出してきた。

「逃げよう!」

「遺跡が崩れるって!」

五人は一目散に逃げだした。

遺跡の下がどうなっているかは分からない、だが良くないことが起きているようだ。

あちこちの壁や床などにヒビが入り、この遺跡がもう持たないと暗示してくる。

五人は急いで走り、階段を登り、この遺跡から脱出した。

 そして一行が遺跡から脱出すると、地震のような轟音を立てて地面が沈んでいく。

その様をぼんやり見守る五人……。

「あ~、マジで怒らせちゃったな」

「そうだね……、でもあれくらいじゃ死なないでしょ」

「だよね、マオも巨大化してたし」

「他の二人は大丈夫でしょうか?」

「分からん……」

とにかく、目的の遺跡が沈んでしまったので、彼らはリベルタスに帰ることにした。



 一行は、フェイの杖を手に入れて街へと戻ってきた。

そして、次の冒険の準備をして、今日は休む事にしたのだ。

マオ達が復讐に来ないことを祈りながら……。

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