第14話 再鍛、ドワーフの鍛冶師

 ――一行は山の高台の陰からボスモンスター『オーガ』の様子を覗っていた。

 もちろんクエストの為である。

そのオーガは全身の筋肉が異常に発達していて、いかにも獰猛そうな顔をしていた。

「あのオーガの筋肉、凄いな」

「あの筋肉じゃあ絶対背中に鬼の顔が浮かんでるよ……」

「脳まで鬼の顔になってそうだわ……」

「うまいものも毒も食べてそうですよね」

「調べてみるわ! 健康分析ヘルスアナライズ! 彼の名は『地上最強男ユジロー』よ。安いキャンディーが好物だわ」

「冗談は置いといて、どうやって戦おうか?」

「おとり作戦よ! クロウがおとり」

「勘弁してください……」

「ウチの召喚魔法じゃ瞬殺されそうだしね」

「何か弱点はないのでしょうか?」

「楽に勝ちたいんだけどな~」

「贅沢言うなよ。どの道戦士が前に立つんだから、早く行ってこい」

「えぇ……、ロクに考えないのいつもの事だけど、痛いのは……」

エリーはクロウを手で追い払う仕草をして、彼に戦うように促した。

クロウは渋々ユジローに向かって戦いを挑んだ。


 クロウは恐る恐るユジローに近づいて行くが、彼の迫力に圧倒されて怯んでいた。

すると〝パン〟という発砲音が辺りに響き渡り、突然ユジローは地面に倒れた。

彼はどうやら眠っているようだが……。

 クロウが後ろを振り返ると、発砲したのはやはりリノだった。

「なぜか麻酔銃に弱そうな気がしたので、昨日買った麻酔弾を試してみました」

「あぁ、こいつはそういう黒歴史だったな……」

「そうだったね……」

 そう言うと、クロウはユジローに止めを刺しに近づいた。

剣を両手に持ち、彼に深々と突き刺した、はずだった……。

〝パキーン〟と金属の割れる音がして、彼の雷神剣は折れてしまったのだ……。



 一行は街の拠点へと戻り、クエストを報告した。

クロウは酷く落ち込んでいて、部屋の隅で体育座りでぼんやりしていた。

「クロ、そう落ち込むなよ。また新しい剣拾いに行こうよ」

「そうね、あの剣はあれが寿命だったのよ」

「残念ですが、折れた剣はどうにも……」

「うん……」

力なくうなずくクロウ。彼女達は気遣っていたが、どうにかなるものでもない。

だがその時、〝ドンドン〟と、この家の扉をノックする音が聞こえてきた。

「は~い、どうぞー」

エリーが答えた。

扉を開けて中に入って来たのは、面識の無いドワーフの男だった。


 彼は背が低くがっしりしていて、口に長いひげを蓄え、ドワーフ族にありがちな服装をしていた。そしてその背には、長柄の鉄槌を背負っている。

「どうも、こんにちわ。儂はドワーフの『ドルフ』というものだ。鍛冶仕事をメインにしておる」

リノが彼を出迎えた。

「えっと、どのような御用でしょうか?」

「儂の知り合いにな、『ウィグラフ』というアホがおってな、そいつの頼みでここへ来たのじゃよ」

「おっさんの知り合い?」

リノはドルフに席を勧め、紅茶を出した。

「まあ長い話は置いといてじゃな、あやつにこの変な名前のギルドに行って、困っていたら助けてやってくれ、と頼まれたんじゃ」

「へぇ~、あのおっさんも粋なことするじゃないの」

「儂は戦いより鍛冶仕事が得意でな、この街に何日か滞在するから、ついでに何か用事でもあればと聞きに来たのじゃよ」

「爺さん! 折れた剣は直せるか?」

今まで沈んでいたクロウが突然立ち上がり、喋り出した。

「うむ、できるぞ、Aランクならコボルト鉱、Sランクならアマダントかオリハルコンがあればなんとかなるな」

「アマダントじゃなくてアダマントじゃないかしら?」

「ハッハ! そうとも言う。儂はカタカナ覚えるのが苦手でな、よく間違う」

「爺さん! 俺の剣を見てくれ!」

クロウはそう言って、折れた雷神剣を持って来た。


 ドルフは雷神剣を少し眺めて言った。

「これは雷神剣か……、Sランクの剣じゃが、かなりくたびれておるの」

「えっ? そういえば結構使ってたしな……」

「あちこち刃こぼれしとるし、手入れをしとらんからじゃな」

「そうか、じゃあアダマントがあれば直せるんだな、鉱石この前拾ったよな?」

クロウはかなり慌てて早口でそう言った。

〝チッ〟

「ああ、直せるぞ」

「爺さん、今舌打ちしなかった!?」

「気のせいじゃろ……」

ドルフは目を逸らし、続けて言う。

「……この剣をただ直すだけならアダマントン鉱石で充分だが、オリハルコンがあればさらに強くなるぞ」

「本当か!? で、それはどこにあるんだ?」

「『竜背山脈』の中腹にあるという、巨人族の集落で採れる、と聞いたことがある」

「よし、みんな行こう!」

「クロ、武器は?」

「あっ、そうか」

「なんじゃ、手持ちが無いのか。儂の剣を貸してやる。使ってないがいいものだ」

と言い、ドルフは自分の手荷物から剣を取り出した。

「これは『竜千年殺しドラゴンカンチョー』という剣じゃ。折らずに返すのだぞ」

「この名前……、でもありがとう、爺さん!」

そういう話をして、ドルフが帰った後、一行は『竜背山脈』へと向かった。



 ――『竜背山脈』

 ここは世界を作ったという巨大な始祖竜がこの地で倒れ、その背骨の上に土が重なり、山脈になったという伝説がある。

この山脈は中腹に巨人族、雪男などが住み、山頂付近には竜族が住んでいるらしい。

冒険の為、この山脈を訪れる者は多い。

だが、無事に帰って来れる者は少ない、という難所でもある。


 一行は麓の村で情報を集めてから、山脈の中腹へと向かった。

しかし巨人族の集落は中々見つからず、強い風が吹くこの地の探索は進まなかった。

「見つからないな、本当にこの辺りなんだろうか?」

「一応、麓の村で聞いた話ではここいらだよ」

「でも、足跡すら見つからないのは変よね」

「あっ、あそこに洞穴があります、少し休みましょう」

リノがそう言って、休憩を取ろうと提案した。


 洞穴の中には何者かの足音が残っており、奥にはたき火らしきものが見える。

一行は用心しながら奥へ進むと、そこには全身をキノコに寄生された魔物がいた。

四人は武器を手に取り、戦う構えを見せた。だが、

「お~、久しぶりじゃねぇか、元気してたか?」

そのキノコの化け物は、聞き覚えがある声で話しかけてきた。

「その声は……、おっさん!?」

四人は驚いて彼の姿をもう一度よく見た。

その声はウィグラフらしいが、どうして全身キノコなのだろう。

ファッションではないようだし……。

 などと思っていると、ウィグラフは続けて話し始めた。

「いやなぁ~、ここら辺に珍しいキノコがあるって聞いて、食べに来たんだが、そのキノコを食べたら、思うように歩けなくなってな、難儀してたんだ」

「その姿で『元気か?』は無いって!」

「おっさん……、食うどころか食われかかってるし……」

「一体何を食べたのかしら……?」

「これは……、どうしましょう……」

「もうなんか体中からキノコが生えてきてな……、でもこれ食えるぞ、食うか?」

ウィグラフは自分の体からキノコをもぎ取り、渡そうとした。

「いらん!」

だが、エリーに払い落された。


「リノっち、分かる?」

「始めて見る症状ですけど、やってみます」

そう言って、リノはウィグラフの症状を見始める。

「そういやさ、お前らなんでここに?」

「剣が折れたので、修理に使うオリハルコンを探しに」

「ドルフってドワーフのお爺さんが訪ねて来てね、そう言われたの」

「そうか~、あの爺さんにお前らを紹介しといて良かったな。あの爺さんは若いやつに無理難題を吹っ掛けて、鍛えたがる変なクセがあるんだ。……でもな、鍛冶の腕は確かだぞ」

ふと、ウィグラフはクロウの腰の剣を見て言った。

「その剣、『竜殺しドラゴンスレイヤー』か?」

「えっ? ドルフの爺さんに借りたんだけど、そんな名前じゃなかったような?」

「ああ、その剣はな、俺達が伝説の古竜を倒した時に、ヤツの尻の穴にぶっ刺したやつだからな」

「古竜さんも災難だね……」

「それで古竜の尻の穴に刺さった剣なんぞいらんから、爺さんにくれてやったんだ」

「それであの『竜千年殺しドラゴンカンチョー』って名前になったのか……」

そう話していると、リノはウィグラフの診療を終えたようだ。

「ウィグラフさんは山から下りて、村で清潔にして休めば、じきに治ると思います」

「お~、そうか、だが足が……」

ウィグラフは少し考えた後、話を続けた。

「お前ら、オリハルコンが欲しいっていってたよな? その場所を教えてやるから、帰りに俺を拾って麓の村まで運んでくれないか?」

「おっさん、場所知ってるのか?」

「前に来たこともあるし、ここからそう遠くない、何か書くものはあるか?」

そう言われたので、リノはウィグラフに紙とペンを渡し、地図を書いてもらった。

「じゃあおっさん、急いで取って来るから、待ってろよ!」

クロウ達はそう言ってウィグラフを洞穴に残し、捜索へ出かけた。


 ウィグラフの地図は大雑把であるが方角は合っていた。

じきに一行は巨人族の集落を見つけ、警戒しながらそこへ近づく。

だが、巨人族と呼ばれている彼らは、意外にも弱そうな見た目をしていた。

「なんか、巨人族って名前のわりには、弱そうじゃない?」

「きっと老害オーナーが権力を握ってて、口出ししてるからだわ」

「オイ!」

「かつての栄光を忘れられないのかしらね……」

「あまりそのネタを言うと、ヤバイよ……」

「でも今はコイより弱そうだよな」

「弱いグループの方では強かったのでしょうね」

「トラの方が瀕死かもね」

「あばばばばば……」

エリーはついに壊れてしまったようだ。

そんな彼女を放置し、彼らは巨人族と戦い始めた。


 巨人族はその名前で想像したものより、かなり弱かったと言っていいものだった。

一行は大した苦戦もせずに、巨人族達を打ち倒した。

「巨人族っていうより、ウサギ族だな……」

クロウはそう言うと、巨人族の洞穴から『オリハルコン』を手に入れた。


 その後四人は一度ウィグラフの元まで戻り、彼を担いで山を降りた。

そして彼を麓の村まで送り届けて宿に預けると、その宿で一晩休んでからリベルタスの街へと戻った。



 一行が街へ戻ると、ドルフを探し出してアダマント鉱石とオリハルコンを渡した。

「よし、前よりいいものにして返してやる。今晩には出来るだろう」

「助かる、この借りた剣は返すよ」

ドルフはその剣を受け取った後、鍛冶師としての腕を存分に振るった。

そしてその夜には雷神剣を復活、というかさらに強化してクロウに返した。

「これは雷神剣・改とか、好きな名をつけるといい」

「爺さん、ありがとう」

「な~に、若いものを支援するのが年寄りの仕事じゃて。ハッハ!」

ドルフは笑いながらそう言って、この街の人混みの中に姿を消した。


 こうして、クロウの『雷神剣』は強化され、生まれ変わったのだ。

そして彼らは次の冒険に備えて、休む事にしたのだ。

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