第19話 発見、『伝説の武器』

 一行は『ドワーフ族の洞窟』へ来ていた。

ここの地下に伝説の武器が眠っていて、魔王を倒すのに必要らしいと聞いたのだ。

ドワーフ族の洞窟の入り口は竜背山脈の中腹にあり、山を登らなければならない。

その中は、入り口からは想像できない程広くなっていて、彼らの住居となっていた。

洞窟から採掘の為に掘り、さらに坑道を作り掘り進んで、今の形になったらしい。

坑道の奥では、今も採掘が続けられていて、鉄鉱、霊銀鉱、コバルト鉱等が掘れる。

彼らは毎日のきつい仕事にもかかわらず、陽気で、酒を飲み、歌う、そんな人達だ。

一行はこのドワーフ族の集落で、伝説の武器の聞き込みを開始した。


「う~ん、あまりいい情報はないなぁ」

「みんな隠してるってわけでもなさそうだしね」

「そうね、みんなその日暮らしで楽しんでそうだしね」

「でも、ヒナさんの情報では、ここにあるらしいのですが……」

「もう少し聞き込みをしてみようか」

「せめて知り合いでもいればね~」

「あのドワーフの爺さんはここにいないのかしら?」

「今どこにいるのでしょう?」

そうは言っても、いないものは仕方がない。一行は再び聞き込みを始めた。


 しばらく聞き込みを続けた一行は、再び集まった。

「う~ん、武器の情報は無いな」

「まだ調べてないのは採掘してる坑道くらいだよ」

「坑道の奥に行ければいいんだけどね」

「勝手に穴掘って進んでみる?」

「どんだけ時間かかるんだよ……」

「ドワーフ達を眠らせて進入するとか?」

「話が物騒になってきたな……」

「そういえば、条件付きで坑道へ入れるかもしれません」

「どんなの?」

「火薬の入った壺を、坑道の奥まで届けるらしいです」

「じゃあ、それで行こうか」

四人はそう話し、坑道管理人の所へ向かった。


 坑道の管理人から火薬壺を受け取り、坑道へ入って行く一行。

坑道の中の地図は貰ったものの、地図が雑過ぎて道に迷いそうになる。

地図に従って進んでみるものの、行き止まりにあたり、引き返す。

そんな事を何度かやっているうちに、やっと目的の場所に着いた。

 彼らはやっと見つけたドワーフの鉱夫に火薬壺を渡す。

「よく来てくれたな、今から発破するからお主らは避難せい」

そう言われたので、一行は坑道の手前に避難した。

大きな爆発音と震動の後、砂塵が吹き荒れ、四人の視界を遮る。

視界が戻り、発破された坑道の奥を見ると、坑道とは違う洞窟らしきものが見えた。

「なんじゃこりゃぁ! こんなところに空洞ってよぉ! 俺っちは上へ戻って状況を伝えに行くからお主らも戻れ、報酬もまだじゃろ?」

ドワーフの鉱夫はそう言って、坑道を戻って行った。

「この洞窟、どこに向かってるんだ?」

「これはチャンスだね、今なら奥へ進める」

「何かの生き物の足跡があるわね」

「外へつながっているのでしょうか?」

四人はそう話し、奥へ進んでみることにした。


 一行は坑道を抜け、洞窟を奥へと進んで行った。

人よりも大きな足形をもった生き物の足跡が奥へと続いていて、その足跡を頼りに奥へ奥へと進んで行く。

どれくらい進んだのだろうか、奥の方に壁のようなものが見えてきた。

その壁は石を積んで作られており、誰かが作った建造物のようだ。

洞窟はその壁にぶつかり左に折れ、さらに続いている。

「なんだろう? この壁」

「壁沿いに洞窟が続いてるね」

「足跡の主が住んでるのかしら?」

「この壁はかなり古いものみたいですね」

「とりあえず進んでみよう」

そう言ってさらに進んで行く。

 石壁の終わりが見えると、洞窟も石壁に沿って右に曲がっていた。

壁沿いに洞窟があるようで、その先には何か足場のようなものが見える。

一行がそこへ着いてみると、壊れたベランダのようなものがあった。

そしてそのベランダには壊れた窓があり、そこから中へ入れるようだ。

四人はその壊れた窓から、中へ入ってみた。


 そこは誰かの部屋のようになっていて、かなり古いもののようだ。

部屋には扉が一つあり、扉の先は廊下かもしれない。

エリーは扉を少し開けて先の様子を覗う。

(……やばい!)

彼女はそう思い、すぐ頭を引いた。

「扉の先は廊下だけど、下級悪魔レッサーデーモンが歩いてた」

「悪魔か? 強そうだな」

「あたしらは戦ったことないから、分かんないけどね」

「そうね、戦ったことないわね」

「洞窟の足跡の主が、その悪魔なのでしょうか?」

「どうする? 戦ってみるか?」

「あたしは構わないよ、ここまで来て手ぶらで帰るのもなんだし」

「ウチもいけるわ」

「私もです」

「じゃあ、あたしが一匹引っ張ってくるから、部屋の中で戦おう」

一同その意見に賛成し、この部屋で戦うことにした。

 エリーがレッサーデーモンに小石を投げつけ、注意を引く。

クロウがそれを迎え撃ち、エリーはすぐ扉を閉めてこの部屋に閉じ込める。

そしてフェイの魔法、クロウの剣撃、エリーの奇襲で、あっさり倒すことができた。

「思ったほど強くないみたいだ」

「そうだね、あたしらが強くなったのかも」

「一匹だけならかなり余裕あるわね」

「敵が大勢で来なければ大丈夫みたいですね」

「じゃあ、建物の中を探索してみようか」

彼らはそう話し、建物の中を調べることにした。


 この建物は石壁で作られていて、その構造から、古い城のように思える。

廊下を歩き、慎重に扉を調べ、中の部屋を探る。

そうするうちに、再びレッサーデーモンを見かけるも、すぐ倒してしまう。

 さらに廊下を進んで行くと、鉄格子のような扉があり、中に何かいるようだ。

格子の中を覗き込むと、二つの頭と蛇の頭の尾を持った黒い魔犬がいた。

その彼の背後には『短剣』が飾られていて、彼はその短剣の番人なのだろうか。

「あれはボスっぽいな」

「この鉄格子、鍵はかかってないね」

「武器の番人、というか番犬かしらね」

「もしかしたら、あれが伝説の武器なのでしょうか?」

「戦ってみるか?」

「その前に調べるわ。健康分析ヘルスアナライズ! 彼は財宝を守る番犬『オルトロス』よ。食べ過ぎて胃がもたれてるわ」

「頭が三つもあるからね~」

「三つの頭がケンカにならないのでしょうか?」

四人は相談して、オルトロスと戦うことにした。


 クロウが先頭を切って斬り込み、オルトロスに一撃加える。

エリーは彼の背後に回り、フェイは魔法で牽制する。

オルトロスは二つの口でクロウに噛みつこうとした。

クロウは剣でその攻撃を防ぐも、残り一つの蛇の口に噛まれてしまった。

「うぐっ!」

オルトロスに噛まれたクロウは、みるみる顔色が悪くなっていく。

「毒よ! 噛まれないように気をつけて!」

「分析したときに言えよ!」

クロウの体に毒が回り、彼は力が抜けたように膝をついてしまう。

猛毒浄化キュアポイズン!」

リノの魔法が飛び、彼の猛毒を浄化した。

彼は毒が消えると再び立ち上がり、オルトロスに立ち向かおうとする。

氷結飛槍アイスジャベリン!」

フェイの魔法で、オルトロスの片方の口が氷で塞がった。

エリーは背後から尻尾にある蛇を切り落とし、さらに戦いを有利にした。

クロウは二つの頭の間をめがけて剣を突き刺す。

最後にリノがオルトロスの頭を銃で打ち抜き、やっと敵を倒した。

「結構強かったな……」

「うん、そうだね」

「さすがに伝説の武器を守っているだけあるわ」

「こういうのが他にもいるのでしょうか?」

「どうだろう? とりあえず短剣を貰おう」

「そうだね」

 エリーは壁に掛けられた短剣を手に取った。

その短剣は刃が二重に重なっていて、いかにも殺傷力が高そうなものだった。

「これは『オルトロスの短剣』だってさ。伝説の武器の一つみたい」

「他にも伝説の武器があるのかしら?」

「まだこの建物に入ったばかりだし、探してみよう」

彼らはそう話して、次へと向かう。


 廊下に戻り、先へ進んで行くと、上と下へ続く階段があった。

上への階段は岩や土で塞がっていて、先へ進めそうにない。

一行は階段を降りて、下の階へと進んで行く。

下の階にもレッサーデーモンがいたが、四人にすぐに倒されてしまう。

そして通路を進んで行くと、また鉄格子の扉が見つかった。


 一行が鉄格子の扉を覗き込むと、中に誰かがいるようだ。

上半身が美しい女性、下半身が大蛇の『ラミア』だ。

一行は鉄格子を開け、中に入る。

「これ、話すことができないのかな?」

「どうだろ? やってみたら?」

「よし、気合を入れて話しかけてみる」

そう言ってクロウは彼女に向けてゆっくり進む。

「こんにちは~」

彼は鼻息を荒くし、股間を膨らまして、両手をワキワキさせながら近づいて行った。

「こりゃダメだわ……」

「セクハラね……」

「最低ですね……」

 三人にそう言われつつも、クロウは怪しい挙動でラミアに近づいて行く。

彼女はその姿に激怒して、下半身の大蛇でクロウを払い飛ばした。

「ぐはっ」

激しく壁に体を打ちつけられたクロウ。自業自得である。

 そんなふざけた彼をよそに、ラミアはこちらに襲いかかって来た。

ラミアはエリーを狙って、爪で切り裂こうと追いかけ回す。

クロウは敵の注意を自分に向けようとするが、再び蛇の尾に払い飛ばされた。

フェイの魔法、リノの銃撃で攻撃するが、ラミアはエリーを追いかけ続けている。

 戦いは次第に、逃げるエリー、追うラミア、それを追うクロウとなった。

クロウはラミアの蛇の部分に掴みかかるが、彼女は悲鳴をあげて逃げようとする。

そうしてもがいているうちに、ラミアはリノの銃撃によって肩を撃ち抜かれた。

霜霧凍結ダイヤモンドダスト!」

最後にラミアは、フェイの魔法で氷漬けにされてしまった。

「まったく、クロは役に立たないな!」

「えぇ……、がんばったのに」

「セクハラをね」

「最低でしたね」

「そんな~」

「そういや、ラミアは何であたしだけを狙ってきたんだろ?」

「ラミアはね、美少年の血が大好物らしいわ」

「おい! 『美』は必要だけど、『少年』はいらんだろ!」

「そうね~……」

フェイはとぼけてみせた。

「そういや武器は?」

 クロウがそう言い、皆、部屋の奥へ目を向けると、そこには『長い杖』があった。

その杖は、杖にラミアが絡みつくように装飾された、美しい杖だった。

「ウチが貰うわね」

フェイはそう言ってその杖を手に取る。

「これは、『ラミアの杖』ね。絡みつくような魔力を感じるわ」

「さすが伝説の武器だけあって強そうだね」

「そういやメイドの伝説の武器って何なんだろ?」

「私は今『炎のフライパン』ですが、銃のほうが使い勝手がいいですね」

「リノっちは特別だからね~」

「メイドらしい武器って、ホウキ、包丁、フライパン、とか?」

「店で売っているのは、それに投げナイフですかね?」

「ホウキもフライパンも武器じゃない気がするんだけどね~」

「そうだな、実物見てみないとしっくりこないな」

「それじゃ、次行こうか」

エリーがそう言って、四人は次の場所へ向かおうとした。

だがその時、

「アンタ達、ここで何やってんの?」

背後から少女の声がしたのだった。


 一行が声の方を振り向くと、そこにいたのは子供、というか小さい女の子だった。

「君こそ、なんでここに?」

クロウは聞き返した。

「質問しているのはアタシよ! いい?」

「はぁ……、俺達は『伝説の武器』を探しにここへ」

「どこから入って来たの?」

「ドワーフ族の坑道から」

「へぇ~、あそこからここに繋がってたんだ」

「そういう君は?」

「アタシは正面から普通に来たのよ」

少女は得意げに答えた。

「アタシは『マオ』っていうの。『魔法少女』よ」

クロウ達もそれぞれ名乗った。

「魔法少女って言ってたけど、そんな職業あったっけ?」

「無いわ、自称よ」

「何しにここに来たのよ?」

「アンタ達と目的は同じよ。『伝説の武器』ね」

「一人で来たのですか?」

「そうよ。アタシは強いからね」

マオはそう言い終わると、彼女の背後からレッサーデーモンが近づいてきたのだ。

「あぶない!」

リノがそう叫ぶと、マオは後ろを振り向き、指先をレッサーデーモンに向けた。

マオの指先が一瞬光り、指先から光線が出て、レッサーデーモンの体を貫通させた。

「ね?」

マオはこちらを振り返り、得意げにそう言った。

「今のは魔法なのかしら?」

「『魔法少女ビーム』よ」

「すごく適当な名前だね……」

「分かりやすくていいでしょ?」

「ほんとに一人でここまで来たんだな」

「だから言ったじゃないの!」

「伝説の武器は何種類もあるけど、どれが欲しいんだ?」

「アタシの目当ては『短い杖』よ。アンタ達、持ってる?」

「持って無いわ。『長い杖』ならあるけど」

「そっか、じゃあ探すしかないわね。アンタ達、ついて来なさい」

そう言うと、マオは一人で歩き出した。

 四人は仕方なく、彼女の後について行った。


「ここはね、シーズン1の魔王がいた城なの」

「そうなのか?」

「今は地下に埋もれて見る影もないし、魔王もここにはいないわ」

「よく知ってるね」

「アタシは物知りだからね。昔はここに十種類の伝説の武器があったけど、今はその半分も無いと思うわ」

「他の場所にあるのかしら?」

「そうね、このゲームは一つのシーズンが終わると、地図やアイテムの配置も変わるのよ。だから、他の場所にあっても仕方ないわ」

「ここ以外に、どこにあるのでしょうか?」

「アタシはもう一か所知ってるけど、こっちの方が近かったからね」

「ほんとに物知りだな~」

マオの顔が得意げな顔に変わる。上機嫌のようだ。

 そうして話しながら歩いているうちに、鉄格子の扉を見つけた。


 鉄格子の中には悪魔と思われる生き物がいる。

その後ろにあるのは『槍』だろうか、槍にしては太い気がする。

「ハズレみたいね。アンタ達、他も探した?」

「二階に一個あっただけ、短剣だったよ。三階は道が塞がってた」

「残念ね、ここにはもう無いのかしら? アタシは一階の探索はここで最後よ」

「じゃあ、ここにあったのは三つか」

「そうね、今日は機嫌がいいから、アイツを倒してあげる」

「えっ? 一人で?」

「そうよ。黙って見てなさい」

 そう言うとマオは一人で中へ入り、おもむろに『魔法少女ビーム』を二発撃った。

悪魔らしき生き物は急な攻撃に驚き、身を躱そうとするが両足に被弾してしまう。

マオは悪魔に走って近づき、悪魔を両手で掴んだ。

「48の殺人魔法のナンバーワン、『宇宙旅行』!」

そう叫んで悪魔を真上へ放り投げた。彼女のどこにそんな力があったのだろうか。

そして自分も飛び上がり、肩で悪魔の首を逆さに担ぎ上げ、その両足をつかむ。

「48の殺人魔法の一つ、『魔法少女バスター』!!」

そう叫ぶと、悪魔の両足を引き裂きつつ、尻餅をつくように地面に着地した。

首折り・背骨折り・股裂きを一度に決めるという大魔法だった。

その悪魔はその三つを同時に受け、口から血を吐いて倒れ、動かなくなった……。

「今のは一体何でしょう……」

リノは呟いた。

「『魔法少女バスター』よ」

マオは得意げにそう答えた。

「魔法関係ないじゃん……」

フェイは呆れて言った。

「キン肉バ〇ターだよね……?」

エリーも呆然として聞いた。

「ノンノン。『魔法少女バスター』よ」

マオは指先を振り、否定しつつ答えた

「じゃあアタシは次の場所へ行くからね。バイビー♪」

マオはそう言いながら、きゃるーん☆とキメ顔を見せて、走り去って行った。

その場に呆然と取り残される四人。


「とりあえず、伝説の武器を取ろう……」

「あいつ、絶対中の人おっさんだよ……」

「ネタが古いよね……」

「でも、強かったですね……」

そう言いつつ、部屋の中へ入り、武器を見る。

それは『アダマント製高枝切りバサミ』だった。

「これは……」

「メイド用の武器みたいね……」

「らしいといえばらしいけど……」

「これを持ち歩くのでしょうか……?」

リノは戸惑いつつもそれを入手した。


 こうして一行は伝説の武器を三本、入手した。

彼らはその後、正面の出口を探し出し、この廃城から出た。

その出入口はドワーフ族の洞窟からさほど遠くはなかったが、そこは岩の陰にあり、かなり見つけにくいところにあったのだ。

 四人は、他の伝説の武器の情報を集めるため、ひとまずリベルタスの街へ戻ることにしたのだった。

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