第4話 戦慄、盗賊のアジト

 ――翌朝。

 エリーとフェイがギルド拠点の食堂のテーブルに着き、何やら喋っていた。

フェイは昨日手に入れた指輪を何度も眺めて、うっとりしていたのだ。

「フェイ、その指輪、何なの?」

「この『美白の指輪』のこと?」

「そう、それ。どんな効果があるの?」

「『美白の指輪』はね、肌年齢を二歳若返らせる効果があるのよ」

「何の意味があるのよ……」

「いい? エリっち。この世界で一番大事なものは、『肌年齢』よ」

「あ~はいはい、そんなのキメ顔で言わなくてもいいからさ~」

「肌年齢をバカにする者は肌年齢に泣くのよ……」

二人がそんな話をしていると、クロウとリノが降りてきた。

 そして四人が食堂に集まると、エリーは言った。

「それでは皆さん、昨日言ってたギルド名を決めましょう。まずフェイから」

「漆黒の光天使」

「暗いのか明るいのか分かりませんね、はい次リノ」

「太陽系パウンドケーキ」

「前より大きくなってますね、はい次クロ」

「フリーソーメン」

「タダでそうめんは食べられませんね」

「やっぱり思っていた通り、まともな名前は出てこなかったか。でもあたしはそうなると思って、一つアイディアを持ってきました」

「どんなのよ?」

「まず、皆さんに希望のギルド名を紙に書いてもらいます。次にその紙を単語に分けて切ります。そしてそれをくじ引きのような感じで一枚づつ引いていって、ギルド名っぽい名前にしましょう」

「大丈夫でしょうか……?」

「ある程度それっぽい名前になってから、改良してもいいかなと思います」

「とりあえずそれでやってみようか、ダメならまたやり直せばいいし」

「そうですね、やってみましょうか」


 四人はそれぞれ自分が思いついたギルド名を紙に書き、そしてその紙を単語ごとに切って、箱の中に入れていった。

「はい、それでは一枚ずつ引いていきますね」

エリーはそう言って、紙の断片を一枚ずつ拾い、読み上げる。



「『我々の……』」


     「『……中に……』」


         「『……裏切り……』」


              「『……者……』」


                 「『……ガイル……』」



((((……これって……))))

 四人はリアクションに困って、沈黙してしまった……。

(『我々の待ちガイル』が……)

(『宝石箱の中にチョコレート』が……)

(『裏切りの聖天使』が……)

(『最も強き者』が……)

一体どうしてこうなったのだろうと、四人は考え始めた。

「……これは……どうしようか……?」

「……面白いけど、ギルド名じゃないよね……?」

「……どうしてうまく文章になってしまったのでしょうか……」

「……気に入った! これをギルド名にしよう!」

「ええっ!?」

「まあ、この名前に飽きたら変えればいいし。とりあえず入力しちゃうね」

そう言ってクロウはギルド名を入力し、決定してしまった。



 ――ギルド名 『我々の中に裏切り者ガイル』 に決定!



「あ~あ、こんな変なギルド名にしてどうするのよ?」

「待って、本当に裏切り者がいるかもしれないわ!」

「どうせチェリーを舌でレロレロしてるんでしょ? もういいって」

「何か良さそうな名前を思いついたら変えてもいいじゃないですか」

「そうなんだけどさ……。クロ、何してんの?」

クロウはスクリーンを開き、何かやっていたのである。

「あ、開発からメールが……」

「どしたの?」

「俺の持ってる『白い烏』って才能スキル、意味分からんから問い合わせてた」

「何か分かったのかしら?」

「……待ってね」

「名前はカッコよさそうですよね」

「うん、え~っと。『白い烏』は存在しないはずの物の例えです。このスキルを持っていると、ありえない事が起きたり起きなかったりします。だそうだ」

「何そのパルプンテ?」

「俺に聞かれてもな……」

「何の役に立つのかしら?」

「それだけじゃ分かりませんよね……」

「いいかげんすぎるな……、そういや、魔物のボスが変なやられ方してたよな?」

「そうですね、クロさんと最初に行ったゴブリンの洞窟では、強そうな魔物が勝手に罠にかかって自滅してましたよね」

「オークのボスもアツアツの鍋に尻もちついてたわ」

「コボルトのボスは足が短かったね」

「起きたり起きなかったりするってのが厄介だよな」

「効果が決まってるパルプンテの方が使えるよね……」

「かなりレアなスキルらしいけどな……」

「全く分からないわね……」

「このままプレイし続けるしかないでしょうね」

「そうだな、考えても分からん事はしょうがない。クエにでも行くか」

それから一行は冒険者ギルドに向かい、今日もクエストをやる事にした。


 今日もエリーがクエストを受注して、皆の元へ戻って来た。

「はい皆さん、今日のクエはDランクの『盗賊に攫われた村娘を救い出せ!』です」

「救出って、NPCを?」

「そうです。NPC村娘が盗賊に殺されてしまうと失敗になります。皆さん気をつけましょう」

こうして彼らは、盗賊のアジトがある場所の聞き込みをしてから、そこへ向かった。



 一行が街を出てしばらく歩いていると、山賊の住処となっている廃屋に着いた。

その廃屋は小高い丘に建っていて、周囲には見張りの盗賊が巡回している。

「Dランクのクエだから、敵も強くなるのかな?」

「Eランクのより強いだろうけど、あたしたちも強くなったから大丈夫だと思うよ」

「ウチが」「あたしが引っ張って来るね」

エリーはフェイの発言を遮るようにそう言って、盗賊を引っ張りに行った。

 ランクDの敵とはいえ、所詮は雑魚。レア装備を持った彼らには弱い敵だった。

一匹二匹と数を減らしていき、ついに廃屋の外の敵はいなくなってしまった。

「よし、足音を立てないように入り口に近づこう」

エリーの先導で廃屋の入り口に近づく一行。

彼女はさらに廃屋の窓から中の様子を探ってきた。

「中にいるのは盗賊二匹、NPC村娘が二人、廃屋の中には他に部屋は無いね」

「飛び込んで一気にカタをつける?」

「どうだろ? 人質に何かあったらクエ失敗になるし……」

「ウチがいいこと思いついたよ」

「どのようなことでしょうか?」

(ゴニョゴニョゴニョ……)

フェイは三人に作戦を説明した……。


 盗賊二人がいる廃屋。そこの扉を外側からノックしてくる者がいる。

盗賊はその音に警戒するも、先に扉が開けられてしまう。

そこに立っていたのは小柄なメイド『リノ』である。

「頼まれていた食事をお持ちしました」

リノはそう言って小さい鞄を目の前に出した。

盗賊の一人が用心しつつも、その鞄を受け取りに行く。

突然〝ガシャーン〟と窓ガラスが割れ、外から魔法が飛んできた。

それに加え、二人が廃屋の中に飛び込んできたのだ。

奥の方にいた盗賊は、フェイの魔法で足を凍らされ、エリーに斬られた。

リノの鞄を受け取りに行った盗賊は、彼女に鞄で頭を殴られ、さらに背後からクロウに斬られた。


 思いのほかうまく人質の救出した一行。

捕まっていたNPC村娘達を解放すると、彼女達は足早に廃屋の外へ逃げていった。

「思ったよりうまくいったね」

「フフフ、ウチを褒めてもいいのよ?」

「フェイの得意げの顔はほっといて、これで終わりなのかな?」

「外に逃げたNPC村娘を守ったりしなくていいのか? 勝手に走って行ったけど」

「どうかな~? クリア扱いになってるか確認してみるよ」

「きゃっ」

突然背後でリノの悲鳴が聞こえ、三人は振り返った。


 振り向くとそこには、リノを人質に取った盗賊がいた。

その盗賊は他の盗賊達と服装が違っており、どうやら盗賊たちのリーダーのようだ。

そして彼の後ろには雑魚の盗賊二匹が、逃げ出したNPC村娘を人質に取っていた。

「くっ!」

クロウは歯噛みしたが、人質を取られてしまったからには、すぐに動けない。

「どうしよ?」

「むぅ……」

三人は次の手を打てずに、動き出せずにいた。


 すると突然、リノがエプロンの中からすばやく銃を取り出し、盗賊リーダーのあご下に銃を突きつけ引き金を引いた。

〝パン〟と発砲音が響き渡り、盗賊リーダーはあご下から頭を撃ち抜かれ、ぐったりと倒れて動かなくなった。

さらにリノは続けて、倒れた彼の心臓を狙い、もう一発発砲する。

次にリノは振り向きざまに後ろの盗賊へ一発二発と発砲し、彼らの頭を撃ち抜いた。

 そしてNPC村娘達が逃げると、リノはそれをぼんやり見つめ、立ちつくしていた。

(((プロだ……)))

そうは思ったが、クロウはリノの変貌ぶりに動揺しつつも、近づいて行った。

「……リノ」

リノは急に背後から近付いてきた彼の腕をねじり上げ、その頭に銃を当てて呟いた。

「私の後ろに立たないでくださいますか……」

リノの目はいつもと違い、氷のような冷たい目をしていた。

そしてクロウを突き飛ばすと、

「お帰りくださいませ、ご主人様」

と言い放ち、機械のような冷たい目で三人を一瞥して、

「報酬はスイス銀行の例の口座へお願いします。では失礼します」

と言い残し、リノは一人で街へ歩いていった。


 三人は目の前の突然の出来事にあっけにとられていた……。

「リノのキャラが変わってしまった……。メイド13サーティーン?」

「あの銃、呪われてたのかな……?」

「恐ろしい……、俺の頭に銃をつけた後のリノの目、夢に出てきそうだ……」

「リノは一人で街に帰って行っちゃったけど、どうしよう?」

「リノっちのキャラがあのまま戻らなかったら……」

「スイス銀行にお金振り込まないと戻らないとか……」

「新手の振り込め詐欺か……」

「……とりあえず、クエは終わったみたいだし、街に戻りましょうか……」

「……そうだね、リノのキャラが街に着くまでに戻っていますように……」

三人は浮かない表情で、街へと戻って行った。



 ――その道中。

「そういやさ、このゲームで死んだらどうなるんだ?」

「ん? デスペナ? 教会で蘇生してもらえるよ、高いけど」

「そうよ。死体を教会に持って行って、その人の所持品と所持金に応じた金額を払わなくちゃいけないのよ」

「だからクロみたいに高額な武器を持ってると、蘇生費用も高くなるよ」

「そうなのか……、なるべく死にたくないな」

「それにメッチャ痛いよ」

「どれくらいなんだろ……」

「タンスの角に足の小指ぶつけるくらい」

「大体想像つくけど、何度も味わいたくないな……」

「そうだね、だから誰も好きで死にたくないはず」

「あ、そうだ、死体を教会まで持って帰れない時はどうするんだろ?」

「その時は三日間ログイン不可になるわ」

「でもね、死体回収してお金稼いでる人もいるらしいよ」

「儲かるのかな……?」

「どうだろね? あたしはやったことないけど、通りすがりの死体拾って帰るのはアリなんじゃないの?」

「ふ~む、色々あるんだな……」

「エリっちも言ったように、死なないようにするのが一番ね」

「そうみたいだな」

「でもなんで急にそんなこと聞いてきたのよ?」

「リノに頭に銃を突きつけられて……」

「なるほどね……」

「リノっちが戻ってなかったらどうしようかな?」

「そこは考えない方がいいと思う……」

三人はこのような話をしながら、浮かない顔でリベルタスの街に帰って行った。



 幸いにも、三人が街へ戻ると、リノのキャラは戻っていようだ。

リノはみんなに深々と頭を下げて謝った。

「皆さん、本当にすいません。私、前にやってたゲームの影響で、背後に立たれるのがとても苦手になってしまったんです」

「……呪われてたんじゃなかったのね……」

「……うん、苦手というか、二重人格?」

「……未知なる力を発揮してたよね……」

「本当に皆さんすいませんでした」

再びリノは深々と頭を下げて謝った。

「まあ、リノが元に戻ってよかったよ……」

「そうだね、あのままだったらどうしようかと」

「パーティー組むだけで報酬が必要になるかと思ったわ」

「うぅ、本当にすいません」

「まあ、クエも終わって全部丸く収まったことだし、良しとしますか」


 その後一行は、冒険者ギルドでクエストの報告をして報酬を受け取った。

そしてギルド拠点に戻り、次の冒険への準備して、休むことにしたのだった。

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