第17話 暗影、幽霊の住む洋館

 ――翌日、『リベルタス・ギルド拠点』

「クロさん、遅いですね……」

「遅いよね~、道に迷ってるのかしら?」

「きっとどっかで買い食いしてるんだよ」

エリーはそう言って、お土産の『ロゼルタ揚げ饅頭』を食べた。

「エリっち、お土産を自分で食べてどうするのよ?」

「クロが遅いからさ~、もう皆で食っちまおうよ」

「結構おいしいですね、でも食べ過ぎると太ってしまいそうですが」

リノのその発言に、エリーは一瞬体を硬直させたが、甘いものには勝てないようだ。

 そう話していると、入り口の扉が開き、

「ただいま~」

と、聞き覚えのある間抜けな声が聞こえてきた。

「クロ!」「クロっち!」「クロさん!」

三人は一斉に入り口を見る。

……そこにいたのは、頭が頭蓋骨になっている鎧を着た男だった。


 三人は戸惑いつつも、彼に尋ねた。

「クロ……、なのか?」

「クロさん……ですよね?」

「クロっち、変なもん食べた?」

頭蓋骨の男、すなわちクロウは答えた。

「いやさ~、『自然治癒』のスキルクエがこの状態から頭部を復活させる。ってなってるんだけど、やり方が分からないまま戻って来ちまったんだよ」

「その頭で喋ってる……、っていうか飯も食えないんじゃ?」

「メシは食えるしウンコも出るよ。ただ、街に入るとモンスターに間違われてね。昨日、この街に着いてたんだけど、入り口で追いかけまわされてさ。仕方なく夜にこっそり忍び込んで、今やっとここまで来れた。」

「大変だったのですね」

「うん、まあ」

「でもその頭って、どうやって治すの?」

「ん~、メシを食っても治らないし、どうしようかな、と」

「リノは何かアイディアある?」

「そうですね……、食事がダメなら、回復魔法を試してみますね」

完全治癒コンプリートヒール!」

リノは上位回復魔法をかけてみたが、クロウの頭は変わらなかった。

「ダメみたいですね……」

「まあ、ほっとけば治るかもしれないし、様子みてみるよ」

「でもその顔じゃ街歩けないよ?」

「ウチの頭装備いっぱいあるから、何か貸してあげるよ」

そう言って、フェイは自室へ入って行き、程なくして戻ってきた。

そしてクロウにウィッグを被せ、仮面を顔にかけた。

「うん、似合ってるにあってる」

「……これって、なまはげ? なんでこんなの持ってんの?」

「子供が泣き出しそう……」

「なまはげ……。でも街の中で追いかけられるよりいいか」

こうしてクロウの顔をなんとか隠した四人は、次の冒険へと向かった。



 ――『幽霊の住む洋館』

 今回のクエストの舞台である。そこに潜む魔物のボスを倒せ、というものだ。

その洋館は森の奥深いところにあり、外からの訪問者を拒んでいるように見える。

建物は二階建てで、外観には蔦が絡んでおり、とても人が住んでようには見えない。

いかにもホラー物の舞台となりそうな建物だ。


 クロウ達は入り口の扉を開け、中に入って行く。

「こんばんは……」

「中に人いないでしょうに」

「いや、幽霊いるみたいだしさ」

「挨拶、いる?」

「まあ、一応……」

一行が建物の中に入ると、そこは吹き抜けの広間になっていた。

辺りを見廻すと、正面に二階への階段が二つあり、広間の左右に扉、破れかけた絨毯、不気味な絵画などあるが、幽霊はいないようだ。

「とりあえず、探索してみようか」

そう言って洋館の中を歩いてみる。

〝ガシャーン〟

と、急に何かが落ちてきた。

音のした方を見ると、シャンデリアが落ちてきたようだ。

だがその上には三匹の幽霊が乗っていて、こちらを振り向きつつ、睨みつけてきた。

〝ギャーッ〟

しかしその幽霊達は、こちらと目を合わせるなり悲鳴をあげて逃げてしまった。

「なんだあれ?」

「あ~、クロが なまはげ の恰好してるから、ビビって逃げたんじゃ?」

「そうね、いきなり なまはげ が出てきたら、怖いしね」

「そうか……、どっちが怖がらせにきたのか分からんな」


 一行は左側の扉を開けて先に進む、廊下の先には二つ扉があった。

周囲に気を配りつつ慎重に歩みを進める……。

〝パリーン〟と、窓ガラスを割り、凶暴そうな黒い犬が二匹、飛び込んできた。

だが、〝キャゥンキャゥン〟と、その犬たちも尻尾を丸めて逃げ去ってしまった。

「これは……」

「便利でいいじゃん、ちょっと怖いけど」

「もっと怖いマスクを用意してたら、どうなったのかしら?」

「幽霊さん達も、自分達が怖がってしまうとは思ってなかったでしょうね……」

「まるでこっちが攻め込んで来たみたいだ……」


 クロウは廊下の扉を開け、中に入って行く。

「うわっ!」

突然現れた化け物の姿に驚く、しかしそれは、鏡に映った自分の顔だった。

「自分の顔が なまはげ なの忘れてた……」

「あたしらは見慣れてるから平気だけどね」

「いやもう、なんかね……」

四人は部屋の中を調べ始めた……。

しかし、特に何もみつからず、この部屋を後にした。


 そして廊下に出ると、もう一つの扉を開ける。

〝ギャーッ〟

突如、包丁を持った人形が襲ってきたが、なまはげ を見て逃げ出してしまった。

エリーは呆れて言う。

「なんか、今日は全部こんな感じで終わりそう」

フェイが答える。

「楽でいいじゃないの」


 次に一行は入り口広間へ戻り、反対側を捜索する。

食堂、厨房があり、幽霊もいたが、皆 なまはげ を見て逃げ出してしまった。

 気を取り直し、今度は二階へ上がり、捜索する。

左手へ進み、扉を開けた……。

ここは大部屋のようだ。

壁には絵画や装飾された剣が四本飾ってあり、大きなベッドやソファーがある。

それだけではなく、部屋の中央には赤い水たまりがあった。

「これ、『血』じゃないよね……?」

「どうだろう?」

 クロウはそう言って、水たまりへ向けて足を踏み出す。

その瞬間、壁に掛けてあった剣が四本、こちらへ飛びかかってきた。

「うわっ! 今度は剣か?」

「剣じゃ顔が見えないからだよ!」

そう言いつつも、迎撃する四人。

驚きはしたが、飛んできた剣を四本とも叩き落とすと、再び部屋は静かになった。

「少し驚いたけど、大したことない敵だな」

「ほんとに~? ちびってない?」

「だいじょうぶだって!」

 気が付くと、部屋の中央の赤い水たまりに、首の無い死体が四つ、倒れていた。

その死体の服装には見覚えがある……。クロウ、リノ、エリー、フェイの服装だ。

「なんだこれ? 趣味悪いな」

「これ、あたしらの恰好?」

「不気味よね……」

「いつからそこにあったのでしょうか?」

「部屋に入って来たときは無かったよね?」

「水たまりのそばには何もなかったはず」

そう話していると、先ほど床に落とした四本の剣が、死体の方へ転がって行った。

その四本の剣は四体の死体の手へと収まり、ゆっくりと首の無い死体が立ち上がる。

今度は四体の首の無い死体が剣を持ち、襲いかかってきた。

「うわっ! 怖っ!」

「自分そっくりの死体と戦うのか!」

そうは思っても、首の無い死体は四人に襲いかかって来る。

自分そっくりの首無し死体と戦うのは気味が悪かったが、程なくして彼らを倒した。

「……これは何なのでしょうか?」

「嫌がらせかな?」

「ちょっと趣味悪いね~」

「倒しても後味悪いわね」

そう話しつつ、この大部屋を調べたが、特に目立ったものは見つからなかった。


 今度は階段の右手のほうにある扉へと進む。

扉を開け、中へ入った。

この部屋は大きくないようだが、左手の壁に扉が一つある。

だが、部屋の中央に何かがいるようだ……。

そう思い、四人はそこへ目を凝らして見ようとした。

するとそこに、死神のような影が浮かび上がってきたのだ。

その死神は、声とも言えないような不気味な音で、高笑いする。

そして、手に持った鎌のようなものをこちらへ向けて一閃させたのだ。


 思わず身を守る四人、だが斬られたわけではないようだ。

「なんだ、今の……。あっ!」「「「えっ?」」」

四人は互いを見て、驚きの声を上げた。

……そこで彼らが見たものは、

なまはげ の頭のエリー。

リノの頭のフェイ。

エリーの頭のリノ。

フェイの頭のクロウだった。


「なんだこれ?」

なまはげ の頭のエリーが言った。

「なんで?」

エリーの頭のリノが驚いた。

「どういうことでしょうか?」

リノの頭のフェイが聞いた。

「え~っ、これはナイ」

フェイの頭のクロウが呆れた。

どうやら、四人の頭と体が入れ替わったようだ。


 部屋にいた死神は、再び不気味な音で高笑いして、ゆっくり消えていった。

「これはどうしたらいいんだ?」

なまはげ の頭のエリーは手足を動かしてみた。

「クロ、変なとこ触るなよ!」

エリーの頭のリノが なまはげ に怒った。

「銃が無いと落ち着きませんね……」

リノの頭のフェイが呟いた。

「あっ! 魔法が使えなくなってる!」

フェイの頭のクロウが驚いた。

「うわ、剣が無い」

なまはげ の頭のエリーは探した。

「クロっち、剣はこっち」

フェイの頭のクロウが答えた。

「あーもう、わけ分かんないよ!」

エリーの頭のリノが頭をかかえてしまった。


 四人は互いの顔を見ながら相談した。

「これは……どうしよう?」

「う~ん、困ったね」

「さっきの死神を追いかけるしかないようですね」

「他人なら面白いけど、自分がこうなると切実だわ……」

「とりあえず、武器を交換してから、死神を探そう」

「武器持っても体が違うから、思うように使えないよ」

「手ぶらよりはいい」

そうして四人は、武器だけ交換して、死神を探し始めた。


 まず、この部屋の開けてない扉の方を開ける。

部屋の中にはグランドピアノがあり、そこには白い服を着た女性の幽霊がいた。

彼女がピアノを弾き始め、部屋の中に曲が流れる……♪。

「この曲は……、スーパーマ〇オ?」

「ものすごくバカにされてますね……」

「ジャンプでもしてろってか? キノコよこせ!」

「ウチはフラワーがいいわね……」

女性の幽霊は四人を見て高笑いした後、煙のように消えていった。

誰も居ないピアノが曲を演奏し続ける……♪。

この曲でなかったら、さぞ不気味だっただろう……。

「とにかく、ここが最後の部屋だし、調べてみよう」

クロウがそう言い、四人は慣れない体で、このピアノの部屋を探し始めた。


 少しして、エリーは何か見つけたようだ。

「ここの壁に隠し扉があるよ」

その壁の隠し扉を開くと、そこには下へと続く階段があった。

「この階段、結構長いな」

「地下まで続いているかもよ」

「他に手がかりは無いし、行くしかないわね」

そう話して、一行はゆっくりと階段を降り始めた。

やはりその階段は長く、どうやら地下まで伸びているようだ。

ピアノが演奏している曲が、地下の曲に変わる……♪。

四人はこの状況に苛立ちを感じつつも、地下へと向かった。


 一行が階段を下まで降り、そこにあった扉を開ける。

その部屋は不気味な雰囲気にあふれていて、黒魔術の研究でもしていそうだった。

中央に魔法陣らしきものがあり、その周りを燭台の上のロウソクが照らしている。

突然、一陣の風が吹き、ロウソクの炎を揺らした。

魔法陣の中央に死神のような影が、ゆっくりと浮かび上がってくる。

先ほどと違うのは、死神の鎌が影のようなものでは無く、本物のようなのだ。

鎌の先の刃がロウソクに照らされて鈍く光り、動き始める。

どうやら彼はここで戦うつもりらしい、四人は武器を構えた。


 一行は死神と戦い始めた。

頭と体が違うので、剣も思うように振れず、魔法も使えない。

そんな状況であったが、なんとか敵の鎌をかわし、武器を振るう。

幸いなことに、その死神は力が強いわけでもなく、素早くもなかった。

四人が武器を振るい戦っていると、死神が悲鳴のような声を上げて消えていった。

そして床には、死神の持っていた鎌が取り残されていた。

「倒した……のか?」

「どうだろ?」

「体が元に戻ってませんね……」

「幽霊の本体を倒す必要があるのかな?」

「本体って、どっかにあるのか?」

「それらしいものは見なかったよね?」

「すでに見ていたのでしょうか……」

「ここにあったのに、気づかなかった、とか?」

四人はそれらしきものがあったか、と考え始めた。

「いいこと思いついた! 入り口に戻ろう」

クロウがそう言った。

「ほんとかよ?」

エリーはそう言ったが、自分に何か考えがあるわけでもない。

とりあえず、四人は館の入り口へ戻って行った。


 一行は館の入り口の広間に戻った。ここでクロウが口を開く。

「ここで雷神剣のリミッターを外して、この館ごとぶっ壊そう」

「えっ?」

「三人には先に外へ出てもらう」

「それでいいのでしょうか……?」

「何かを倒すか壊すとかなら、全部壊してしまおう」

「もしかしたら、洋館そのものが本体、とか?」

「分からないけど、危険に身を晒しながら探すよりはいい」

「う~ん、やってみないと分からないよね」

「そうですね……、心当たりは無いですし」

「全部壊して、最後に残ったものが本物、とかかな?」

「とにかく、思いついたことを、全部やってみるしかないと思うんだ」

「その最初のアイディアが全部壊すとかって、どうなのよ……」

そうは言つつも他に考えがある訳では無く、三人はクロウの案に乗ることにした。


 三人は先に洋館の外へ出て、離れて様子を見守る。

クロウは雷神剣のリミッターを外し、外側から洋館を壊し始めた。

落雷の轟音、木材が折れる音、建物が崩れる音など、激しい音が辺りに響く。

壁や床が崩れ、柱が折れ、木に火がついて燃え始める。

外からでは、なまはげ が雷撃を出しつつ館を破壊してるようにしか見えない。

そして建物が崩れ、砂埃が舞い上がり、それが徐々に晴れてくる……。

その頃には、四人の体が元へと戻っていた。


「クエスト達成できたね……」

「結局本体はどれだったのでしょうか……?」

「もう調べようが無いね……」

「こういう終わり方でいいのかな?」

「とても強引でしたね……」

「全部壊しちゃったからね……」

そう話していると、クロウが皆の元へ戻って来た。

館の魔物の正体は気にはなるが、館ごと壊してしまい、もう調べようが無い。

ここでのクエストを達成した四人は、街へ帰ることにした。



 一行は街でクエストの報告をして、報酬を受け取った。

今日のクエストで行った洋館の事は、結局よく分からないままだった。

その後、彼らは次の冒険への準備をして、明日に備えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る