第11話 沸騰、水の鍾乳洞

 ――翌朝。

 四人は準備を終えて、エルフの村の宿屋の一階に降りて行った。

そこには、食堂で大きな卵を食べているウィグラフの姿があった。

「おはようさん」

「おっさん、おはよう~」

「……まあいい、これを見ろ、飛竜の卵だ」

四人はその大きな卵を見た。とてもおいしそうには見えないが……。

「うん、いけるな。卵かけごはんにするか迷ったが、今回はシンプルにゆで卵にして正解だったな」

ウィグラフは再び飛竜の卵を食べ始める。

「これは……、味は鶏卵に似ているが、濃いな。それに少し金属か……鉄……レバーか、この味も混ざってるな」

そう言いながら卵を食べ続ける。

 彼の食事の間を見て、リノが尋ねる。

「ウィグラフさん、このゲームの勝利者になった時って、どうだったのですか?」

「ん~、正直言って偶然みたいなもんさ。仲間とクエやったりあちこち探検してたら、いつのまにかクリアしていた」

エリーも聞き始める。

「その時の仲間はどうしたの?」

「さあな? 今はどこで何やってるか、知ってるのは一人だけだな。後はこのゲーム辞めたのか、別なキャラでやってるのか、分からんね」

「やっぱり賞金はみんなで分けた?」

「そりゃもちろんそうさ。五人で分けたから金額は大きくないけど、楽しかったよ。それで普通に冒険するのは前回やったし、今回は食い物目当てにしようかな、と」

クロウも会話に加わる。

「へぇ~、なんか凄いなぁ」

「そうでもないさ。ただ、俺がこのゲームをやってて感じたことがある。それは、勝利者になることを狙っているだけでは、多分無理ってことだな」

「そんなもんなのかなぁ」

そう話していると、ウィグラフは卵を食べ終わったようだ。

「じゃあな、またどこかで会おう」

そう言ってウィグラフは、宿から去って行った。


 一行は今日もエルフの村の冒険者ギルドに顔を出した。

今日は中には誰もおらず、閑散としていた。

クエスト掲示板を見ると、Bランクのクエストは一つだけあった。

それは『水の鍾乳洞に潜むスライムを殲滅せよ!』というものだった。

「う~ん、スライムか、どうしよう?」

「このゲームのスライムは強いのか?」

「物理は無効だね。剣で切ってもすぐくっついちゃう」

「魔法は?」

「魔法とか属性攻撃は効くよ。ただ、スライムにもそれぞれ弱点があって、その弱点を突かないと倒せないけど」

エリーはフェイをチラッと見て、続けて言う。

「フェイみたいに氷系しか使えないと、厳しいんだよなぁ」

「そんなことないわ。炎の精霊を呼ぶ召喚魔法ならあるわよ」

「その炎の精霊って元テニス選手じゃないよね?」

〝ギクッ〟

「そ、そんなこと……」

「やっぱそうか、呼ぶ前にネタがバレてるよね~」

「雷神剣の電撃は?」

「効くだろうけど、剣で切った部分はダメだろうね」

「ふむ、厳しいなぁ」

「スライムは赤、白、青の三種類いて、それぞれの弱点が、氷、火、雷になっててね、今のあたしらじゃ火属性がアレだしね」

「火か……、熱に弱いなら熱湯とかどう? おっさんが卵茹でてたの思い出してさ」

「効くかな~? フェイはどう思う?」

「熱湯に放り込んで、熱湯を冷やさないようにすればいけるかもよ?」

「ホントに? 心配だなぁ~」

「寸胴鍋で煮込んでみるのはどうでしょうか?」

「いけるかな? それで」

「まあ、ものは試しにやってみようか。失敗してもいいじゃない、人間だもの」

「そんなみつを風に言われても……」

 エリ-は渋っていたが、三人が意外に乗り気だったので、結局四人はスライム退治のクエストをすることになった。



 ――エルフ村の外れにある『水の鍾乳洞』

 その洞窟の入り口は狭く、一人通るのがやっとの幅しかない。

奥へ行くほど広くなっているようで、奥の広間には浅く広い水場があった。

水場の中央には島のように盛り上がってる所があり、水面から土が顔を出している。

その島の上には古い祭壇があり、その祭壇を守るのが今回のクエストのようだ。


「私は寸胴でお湯を沸かしますね」

リノはそう言ってたき火を焚き、準備し始める。

一行は周りを警戒しつつスライムが出て来るのを待ったが、一向に現れなかった。

「出てこないな……」

「来ないね~」

「天井から落ちてくるかもしれないわ」

そうフェイが言ったので、四人とも天井を見上げる。

そこには、三色のスライムが天井にへばりついていた。

「上にいたのか、いつ落ちてくるんだろ?」

「魔法で落としてみる?」

「一度に全部落ちてくるかもよ?」

「そりゃ困る」

そんな話していると、徐々に天井からスライム降ってきた。


 スライムは一匹ではあまり強くはないが、剣で斬っても分裂するだけで倒せず、動きながらまた融合するだけなので、斬る意味はない。

その処理に手こずっていると、スライム達が体に張り付いて溶かされてしまうのだ。

 四人はそれぞれ役割を分け、スライムを退治し始めた。

レッドスライムはフェイが氷魔法で凍らせる。

ブルースライムはクロウが雷神剣の電撃で攻撃する。

ホワイトスライムはエリーが短剣で刺し、寸胴に放り込む。

リノはたき火の火を切らさないようにして、寸胴を加熱し続ける。

 スライム達は地面に落ちて来ると、すぐ四人に倒されてしまうのだが、かなりの数を倒しても、スライムの群れはまだ天井に張り付いていた。

長い時間戦ったようでも、戦闘の終わりがまだ見えない。

「上に結構いるな~、いつ終わるんだろ?」

「数多いよね~、さすがBランクのクエスト」

「リノ、火は大丈夫?」

「はい、まだ大丈夫です」

「この寸胴の水でスープを作ったらどうなるんだろ?」

「おっさんみたいなこと言うなよ、そんなにゲテモノが食いたい?」

「いや、ちょっとどんな味がするのかと……」

「やばいね、おっさんのウィルスに感染してるわね」

「ちょっと一緒にされるのは……」

 再びスライムが天井から落ち始め、四人はまた戦い始める。

さらに時間が経過し、やっと天井にスライムの姿が見えなくなった。


 一行は天井を見上げ、スライムがもういないのを確認する。

「お? いなくなった?」

「これで終わったのかしら?」

「どうだろ?」

「ジャーナル見てみますね」

リノはスクリーンを開き確認し始めた。

「まだ終わっていませんね、どこかにいるのでしょうか?」

「どこだろう?」

クロウは辺りを見回す。

天井を見る、いないようだ……。

周囲を見る、いないようだ……。

地面を見渡す、どこにもいない……。

「どこにもいないよね?」

エリーも周りを見回して言った。

「どこかから出てくるとか?」

「また急にボスモンスターが出てくるのでしょうか?」

「この祭壇を離れて探し回るわけにもいかないし……」


 一行が再び周囲を警戒していると、リノが何かに気づいたようだ。

「もしかしたら、この寸胴の中のスライムって、まだ死んでいないのでしょうか?」

寸胴の中は煮立っているが、中の熱湯が減っているわけではない。

「そうなのかな?」

「沸騰程度じゃ死なない?」

「寸胴の中の水分が無くなるまで、さらに煮込む必要があるかもしれないですね」

三人は寸胴を見つめる。ここからさらに煮込むのかと考えていると、

「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」

しびれを切らしたフェイが、炎の精霊を呼び出した。

その彼の姿は、全身に炎を纏い続ける元テニスの選手そのものであった。

「あ~、やっぱ呼んじゃったか~」

エリーが肩を落とす。

「後輩を応援しに来ただけだわ」

そう言い返すフェイ。

「後輩の現役選手より目立ちそうだな」

「なんでもいいからちゃっちゃとやっちゃって」

エリーは呆れて言った。


 フェイは炎の精霊に指示を出し、寸胴をさらに過熱させる……。

しばらくすると、寸胴の中の水分が徐々に減ってきたが、寸胴はその高熱に耐えきれず、ついに割れてしまった。

寸胴からこぼれ落ちるどろっとした液体、これは凝縮されたスライムだろうか。

だがその上に炎の精霊が座り込み、それを加熱し続ける。

 凝縮されたスライムは大きな動きを見せることは無く、次第に縮んでいった。

いつ動き出すのかと警戒していたが、ついには消滅してしまったのだ。

スライムのいた所に残された物は、巻物とフライパン、その二つのアイテムだった。

「あれ? ひょっとして、ボスだった?」

「そうかも?」

「寸胴で煮込まれて暴れる暇なかったよね……」

「スライムのボスがどんな戦い方するのか見たかったけど、残念だな」

「無事に勝てたことですし、これはこれでいいのではないでしょうか?」

「そうだな、そういうことにしよう」

こうしてクエストを達成した四人は、村へ帰ると、クエストを報告して宿に戻った。


 宿に戻った一行は、先程拾ったアイテムを調べてみた。

「巻物は……氷魔法の呪文書みたいですね」

「そしてこのフライパンは……Bランクの『炎のフライパン』、炎属性です」

「炎属性の武器なの? 結構いいんじゃない?」

「呪文書はフェイが、フライパンはリノだね」

「じゃあウチが呪文書貰うね~」

「ありがとうございます、いただきますね」

「フェイ、なんか覚えた?」

「氷系の上級魔法よ、霜霧凍結ダイヤモンドダストという魔法だわ」

「おお~、強そうじゃん」

「そのうち戦闘中にお披露目するわ。でもこの魔法、範囲は狭いみたいね」

「いいじゃないの、かっこよさそうだし」

 そのような会話をして宿で休む四人。

明日の事を考えつつ、今日は休む事にしたのであった。

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