第18話 浮幽、『歌仙兼定』

 ――翌日。

四人はいつものように、身支度をして、自室を出る。

食堂で他愛のない話をしつつ、朝食を取っていた。

そこへ、何者かが入り口の扉をノックしてきた。

「は~い」

扉に近いクロウが出た。だがその扉を開けるなり、

〝きゃぁぁぁぁぁぁっ〟

と女の悲鳴が聞こえてきた。

「そういや、クロってまだ なまはげ だったね」

「ウチらはもう見慣れちゃったからね」

扉の外の声の主は、『ヒナ』だった。

彼女は尻もちをついて、目に涙を浮かべ、声を震わせて言う。

「お……、驚かすな……!」

「いや~、ゴメンゴメン、なまはげ 被ってるの忘れてた」

リノはヒナに席を進め、紅茶をいれる。

「ヒナっち、怖かった? 涙目になってない?」

「そ……、そんなことは無い!」

「え~? ホントは怖いんじゃないの?」

「大丈夫だ、お化けが怖いということでは……」

なまはげ をかぶったクロウが隣へ座る。

〝ひぃっ〟

ヒナは思わず顔をそむけてしまう。

「大丈夫ですか、顔色が悪いですよ?」

「そ、それはこんな物を被ってる者が急に出てきたら、こ、怖いに決まってるじゃないか!」

「そうか、スマン。仮面を外そう」

そう言ってクロウは なまはげ の仮面を外した。

だが、そこにあるのは頭蓋骨である。まだ治っていなかったらしい。

〝ひぃぃぃっ〟

ヒナは頭蓋骨となったクロウを見て、席から転げ落ち、悲鳴を上げた。

「クロっち、まだ治ってないの?」

「まだっぽいな……」

「ひょっとしたらそのままなの? その方がイケメンでいいんじゃないかしら?」

「勘弁してくれ……」

「おい! 其方そなたら、それがしをこんなに驚かせてどうするつもりだ!」

「いや、脅かせてるつもりは……」

「私達はもう慣れてますからね……」

「本当に……、もう、某は本気でお化けや幽霊が苦手なんだ!」

「昨日のクエって、幽霊とかお化けのやつだったよね?」

「ヒナっち、誘った方がよかった?」

「そ、それはちょっと……」

「そういえば、ヒナさんは何かご用があっていらしたのでは?」

「……そうだった、ここに入るなり、こんな事になろうとは……」

「俺のことは気にせず、話をどうぞ」

「その顔を近づけるな!」

そしてヒナは、ここへ来た理由を話し始めた。

「……某がここへ来た理由、それは『十本の妖刀』のことだ。そのうちの一本がある場所が分かった。それで其方達に協力を頼みに来たのだ」

「うん、いいよ」

「って、軽いな……良いのか? 他の方々も?」

「いいよ」「いいわよ」「はい」

「よし、行こう!」

「えっ? 本当にいいのか? 報酬も出してないのに……」

「まあ、いいじゃないか」

「そうそう、面白ければいいのよ」

「お寿司ゴーレムとかいましたよね」

「チワワもね」

「……そうか、それは助かる……、場所は『クツナ山』だ」

五人そのように話し、目的地へ向かった。



 ――『クツナ山』。

 ここには朝廷に反乱をおこした貴族の娘と、その部下の鬼達が住んでいるという。

この山の見た目は、特に怪しいところもない普通の山だ。

だが、ここには鬼達が住み、妖刀があるという話だ。

一行は山道を登り、頂上を目指した。


「ここ、雑魚の鬼が多いな」

クロウがぼやく。

「『餓鬼』だな、『イトの国』ではよく見かけた」

「一撃で倒せるから楽だけど、手間だね」

エリーも短剣を手に、目の前の餓鬼を斬る。

「恐らく、進んで行けば強力な鬼がでてくるだろう」

「そうね、雑魚ばかりじゃないでしょうね」

五人は道中の餓鬼を斬りながら、山道を登って行く。

しばらく進むと、和風の建物が見えてきた。

強い敵がいるのかもしれない、そう思いつつ、警戒しながら進んだ。


 建物の扉を開けると、そこにいたのは、手に金棒を持つ赤い肌の鬼だった。

「『赤鬼』か、斬って進むぞ!」

ヒナはそう言い、赤鬼に斬りかかり、赤鬼は金棒で応戦する。

四人もそれに続き、戦闘を始める。

前に出る三人が敵と一度斬り合うと、

「この鬼、火属性かもよ?」

エリーがそう言った。

「足止めお願い、ウチがやる」

フェイはそう言い、準備にかかる。

クロウが赤鬼の前に立ちはだかり、エリーとヒナが敵を牽制した。

三人で斬り結んだ後、フェイの魔法が飛んだ。

霜霧凍結ダイヤモンドダスト!」

氷の霧が赤鬼を包み込み、彼の動きを止める……。

霧が晴れると、そこには氷の像となった赤鬼がいた。

「氷に弱くてよかったわ」

フェイがそう言った。

「まだ序盤だ、気を引き締めて行こう」

ヒナはそう言いいながら、刀を収めた。

そして五人は気を引き締めつつ、先の山道へと進んだ。


 一行は再び餓鬼を倒しながら進んで行く……。

間もなく、次の建物が見えてきた。

「次は何かな?」

「楽しみではあるよね」

そう話して扉を開ける。

中にいるのは手に刺股さすまたを持った『青鬼』だ。

「今度は水? 氷属性?」

「火に弱そうだよね」

それがしの『緋色兼次』は炎属性だ、やるぞ!」

ヒナはそう言い、先手を取って斬りかかる。

だが青鬼は、刺股を頭上で振り回すと、何かの魔法を使った。

(何の魔法を使ったんだ?)

と五人は思ったが、急に床から水が湧き出てきて、彼らの足元を濡らし始めたのだ。

「水の魔法か?」

「ちょっとこの水! 冷たくない!?」

「凍ってはいないようですが、ちょっと冷たいですね」

「ウチに任せて! 召喚! 出でよ! 水の精霊!」

フェイの掛け声と共に、ハゲ散らかした貧相なおっさんが現れた。

「おい~、なんだよこのおっさん、弱そうだぞ~?」

エリーが不満をもらした。

「大丈夫よ、彼はここの水を温くするわ」

フェイがキリっとした顔で答えた。

「それ、彼の名前だろ~」

「これでは、冷やし温水になってしまいますね……」

「炎の精霊だと熱くなりすぎるのよね~」

そんなことを話しながら戦う五人……。

しばらく斬り合った後、ついに青鬼を倒した。

「よし、次行こう!」

クロウがそう言って、五人は先へ進んで行った。


 山道の餓鬼を倒しながら進んで行くと、三つ目の建物が見えてきた。

そこで待ち構えていたのは、手に両刃のこぎりを持った『黄鬼』だった。

「今度はなんだ? 雷属性?」

「雷属性の敵って弱点あるの?」

「多分水属性だろうけど、どうなのかしら?」

そう話しつつ、黄鬼と戦い始める五人。

「うわっ、殴ると痺れてくる!」

「厄介な敵だな」

麻痺浄化キュアパラリシス!」

リノの回復魔法が飛んで、クロウを治療した。

「大丈夫ですか?」

「ありがと、助かった!」

氷結飛槍アイスジャベリン!」

「むぅ、あまり効いてないわね、やっぱり斬るしかなさそう」

「水の精霊は?」

「スケジュールに余裕がないのよ」

「なに言ってんだよ、まったく……」

「本当は再召喚に時間がかかるのよ」

「ハイハイ、分かったよ」

そうして黄鬼と何度も斬り合う前衛の三人。

黄鬼を斬る度に手が痺れるが、それをリノが治療する。

そんな戦いの末に、やっと黄鬼を倒した。

「やっと倒せたか、遠隔攻撃も欲しいところだったな」

ヒナは無事に倒せた事に安堵したようだった。

「遠隔攻撃か~。あたしら持ってないから……」

「あっ! 銃で撃てばよかったのですね」

「そうだ! すっかり忘れてた」

「どうしてもメイド13サーティーンのイメージあるからね……」

「まあ、勝てたから良いではないか」

「そうだな」

「はい、次行こう~」

エリーの掛け声で、五人は次へと向かった。


 三つ目の建物を抜けると、雑魚として出てくるモンスターが変わった。

『餓鬼』よりも一回り大きい『邪鬼』である。

その容貌は餓鬼よりも悪意に満ちた顔をしているが、所詮は雑魚。

五人に発見されるなり蹴散らされていく。

「雑魚が変わって少し強くなったかな?」

「うん、でもまだ余裕あるね」

「次の建物の鬼がどんなのか楽しみだね~」

「また貧相なおっさん呼びなすなよ?」

そう話しつつ、先へと向かう。


 さらに歩いて行くと、四つ目の建物が見えてきた。

ゆっくりと扉を開けると、そこにいたのは、手に薙刀を持った『緑鬼』だった。

「今度は何属性だ?」

「緑だから……、風?」

「皆、斬って進むぞ!」

ヒナが先手を取って斬りかかるが、緑鬼が薙刀を振り回して魔法を使い始めた。

建物内に突風が吹き荒れ、五人はその場で足に力を入れて踏み止まる。

「風の魔法か?」

「でもこの威力じゃ弱いわね」

「う……、何故か眠気が……」

「これは……、睡魔が……」

「……眠い……」

「これはいけないわ……、召喚! 出でよ! 炎の精霊!」

フェイの掛け声で現れたのは、アゴのしゃくれた大柄のプロレスラーだった。

「フェイ……、この方、前の人と違うの……?」

エリーは眠気を抑えながらもツッコミは忘れない。彼女もまたプロである。

「そんなことないわ……彼も熱い魂を持っているわ……。とにかく、闘魂注入よ!」

炎の精霊は一人ずつビンタを浴びせ、闘魂を注入した。

「ありがとうございます!」

クロウ達は炎の精霊に、思わずお礼を言ってしまう。

それぞれ頬が赤くなるほどの衝撃を受けたが、睡魔を振り払ったようだ。

「今のうちだ! やるぞ!」

五人は頬のひりつきを感じながら、緑鬼と戦う。

敵に斬りかかり、その攻撃を躱し、魔法を放ち、傷を癒す。

そういった戦いの基本を繰り返しているうちに、ついに緑鬼は倒れた。

「ふぅ、段々強くなってきたな」

「想定内だ、この程度では我々は止まらん」

「止まるんじゃねえぞ……」

「何だ?」

「いや、言ってみたかっただけです。ハイ」

「おかしなやつだ、まあいい、行こう」

そうして五人は、先へと進んだ。


 四つ目の建物を抜けて山道を登って行く……。

まだ道の終わりは見えず、一行は邪鬼を斬りながら先へ進む。

「雑魚が多いな、飽きてきた……」

「そんなこと言ってないで、手、動かす!」

「そろそろ山頂が見え始めてもいい頃よね」

「次の建物で休憩を取りましょうか」

「そうしよう、緊張感が薄れてきたようだ」

程なくして、五つ目の建物が見えてきた。


 五つ目の建物。

部屋の中はうす暗く、そこには誰もいなかった……。

「誰もいない……。どういうことだ?」

「油断しないほうがいい……」

ヒナは自分の刀に手をかけ、警戒する……。

……何者かの気配を感じ、刀を抜き、薙ぎ払う。

〝ギィィィン〟と、金属がぶつかる音が建物の中に響く。

「やはりいたな……」

「見えない敵なのか?」

「そうみたいだね……」

三人はリノとフェイを囲んで、守るように武器を抜いて構える。

「始めて使うけど、やってみるわ……。輝光反映シャイニングリフレクト!」

建物の天井付近に突如、ミラーボールが現れた。

ミラーボールが回転しつつ、部屋内を派手に照らす。

「うぉっ、まぶしっ」

クロウ達は思わず目を覆ってしまう。

するとどうだろう、斧を持った黒い鬼がこちらを攻撃しようとしているのだ。

ヒナが黒鬼を見つけると、ただちに斬りかかる。

「姿が見えたぞ!」

「見えるようになったけど、派手すぎだよ!」

エリーが文句を言う。

「仕方ないわ、これくらいしか使えるの無かったの」

フェイは澄ました顔で答えた。

 五人は黒鬼が見えるようになったので、攻撃を開始する。

姿を隠していた黒鬼、その姿が見えるようになっては敵ではない。

何合か斬り合った末、斬り倒された……。

「姿が見えなければ、恐ろしい敵だったな……」

「見えてしまえば楽勝だな」

「そんなもんだよ、有利な所を消されれば、凡庸になるんだよ」

五人はここで休憩を取り、さらに先へと進んで行く。



 道中の雑魚は、『邪鬼』から『悪鬼』へと変わり、さらに強くなっていた。

一行は敵を倒すのに前より時間がかかるようになっていた。

「さらに強くなってるな」

「そうだな、雑魚相手に消耗したくないのだが……」

「そろそろ頂上じゃない?」

上を見上げると、山の頂上ではなく、空の方が見え始めていた。

「もうちょっとか、がんばろう」

「そうですね、あと少しです」

そう話し、悪鬼を斬りながら進む五人。

次第に山道を囲んでいた木々が無くなり、頂上が見えてきた。


 頂上には神社のような建物があった。

入り口の格子状の扉の中は薄暗くなっているが、誰かいるようだ。

「中にいるのは……、巫女かな?」

その巫女は、こちらに背を向けて座っている。

「間違いなく、敵だろう」

「だよな」

「臨戦態勢で開けるぞ」

ヒナはそう言い、神社の扉を開けた。


 神社の中にいた巫女は、刀を持ち、立ち上がり、ゆっくりと宙に浮かんだ。

腰の袴の一部が裂け、そこから五本の狐の尻尾が生えてくる。

そして彼女がこちらを振り向くと、その顔には般若の面を被っていた。

彼女はその手にした刀を、流れるように抜く。

「あれは、『歌仙兼定』か……」

ヒナが呟く。

 緊張した空気が周囲に張り詰め、五人の体を縛る。

彼女がその刀……『歌仙兼定』をひと薙ぎすると、周囲に烈風が裂け走る。

五人が風圧で神社から吹き飛ばされると、般若の巫女はこちらに襲いかかってきた。


 クロウが剣を構え正面に対峙し、ヒナは側面、エリーは背面に立つ。

沈黙の空気が流れる……。

 ヒナはその空気を払うように般若の巫女に斬りかかった。

彼女はそれを身をひるがえして躱し、ヒナに一撃与える。

ヒナは彼女の斬撃を剣で受け、数歩後退してしまった。

さらに彼女はその回転の勢いで クロウの頭を薙ぎ払う。

クロウはそれをギリギリで躱すと、彼女の胸を剣で突き刺した。

だが、彼女は動じる気配もなく、刺された剣を抜くと、再び斬りかかってくる。

「効いてないのか?」

クロウは彼女の顔の表情を探ろうとしたが、般若の面で彼女の表情は分からない。。

 次の瞬間、ヒナの激しい突きが、彼女の般若面を撃ち、それを弾き飛ばした。

般若の巫女は不気味な悲鳴を上げると、クロウの なまはげ面を奪い、被った。

「なんだこいつ、仮面を被らないと……」

「クロ! 頭が戻ってる!」

「えっ!?」

クロウは自分の顔を触り、確かめてみる。

……どうやら顔が戻っているらしい。

だが、なまはげ面の巫女はその隙を見逃さず、クロウを斬る。

「ぐっ」

クロウは肩を切られ、傷を押さえつつ膝をついてしまった。

氷結飛針アイスニードル!」

完全治癒コンプリートヒール!」

フェイとリノの魔法が飛び、彼女を牽制した。


 五人は一度距離を取り、再び なまはげ 面の巫女と対峙する。

「仮面が弱点なのかな?」

「素顔を見られたくないのかもな」

「ブサイクなんだよ、きっと」

エリーのその発言が気に障ったらしく、彼女はエリーに向かって行く。

「やっば!」

その彼女をクロウが背後から斬り、ヒナが仮面に突きを入れるが、寸で躱された。

彼女が後ろを振り向いた瞬間、エリーは なまはげ 面を剥ぎ取り、短剣で叩き割る。

仮面を無くした巫女は、狼狽して自分の顔を隠しながら、神社の中へ逃げて行った。

「やはり仮面か!」

ヒナはそう言って追いかける。クロウとエリーも彼女に続いた。

その巫女は今度は狐面を被ると、こちらに斬りかかって来る。

 それをクロウが剣で受けると、ヒナが狐面の巫女の頭を狙い、突きを入れる。

狐面の巫女がヒナの攻撃を躱すと、さらにクロウが斬りかかった。

その隙に、エリーは神社の中の堂にかけてあった能面を次々と割っていった。

狐面の巫女は、エリーの行動を止めようとそちらへ向かおうとしたが、クロウに先を押さえられた上に、ヒナの突きが彼女の狐面を弾き飛ばす。

彼女は他の能面、手近にあったものを取り、被った。……ひょっとこ面である。

 ひょっとこ面の巫女はこちらへ顔を向け、激しく怒っている素振りを見せた。

だが、彼女の面はひょっとこ面である。その顔では迫力が無い。

クロウは彼女の斬撃を剣で受け止めると、エリーは背後から彼女の首を削ぐ。

そこへヒナの激しい突きがひょっとこ面を貫いた。

 ……ついにひょっとこ面の巫女は動きを止め、崩れ落ちた。

彼女の面の下にあった物、それは顔の無い、人形の頭部であった。


「ふぅ、強かったな……」

「こいつは一体何なのだ……?」

ヒナはそう言い、巫女の袖を捲り上げる。……彼女の体は木偶人形だったようだ。

「人形か……」

ヒナはそう呟いた。

「何にせよ勝った勝った」

「そうだね、ウチは魔法使う暇がなかったけど」

「この人の動きが速かったですからね」

「そういや、クロ。顔が戻ってるな」

「そういやそうだ、戦闘で忙しくて忘れてた」

「今度はこのひょっとこ面にする?」

「いえ結構です……」

「何にせよ、良かったですね」

「そうだな」

「では、皆、これから妖刀を抜いてみる。何かあったら頼むぞ」

ヒナはそう言って、『歌仙兼定』の前に座った。


 一行は緊張した面持ちで彼女の様子を見守る……。

今度は大丈夫だろうか、と思いつつも、四人には不思議と不安は無かった。

 そしてヒナは地面に落ちた『歌仙兼定』を手に取り、念を込めた。

特に彼女の様子に変わりは無い。静寂が周囲の空気を染めていく……。

……どうやら彼女は、妖刀の呪いに打ち勝ったようだ。

ヒナは皆のいる方へ振り返り、安堵の表情を見せた。

その事にに喜ぶ五人であった。


「ヒナ、よかったな。今回は暴走しなくて」

クロウの顔を見て、話しかけた。

「そうだな、其方達には助けられた。礼の言いようが見つからない」

「いいって、いいって。あたしらも楽しかったし」

エリーはそう言ってヒナを励ます。

「そうよね、なかなか面白い体験をしたわね」

「そうですね、このような結果になるとは思いませんでしたしね」

「そうだな、俺の頭も元に戻ったし、全部うまくいった」

「じゃあ、クロ、次はなんの仮面がいい?」

「それはもう勘弁……」

五人はそう談笑して、山を降りて行った。



 ――街へ戻り、ギルド拠点へと戻る一行。

そこでヒナは、妙なことを口にした。

「皆、知っているか? 『ドワーフ族の洞窟』の地下に、伝説の武器が眠っているという話を」

「そうなの? 初めて聞いたけど」

「某も聞いた話でな、確かめたわけではない」

「へぇ~、どんな武器なんだろ?」

「何でも、魔王と戦う時に必要な強力な武器らしい」

「魔王? そんな話すっかり忘れてたわ」

「そうでした、魔王がいるんでしたね」

「探しに行くなら、某も手伝おうか?」

「いや、大丈夫だよ、ヒナはヒナの目的のために力を注いだ方がいい」

「そうだよ、あたしらは適当だからね、色々やってた方がいいんだよ」

「そうね、ウチは衣装欲しいだけだしね」

「私も、なんとなく続けていたら、楽しくて」

「そうか……、だが、某の力が必要になったら、いつでも呼んでくれ」

「ああ、分かった。気兼ねなく呼ぶよ」

「うむ、では、さらばだ、また会おう」

ヒナはそう言って、この街を去って行った。


 その日の夜、四人は自分の職業ランクがSに達していることに気づいた。

これで自分たちは一流の冒険者だ、という思いが胸を満たす。

だが、明日からの冒険はより難しくなるのだろう。

 そう思いつつも、四人は明日に備え、眠りにつくのだった。

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