第13話 騒闘、悪魔の石像

 ギルド拠点の食堂には、クロウ、エリー、フェイが座っていた。

食堂のテーブルには外で買ってきたパンが置かれている。

リノはまだ部屋から出てきていないようだ。昨日の戦いが響いたのだろうか……。

「リノは大丈夫かな?」

「昨日暴れてたしね~」

「そのおかげでウチらが無事だったんだけどね」

「リノに無理させないように何か考えとかないとなぁ……」

「何かアイディアあるの?」

「何もない……」

「クエやって地道に強化するしかないね」

そう話していると、リノが降りてきた。

「皆さん、おはようございます。今日は体が……」

「リノっち、無理しなくていいよ。今日はのんびりいこう」

「そうしよっか」

「はい、皆さん、すいません」

そうして四人は朝食を取り、冒険者ギルドへ向かった。


 一行が冒険者ギルドに入ると、中にいた他の冒険者達がざわついた。

どうやら最近の活躍で、他の冒険者達に顔と名前が知られるようになったらしい。

四人は少し照れくささを感じつつも、次のクエストを受けた。

「『遺跡の街・ロゼルタ』で新しい遺跡が見つかったらしく、内部の調査をしてきてくれ、だってさ」

「遺跡か~、宝物ないかな?」

「Aランクのクエストですから、やっぱり敵が強いのでしょうか?」

「それはもちろん強いと思うわ、でもウチらだって強くなってるしね」

「あたしら、なんだかんだ言ってクエストこなしちゃってるよね」

「そうですね、変な敵が多いせいもありますが」

「そういやそうだな、何なんだこのゲーム」

「よく分からないけど、楽しければいいんじゃないの?」

「まあ、そうだな。とりあえずそこに行ってみようか」

一行はそう話すと、『遺跡の街・ロゼルタ』へ向かった。



 ――『遺跡の街・ロゼルタ』

 この街は古代遺跡の上に建っていて、街のあちこちに遺跡の残骸がある。

地面を掘ると遺跡への入り口が見つかることがあり、冒険者達にも人気のある街だ。

そしてこの街で発見された新しい入り口を調査するのが今回のクエストだ。

一行は街の管理者から調査許可証を貰い、遺跡の中へ踏み込んで行った。


 階段を降りるとそこは通路になっていて、その先には小部屋が見える。

エリーを先頭に、罠に気をつけながら先へと進む。

小部屋の中には、悪魔の石像のようなものが二体置かれてある。

その部屋を覗き込むと、小部屋の左右にも通路が続いているようだ。

「あの石像は多分『ガーゴイル』よ、多分襲ってくるわ」

「用心して進もう」

そう言いながら、石像に注意しながら進む一行。

案の定、石像はガーゴイルだった。

しかし、今の四人には脅威となる敵ではなく、短い戦いで打ち倒された。


 四人が武器を収めて一息つくと、後ろから誰かが話しかけてきた。

「なんだ、お前らか。こんな所で会うとはな」

後ろを振り返ると、そこにいたのは『博明のライシス』だった。

今度は他にも三人の姿も見える。

「ごはんのライス!」

クロウがそう言うとフェイは軽く吹いたが、なんとかこらえたようだ。

「博明のライシスだ! 相変わらずフザケたやつらだ。……だが今は俺も仲間と一緒に旅をしている。紹介しよう!」

「戦士、ザンマ!」 ――戦士風の大男だ。

「魔法使い、ソシル!」 ――魔法使い風の女だ。

「僧侶、シンコ!」 ――シスター風の女だ。

「……ライス、サンマ、みそ汁、おしんこ」

クロウは一人一人指差してそう言った。

「サンマ定食だな」

「オイコラ! 変に覚えるな! 全く不愉快な奴らだ! お前らには秘宝『青龍の宝珠』は渡さん。皆行くぞ!」

ライシスは仲間を連れて、先に右の通路を進んで行った。


「あ~あ、また怒らせてしまったな」

「クロ、絶対ワザとだろ?」

「いや、その方が覚えやすそうだから、つい……」

フェイは顔を隠して、肩を震わせながら笑いをこらえている。

「あのライシスさんは、秘宝『青龍の宝玉』と言ってましたよね。伝説の七つの秘宝の事でしょうか?」

「そうかもね~? まあ先に手に入れたもん勝ちだと思うけど」

「俺達も先を越されないように進んでみるか」

そう言って四人は、左の通路へと進んで行った。


 左の通路を進んで行くと、再び小部屋があり、今度は四体の石像があった。

そしてその奥に、通路が一本続いているようだ。

「またガーゴイルか、四匹同時はきついから、ここの通路で戦おう」

その作戦で四人はガーゴイルを通路まで引っ張って戦い、敵四体を打ち倒した。


 再び一行は奥へと進む……。

罠を解除して歩いて進んだ先には小部屋があり、今度は六体の石像があった。

「数増えてるな、今度も通路まで引っ張ってやる?」

「通路におびき寄せてからフェイの魔法で片付けようよ」

フェイは笑いをこらえるのに唇を噛みしめていたが、なんとか大丈夫なようだ。

 エリーの作戦で彼ら六体を通路におびき寄せ、フェイの魔法で全て凍らせる。

特に危なげもなくこの戦闘に勝利し、一行は奥へ進んだ。


 通路を進み、罠を解除し、さらに進む……。

するとその先に、また部屋が見えてきた。

部屋の手前まで行くと、この部屋にも奥へ向かう通路が見える。

この部屋の左手に豪華な宝箱のようなものもあり、皆の注意を引いた。

 そして、奥の通路から誰かが歩いて来た。……ライシス達だ。

「道が繋がっていたとはな、だが宝は渡さん!」

ライシスはそう言うと、彼ら四人が宝箱へ向かい走り出した。

「あぁーっ!」

しかしその時、彼らが走っていた所の床が抜け、彼らは暗闇へと落ちていった。

エリーは呆れながらも、

「落とし穴があったんだね、あたしらも気をつけて行こう」

そうして四人は、罠に警戒しながら宝箱へ近づいた。


 エリーは慎重に宝箱の罠を調べ……、解除する。

次に宝箱の鍵を開錠し、その蓋を開けた。

中に入っていたものは、『目の装飾が施された鍵』だった。

「カギ? どこで使うんだろ?」

エリーはそういいつつ、鍵を手に取った。

 すると突然、この部屋が揺れだして壁にヒビが入り、部屋の床が崩れてしまった。

四人は悲鳴を轟音でかき消されつつ、崩れた床と共に下の階へ落とされてしまう。

辺りに巻き上がっている砂埃が晴れてくる頃には、下の階の様子が見えてきた。


 そこは上の階と同程度の大きさの部屋になっているようだ。

通路が一本あり、そこには先ほど落とし穴に落ちたライシス達四人が座っていた。

「いや~、申し訳ない。罠解除に失敗したら部屋の床が落ちてきたらしいな」

ライシスはそう言いつつ一行に頭を下げた。

「いやまあ、そういうことも……、あるようなないような……」

エリーは以前のことがあるので、怒るに怒れず、皆の無事を確認した。

幸いにも、一行の怪我は大したことがないようだ。

念のため、リノが一行の怪我の様子を見始めた。


 ライシスはこちらを見て言った。

「お詫びと言っちゃなんだが、いいことを教えてやろう」

「な~に?」

「ここにあると言われている『青龍の宝珠』は、伝説の七つの秘宝のうちの一つでな、これを集めて龍の神を呼び出すことで、このゲームの勝利者になれるそうだ」

「へぇ~、そうなんだ」

「しかも、ただ集めるだけではダメなようだ。竜背山脈のどこかにあるという祭壇に七つの宝珠を捧げ、決められた合言葉を言う必要があるらしい。その合言葉は確か……『ギャルのパンティおくれー!』だったかな?」

「どこかで聞いたことのある話……、しかも順番違ってない?」

「俺にそう言われても困る。じゃあ、俺たちは先へ向かうからな。健闘を祈る!」

ライシスはそう言い、彼らは通路の奥へと進んで行った。


 一行はリノによって傷の手当てを終え、先へ進もうと立ち上がった。

「ライスに先越されちゃったね」

「でも、みんなに大きな怪我がなくてよかったです」

「ん~、お互い様というか何というか……」

フェイはリノを小突く。

「とにかく、俺達の目的は遺跡の調査だ。伝説の七つの秘宝とやらは後回しでいい」

「まあね、ライス達に取られるのは癪だけどね」

「そうは言っても、またチャンスがあるかもしれないわ」

「そうですね、何があるか分かりませんからね」

そうして話を終えると、彼らはライシス達の後を追い、通路を進みだした。


 通路をさらに奥へ進んで行く一行。

小部屋とか特に何かがあるわけでは無いが、警戒しながら奥へと進んで行く。

その先には重そうな扉があり、その扉を四人で押して開いた。

そこは大きな広間になっていて、中央に向けてすり鉢状に下がっている。

その中央は円形の舞台になっていて、古代の劇場のようだと四人は思った。

さらに、その舞台の中央には大型の悪魔のような石像が立っていた……。

「なんだろう? あれ」

「ガーゴイルじゃないよね?」

「ボスモンスターかしら?」

「皆さん、あれを見てください、ライシスさん達が!」

リノがそう言って指差した先には、石像のようになったライシス達四人がいた。

「ライス、硬くなったのか……」

「あの敵にやられたのかな?」

「目からビームを出して石にしてくるのかしら?」

「どうでしょう……? 念のため石化解呪薬は持ってきてますが……」

「ここまで来て手ぶらで帰るのも何だし、あいつを倒そうか」

「いけるかな?」

健康分析ヘルスアナライズ! あれはストーンビーストの『双邪眼のヴィドスタン』よ、肩こりに悩んでる上に、目から石化光線を出してくるわ」

「肩こりはいいとして、どうしよ?」

「石化光線が問題ですね……」

「何とか避けるしかないかな?」

「フフフ、ここはウチに任せなさい! 召喚! 出でよ! 土の精霊!」

フェイがそう叫ぶと、彼らの目の前に石像らしきものが現れた。

その石像は頭が大きく、浴衣を着ていて、足元に犬を連れた昔の偉人の姿だった。

「フェイ、これ誰?」

「昔の偉人よ。上野公園で石化されてたんでスカウトしてきたの」

「石化された訳じゃないでしょうに……」

「彼は謀反起こしたからね……」

「それにこいつ、動くの?」

「失礼ね、背中に薪を背負えば、夜中に走り出すわ」

「どこの学校の七不思議なんだよ……」

「ちなみに犬の名前はパチ公よ」

「混ざりすぎだろ!」

フェイとエリーの漫才の後、彼らは双邪眼のヴィドスタンとの戦闘を開始した。


 その土の精霊は一度体に力を込めると、突然パチ公の石像を頭上で振り回しながら、ヴィドスタンに襲いかかって行った。

「ちょっ! 待てよ!」

「それは無いって!」

「せごどん!?」

「酷い……、それ武器じゃないです……」

だが、四人にその攻撃を否定されて、顔に困惑の色を出し、立ち止まってしまう。

 ヴィドスタンは土の精霊に石化光線を放つも、彼は石像なので効果は無いようだ。

困惑していた土の精霊は、背中に背負った石の薪をヴィドスタンに投げ始めた。

その攻撃から身を守ろうと、ヴィドスタンは両腕で守りを固める。

そうして隙が生じた敵に、クロウとエリーが斬りかかった。

彼の表皮はとても硬く、小さい傷しかつかず、思うように斬り込めない。

だが彼は、必死に両腕で石の薪から身を守り続けていたのだ。

霜霧凍結ダイヤモンドダスト!」

そしてフェイの魔法が放たれると、彼は石の薪と一緒に凍らされてしまった。

ヴィドスタンの表皮はとても固かったが、魔法には弱かったようだ。

「なんとか倒せたな……」

「土の精霊が予想外過ぎたね……」

「でも、彼のお陰で石化光線を封じたのよ?」

「あの方の攻撃方法は危険すぎましたね……。そういえば、石化してるライシスさん達はどうしましょう?」

「助けてやろうか」

「はい、では石化解呪薬を使って治療しますね」

そう言ってリノはライシス達の治療を始めた。


 一行はヴィドスタンのドロップアイテムを拾った。それは鉱石と短剣だった。

そして部屋の奥にあった宝箱を発見すると、『目の装飾が施された鍵』を使う。

宝箱を開けると、そこには七つの秘宝のうちの一つ『青龍の宝珠』が入っていた。

こうして彼らは、七つの秘宝の一つを手に入れたのだった。

「そういや、フェイがまだチャンスがあるとか言ってたけど、これ?」

「えっ? 適当に言っただけなんだけど……」

「ライス達が石になってたからな……」

「まあいいか、七つの秘宝のうちの一つが手に入ったし」

そう話していると、リノはライシス達の治療を終えたらしい。

彼らは起き上がると、こちらに礼を言ってきた。

「また世話になったようだな。俺達が『青龍の宝珠』を手に入れられなかったことは残念だ。貴様らでなければ奪ってやる所だが、恩人から奪うような真似はできんしな。いずれ決着をつけようではないか、次の勝負を楽しみにしている。さらばだ!」

ライシス達はそう言うと、来た道を戻り、迷宮を後にした。

その後、クロウ達もここから迷宮を一通り調べて、クエストを達成した。



 一行は街へ戻ると、クエストの報告をして、報酬を貰った。

ギルド拠点へ戻り、拾ったアイテムを調べると、鉱石は『アダマント鉱石』で、短剣はSランクの『奇術師の短剣』だった。

エリーが短剣を貰い、アダマント鉱石はギルド拠点の倉庫に入れ、鍵をかけた。

 こうして四人の一日は終わり、次の冒険に備えて休む事にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る