第16話 特訓、スキルクエスト
――翌日。
エリーは皆が食堂に揃うと、こう言った。
「はい、それでは、今日からスキルクエストを各自こなしていきましょう。質問があってもあたしには分からないので、しないように」
「それって……」
「あたしも初めてやるから、分かりません」
「うぐ……」
「ジャーナルを開けば、ガイドが出てくるので、それを頼りに何とかして下さい。では、皆の幸運を祈る」
そう言って、エリーは一人で旅立って行った。
「よく分からないけど、やってみるしかないか」
「ウチも初めてだしね~」
「仕方ありませんね……」
そう話して、三人もそれぞれ自分のスキルクエストをする為、各地へ散って行った。
――エリーの場合、その1。
エリーは『遺跡の街・ロゼルタ』に来ていた。
ここで盗賊スキルのクエストをやるつもりである。
「う~ん、罠解除のスキルクエストは、ひたすら罠解除の練習か……。罠発見と開錠も同じだね」
そうひとりで呟いて、スキルクエストのため罠解除などを繰り返しやり続けた……。
しかし、その地味な作業にすぐ飽きてしまう。
「短剣と回避は……、こっちも一人で魔物狩りか……。どっちも地味すぎるな……」
「よし、そうだ、解除系と戦闘系を交互にやろう」
そう考えて、彼女は戦闘系スキルの訓練を始めた。
――フェイの場合、その1。
フェイは『エルフの村』へ来ていた。
彼女もまた、スキルクエストのためである。
「火と雷は無視して、氷魔法は……と。これ溶岩を凍らせるのか……」
「補助魔法は……ふむ。ウチの今覚えてる呪文じゃ足りないな、新しく覚えないと」
「召喚魔法は……なんだこれ……?」
フェイはとりあえず、先に氷魔法と補助魔法を修行することにした。
――リノの場合、その1。
リノは『王都ルティア』へ来ていた。
初めて来た街なので、若干戸惑ったが、街を歩いているうちに慣れてきたようだ。
「回復魔法、補助魔法、料理はここでできるのでいいのですが、銃は別の街ですね……」
「とりあえずできるものからやっていきましょう」
「まず回復魔法から……」
そうして彼女も、修練を始めた。
――クロウの場合、その1。
クロウは『ベルギス騎士団領』へ来ていた。
彼もまた、クエストのためである。
「剣術、防御はここでいいとして……『自然治癒』のスキルって……どこだここ? ここへは行ったことがないし、後回しだな」
「ふ~む、ここでは槍と斧槌系も修行できるのか、ちょっと興味あるからかじってみるか……」
「それにしても『雷神剣』使いやすくなったな……、あの爺さんのせいで危うく破壊王になるところだったけど……」
こうして、クロウも鍛錬を始めた。
――エリーの場合、その2。
「このバナナクレープ、おいし~い。ライムソーダに合うね。……えっと次はマンゴーシェイクかな? スイカシェイクってのもあるのか……。両方頼もう」
「ロゼルタ名物の揚げ饅頭、おいしいな~。帰りに皆の分も買って行ってあげよう。あとコーラも飲もう」
エリーは、修練をサボっていた……。単に飽きたからである。
短剣と回避の体を動かすスキルの修練は続けていたものの、解除系はサボって、ひたすら飲み食いしていたのだった……。
――フェイの場合、その2。
「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」
全身に炎を纏い続ける元テニスの選手が呼び出された。
「召喚! 出でよ! 土の精霊!」
石化されて足元に犬を連れた幕末の偉人が現れた。
「う~む、この四つの精霊を同時に呼び出すってのが難しいわね……、火と土は呼べるものの、水と風か……」
フェイは悩んでいた。
水と風の精霊のモデルになる人物が見つからなかったのである……。
――リノの場合、その2。
「俺が訓練教官のハットマン軍曹だ! 聞かれた時以外は口を開くな! 口でクソたれる前と後に『サー!』と言え! 分かったか、ウジ虫ども!」
「
「お前ら雌豚が俺の訓練に生き残れたら、お前達は兵器となり、戦争に祈りをささげる死の司祭となる。その日まではウジ虫だ! 地球上で最下層の生物だ! 貴様らは人間ではない! 両生類のクソをかき集めたもの以下だ!」
「
リノは銃術の訓練を受けるために、
果たして、彼女は生きて帰れるのだろうか……?
――クロウの場合、その2。
「ここか、クエストの場所は……。地下墓地だな……。何か出てきそうだ……」
クロウはスキルクエストのため、廃れた教会の地下にある地下墓地へ来ていた。
「骨のモンスターが出てきそうだな……」
そう思いつつも、地下への階段を降りて行く。
足元を小さなネズミのようなものが駆け抜けたり、コウモリか何かだろうか、キィキィ鳴く声が聞こえてくる。
「気味悪いな、さっさとクエ終わらせて街に戻ろう……」
そうして彼は、地下墓地への奥へと歩みを進めて行く。
彼もまた無事で済みそうにない……。
――エリーの場合、その3。
「やばっ! ウェストが!」
エリーは今まで着ていた服がピチピチになって、着るのに苦労していた。
「どうしてこんなんになった……」
……カロリー摂取と消費の引き算の問題である。
「ヤバイ、帰るまでに痩せないと……」
もはや彼女はここに来た目的を忘れてしまったようだ……。
――フェイの場合、その3。
「召喚! 出でよ! 水の精霊!」
「う~ん、水属性としてはいまいちかな……? あとは風の精霊か……」
フェイはついに水の精霊を呼び出す事に成功していた。
しかし、風の精霊はまだ呼び出せていないようだ……。
――リノの場合、その3。
「お前のにやけた顔が気に入らん! 萌え豚アニメのような醜さだ! 名前はチビか?」
「サー! 『リノ!』 サー!」
「おかしいか、チビ二等兵?」
「サー! ノー! サー!」
「その気色悪い笑みを消せ!」
「サー! イエス! サー!」
「今からお前は『微笑みチビ』だ!」
「サー! イエス! サー!」
このような罵声を浴びせつつ、ハットマン軍曹はゆっくり彼女の周りを回る……。
その時、〝パン〟と発砲音がして、ハットマン軍曹が頭を撃ち抜かれて倒れた。
どうやらリノの背後に回ってしまったらしい……。
……それから数日が経ち、四人が合流する日が来た。
フェイは自分の修行の成果に満足した表情でギルド拠点へと帰り、その扉を開けた。
中にいたのはエリーだった。しかしその様子がおかしい。
エリーはゲッソリと痩せていて、食堂の席に倒れるように座っていた。
「エリっち! どうしたの?」
「修行が厳しすぎて……、短剣Sと回避Sと『短剣二刀術』しか達成できなかったよ……」
……ただ飲み食いしてダイエットしてただけである。
「そんな厳しい修行だったのね……」
「ちょっと無理しすぎたかも……」
……ただの絶食である。
「大丈夫? リノっちは?」
「まだみたい……」
そう話していると、誰かがこのギルド拠点の扉を開けて入って来た。
二人は少し驚いてそちらを見る。
「ただいま帰りました」
入って来たのはリノだった。
しかし、その手には見慣れない大きな銃を持っていた。
「リノっち、おかえり。その銃は……?」
「『M16』です。この銃は詰まりやすく、こまめな手入れが必要なので、今から整備してきます。では」
リノはそう言い、自室へと上がって行った。
「メイド
「ヴェトナム帰りかもね……」
「そういえばクロは?」
「エリっちが見てないならまだじゃない?」
「そっか……」
だが、クロウはその日、帰って来なかった……。
いったい彼に何があったのだろうか。三人はそう思いつつ、一晩を過ごした……。
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