第34話 隠蔽、大聖堂の証拠

 ――翌日。

 リベルタスの街は生魚の臭いで溢れていた。

昨晩に降ってきた魚は何だったのかと街の人は噂したが、原因は分からなかった。

そんな中、リノは鍛冶師・ドルフの元を訪れていた。

「よお、今度は嬢ちゃんか」

「はい、私の武器をお願いします」

「銃か、どんな感じだったかな?」

「M16をベースに、砲身を切り詰める感じで……。私にはちょっと長いので」

「なるほど、砲身を詰めると射程が短くなるかもしれんが、やってみよう」

「ありがとうございます、無理を聞いていただいて」

「なあに、いつものことだ。そういや、属性の魔石はあるか? それ次第で変わるかもしれん」

「はい、土と水の魔石ならあります」

「土と水か……、土の属性でライフリングをいじるか……。水はどうする?」

「今のところ必要ないので、ドルフさんに差し上げてもいいと、皆言ってました」

「そうか、ありがたく貰っておくよ。じゃあ、明日にはできると思うから、どっかで暇でも潰してきな」

「はい、よろしくお願いします」

リノはドルフに深く頭を下げてから、ギルド拠点に戻って行った。


 リノが自分達のギルド拠点へ戻ると、入り口に二人の男女が見えた。

『ウィグラフ』と『ソフィア』である。

「えっと……、いいのでしょうか? このようなお願いを……」

「いいっていいって、あいつらも好きでやってるようなもんだしな」

ソフィアはギルド拠点に入ることを戸惑っているようだ。

リノはそんな二人を後ろから見て、声をかけた。

「おはようございます、ウィグラフさん、ソフィアさん、立ち話も何ですから中へどうぞ。紅茶でよければすぐ準備しますよ」

「ああ、リノちゃんか。気遣いありがとう」

「すいません……」

二人はリノに促されてギルド拠点へ入り、皆で話を聞くことにした。


「……それでな、ソフィアちゃんの回復魔法の爆発の原因は、才能スキル『爆発させる者ボンバーマン』のせいだったんだよ」

「はい、申し訳ありません。自分のスキルをちゃんと見てなかったもので……」

「なるほど……、そういうことだったのか……」

「それでな、ここに来たのはお前らに頼みがあってのことだ。彼女の回復魔法の威力を上げるっていう僧侶専用の『聖女の祈り』ってスキルがあってな、それを手に入れる手助けをして欲しいんだ」

「……はい、厚かましいようですが、他に頼れる方もいないもので……」

「うん、あたしらはいいよ。前回上手くいかなかったのが心残りだったし」

「そうね、魔法を使う者として協力してあげたいわね」

「私ももちろん協力しますよ」

「ところで、そのスキルを手に入れるのはどうしたら良いのだ?」

「そこまで言ってなかったな。僧侶専用のクエストがあって、それをクリアする必要があるらしい。場所は『王都ルティア』の大聖堂地下にある『封印の神殿』だ」

「そうなのです、結構難易度が高いらしいので、人数が必要かと……」

「じゃあ行こうか、どうせ冒険者ギルドの再開はまだだしな」

「皆さん、ありがとうございます……」

ソフィアは皆に深く頭を下げた。

 こうして五人とウィグラフは、ソフィアの悩みを解決する為、王都ルティアへと馬車に乗り移動した。



 ――『王都ルティア』

 この大陸の竜背山脈の西側を統治する、大国である。

この街は、冒険者ギルドやギルド拠点など便利な施設が揃っており、冒険者の間ではリベルタスと人気を二分する街だ。

リベルタスが魔物の襲撃を受けて半壊したので、こちらへ移って来た者もいるようで、今のリベルタスより活気に溢れていた。

ここの王城には王様がいるらしいが、プレイヤーは中に入ることは許されていない。

そしてこの王都の一角にあるのが『大聖堂』である。

普段は大聖堂の礼拝所まで入ることはできても、関係者でなければ、奥まで入ることは出来ないのであった。

 そのような理由で、一行は夜になるのを待って、忍び込むことにした。



 エリーは大聖堂の裏口の扉の鍵を開け、その中へと入る。

「騒ぎを起こしたくないから、なるべく静かに行こう」

皆にそう言い、先頭を警戒しながら進んだ。

 地下へと降りて、見つからないように通路を歩いて行く。

さらに先に進むと、、装飾された大きな扉があった。

ここが例の『封印の神殿』の入り口だろうか。

 エリーが鍵穴を調べるも、ソフィアがここの鍵を持っていたので、開けてもらう。

入り口の扉を抜けて、入って来た扉を閉める。

どうもここからは音を出しても大丈夫なようだ。

「この奥にその神殿とやらがあるんだろうな」

「ああ、調べたところ、そうだな」

「やっぱり魔物がでるんでしょ?」

「そりゃそうだ、じゃなければこんな人数はいらん」

「どんな魔物がでるのかしら?」

「ゾンビとかグールの不死生物アンデッドだな」

「大聖堂の地下なのにですか?」

「何かヤバイものを隠してるらしい。入り口の扉が厳重だったのは、それだろうな」

「どんな魔物か楽しみだな……」

「ヒナさんは怖くないのでしょうか? 以前苦手そうだったので……」

「大丈夫だ、某が弱いのはドッキリ系だ。ゾンビとか見えてる者なら問題無い」

「それじゃ、進もうか」

七人はこうして封印の神殿へと進んで行く。

 入り口の扉を抜けると、通路は古臭く、手入れされてないものに変わっていた。

道中にゾンビやグールなどが出るも、斬り、凍らせ、爆破しながら進む。

そうして戦いながら進んで行くと、建物の入り口らしきものが見えてくる。

しかし、その手前に何かいるようだ。


 一行が警戒しながら建物の入り口に近づいて行く。

近づくにつれそれが何か分かってきた。大型の魔物の骨の残骸だろうか。

完全な骨となっているそれは、彼らが近づくとゆっくりと起き上がった。

「『ドラゴンゾンビ』だ!」

ウィグラフが叫んだ。そして、手持ちの槍では無く、腰に下げた剣に持ち替えた。

「おっさん、その剣は?」

「『竜殺しドラゴンスレイヤー』だ、持ってきて良かった」

「あ~、『竜千年殺しドラゴンカンチョー』ね」

「違うっつーの! あのクソジジイ、変な名前付けやがって!」

そう話していると、ドラゴンゾンビは頭を上げ、こちらに火を吹いてきた。

全員、散会しつつそれを躱す。

「話は後だ! 斬るぞ!」

ウィグラフがそう言い、剣を手にドラゴンゾンビに斬りかかる。

しかしその骨は異常なほど固く、剣では傷つかないようだ。

「なんだ!? 骨には効かねぇのか!?」

ウィグラフは一度下がり、距離をとる。そこへ入れ違いにヒナが斬りかかる。

彼女の刀『雪食一眼ゆきはみいちがん』は刀身に炎を纏いながら斬りつけるも、効果は薄いようだ。

「くっ! ダメージを与えているのか分からん!」

氷結飛槍アイスジャベリン!」

フェイの魔法で足止めしようにも、敵は容易に氷を砕き、動きが止まることは無い。

「ちょっと離れてて!」

次はエリーが両手に『ボレアス』と『ノトス』を持ち、その二つを同時に振った。

敵の前につむじ風が巻き上がると、エリーは二度三度と短剣を同時に振り、つむじ風の威力を上げる。

つむじ風は次第に勢いを強め、竜巻のような威力を持ちながら、敵に襲いかかった。

すると、ドラゴンゾンビの骨が四方に散らばってしまい、分解したかに見えた。

だが、一度バラバラになった骨は集まっていき、再びドラゴンの姿を形どった。

「うそ! 効かないの!?」

エリーは驚くも、目の前の敵は姿を取り戻し、口から火を吹いてくる。

その炎をクロウが『フルティン』で振り払い、消化した。

(これは使えるかも!)

ここでクロウは何か閃いたようだ。

「エリー、さっきのをもう一回頼む!」

そう言うとエリーは、

「分かった、やってみろ!」

と言いながら、先程と同じように竜巻を巻き起こす。

その竜巻めがけてクロウが剣を振りつけると、水滴を含んだ竜巻が出来上がる。

ドラゴンゾンビは水まじり竜巻を受けて、その骨が再び四方へ散らばって行く。

「フェイ! 頼む!」

氷結吹雪フリージングブリザード!」

クロウがそう言うや否や、フェイが氷魔法を飛ばして、その吹雪を竜巻が巻き上げ、バラバラになった骨を凍らせる。

ついにドラゴンゾンビは再集合することなく、この場所に凍り付いてしまったのだ。


「いや~、お前らやるねぇ。三人の連携攻撃とはな」

ウィグラフは感嘆して皆に言った。

「うん、まあその場の思い付きだけど」

クロウは少し照れてしまう。

「爺さんがいい武器作ってくれたしね~」

エリーは武器の出来栄えに上機嫌だ。

「技の名前つけちゃう?」

フェイは冗談交じりにそう言う。

「ありのままに竜巻とかどうでしょう?」

リノはそう言うも、そのネーミングセンスはどうだろうか……。

「うらやましいな、今度は某も混ぜてくれ」

ヒナはちょっと羨ましそうである。

「え~っと、じゃあ竜巻と炎を混ぜて……」

エリーとヒナが相談しだす。

「皆さん、お強いのですね、私は皆さんに助けてもらってばかりで……」

ソフィア全員に頭を下げて感謝していた。

「おっと、その前にドラゴンゾンビが元に戻らないように頭を割っておくか」

ウィグラフはそう言い、その頭蓋骨を割りにかかる。

その頭蓋骨は非常に硬いものであったが、皆でなんとか砕くことが出来た。

竜の歯は高値で売れるので、それを抜き取ると、一行は扉の中へと入って行った。


 扉の中へ入ると、そこは何かの礼拝所らしい所だった。

だが、ただの礼拝所では無く、不気味で醜悪な飾り物が部屋中にあり、異様な雰囲気を醸し出していて、その奥には扉が見える。

一行は武器を抜き、用心しながらゆっくりと進む。

 奥の扉が開き、何者かが出てくる。黒い衣を纏った老人だ。

健康分析ヘルスアナライズ! 彼はインキュバスの『ゲイガン』よ! EDに悩んでるわ!」

「知るか! 年のせいだろ!」

「バイア〇ラでも飲んでろよ!」

ウィグラフとクロウがツッコむも、彼の目が怪しく光り、こちらを見つめた。

その目に何かあるのかと、全員まぶたを閉じるも、遅かったようだ。

女性陣五人が眠りながら歩くように、ふらふらと彼の方へ歩いて行ったのだ。

「くそっ! 魅惑の瞳チャームアイか!」

ウィグラフが槍を手に、彼に突きかかるも、エリーとヒナに阻まれてしまう。

クロウも剣を取り彼に迫ろうとすると、フェイの魔法とリノの銃撃がクロウの足元を狙った。

クロウはその二人の攻撃を飛んで避けつつ、彼に一撃を浴びせる。

だが、ゲイガンに躱されてしまい、手にかすり傷程度しか与えられなかった。

彼は勝ち誇った顔で二人を見て、攻撃の準備に入る。

癒しの光ヒーリングライト!」

そこへソフィアの回復魔法が彼の右手のかすり傷を包む……。

――ゲイガンの右手が爆発した。

彼は悲鳴を上げ、何が起こったのかと自分の右手を見るも、さらにそこへソフィアの回復魔法がかかる。

爆発、回復魔法、爆発、回復魔法、を繰り返され、体を削られていくゲイガン。

彼が息絶えた頃に、ようやく女性陣五人が正気に戻ったのだ。


「いや~、一時はどうなるかと思ったぞ」

ウィグラフが安堵の溜息を漏らす。

「ソフィアさんがいてくれて良かった」

クロウもそうである。

「ゴメンね~、なんか操られちゃって」

「そうね、突然出てこられて、準備ができなかったわ」

「皆さん、申し訳ありませんでした」

「済まぬ……、修行が足りなかったようだ」

「いえ、操られてしまったのに、そんな……」

女性陣五人はそれぞれ詫びるも、結果として上手くいったのだ。そう二人は慰める。

その後、一行は気を取り直し、奥の扉を開け、クエスト達成の条件となる『聖職者の証拠』を発見して、地上へ戻って行った。


 王都へ戻り、クエストを達成したソフィアは、ついに『聖女の祈り』を入手した。

一同、これでソフィアの悩みも解決するかと喜んだのだ。

「よし、それじゃ本当に回復魔法がかかるか試してみようじゃないか」

ウィグラフはそう言って、ナイフで自分の腕に小さい切り傷をつけた。

「えっ!? いきなり本番?」

エリーが驚くも、

「何だと? 仲間を信用しないのか?」

ウィグラフはそう言って、ソフィアに回復魔法をかけるように促す。

「え……、あの……、それでは、やってみますね……。癒しの光ヒーリングライト

「ぐあっ! いってぇ~!」

ウィグラフの傷が爆発し、瞬時に治った。

「ああっ! すいません……」

ソフィアはうろたえてしまうものの、傷はしっかり治っていた。

「おっさん……、いいかっこしようとするから……」

「これは治った……、のかな?」

「一応、傷の回復はしてるわね……」

「そうですけど……」

「これは……」

五人はそれぞれ微妙な感想を持ったが、彼女の回復魔法は傷を癒すことができるようになったのだ。……彼女にかけてもらいたいかは別として。

 ソフィアはこれからも別な方法を探す、と言って一行と別れた。

ウィグラフもまた一人で旅に出ると言って、旅立って行った。

こうしてソフィアの悩みの解決を助けた一行は、リベルタスの街に戻ることにした。



 翌朝、一行はリベルタスに戻ってきた。

街の中には『イトの国』の人が数多く見られ、何かあったのかと聞いてみた。

話を聞くと、イトの国を巨大な竜巻が襲い、国が半壊状態になってしまったらしい。

エリーがその話を聞くと、その表情に陰が見えたのは気のせいだろうか。

それはともかく、リノは注文した武器を受け取りに、ドルフの元へ向かった。

「よう嬢ちゃん、完成しておるぞ」

そう言って、ドルフはリノに新しい『M16』を渡した。

「ありがとうございます、ドルフさん」

「材料が余ったんでな、スコープとサイレンサーも付けておいたぞ。その時によって使い分けるといいじゃろう」

「えっ、そんな、よろしいのですか?」

「構わん、面白い仕事ができたわい」

「ありがとうございます、ドルフさん」

リノはドルフに頭を下げて礼を言った。

「それとだな、これを持っていってくれ」

そう言ってドルフは小さい包みをリノに渡した。

「これは……、何でしょうか?」

「クロウの『フルチン』に付ける物だ、持っていってくれ」

「…………はい」

リノは受け取った物を返したかったが、ドルフの善意を断れず、持ち帰る事にした。

 こうして日を跨いだ冒険は終わり、リノはギルド拠点へと帰って行った。

だがそこで、事件は起こったのだ……。

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