第10話 飛翔、飛竜の山
エルフの村の夜が明け、一行は準備支度をして、宿の食堂に集まる。
そして、朝食を食べながら相談し始めた。
「エルフの村の食べ物って、豆と木の実が多いね」
「そうだね、肉料理は旅人用だよ」
「エルフの村は田舎だからね。プレイヤーもあまり寄り付かないけど、静かでいいところだよ」
「ただね~、村の施設が乏しくてね。オークションも余り出品されてないし」
「若い人は便利な都会へ出ていくものよ」
「銃の残弾が気になるのですが、この村に売っているのでしょうか?」
「探してはみるけど、あまり期待しないほうがいいかも」
「杖や弓はいいの売ってるんだけどね」
「残念です……」
「そういやさ、ここでもクエ受けられるの?」
「受けられるよ、リベルタスでは見かけないようなのもあるし」
「じゃあさ、この村で少しクエやってから戻らない?」
「うん、いいよ~。毎日似たようなクエだと飽きちゃうからね」
「食べ終わったら村を見学して回るかな」
そう言って一行は朝食を取った後、エルフの村をうろつき始めた。
エルフの村は若い人が殆どおらず、老人や若くても中年といった人が目立つ。
フェイが言っていたように、杖や弓矢、服といったものは高価な物も売っていたが、リノの欲しがっていた銃弾は売っていないようだ。
「あれ? クロ、なんか買ったの?」
「うん、『自然治癒』って一般スキルが珍しいから買ってみた」
「それ、ハズレスキルだわ」
「そうなの!?」
「戦闘時に回復しないからね……」
「ぐぅ……、せっかく買ったから覚えてみるよ……」
「じゃあこの『キノコの知識』ってやつは?」
「キノコ食べるの?」
「食べられるキノコと食べられないキノコの区別がつくんじゃないかしら?」
「微妙かな……」
「キノコを拾い食いしたいならいいんじゃない?」
「私、それ持ってますよ?」
「そうなの?」
「はい、料理を作るのに必要かと思って」
「へぇ~」
「それだけじゃなく、山菜野草もスキルで覚えました」
「本格的だな……、サバイバルできそうだ」
「冒険に出てから食べ物に困りたくないですしね」
「おみそれしました……」
このように一通り村を見学した一行は、次に冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの中には、冒険者が一人しかいなかった。
槍を背に持ったベテランの戦士風の男だけである。
この掲示板にはBランクのクエストが一つしかなく、一行はこれをやることにした。
「
エリーはそう言った。
「登山道具とかいるのでしょうか?」
「どうだろ? 一応買っておく?」
「山まで行って登れませんじゃがっかりだし、一応買って行こうか」
そういう感じで四人が話していると、先ほど見かけた冒険者が話しかけてきた。
「君達、飛竜の山へ行くのかい?」
「うん、そうだけど、おっさんどうかしたの?」
「おいおい、おっさんは酷いな、まあ若くはないが」
「とりあえず自己紹介をしておく、俺は『ウィグラフ』っていう者だ。食材ハンターをしている」
一行もウィグラフに自己紹介し、話を続けた。
「ところで、食材ハンターって?」
「勝手に自称してるだけなんだがな。世界各地を回って、珍しいものを集めたり食ったりしているのさ」
「ゲテモノ食いなの?」
「そう言うな、たまにはうまいもんもある。ただ、現実世界では絶対食えないような物を食べることができる。というのが最大の楽しみだな」
「お腹壊したりしないのですか?」
「その辺は胃が鍛えられたよ。それでも毒消しやら胃薬は必須だがね」
「なにもそこまでしなくても……」
「気にすんな、君らが食うわけじゃない。さて、ここで本題だ。俺も飛竜の山へ連れて行ってくれないか? 飛竜の卵を食ってみたいんだ」
「え? 食べるの? あたしらはクエで持ってくるのが目当てだし」
「一個しかなかったら、それは君らに譲るってことでどうだ?」
「それなら問題は無いし、みんないいかな?」
一同異存は無いようだ。
「そりゃ助かる。一応俺が登山道具持ってるから、君達は買わなくてもいいぜ」
「でもさ、おっさんみたいなベテランが仲間を必要とするってことは……」
「そういうことさ、飛竜の親に絡まれたら厄介だしな。目的が同じなら協力した方がいいだろ?」
「やっぱりそうなのね」
「いいじゃないか、旅が楽しくなりそうだし、準備して行こうか」
彼らはそう話してウィグラフと共に、飛竜の山へと向かった。
飛竜の山へ向かう道は険しい山道になっていた。
目的地にたどり着く前に、かなりの標高に達しているようだった。
そして飛竜の山への登り口へ着いて下から見上げると、崖のようになっていて、どこから登り始めていいのか分からいほど険しかった。
「俺が先に登って上からロープを垂らすから、君達はそれを伝って登ってきてくれ」
ウィグラフはそう言い、まず一人で登って行った。
ウィグラフが先導してロープを垂らし、そのロープを頼りに登り始める一行。
山は絶壁という程ではないが、かなりの急勾配になっている。
ロープがあっても斜面を登るのに大変な労力を必要とした。
百メートル位登った所で、休めそうな足場が見つかり、五人は休憩することにした。
「これは山っていうより、もう崖だな」
「こんなに厳しいとは思わなかったよ……」
「苦労が大きいほどメシがうまくなるってもんさ」
「おっさんは食べるの目当てだけど、あたしらはクエ目当てだしな~」
「頂上まで登れば、その眺めは絶景だぜ?」
「頂上まで登るのですか……」
「いやそこまでは登らないだろうよ。恐らく、下から見えないように、ここみたいな足場に巣を作っているはずだ」
「登ってみないと分からないってことか、厳しいなぁ」
そして休憩した後も、一行は斜面を登る。
どれくらい登ったのだろうか、先行しているウィグラフが何か見つけたようだ。
下の四人に合図を送った。
四人がウィグラフの所へ着くと、そこは足場に加えて洞穴があった。
「多分ここだな、飛竜のフンがある。この穴の奥の方に巣があるかもしれない」
「やっとか~」
「疲れた~」
「おっと、ここからが本番だ。飛竜の親に見つからないようにしないとな」
こうして五人は、洞穴に入り奥へと進んだ。
その洞穴は余り深くなく、少し進んだ所に飛竜の巣があった。
巣の中に大きな卵は五個あった。それぞれが卵を一つ布でくるみ、背に縛り付けた。
その時である、洞穴の入り口付近で何者かが羽ばたく音が聞こえてきた。
「ありゃ~、来ちまったか」
「うへぇ、この格好で戦闘か」
「なに、この洞穴は狭い、飛び回る飛竜を相手にするわけじゃ無い。何とかなる」
そう言ってウィグラフは槍を手に持ち入り口へ向かうと、四人もそれに続いた。
そこには灰色の体に大きな翼を持った飛竜がいた。
明らかに侵入者に対し怒っているようだ。
飛竜は翼を羽ばたかせて威嚇してくるが、翼を広げたままでは洞穴に入れない。
そしてしばらく五人と睨み合う。
「こりゃらちがあかん。卵を一個割って、飛竜を怒らせて洞穴の中で戦おう」
皆それに同意し、入り口から下がったところで卵を一個割り、飛竜を挑発した。
怒り狂って洞窟の中へ入って来た飛竜を、ウィグラフとクロウで迎撃する。
剣と槍と爪が狭い所でぶつかり合い、金属が鳴る音や飛竜の咆哮が洞穴に響き渡る。
飛竜の力に押し負けたクロウが腕を切り裂かれ、一瞬怯んでしまうと、それを見たウィグラフが激しい突きを飛竜に突き出して牽制した。
その槍が飛竜の腹に深く突き刺さり、飛竜は思わず後ずさりした。
彼は槍を引き抜こうとするが、飛竜はさらに後ろへ下がって洞穴の外へ出た。
そして、飛竜は外の足場から上空へ飛び上がろうと、翼を羽ばたかせたのだ。
「おっさん!」
だがウィグラフは槍を放さず、揉み合いの後、飛竜はウィグラフを両足で掴んだ。「ぐっ……」
そして飛竜は翼を羽ばたかせ、空へ飛び上がってしまった。
「おっさーん!」
飛竜は体に槍が突き刺さったまま、この場から逃げ去ろうとするが、体に槍が刺さったまま徐々に力を失っていくと、崖の下へ落ちていった。
「おっさん……」
ウィグラフの死を悼む一行……。
しかしこの場に残っていも仕方ない、戻らなければ。
そう思い、一行は卵を背に、張られたロープを伝って麓へ向かう。
下りの道は登りより厳しかったが、ゆっくり降りて行き、数時間後、四人はなんとか無事に麓へ降り立った。
「これをエルフ村まで持って行けばクエ達成だけど、後味悪いね」
「そうだな、おっさんが食い意地張りすぎたから……」
「あのおっさん死んじゃったのかしら?」
「オイコラ! おっさんおっさん言うんじゃねぇ!!」
一同、驚いて声の聞こえた方を見る。
そこには、ウィグラフがボロボロになりながらも、槍を手に立っていた。
「「「おっさん!」」」
「だからな……、いてて、もういい!」
そういうとウィグラフはその場に座り込んだ。リノが彼の手当てを始める……。
「ウィグラフさん、これって……」
リノが尋ねた。
「ああ、ばれちまったか。まあいい、隠してるわけじゃねえしな……」
ウィグラフはシャツを開いて胸元を見せた。
「これが『竜の心臓』ってやつだ」
彼の胸には赤い心臓と血管が浮き出るように張り付いていた。
それは目に見えて鼓動を繰り返し続け、人から独立した生き物のように見える。
驚きのあまり言葉を失う四人。
「おっさん、なんでそんな物持ってんのよ?」
「前回のシーズン2で『伝説の古竜』っていうのを倒した時に貰ったんだよ」
「えっ!? もしかして、おっさんが前回の勝利者なの?」
「ふぅ……、そういうことだな」
「凄いわね……、このゲームの勝利者となった人、初めて見たわ……」
「そんなにカッコいいものじゃねえし、見た目も悪い。だが俺は不死身だ……、と言いたいところだが、死なない代わりにクソ痛ぇし、人にお勧めはできねぇな……」
「ま、それより、俺の卵の分け前もあるんだろうな? 無かったらしばくぞ」
「大丈夫、あと三個ある」
そう言って、クロウはウィグラフに背中の卵を渡そうとした。
〝クチャッ〟……手が滑り、卵を落としてしまったようだ。
五人の間に気まずい空気が流れる……。
ウィグラフの怪我が治るのを待ち、一行はエルフの村へ帰って行った。
その道中で誰も口を開かなかったが、疲れのせいだけではなかったようだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます