第27話 熱戦、イトの国

 ――『イトの国』

 一行は船旅を終え、イトの国の港へ降り立った。

この街は和風とアジア風の木造建築が主流であり、リベルタスとは雰囲気が違う。

街は碁盤の目に区切られていて、遠くのほうには木造高層建築物が見える。

街の人もリベルタスとは違い、着流しや着物などが殆どで、異国情緒が感じられる。

 五人はとりあえず、クエストの報告をするために、冒険者ギルドへ向かった。


 一行は冒険者ギルドで報酬の『水中呼吸の指輪』を貰い、酒場で休憩を取った。

「この街、リベルタスとは全然雰囲気違うな」

それがしは慣れているからな、リベルタスの方が異国に感じる」

「ねぇねぇ、このみたらし団子おいしいよ!」

「この国の名物って何かしら?」

「火山とか、温泉だな」

「甘酒追加で頼んで来るね~」

「結構変わった武器も多いですよね」

「そうだな、ここでしか売っていないものも結構あるな」

「おはぎと大福、追加で頼んでくるからね」

「エリっち! うっさい!」

「そんなに食べたら、太ってしまいますよ?」

「はぁい……」

エリーはしょぼんとしてしまう。

「そうだな、ここにも冒険者ギルドがあるから、何個かやってから帰ろうか」

「いいよ~」

「いいですね」

「分かった、だが今日はもう遅い、明日になってから案内しよう」

エリーはそうっと大福に手を伸ばすも、フェイにその手を叩かれ、再びしょぼん状態になってしまう。

 五人は食事を取った後、旅館へ泊り、翌日に冒険者ギルドに行く事にした。


 ――『イトの国・冒険者ギルド』

 この国の冒険者ギルドも、基本的には同じシステムである。

違うところは建物の外装と内装、中にいる人々の服装ぐらいだ。

ヒナはここに慣れているので、クエストを一つ受注して、皆の所へ戻った。

「これでどうだろう、『温泉の源泉を調べよ!』というやつだ。どうやら温泉の湧くところに魔物が出て、それを退治する、という内容だ。」

「うん、いいね、早速行こう」

「楽しみですね」

こうして五人は、クエストの場所へと向かった。


 温泉の源泉はクナ火山の中腹にあり、山を登らねばならなかった。

一行は、とりあえず麓にある温泉を見てから、その水の流れを辿ることにしたのだ。

そこの温泉からは湯気が大量に出ていて、見るからに高温になっているようだった。

「これは指入れたら火傷しそうだな」

「江戸っ子でも裸足で逃げ出すほどだよね」

「温泉が元に戻ったら、ひと浴びしたいわね」

「ちょっと硫黄臭いですね」

「火山が近いからな。さあ、水を流れを辿って行こう」

五人は水の流れを辿りながら、山を登って行った。


 歩いて登ること十数分。温泉の源泉になっている泉を見つけた。

そこは激しく煮立っており、沸騰しつつ、蒸気を出していた。

源泉の周りは何かの生き物の足跡が散乱していて、何者かがよく来ているようだ。

「この足跡、なんだろう?」

「魔物かな? この国なら鬼とか?」

「リベルタスの方じゃ見かけないものね」

「この足跡はどこへ続いているのでしょうか?」

「鬼の足跡に似ているが、それよりも大きいな。何者だろうか?」

「とりあえず足跡を辿ってみよう」

そうクロウが言い、一行はその足跡を追跡して行った。


 その足跡の行先は洞窟へと入って行ったようだ。

「洞窟か……、ここに住んでいるのか?」

「罠があるかもしれないから、あたしが先行くよ」

エリーはそう言って、先頭を歩き、罠が無いかを調べつつ進んだ。

 足跡は洞窟の奥へと続いていて、それを追いながら慎重に進む。

洞窟の先では道が二手に分かれていて、足跡は右側にだけ続いている。

「やっぱ、足跡がある右側?」

「そうだな、そっちを先に探そう」

 五人は右側の洞窟へ足を進める。

右の洞窟を進むと、その先は崖のような穴になっていて、下へと洞窟は続いていた。

「足跡はここで終わりね、この崖を降りたのかしら?」

「そうとしか考えられませんね」

「どうやって降りたのだ……? 空でも飛んだのか?」

崖は切り立っており、その底は見えない。……かなり高いようだ。

「ちょっとここ、調べてみよう」

エリーがそう言って、皆で何かないかと探し始めた。

その時である、崖下から何者かが飛び上がってきたのだ。

「ひぃっ!?」

驚きのあまり尻もちをついてしまうヒナ。

 その飛び上がって来た者は、一本足の姿に両腕が生えている生き物だった。

彼はこちらを無視して、両腕でバランスを取りつつ、洞窟の入り口へ跳ねて行った。

「追うぞ!」

クロウがそう言い、五人はその一本足の姿の者を追って行った。


 一本足の姿の者は、洞窟を出て温泉の源泉の方へ向かって行った。

一行も彼に追いつこうと足を速め、ちょうど源泉の辺りで追いつく。

彼は煮立っている温泉の源泉を桶で汲み上げると、こちらを振り返った。

その姿は、一本足に一つ目、両腕は二本ある、そんな生き物だった。

「なんだぁ、おんしら、おいらの邪魔するでねぇ。親方にしかられんぞ?」

そう言って、彼はこちらの頭上を一跳びで飛び越えて、洞窟へと戻って行った。

「なんだあれは?」

「おそらく、『一本だたら』という妖怪だ」

「こっちに攻撃してこなかったね」

「ウチらに敵意は無いみたいね」

「親方というのは、誰でしょうか?」

「わからん……。だが、あの崖の下にいるのは間違いないようだな」

「その親方というのがカギを握っているようだな」

五人は再び洞窟へ入り、一本だたらを追って行った。


 一行は崖のあるところで再び一本だたらに追いついた。

崖から飛び降りようとする一本だたらに、クロウが飛びついて捕らえようとする。

だが一本だたらは、クロウにしがみつかれたまま飛び降りてしまった。

「アッーーー!」

「クロ!」

クロウも崖下へ落ちて行ってしまう。

「大丈夫かしら?」

フェイが崖下を覗き込んだ。

するとすぐに、崖下からクロウが飛び上がって来た。

「クロさん!」

「生きてたか!」

四人の頭上を飛び越し、地面に着地したクロウ。

「この下はトランポリンとかそういうのになってて、落ちても平気だった」

「そうなの?」

「見ての通り怪我一つ無い。ここから降りよう」

そう言ってクロウは再び飛び降りた。

皆、半信半疑であったが、ここを落ちるしかなさそうなので、一人ずつ飛び降りた。


 確かにクロウの言うように、崖下はクッションのように柔らかかった。

全員が無事に降りた後、洞窟の奥へと向かって行った。

その洞窟は奥へ行くほど気温が上がり、額には汗がにじみ出てきた。

奥の方から、金属を打つ音が聞こえてくる……。

そこにいるのが親方なのだろうか。

 洞窟を抜けると広い空間になっていて、先程の一本だたらと一つ目の巨人がいた。

一つ目の巨人は刀を打っていて、火床ほどには業火が燃え上がり、部屋を熱している。

加熱され真っ赤になった鉄を金床で打っていた一つ目の巨人は、こちらを見て喋る。

「なんだぁ? おんしら、なにしさ来た?」

ヒナが代表して答える。

「温泉の源泉が加熱されすぎてるので、その原因を調べに来のだ」

「ほうだか、だけんど、おいらが刀打ち終わるまで、火床は消せんど」

「何故、今ここで刀を打つのだ?」

「……雪女がよ、悪さしでかすんで、懲らしめちゃろうとな。あやつにゃ並みの刀じゃ効かん。そいで今、刀打っとるんじゃ」

「そうなのか、その雪女を倒したら、ここで刀を打つのは辞めてくれるか?」

「ええじゃろ。おんしらにできんとは思わんがの」

「約束だぞ!」

ヒナは皆と相談する。

「ということだ、雪女を倒せばいいらしい」

「どこにいるんだろ?」

「待ってくれ、今聞く」

ヒナは一本だたらから、雪女の居場所を聞き出した。

「ここから遠くないらしい。なんでも雪女が近くにいると、寒くて寝てられないらしいのだ」

「それで雪女を懲らしめようとしてるのか」

「そういうことだ。我らで倒すしかあるまい」

こうして五人は雪女の居場所へと向かった。


 山を少し登ると、雪女が住むといういう洞窟があった。

その洞窟は氷で覆われていて、かなり寒そうである。

一行は警戒しつつ洞窟へ入って行く。

洞窟は凍えるように冷えていたが、あまり深くは無かった。

少し進んだ先に小部屋のようなものがあり、雪女らしき女性がいた。

その彼女の姿は青白い髪に白装束、そして雪のように白い肌をした美しい女だった。

何奴なにやつじゃ? わらわに何用じゃ?」

ヒナが答える。

「一つ目の巨人が、其方そなたがいると寒くて眠れんと言ってる」

「ふむ、勝手よの……。妾はここが気に入っておるのじゃ。他所へ行くのは其方らのほうじゃ」

「聞き分けのないやつだな、斬るぞ……」

ヒナは刀に手をかけた。

「小娘! 百年早ようぞ!」

ヒナが雪女に斬りかかり、戦闘が始まった。


 一行は武器を構え、雪女に攻撃を開始した。

健康分析ヘルスアナライズ! 彼女は雪女の『雪子』よ。冷え性に悩んでいるわ」

「みりゃ分かるわ!」

そう話していると、雪女が氷の魔法を飛ばしてくる。

五人はそれぞれその魔法を躱し、攻撃に移る。

クロウが『フルティン』で斬りかかるも、すぐに凍らされて硬くなってしまった。

ヒナの斬撃が彼女を斬るも、彼女は雪で出来ているのか、手ごたえが無い。

リノの銃撃も雪女の体を貫くも、効果は無いようだ。

エリーの背後からの奇襲も同じであった。

「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」

フェイが元テニス選手を呼び出した。

 炎の精霊の熱さに雪女はたじろぐも、氷魔法を飛ばしてくる。

炎の精霊は雪女の氷魔法をすべてラケットで撃ち落とした。

その隙にヒナの激しい突きが雪女の体を貫く。

「なんだと!?」

だが、ヒナの刀は雪女の体の中で凍り付き、ついに折れてしまった。

ヒナは折れた刀を抜き、一度引いて距離を取る。

五人と雪女の間に手詰まり感が出てきて、お互いを睨みつつ、次の手を考える。

この沈黙を破ったのはリノだった。

「ヒナさん、これを!」

リノは鞄から何かを取り出し、ヒナに投げ渡した。

ヒナはそれを受け取る。

「これは……、『タバスコ』か!」

ヒナはタバスコの底を折れた刀に突き刺し、フタを開ける。

その状態で雪女の口めがけて神速の突きを放つ。

雪女はその突きを寸での所で躱すも、数滴、口の中に入ってしまったようだ

「ぐあぁぁぁっ! 辛いぃぃぃっ! 服にシミがぁぁぁっ!」

雪女の舌が赤く染まり苦しみだした上に、白装束に赤い点がついてしまい嘆き叫ぶ。

その時クロウは、炎の精霊の尻にフルティンを押し付け、剣を熱していた。

その熱くなったフルティンを、雪女に叩きつける。

「ぐおぉっ! 熱いっ! 溶ける! 体が!」

雪女はそう叫ぶと、体の一部が溶け始め、人の姿を保てなくなってくる。

最後にヒナが、雪女の口の中にタバスコの刺さった刀を突っ込み、トドメを刺した。

「厄介な敵だったな……」

「フェイが炎魔法使えればね~」

「熱いのは精霊だけで充分なのよ」

「カバンにタバスコが入ってて、良かったです」

「何故そんな物を……。だが助かった、礼を言う。」

五人は雪女を溶かし、一つ目の巨人の所へ戻って行った。


 一つ目の巨人の部屋の火床は、すでに消えていた。

「おんしら、雪女を倒したんか。おいらが打った刀、用済みじゃの。おんしらにくれてやる。持ってけ」

そう言って一つ目の巨人は、ヒナに刀を渡した。

刀は刀身だけであったが、乱刃が炎のように美しく、名刀のような気品があった。

「これは美しい刀だな……、名をなんという?」

「おんしのすきにせい、おいらはもう寝る。じゃあの」

そう言って、一つ目巨人は横になり、いびきをかいて眠り始めた。

「親方ぁ~……、一度眠っちまうと数年は起きん。おいらは……」

一本だたらは悲しそうに嘆き始めた。

だが、彼らにできる事は何も無さそうだった……。

 ヒナが一つ目巨人から貰った刀を見つめて呟いた。

「この刀は、『雪食一眼ゆきはみいちがん』と名付けよう」

こうして温泉の源泉の問題を解決した五人は、イトの街へと戻った。



 一行はクエストを達成し、報酬を受け取った。

そして、ヒナは『雪食一眼』の柄や鞘を新しく作り、自分の愛刀とした。

この刀は炎属性の太刀で、Sランク相当の名刀であった。

こうして冒険を終えた五人は、街の旅館で休息を取り、次に備えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る