第20話 降臨、魔王の影

 一行は次の冒険に向けて、荷造りの準備に追われていた。

『砂漠の街・カシュタン』近くの『ピラミッド』、その地下にある『死者の宮殿』。

そこに『伝説の武器』があるという噂を聞きつけたのだ。

「ん~、荷造りはこんなもんかな」

「ずいぶん少ないね」

「そうか? まあ最低限の物にしたしな」

「ウチなんか着替えばっかで荷物運ぶの大変だよ」

「フェイは服持ちすぎなんだよ」

「リノっち、そのケースは?」

「『M16』です。やはり必要な時に武器が無いと困りますから」

「どこの軍と戦うんだろう……?」

そんな話をしつつ、四人は荷造りを終え、『砂漠の街・カシュタン』へ向かった。



 ――『砂漠の街・カシュタン』

 砂漠のオアシスで古代から続く街である。

この街の近くに『ピラミッド』があり、多くの観光客や冒険者で賑わっている。

そのピラミッドの地下には、数多くの死者に守られている『死者の宮殿』がある。

死者達は冒険者などに墓を荒らされないように、永遠にここを守り続けているのだ。

そして一行は、カシュタンに宿を取ると、ピラミッドの探索に向かった。


 ピラミッド内部では『マミー』と呼ばれるミイラが次々と襲ってくる。

彼らは力が強いわけでも動きが早いわけでもない。ただ、死なない。

彼らはすでに死んでいるので、体をバラバラにするか、燃やすしかないのである。

そんな敵を相手に、一行はうんざりしていた。

「マミーは数多いし、なかなか死なないな~」

「もう死んでるからね~」

「こんな所で火をつけまくったら、窒息しちゃうよ?」

「そうですね、体を破壊するのが無難ですね」

「地下までどれくらいあるんだろ?」

「さあ? マミーに聞いてみたら?」

「マミーに答えられても困るけどな」


 そうこう話していると、通路の先に小部屋が見つかり、一行はその中を様子見た。

小部屋にいたのは『巨人族のマミー』だった。

彼の身長は四メートル程あり、その頭まで剣が届きそうに無い。

「うわっ、デカイな」

「でも、やるしかないですよね」

四人は小部屋の中に入り、戦闘を始める。

クロウとエリーは武器を振るうも、彼の腹までしか武器が届かない。

氷結飛針アイスニードル!」

フェイの魔法が飛ぶも、マミーには効きにくいようだ。

彼はフェイの魔法を振り払い、腕を振り上げて襲ってくる。

その瞬間、マミーの片方の腕がドサッと落ちた。

リノが『アダマント製高枝切りバサミ』を使い、彼の腕を切り落としたのだ。

(剪定かよ!)

クロウはそう思いつつ、再びマミーに斬りかかる。

リノがもう一本の腕も器用に切り落とし、次にクロウとエリーが両脚を斬る。

いくら巨人族のマミーでも、手足が無ければ動きようがない。

最後にはフェイの魔法で氷漬けにされてしまったのだ。


 一行はその後もピラミッドの通路を、マミー達と戦いながら進んで行く。

クロウは『雷神剣』で斬り、エリーは『オルトロスの短剣』で斬る。

リノは『アダマント製高枝切りバサミ』を器用に使い、マミーを解体する。

これはもう戦闘ではなく、庭木の剪定をしてるようだった。


 そんな感じでピラミッド内部を降りて行き、ついに最下層らしい場所に着いた。

そこはかなり広い空間となっていて、天井も高く、二十メートルはあるようだ。

この広い場所の奥の方に建物らしきものがあり、四人はそこ目指して進んで行く。

その建物の前に立つと、そこはどうやら神殿らしく、古い装飾がなされていた。

この神殿の内部に『伝説の武器』があるのだろうか。

彼らはそう思いつつ、神殿に入って行った。


 神殿の内部はいたって簡素で、広間の奥に一つ鉄格子がみえる。

その鉄格子の前に誰かいるようだ……。近づいて声をかけてみた。

「なによ、アンタ達も来たの?」

神殿内にいたのは、『マオ』であった。

「ただ目的が同じなだけだって」

クロウがうんざりしつつ、答えた。

「仕方ないわね、アンタ達にも手伝わせてあげるから、感謝しなさい」

マオはそう言い、鉄格子の中を指差す。

「あそこにいるのは『ペルーダ』という火を吹くカメよ。その後ろにあるのは『斧』。そして奥にも鉄格子があって、先に進めるのよ」

「なるほど、『伝説の斧』を守ってるんだな」

「多分、あのカメを倒さないと、奥にはいけないと思うわ。さあ、行きなさい!」

「えっ? マオが行くんじゃないの?」

「アタシは関節技まほうが得意だけど、カメとかは論外なのよね」

「何とかビームは?」

「アンタ達は時間稼ぎよ、さっさと行きなさい!」

マオにそう言われ、四人は渋々鉄格子の扉を開け、中に入る。


氷結飛針アイスニードル!」

フェイの魔法で先手を取り、クロウ達はペルーダに斬りかかる。

ペルーダは口から火を吹くが、

氷柱障壁アイスウォール!」

と、フェイの氷魔法に防がれてしまう。

その隙に、リノの銃撃とマオの『魔法少女ビーム』で彼の四本の足を撃ち抜く。

クロウが頭めがけて斬り下ろすと、魔物は頭と手足を甲羅に引っ込めてしまった。

霜霧凍結ダイヤモンドダスト!」

だがそこへ、フェイの魔法がペルーダを包み込み、凍結させて倒した。

戦い慣れた四人と一人にとっては、造作もないことであった。

「アンタ達、なかなかやるじゃない。次行くわよ!」

マオはそう言い放ち、次の鉄格子へと向かった。

「ちょっと待て、斧取ってくる」

クロウが斧を取ってくる。『ペルーダの斧』というものだった。

「なにやってんの! 速くしなさい!」

マオにせっつかれ、彼女の後を追った。


 次の鉄格子の中にいたのは、翼の生えた大蛇である。

その後ろに『槍』が見えた。

「あれは『ヤクルス』ね。見ての通りの空飛ぶヘビよ。毒をもってるし、動きが速いから気をつけなさい!」

マオはそう言って先に中へ入って行く。

彼女の『魔法少女ビーム』で戦いが始まり、五人はヤクルスに攻撃を始めた。

マオの光線、フェイの魔法が思うように当たらず、上空を取られて苦戦する。

しかし、リノの『M16』の狙撃でヤクルスが羽を撃たれると、形勢は逆転した。

クロウとエリーが地に落ちたヤクルスを斬りつけて、ついに倒したのだ。

「さあ、次よ!」

マオはそう言い、次の鉄格子へ向かう。

エリーが槍を手に取った。『ヤクルスの槍』という物だった。

四人はマオについて行き。鉄格子の中を覗いた。


 鉄格子の中には美しい女性の精霊がいた。

その後ろにあるのは『短い杖』のようである。

「やっと見つけたわ! アレはアタシのもの、いい?」

「あ、うん、それでいいよ」

「よしよし、いい子ね。ちなみにアレは『ルサールカ』という妖精よ。じゃあさっさと片付けてくるから、そこで見てなさい」

「人型相手には強気だよね……」

エリーはそうボソっと言ったが、マオには気づかれなかったようだ。

マオは鉄格子の中に入るとすぐ、『魔法少女ビーム』を撃ち、先制する。

怒ったルサールカがマオめがけて襲ってくるが、逆にマオは彼女の体を掴み、関節技まほうをかけ始めた。

「48の殺人魔法のナンバースリー、『魔法少女風林火山』!」

マオはそう叫ぶと、相手をダブルアームに捕らえて回転し、床に叩き付けた。

次にローリングクレイドルの体勢で空中へ飛び上がる。

さらにパイルドライバーで落下し、最後にロメロスペシャルを決めた。

ルサールカはマオの四連続の基本関節技まほうに耐えきれず、動かなくなってしまった。


「これで……、ついに……!」

マオは目を輝かせ、『短い杖』を手に取った……。

するとどうだろう、彼女の体から暗黒の空気のようなものが出始め、揺らいでゆく。

「フハハハハハ! 魔力がみなぎり体が動く!! すがすがしい気分だ!!」

マオは手にした杖を頭上に高く掲げ、叫ぶ。

「なじむ! 実に! なじむぞ! フハハハハハフハハフハフハフハフハハ!」

「これほどまでにッ! 絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ……フハハハ!」

「最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアハハハハハハハーッ!」

マオが体中から暗黒の魔力を振り撒きつつ、こちらを振り向く。

……彼女の額には『魔』の文字が刻まれていた。

「アタシは魔王『マオ』! この世界を滅ぼし、アタシこそが勝利者となるのよ!!」


 突然の出来事に呆然とする一行。

四人がマオを見つめたまま全く動けないように見えた。

だが……、

「知ってた。顔に書いてあったし」

エリーはあっさりとそう言った。

「なにっ!?」

 マオは驚きを隠せなかった。

エリーは肘でフェイを小突き、合図を送る。

「知ってたわ。背中に『私は魔王』って紙が貼ってあったし」

フェイはとぼけてそう言った。

「なんだとっ!?」

 マオは動揺してしまう。

フェイはリノを肘で小突き、合図を送る。

「知ってました。名前が『マオ』ですから」

リノは真顔で言った。

「バレていたのか……!?」

 マオは額に冷や汗を浮かべてしまう。

リノはクロウに肘で合図を送る。

「知ってた。俺達のギルド名が『我々の中に裏切り者ガイル』だし」

クロウは普通に言った。

(((あれか……?)))

「くっ……」

 マオは悔しさに顔を歪める。

「ウソだよ~ん!」

エリーはおどけてマオをバカにしてみせた。

 マオはこめかみに血管を浮き上がらせ、怒りに満ちた表情で叫んだ。

「ぜったいに許さんぞ虫けらども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!」

「そのネタもうやったし~」

さらにフェイがふざけてマオをからかった。

 マオが怒りのあまり、顔を赤く染めてこちらを睨んで言った。

「ア、アンタ達……。だけど知っていたからと言ってどうなるわけでは無いわ! まずアンタ達から始末してあげるわ!!」

マオは懐から何かを取り出し、口に入れた。

「これはニンニクよ……、これでアタシは十倍……」

徐々にマオの身長が伸び始め、五メートル……十メートル……、それ以上となった。

神殿の天井が崩れ始め、四人は神殿の外へ走って避難した。


「おい……、成長期が過ぎるぞ……」

クロウはマオを見上げて言った。

「ちょっとバカにしすぎたかな……」

エリーは反省していないようだ。

「そういやアレ、連載初期はあんな感じだったわね……」

フェイが呟いた。

「結構大きいですね」

リノはマオを見上げて言った。

 だがそこでフェイが、一歩前に出てキメ顔で言う。

「こんなこともあろうかと思って取っておいた、ウチの新魔法、見せてあげるわ!」

そして召喚魔法の挙動を始め、叫ぶ。

「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」

全身に炎を纏い続ける元テニスの選手を呼び出した。

「召喚! 出でよ! 土の精霊!」

足元に犬を連れて石化されてしまった幕末の偉人が現れた。

「召喚! 出でよ! 水の精霊!」

ハゲ散らかした貧相なおっさんを呼び出した。

「大召喚! 精霊融合!」

彼女がそう叫ぶと、三体の精霊が円陣を組み、光りを放ち徐々に大きくなっていく。

そしてそこに現れたのは、巨大なロボット、だが脚の無いもの、だった。

「これがウチの新魔法、精霊融合『ガソダム』よ!」

フェイは得意げな顔でそう言った。

だが、そのロボの出来は非常に悪く、似ているかどうか怪しいものだった……。

「フェイ……、これ、どっかでみたことある……」

エリーは呆れて言った。

「大丈夫よ、かなり似てないわ」

「それに脚もついてないよ……?」

「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです」

「はぁ~、もういいからやっちゃって……」

「翔べ! ガソダム!」

フェイの掛け声で、残念なロボが巨大化マオに立ち向かって行った。


 巨大化マオと残念ロボが戦いを始める。

十メートル以上の大きさのぶつかり合いは、地面を激しく揺らした。

両者は互いに殴り合いを始め、どちらも引くことをしないようだ。

 その様子を四人はお茶を飲みながら、この戦いの行く末を見守っていた。

「フェイ、この戦いいつまで続くの?」

エリーが訪ねた。

「そうね、マオっちが先に力尽きて背が縮んでくれるといいんだけど」

フェイはそう答えた。

「ブービートラップでも仕掛けておきましょうか?」

リノが皆に尋ねた。

「多分、俺達が引っかかりそうだ」

クロウがそう言って、二匹の戦いを見守った。

そんな話をしていると、巨大化マオと残念ロボの戦いの終わりが見えてきた。


 巨大化マオの指からの光線が、残念ロボの頭部を貫き、吹き飛ばす。

残念ロボはそのダメージで精霊融合を解除され、小さくなり消えてしまった。

だが、マオの方も力を消費しすぎたのか、少し背が縮んだように見える。

「よし、いっちょやるか!」

クロウが気合を入れた。

「そうだね、ここまで来たら何とかしないとね」

エリーも腹を決めたようだ。

「これが最後の戦いね、いいとこ見せないとね」

フェイもやる気になったようだ。

リノは少し離れた瓦礫の陰からM16を構え、巨大化マオの額を狙い、狙撃した。

その銃弾はマオに当たったものの、かすり傷しか与えられなかった。

「ちッ、ネズミ共が……」

巨大化マオはこちらへ注意を向け始め、指から光線を出してくる。

リノは一発撃つと場所を変え、瓦礫に隠れながら次の狙撃ポイントを探す。

クロウは巨大化マオへ向けて雷神剣を振り、電撃を放出しながら斬りつけた。

フェイは彼女の顔めがけて氷魔法を放ち、牽制する。

エリーは隠れてタイミングを見ながら、彼女のかかとを狙い、斬りつける。


 今まで何度も彼らがやってきた四人の連携攻撃で、巨大化マオは少しずつ背が縮んでいくように見えた。

だが、このまま消耗戦が続くのはマズイ。

先に削り潰されるのはこちらだ、とクロウは思った。

クロウは巨大化マオの正面に立ちはだかり、

「みんな、ちょっと暴れるぞ!」

そう叫んだ。

彼の意図を察知した三人は、巨大化マオから離れ、物陰に身を隠した。

クロウは雷神剣のリミッターを外し、気合を入れて剣を頭上に掲げた。

「うおおおっっ! 俺の小宇宙コスモが真っ赤に燃える! お前を倒せと輝き叫ぶ!! 『雷神剣・ナントカ斬り』!!!」

そう叫びながら、激しい突き・・を繰り出した。

(何かネタが混ざってるぞ……?)

(技の名前、思いつかなかったの……?)

(斬りと言いながら突き技でしょうか……?)

三人はそれぞれツッコミたかったが、そんな暇もない。

クロウの雷神剣の突きは、剣先から十三本の雷撃が飛び出し、蛇のように彼女に絡みついた。

「うぐっ! なんだこれは……?」

マオはその技に意表を突かれ、体中を雷で縛られ、大きなダメージを受けてしまう。

「ぐああっ!」

彼女は何とか指先を伸ばしてクロウに光線を出そうとするも、リノに手を狙撃され、狙いが外れてしまう。

「チィッ!」

蛇の形の雷がさらに彼女を締め上げ、閃光と共に爆発霧散した。

「ぐああああっ!」

辛うじてそこに立っているマオは、背が縮んで元の身長に戻ってしまったようだ。


 ……思わず片膝をついてしまったマオ。

その目前にクロウが立ちはだかる。

「終わりだ、マオ……」

「くっ……」

マオは何とか立ち上がり、指を上げようとするも、今度はエリーにナイフを投げられ、手を刺されてしまう。

そこへリノの狙撃がマオの額をかすめ、額の『魔』の文字をかすり、消してしまう。

その衝撃で彼女は仰向けに倒れてしまい、もう動く力は無さそうだった……。

「マオ、敗北を認めるんだ……」

クロウは雷神剣をマオの顔に向け、言った。

辺りが静寂に包まれる……。

突如、マオはその剣を払って上体を起こし、指から光線を出す。

「バカめ!」

その光線はエリーに向かって飛び、彼女の胸に当たり、彼女を突き飛ばした。

「ッ!」

三人は驚いてエリーの方を見る。

だが、エリーはゆっくり起き上がると、胸元から『詐欺師の短剣』を取り出した。

「いって~、危なく親友のハゲみたいに殺されるところだった……」

エリーの無事を確認し、安堵する三人。

クロウはマオを突き倒し、再び彼女にに剣を向けた。

「じゃあな、マオ」

そう言って、彼女の顔の横に雷神剣を突き刺した。

再度蛇のような電撃が剣から出て、彼女の体を包み込んでいった。

「ぐあああああぁっ!」

その時、辺りに何かの音が流れ始めた。


【パンピンプンペンポン♪

 『ブラックスワン』、開発チームです。

 『魔王・マオ』は、クロウ、リノ、エリー、フェイによって倒されました。

 勝利者に祝福を。

 『シーズン3』はこれで終了となります。

 このサーバーは二十四時間以内に停止されるので、

 プレイヤーの皆さんは用事が済み次第ログアウトしてください。

 以上、システムメッセージでした。

 パンピンプンペンポン♪】


「あれ? 終わり?」

クロウは驚いてみんなの顔を見た。

「そうみたいですね。私達が勝ったみたいです」

リノは微笑んで言った。

「全く、人騒がせだな……」

エリーは立ち上がり、みんなのほうへ歩いて行く。

「これでウチらが賞金ゲットだね」

フェイも喜んでそう言った。

……こうして彼らはシーズン3の勝利者となり、リベルタスの街に凱旋した。



 一行はリベルタスの街へ戻ると、祝宴をあげた。

彼らのギルド拠点には大勢の人が詰めかけ、中に人が入りきれないので、街中がお祭りのような騒ぎになった。

過去に一緒に戦った者達、グレイス、ウィグラフ、ヒナ、ドルフなども、そこへ顔を出し、四人を祝った。

 その祝宴はサーバーが閉じるまで続き。そこにいた全員が大きく楽しんだ。


ついに四人は『シーズン3』の勝利者となり、見事賞金を獲得したのであった……。




 ――第一部・完

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