第12話 妖刀、『圧切長谷部』

 エルフの村の宿で朝食を取る四人は、今後のことを相談し始めた。

「エルフ村のクエって、珍しいのが多いね」

「そうだね~、攻略法が分かりにくいから人気がないのかも?」

「魔法使いにとっては、装備を買いやすかったりするけど、魔法使いだけじゃクエはできないからね」

「ここにはギルド拠点もないですしね」

「冒険者ギルドで看板見てから次の事決めようか」

そう話して、まず冒険者ギルドへ行ってから考えることにした。


 冒険者ギルドで掲示板を見る一行。

だがそこにはランクBのクエストは無く、他にも目ぼしいクエストは無かった。

「こりゃリベルタスに戻ったほうがよさそうだな~」

「戻ろっか~」

「そうだね~、ここで売ってる衣装は買っちゃったし」

「そうしましょうか」

仕方なく一行は馬車を借りて、リベルタスへと戻った。



 久しぶりに街へ戻ると、エルフの村とは違い、街は活気にあふれていた。

以前と変わらないようではあるが、変わった服装をした人を時々見かける。

他の国から来たの人だろうか。そう思いつつ、自分たちのギルド拠点へ戻った。


 ギルド拠点の中に入ろうとすると、入り口の扉の前に何か置いてあった。

靴か、サンダルか、それらしき履物のようなものが並べてあるのだ。

「なにこれ……、サンダル? 草履……?」

「中に誰かいるかもしれない、用心して入ろう」

警戒しながら中へ入った一行、そこには見覚えのない女性が食堂で座っていた。

誰だろう、と思い彼女の姿を見る。和風の……着物だろうか、袴だろうか。

腰に反りのある刀を下げていて、彼女はこちらに気づくと、一礼して話し始めた。

「勝手に上がり込んで済まない。それがし其方そなた達に用事があって訪ねて来たのだ。生憎あいにく留守のようだったので、勝手ながら中で待たせてもらった。何か問題があれば、ここで腹を切る所存だ。これで勘弁して欲しい」

「はぁ……、ここで腹切られても迷惑なんで……。ところで何の用でここへ?」

「まず名乗らせていただこう。それがし火那ヒナという。『イトの国』から来た侍だ」

四人はそれぞれ彼女に挨拶し、話を続けた。

「イトの国、って?」

「ここから南へ海を越えた先の島国だ。侍、忍者、巫女の始まりの地になっている」

「へぇ~、そんなところもあるのか」

「あるよ~、和風っていうかアジア風と混ざった感じだけどね」

「あそこは結構遠いからね、船で行き来するのも大変だし」

「私は行ったことないですね……」

「それで話というのはだな、それがしが受けたクエストを手伝って欲しいのだ。酒場で色々聞いた話では、このギルドにかなりレアなスキルを持った者がいるらしく、その彼の手を借りなければクエストを達成するのが難しいと思うのだ」

「そのレアなスキルを持ってるのが俺だけど、何をしたらいいんだ?」

「正確に言うとクエストを達成するのが難しいのではなく、その後が問題でな……」

ヒナは一度目を伏せ、続けて言った。

それがしはこのゲームの勝利条件、『十本の妖刀を集める』というのを目指しているのだ。だが、イトの国でその妖刀のうちの一本を手にした途端、正気を失って仲間を斬ってしまったのだ……」

「ふむ、そういや勝利条件って色々あるんだっけ? 他にどんなのがあるんだろ?」

「有名なやつだけでも、『NPC魔王を倒す』、『プレイヤー魔王を倒す』、『竜の心臓を手に入れる』、『古代遺跡に眠る古代文明の遺産を復活させる』、『伝説の七つの秘宝を手に入れる』、とかあるね」

「それに加えて、まだ誰にも知られていないのもあるらしいわ」

「あたしは『伝説の七つの秘宝を手に入れる』ってのを目指してたんだけどね、前回までのプレイじゃ手がかりすら見つけられなかったよ」

「ウチはこのゲーム内で衣装をコレクションするのが目的だから関係ないけどね」

「なるほど、色々あるんだな。あ、ゴメン。話の腰折っちゃって」

「いや構わない、それがしが成し遂げたい事は二つ。妖刀を手に入れる事、仲間と共に無事に帰ってくる事なのだ。それが出来そうなのは其方そなた達だけだと思う。もし良ければ、手伝って欲しい。もちろん報酬は出す」

「いや、報酬はいらないし、俺は面白そうだからやってみたいと思うんだけど、皆はどう思う?」

「あたしは構わないよ」

「ウチも同じ」

「私も大丈夫です」

「皆ありがとう。ヒナさん、俺たちが協力するよ」

「済まない、恩に着る」

「それで場所は?」

「この町の東にある『ヘイグの塔』だ。一人では無理だが、五人なら出来るだろう」

「それじゃあ、行こうか」

こうして五人は、『ヘイグの塔』へと向かった。



 ――『ヘイグの塔』

 古代文明時代に作られ、灯台として使われていた、という事しか分かっていない。

灯台の火を守るために、命を持たないゴーレムが巡回し、警備しているらしい。

一行はこの塔の入り口に立ち、上を眺めた。

「結構高い塔だな~、何階まであるんだろ?」

「それは分からない。今までこの塔を攻略したという話は聞いたことがない」

「俺たちが一番乗りって事で、じゃあ入ろう」

そう話して五人は塔の中へ入った。


 塔の中は広く、壁で部屋分けされてるわけではないようだった。

外壁に沿って階段が上へと伸びており、天井は高く、通常の建物の三倍近くあった。

そしてこの塔への侵入者を阻む『クレイゴーレム』が部屋の中央に立っている。

「某が先手を取るから、皆、怪我の無いように戦ってくれ」

ヒナはそう言うと、先頭を切ってクレイゴーレムに斬りかかって行く。

 四人もそれに遅れないように戦闘を始めた。

斬りかかり、魔法を撃ち、攻撃を躱し、再び斬る。

それを何度も繰り返すうちに、クレイゴーレムはついに倒れた。

「結構強かったな。これが何匹もいるのか」

「皆が居てくれて良かった。一人では到底倒せなかっただろう」

「そんな気にすんな、次行こう」

そうして一行は階段を登った。


 二階は下の階と同じような広間になっており、やはり壁沿いに上への階段がある。

そして中央にいるのは『ストーンゴーレムだ』。

ヒナが再び先手を取り、一行は戦いを始めた。

ストーンゴーレムはクレイゴーレムより固く、しぶとい。

だが、五人の立て続けの攻撃によって倒されてしまった。


 そして三階へと向かう。三階も部屋は同じだった。

中央にいるのは『アイスゴーレム』である。

「氷か~、ウチ苦手なんだよね~」

それがしの『緋色兼次』は炎属性だ。任せてくれ」

「私のフライパンも炎属性ですよ」

「リノは無理しないでね」

 一行は三度みたび武器を取り、果敢にアイスゴーレムと戦う。

だがアイスゴーレムは五人の攻撃を受け止められず、結局は倒れてしまう。

「上に行くほど強くなるなぁ、次は何ゴーレムだろ?」

「鉄? 水晶?」

「炎とか雷とか?」

「登ってみれば分かるだろうな」

そう言って五人は階段を登っていった。


 四階、意外にもそこに立っていたのは『寿司』で作られたゴーレムだった。

頭に軍艦、胴は太巻き、右腕にイカ・エビ、左腕に玉子・穴子。

そして両足にはトロやサーモンなどが見える。

……これは一体何だろうか。

食べ物を粗末にするするのはどうだろうか、と五人はそう思った。

「これは……、一体……」

「お寿司……、だよね……」

「おいしそうだけど、敵としてどうかと思うわ」

「食べ物を粗末にするなんて……」

「見た目に騙されるな。襲ってくるぞ!」

そうヒナが言うや否や、『寿司ゴーレム』が動き出し始めた。

彼は右腕を振り、シャリとネタの間から何かを飛ばしてくる。

「……これは、ワサビだ! 傷口に塗られたら大変だぞ!」

ヒナが皆に注意を促す。

 五人はそれぞれ距離を取り、散開して寿司ゴーレムを包囲し、攻撃し始める。

寿司ゴーレムは一見すると食べ物に見えるが、意外にもその体は固い。

食べ物なのは見た目だけだったようだ。

「くそっ、食品サンプルかよ!」

クロウはそう吐き捨てつつ、攻撃を仕掛ける。

それに続き、ヒナ、エリーが連続で攻撃を叩き込むと、彼はふらついた。

霜霧凍結ダイヤモンドダスト!」

フェイの魔法は寿司ゴーレムの隙を見逃さず、彼の体を濃い霧で覆う。

数秒後、霧が晴れると、そこには氷漬けにされた寿司ゴーレムが立っていた。

「強かったな……、食い物でなかったのが残念だ」

「本物の寿司だったら自立できないでしょうが」

「冷凍寿司よね」

「食べ物を粗末にしなくて良かったですね」

「こういう見た目で油断させる敵こそ、強いものだ」

そう話しつつ、五人は階段を登った。


 五階、この部屋には登り階段は無く、最上階のようである。

中央に敵として立ちはだかったのは、……小型犬だった。

「今度はチワワかよ! 戦いにくいな!」

「チワワは見た目より勇敢だよ?」

「油断するな! 来るぞ!」

チワワゴーレムは尻尾を回転させつつ、こちらに躍りかかって来た。

そのチワワの動きは俊敏で、体が小さく、攻撃を当てにくい。

そして隙さえあれば飛びかかって来て、こちらの顔を舐め回そうとするのだ。

五人はその愛くるしさに攻撃の手が鈍り、必要以上に苦戦してしまう。

だが、ついにはフェイの魔法で氷漬けにして倒すことが出来た。

「ふ~、強かったな」

「顔を舐めてくるのは反則だよ……」

「あざとい見た目に騙されるからだ」

「見てください、あそこに箱があります」

リノの指差した方向には、細長い木箱があった。

「あれがヒナの目的のものかな?」

「恐らくそうだろう。ただ、某があの刀を手にした時、正気を保っていられるかが問題なのだ」

「そっか~、これからが本番か」

「もしヒナっちが暴走したら攻撃して倒してもいいの?」

「それは構わない。仲間を傷つけるよりはいい」

「できればそんなことはしたくないですね……」

「では、開けるぞ、皆、幸運を祈ってくれ」

 そう言ってヒナは木箱を開ける。

その中には怪しい雰囲気につつまれた刀があった。

これがヒナの探していたものであろうか……。


「妖刀『圧切長谷部へしきりはせべ』……、いざ!」

 ヒナはそう言って、刀を手に取った。部屋の中が緊張した空気に包まれる。

……どうだろう、大丈夫だろうか。

そう思っていると、ヒナの影が揺らめき始めた。

彼女はゆっくり立ち上がると、こちらを振り向く。

その彼女の目は赤く妖しく光り、すぐに異常が起きていることに四人は気づいた。

「まずいな……、知り合いは斬りたくないな……」

 クロウはそう言いつつも剣を構えた。

間髪いれずに暴走したヒナが彼に斬りかかり、金属のぶつかる音が部屋中に響く。

(速いし、力も強いな……)

クロウはそう思いながら、かろうじて彼女の刀を受け流し、次の攻撃に備える。

再び暴走ヒナは彼に襲いかかると思われたが、そこでフェイントをかけると、リノの背後へと回り、リノを背後から突き刺そうとしたのだ。

(((まずい!)))

 三人はそう思ったが、暴走ヒナがリノに対して、激しい突きを放った。

だが、そこにはリノの姿は無く、暴走ヒナの背後に、銃を抜いたリノが立っていた。

「私の後ろに立たないで下さいますか……」

そう言うと、リノは暴走ヒナの額めがけて発砲する。

ヒナは紙一重でその銃撃を躱すと、後ろに飛んで距離を取った。

……二人の間に凍てついた空気が流れ始める。

「やばい、メイド13サーティーンが覚醒しちまった……」

「どうしよ? これ、止められる?」

「無理、成り行きに任せるしかないわ」

三人はそう言い、二人の間に割って入ることが出来ずに躊躇していた。


 暴走ヒナが駆け出し、距離を詰めようと接近する。

リノはそれに対し発砲するが、ヒナの刀に銃弾を切り落とされる。

距離を取り、再び発砲するリノ、ヒナは刀の刀身でそれを受け流す。

瞬足で距離を詰め、下段からリノを斬りつける。

そしてリノはそれを銃身で受け流すと、後ろにバク転してさらに距離を取る。


 刀と銃との目まぐるしい攻防が三人の目の前で繰り広げられていた……。

その一方でクロウ達は床に座り、お茶を飲みながら見物しているのであった。

「う~ん、これ、どうしよっか?」

「このまま放っておくわけにもいかないし、二人の体力の尽きるのを待つしか……」

「ウチらじゃもう手がつけられないよね」

「どっちにも怪我して欲しくないんだけどな~」

「これに割って入るのには勇気がいるよね……」

「実力もね」

三人はそう話しつつ、二人の体力が尽きるのを待った。


 暴走ヒナと覚醒リノの戦いは一時間以上続き、ついに両者は力尽きたようだ。

同時にその場で倒れ、立ち上がろうともしない。

ヒナの手から離れた妖刀をクロウが鞘へと戻す。

エリーはうつ伏せに倒れていたリノを転がして仰向けにさせた。

恐らく、二人はもう大丈夫だろう。


 こうしてヒナは正気を取り戻し、妖刀の呪いを祓うことに成功した。

「体力が尽きるまで剣を振り続ければ、呪いを祓えるのか……」

「うぅ、またやってしまいました……」

「二人とも無事で良かった」

「一時はどうなるのかと思ったよ」

「ウチらは何もできなかっただけだよね」

「否、これで仲間を斬らずに妖刀を手に入れる方法が分かった」

「それじゃあ、少し休んでから帰ろうか。二人共疲れただろうし」

そう話して五人はこの場で少し休んでから、街へと帰って行った。



 リベルタスの街へと戻った一行。

ヒナはこれからも一人で旅を続けるらしい。

「皆、世話になったな。次に会うときまでに、妖刀に負けないよう鍛えておく。いずれこの恩を返せるように、修行しつつ他の妖刀を探すつもりだ。ではまた会おう!」

そう言ってヒナはこの街を去っていった。


 一行がギルド拠点に戻ると、職業ランクが上がり、四人はBランクになっていた。

「お~、Bランクになった」

「明日からAランクのクエストができるな」

「そうだね~、Aランクのクエストは難しいけど、その分実入りも大きいしね」

「私も楽しみです」

四人はもう自室で休む事にして、明日からの新しい冒険に備えるのであった。

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