第15話 崩壊、邪教の神殿

 ――翌朝の事である。

ギルド『我々の中に裏切り者ガイル』の拠点の一部が、轟音と共に爆発した。

その場所はどうやらクロウの部屋らしい。

リノ、エリー、フェイが驚いて彼の部屋に駆け付ける。

部屋の中には、『雷神剣』を手にしたまま呆然として立っている彼の姿があった。

「おい、何やってんだ!」

「一体どうしたの?」

「大丈夫ですか? お怪我は?」

「……いやその……、試しに剣を素振りしたら、突然雷撃が飛び出して……」

クロウはよく状況が把握できてないような感じでそう答えた。

「あ~もう、修理代は自腹だぞ!」

「えぇ~、そんな……。……スマン……」

クロウは少し落ち込みつつも、準備を整えて食堂へ降りて行った。


 食堂のテーブルには、リノの作ったおにぎりが皿に並べてあった。

クロウは空いている席に着いて、真面目な顔で話し始めた。

「この新しい『雷神剣』の名前、どうしよう?」

「適当でいいじゃん。『ニュー雷神剣』とか」

「『雷神剣マーク2』とかでもいいよ」

「『聖剣ライトニングさん』ではどうでしょう?」

「う~ん、どれもしっくりこないんだよな~」

「そうは言っても、あたしらに命名任せたら、もっと酷いことになるよ?」

「俺が考えても……、まあそのうちいいアイディアが浮かぶかな? とりあえず『雷神剣』のままでいいや」

そう話しつつ、四人は朝食を食べ終えると、次のクエストへと向かった。


 そしていつものように、エリーがクエストを受注してきた。

「ハイ、次のクエストは『邪教の神殿にたむろする狂信者を殲滅せよ!』です。では行きましょう」

一行はいつもの調子で、次のクエストの目的地へと向かった。


 一行が目的地の『邪教の神殿』に近づくと、岩陰で四人の冒険者が休んでいた。

「皆さん、こちらで何をしているのでしょうか? 何か困ったことがありましたら、お力になれるかもしれませんし、話を聞かせて下さいますか?」

リノはそう言って彼らに話しかけた。

それに対して、一人の若い騎士が答える。

「ありがとう。ここにいる四人は大丈夫だけど、僕達の隊長が『邪教の神殿』で捕まってしまってね……」

彼らは騎士と捕まるという言葉に対し、嫌な予感がしたが、続けて話を聞いた。

「あ、僕は『マーカス』って名前だ」

四人はそれぞれ名乗った。

「僕達の隊長は強いんだけど、いつも一人で無理しすぎるんだよね。今回も僕らを逃がす為に捕まったし……。そういや君達は、あの『邪教の神殿』へ行くのかい?」

「そのつもりです」

「じゃあさ、もし良かったらだけど、僕達の隊長を助けてくれないか?」

「どのような方でしょうか?」

「名前を『グレイス』っていう女騎士だ。彼女のメガネがここにあるから、持って行ってくれないか?」

(((やばい……)))

「はい、分かりました。一度会ったことがあると思うので、大丈夫だと思います」

「そうか、それは話が早い。助かるよ」

「あのさ~、君らの隊長ってちょっとアレじゃない?」

エリーが口を挟みだした。

「どういうこと? 隊長はメガネが無いとダメ人間だけど、いい所もあるんだよ」

「どんな?」

「ロープの使い方が上手い、というか、苦しくもなく丁度気持ちいい感じで……」

「あーハイハイ分かりました。もうそれ以上はいいや」

「えっ?」

「まあ、どっかにいたら助けといてやるよ。多分地下牢だろうけど」

「良く分からないが、すまない、助かるよ」

彼らとそう話し終えた後、四人は『邪教の神殿』へと向かった。


 ――『邪教の神殿』

 邪神を祭る教信者達が建てたと言われる神殿である。

外観は荘厳で物々しく、過剰な装飾が目立つ。

一行は神殿正面の出入口から入るのを避け、裏口から入ることにした。

「なあ、あの女騎士、助けるのか?」

「ええ、怪我でもしてたら大変ですし、助けてあげましょう」

「彼女は捕まって喜んでるかもよ?」

「メガネかけた時とどっちが本当の彼女なのかしら?」

「なんかどっちも趣味でやってるっぽいんだよな……」

リノを除く三人は、グレイスの救出に乗り気ではないようだ。

しかしリノの手前、反対することもできず、重い足取りであった。


 とりあえず、一行は神殿の裏口から入り、地下への階段を探す。

それはすぐ見つかり、四人は地下へ降りて行った。

地下の部屋では、五人の教信者達が何かの薬を作っているようだ。

だが、彼らに気づかれずに奥へ進めないようなので、四人は戦う事にした。

 クロウが彼らに斬り込み、剣を振るう。

すると、轟音と共に雷撃が部屋の中を駆け巡り、一瞬で教信者五人を倒した。

しかもそれだけでなく、部屋の壁や天井まで壊してしまったようだ。

「ちょっと! もうちょっと静かに!」

「えぇっ? 加減が難しいんだよな、コレ」

「もうさっきの音で気づかれてると思うわ」

「仕方ない、敵を斬りながら進もう」

彼らはそう話して、静かに進むのでは無く、堂々と敵を倒しながら進むことにした。


 地下を一通り探し回る。牢屋はあったが誰も捕らえられていないようだ。

地下をあらかた探したものの、どうやら地下にはグレイスはいないらしい。

「地下にいないのか、上の部屋かな?」

そう言って階段を登り、一階を探し始める。

廊下、小部屋、礼拝所、台所、と狂信者達を斬り、神殿の壁を壊しながら進む。

もうこれは災害と言っていいレベルだった。

「あのさ~、クロ。この剣、強すぎない?」

「うん、ちょっとこれじゃうるさすぎて、どこで戦っても敵に見つかるよな」

「力加減でなんとかならない?」

「色々試してるんだけどね……」

「この剣の力を抑える何かがあればいいんでしょうけど……」

「困ったな、これじゃ自分が破壊の魔王みたいだ……」

そう話していると、さらに廊下の奥から狂信者達が迫ってくる。

そしてそれを轟音と共に蹴散らしてしまうクロウ。

もうこれは戦いというより虐殺に近いものだった。


 そうしているうちに、一階を調べ終わり、二階へと一行は足を進めた。

二階でも新しい雷神剣は暴れ回り、いつのまにか狂信者達は逃げてしまったようだ。

「グレイスさん、いませんね……」

「もう逃げたのかな?」

「それだといいんだけどね」

「いないものはしょうがないわね……」


 そう言いつつも二階を探し回る一行。

二階もほぼ調べ終わり、まだ調べていないのは目の前の扉が最後となった。

そしてその扉を開け、中にいたのは、他ならぬ『グレイス』だった。

「愚か者め、我らの聖地へ攻め込んで来るとはな……」

グレイスはそう言い、四人を睨みつけた。

その顔には、以前着けていたメガネとは違う物がかけられていた。

「グレイスさん!」

「メガネが違うのか……」

「メガネが変わると人格も変わるの?」

「メガネ外しても変わるし、そういう人なのかも?」

「我らが神の天罰、思い知るがいい!」

そう言ってグレイスはムチを一閃させ、続けて魔法を使う素振りを見せる。

(やばい、あの恥ずかしい魔法だ!)

そう思い、クロウは咄嗟に剣で身を守った。

性癖分析リビドーアナライズ!」

彼女の魔法の掛け声と時を同じく、剣から無数の雷撃が飛び出し、周囲を破壊する。

強烈な閃光と轟音の後、床が音を立てて崩れ始めた。

「やばい!」「きゃっ」「うわっ」「ひいっ」

四人は悲鳴をあげつつ、崩れた床と共に下の階へと落ちていった。

目前の視界を遮る砂埃が晴れてくると、仲間の安否を気遣う。

「大丈夫か?」「はい」「勘弁してくれよ」「大丈夫よ」

「彼女は?」

ふとグレイスが気になり、彼女のいた方向を目で探す。

床の残骸に紛れて、彼女の両足らしきものが下から突き出ていた。

(犬神家かよ……)

 クロウはそう思いつつもグレイスの足を引っ張り、彼女を助け出した。

彼女の顔はホコリで真っ白になり、まるでパックをしているようになっている。

どうやら意識はあるようだが、先ほどあったメガネは無くなっていた。


 リノがグレイスの傷の手当てを始める……。

グレイスは意識を取り戻し、何度か咳込んだ。

「すまん、グレイス。やりすぎてしまったようだ」

「くっ、殺せ……」

「いやそれはいいから!」

グレイスにマーカスから預かっていたメガネを渡して、彼女の顔にかけた。

「すまない、また助けられたようだな……」

「なんでここのボスになってたのよ?」

エリーが尋ねた。

「戦ってる時にメガネを落としてしまってな……、敵に捕まった時にメガネを貸してもらったら、何故か洗脳されてしまったようなのだ……」

「ずいぶん器用なことするね……」

「仕方あるまい、私はメガネが無いと……」

「もうこれは、メガネの方に人格があるみたいだわ」

「でもまあ、グレイスと戦わなくて良かったよ」

「あの変な魔法はかけられたくないしね……」

「そうだ、私の部下たちは無事か?」

「生きてるよ。彼らにグレイスを助けるように頼まれたんだ」

「そうか、申し訳ない……」

「俺もグレイスに怪我させちゃったし、気にすんな」

そう話しているうちに、リノはグレイスの手当てを終えたようだ。

四人は彼女を仲間の元に送り届けてから、街へと帰って行った。



 一行が街のギルド拠点へ戻ると、小さな荷物が届いていた。

送り主は鍛冶師ドルフらしい。

その荷物を開けてみると、宝石のようなものが入った金属片と、手紙があった。

〝大変申し訳ないが、この前鍛錬した雷神剣、部品を一つ忘れていたようじゃ。剣の柄にはめ込むだけだから、自分で取り付けてくれんか。これをつけないと、剣の威力が常に最大になってしまうのじゃ。じゃあの〟

その手紙を見て、クロウはワナワナと手を震わせつつ呟く。

「あのジジイ……」

クロウは怒りをこらえきれず、何かに当たりたくなったが、ここに怒りをぶつける相手もいないので、どうしようもなかった。


 クエストを報告すると、四人は全員Aランクへと昇格した。

そこでエリーは一つ提案をした。

「全員Aランクになったことだし、明日からはスキルクエストをやろう!」

「スキルクエスト?」

「それって何でしょうか?」

「では説明します。各種スキルはAランクまでは普通に上がりますが、スキルランクをSにする為には、それぞれのスキルのクエストを達成しなければなりません。職業によって各自持っているスキルが違うので、一人で自分の持っているスキルのクエストを達成する必要があるのです」

「へぇ~、そうなのか」

「そうなのですか……」

「そういうわけなので、明日からは各自別行動を取って、スキルクエストをやることにしましょう!」

 こうして四人は本日のクエストを終えて、明日からのスキルクエストに備えて休む事にしたのだ。

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