第6話 崩落、古代の遺跡

 ――翌日。

「今日の朝食はカレーですよ」

リノは三人にそう言って、カレーを四皿、食堂のテーブルに並べる。

そして、オレンジジュースをコップに注ぎ、皆に配った。

「カレーはいつ食べてもおいしいなぁ」

「朝食にカレー、って思うけど、おいしいから食べちゃうよね」

「よほど変な作り方をしないかぎり、失敗しないよね~」

エリーはそう言ってオレンジジュースを一口飲み、カレーを口にする。

「うっわ、カレーとオレンジジュースって死ぬほど合わない。まずい!」

「そう? ……本当だ、口の中で混ぜるとオレンジの渋さと酸味が強調されるわね」

「……本当ですね、おいしくないです。次回は気をつけます」

クロウはカレーとオレンジジュースを口に含み、呟いた。

「……の味がする」

食ったことないからわからん!」〝ダンッ〟とエリーがテーブルを叩く。

 リノは目を丸くして固まってしまい、フェイは〝ブハッ〟っと盛大に噴き出した。

フェイの顔が一瞬でおかしな方に歪んだ――つまりアヘ顔――のように。

そしてそのまま両手で自身の顔を覆って〝ゲホッゲホッ〟っとむせこんでしまう。

(AHEGAO……?)

クロウはフェイのその顔を見て唖然とする。

(今の顔は……?)

リノもフェイの顔を見て硬直してしまう。

 エリーはフェイの背中をさすりながら言った。

「驚かせてごめんな~。フェイは笑いのツボに入ると、アヘ顔みたいになっちゃうんだ。しかも一度ツボに入ると中々抜けないし」

エリーは再びフェイの背中をさすりながら続けて言う。

「フェイはさ、美人じゃん? スタイルもいいじゃん? モテそうなのにって思うけど、これがあるからね……」

「ああ、そうですか……」

クロウはまだ唖然としていた。

「驚きました……」

リノは突然のことに驚いたが、気を持ち直したようだ。

「フェイ、ごめんな~、急に変なこと言って」

フェイは両手で顔を隠しながら、肩を震わせて笑いをこらえつつ、首を横に振り、そして再び〝ゲホッゲホッ〟と咳込んだ。

「フェイはこうなると中々抜けなくなるから、今日はもう期待しない方がいいよ」

((…………))

クロウとリノはフェイを見ながら、沈黙してしまう。

 その後、みんなでおいしくカレーを食べ(一名を除く)、次の冒険へと向かった。



 ――『寂れた古代遺跡』

 今回のクエスト、『古代遺跡の財宝を見つけ出せ!』の舞台である。

地上部分は壊れた石畳の道路、折れた石柱、建物の基礎部分しか見えない。

崩れた建物の陰に地下へと降りる階段があり、そこから遺跡の奥へ行けるようだ。

この遺跡には、魔法を使うモンスター『インプ』が生息している事が知られている。

さらに、侵入者を撃退する為の罠などが設置してあり、冒険者の行く手を阻むのだ。

一行は緊張した面持ちで遺跡へ降りて行った。


 エリーは慎重に床を調べながら進んでいたが、怪訝そうな顔で言った。

「あれ? 罠が解除してある……」

「先客がいるのかしら?」

「クエスト中に他のプレイヤーと鉢合わせすることもあるんだ?」

「あるよ。低ランクのクエストはかかる時間が少ないから、滅多に会わないけど」

「へぇ~、どんな人がいるんだろ?」

「ウチらの邪魔をしてくるかもしれないよ~?」

「他のプレイヤーが私たちに好意的とは限らないからね」

「そっか、気をつけて行こう」


 四人は慎重に奥へと進んでいく、通路を進み、小部屋を抜け、再び奥へ進む。

ここまでの罠はすべて解除されていた。やはり誰かいるようだ。

さらに通路を進むと小部屋があり、そこには見知らぬ男が立っていた。

「なんだ? お前らは」

その男は小部屋に入って来た一行を見て言った。

「俺達はクエストでここまで来たんだけど、そちらは?」

「フン、そうか。俺の名は『博明のライシス』と言う。トレジャーハンターだ。この遺跡に眠る秘宝『赤燐の腕輪』を探しに来た」

「白米のライス?」

「違う! ライシスだ!」

その話を聞いたフェイは再び〝ブフッ〟と噴き出す。

顔を下に向け、両手を顔で隠して笑いをこらえて肩を震わせている。

「笑うな! 不愉快な奴らだ。俺は先に進む、邪魔はするなよ。じゃあな!」

そう言って、ライシスと名乗る男は、一人で奥へと進んで行った。


「あ~あ、怒らせちゃったよ」

「スマン」

「まあ、フェイがツボに嵌ってるだけなんだけどね」

「私達の目的は『イムの首飾り』という物です。同じ物じゃなくて良かったですね」

「あたしらはあたしらで行こっか」

 そう話していると、奥の方からこちらへ向かって走って来る足音が聞こえてくる。

その足音の主は先程のライシスだ。

彼の背中のマントは、あちこち焦げ付いていて煙が出ている。

何者かに焼かれたのだろうか。彼はこちらを見て言った。

「ハァ、ハァッ、この先にドラゴンフライの群れがいた。いきなり火を吹かれて服が燃えるところだった。クソッ」

「背中焦げてるけど大丈夫?」

「おこげ?」

三度みたびフェイは〝ブフッ〟と吹き出す。かなりの重症のようだ。

「クソッ!」

ライシスはこの状況にイラつき、背を向けて座り込んだ。

「まあ、あたしらが先に行くから、あんたは休んでな」

エリーはそう言い、皆と一緒に奥へ進んだ。


 ライシスの言う通り、通路の先の小部屋にはドラゴンフライが群れている。

小部屋の中に入って来た四人を侵入者とみなし、襲い始めた。

だが、今のクロウ達にとっては大した敵では無く、あっさりと倒された。


 さらに奥へと進む一行。

その後ろにはライシスが付いて来ているようだ。

「なんか付いて来てるけど、どうする?」

「目的は別だし、放っておこ」

そう言い、後ろを気にせずに奥へ進んで行く。

通路の先は二手に分かれていて、どちらかに向かわなければならないようだ。

「どっちがいいと思う?」

「ん~、右」

「じゃ、そっち行こう」

「お前らは右か、俺は左へ向かう、どっちが先に手に入れられるか勝負だ!」

そう言って、ライシスは左の通路へ駆けて行った。

「目的のアイテムが違うんですけどね……」

「いいよいいよ、あいつはほっとこう」

フェイはまだ笑いをこらえて肩を震わせている。


 一行は右の通路へと進んで行った。

奥へ行き罠を解除して進み、さらに階段を降りて進む。

その通路の先の方は小部屋になっているらしく、そこには魔物の姿があった。

小さい体、灰色の肌、背中には灰色の翼を持つ悪魔の子供、『インプ』である。

そのインプが三匹、小部屋の中にいたのだ。

四人は遠くからインプ達の様子を見ながら、作戦を練る。

「あれが『インプ』か」

「魔法を使ってくるわね」

「どんな魔法でしょうか?」

「火の玉とかだね。インプによって違いはあるけど、弱い魔法だよ」

「じゃあ楽勝かな?」

「ウチの魔法で足止めしても、魔法を飛ばしてくるから注意ね」

「一匹ずつ倒したほうがいいね」

「よし、じゃあ左のやつからいこうか」

「補助魔法をかけますね。聖なる盾ホーリーシールド!」

「よし、行こう」

こうして彼らはインプのいる部屋に入って行った。


 インプ達はこちらに気づくと、炎の玉や氷の槍で攻撃してきた。

氷結飛槍アイスジャベリン!」

フェイの魔法で右のインプを足止めすると、クロウとエリーが左のインプに向かって斬りかかる。

クロウの雷神剣の雷撃に加え、エリーの急所を狙った攻撃で一匹を仕留めると、次に二人は中央にいたインプに攻撃した。

だがその時、右の足を凍らされたインプが、光線のような魔法を出してきたのだ。

その魔法の速さに思わず魔法を浴びてしまうクロウ。

「くっ!」

するとクロウの頭の上に、二つの丸い耳がついてしまった。

エリーは中央のインプを倒すと、クロウの頭を見て思わず言った。

「何これ? ミッ〇ー?」

「えっ?」

クロウは頭の丸い耳を触って確認してしまう。

「ダメよ! その姿は著作権的にマズイわ! 耳を隠して!」

クロウはとりあえず、丸い両耳を手で押さえて隠した。

あっけにとられてるエリーにも、左のインプは光線を放った。

「あっ!」

エリーもクロウに気を取られているうちに光線を浴びてしまい、その姿は青と白のネコ型ロボットになってしまった。

「ドラ〇もんですか……」

「えっ! うそ!?」

エリーも自分の体を障り、姿が変わってしまったのを確認し始めた。

突然の出来事に動揺している彼らに、さらにインプは光線を放つ。

リノがその光線を浴びると、おかっぱ頭に赤いスカートの小学生になってしまった。

「きゃっ!?」

「あれは……、ちび〇子ちゃんか?」

「伏せ字になってないよ!」

フェイがその光線を浴びると、唇の厚いサラリーマンになってしまった。

「えっ!?」

「あれ? ア〇ゴさんか!?」

「そうみたいね……」

「なんでウチだけ脇役なのよ!」

フェイは怒るも、その声は渋い声に変っていた。

「まずい、手を離したら権利者に訴えられてしまう……」

「指が無くなったのに短剣持ってるよ……」

「なんでウチが脇役……、でも主役の髪形もイヤ……」

「あたしゃもう困ったもんだよ……」

四人それぞれ魔法を浴びてしまい、インプはこちらを見てせせら笑ってる。

 だがクロウは片手で雷神剣を持ち、そのインプをさっくり斬って倒した。

するとすぐに四人の姿が元に戻った。それほど強い魔法ではなかったらしい。

「変身の魔法があんなに恐ろしいものだったとは……」

「権利者に怒られそうだったね……」

「せめてもうちょっとマシなキャラに……」

「しん〇すけの方が良かった?」

「尻だけダンス踊りたくないので結構です……」

ともかくインプ三匹を倒した彼らであったが、思ったより疲弊してしまった。

四人は少し休憩を取ってから、奥へ進むことにした。


 一行は少し休んでから奥へ向かうと、そこは何もない行き止まりの小部屋だった。

「行き止まりかな?」

「どうだろ? 壁を調べてみるよ」

 エリーはそう言って壁を調べ始める。……何か見つけたようだ。

彼女が壁のスイッチらしきものを操作すると、壁の一部が動き出し、通路が現れた。

「よしっ!」

エリーが隠し通路を見つけ、四人がさらに通路を奥へと進もうとすると、再び彼女がが足元何かを発見した。

「待って、何かの罠がある……」

エリーはそう言って、罠を解除し始める。

「……やばっ」

だが、彼女がそう呟くと、背後の小部屋から何かが崩れる大きな音が聞こえてきた。

後ろの小部屋を見ると、天井が次々落ちてきたのだった。


 天井が崩れる轟音と共に砂埃が舞い上がり、一行の視界を遮る……。

砂埃が徐々に落ち着いてくると、〝キィーキィーッ〟と魔物の声が聞こえてきた。

後ろの小部屋の崩れた天井の瓦礫の上には、二匹のインプとライシスがいて、インプ達はライシスめがけて襲いかかる。

だが彼は足を怪我をしているらしく、立ち上がれないまま短剣を振るい、インプ達を追い払おうとした。

「行くぞ! 助けよう!」

そのクロウの掛け声で四人は瓦礫まみれの部屋に入り、インプ達を蹴散らした。


 その戦闘が終わると、リノはライシスの怪我の手当を始める。

彼は怪我の痛みに耐えながら言った。

「すまない、助けられたようだ」

「気にしないで下さい」

「そうそう、困ったときはなんとやらっていうやつさ」

リノとクロウはライシスを気遣って言った。

……エリーとフェイは少し離れたところでヒソヒソ話してた。

(天井が落ちてきたのって、エリっちが罠解除に失敗したせいだよね?)

(そうかも……)

(そのせいでライスが上から落ちてきたんじゃない?)

(うぐっ、そうだとしたら悪いことしちゃったな……)

リノがライシスの手当を終えると、彼は一行に頭を下げて礼を言った。

「すまない、助けられたな。お礼という程でもないが、これを貰ってくれ、途中で拾ったものだ。俺は道具が無くなったので一旦引き返す。今回の勝負はこれでおあずけだ。では、さらばだ」

そう言ってライシスは一行に小箱を渡すと、一人で外へ歩いて行った。


 ライシスが残していった小箱には、一行のクエストの目的になっている物、『イムの首飾り』が入っていた。

「これ、俺達のクエの目的の物だな……」

「なんでライスが持ってるんだろ?」

彼らは唖然としていたが、どのような過程や結果であれクエストを達成したのだ。

四人はリベルタスの街へ戻って行った。


 その後、一行はクエストを報告して報酬を受け取った。

ここで四人の職業ランクが上がってDランクとなり、明日からはより難しいクエストに挑戦するのだろう。

こうして今日の冒険を終わらせた彼らは、明日の準備をしてから休む事にしたのだ。

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