第3話 咬噛、コボルトの廃坑

 ……エリーは冒険者ギルドでクエストを受けてきたようだ。

皆の所へ戻り、クエストの内容を話し始める。

「さて、次のクエはEランクの『コボルトに奪われた鉱石を奪還せよ!』かな」

「どんな内容なんだろ?」

「コボルトが住んでいる廃坑に行って、鉱石を街へ運ぶみたい」

「コボルトというと犬みたいなやつかな?」

「そうだね、可愛げがないから、犬っていうより狼だけどね」

「ポメラニアン型のコボルトがいたらどうしよう?」

「それはまず斬れないわね……」

「そんな変なモンスターいるわけないでしょうよ」

そんな会話をしながら、一行はコボルトの住んでいる廃坑へ向かった。


 ――『コボルトの廃坑』

 入り口は木材の柱で補強されてあるが、作りはかなり古く、少しの衝撃でも与えれば崩れそうな程、脆そうだった。

かつては大勢の鉱夫達がここに出入りし、何かの鉱石を採掘していたかもしれない。

だが今はコボルト達に占領され、全く人が寄り付かなくなってしまったのである。

 一行は廃坑の入り口に近づくと、遠くから様子を覗った。

「入り口に見張りが二匹いるね」

「ウチの召喚魔法、試しに使ってみていい?」

「二匹とも引っ張れる?」

「まあ、そこはお試しで……」

「召喚! ミニゴーレム・チャ!」

フェイの掛け声で、地面から小型の土のゴーレムが起き上がってきた。

彼は頭にハゲヅラをかぶり、丸い眼鏡をかけ、鼻の下にはチョビヒゲがついている。

「よし、ちょっとだけ行ってこい! チャ!」

フェイの号令で、ミニゴーレムは廃坑の入り口へと千鳥足で歩いて行く。

「……フェイ、これはオチが見えてるというか、出オチじゃない…?」

「重要なのは見た目ではなく、心よ」

「そんなキメ顔で言わなくてもさ……」

 そうしている間に、ミニゴーレム・チャは見張りのコボルトへ近づいて行った。

チャはフラフラしながら歩き、何かを吐き出しそうな仕草をする。

だが突然、〝イーッキシッ!〟と大きなクシャミをすると、見張りの二匹のコボルトはその声に驚き、尻もちをついてしまった。

チャは急いで皆の所へ戻り、少し遅れて二匹のコボルトが追いかけてきた。

「もうあの姿で出てきただけでこうなると思ったよ……」

「お約束よ」

「ハイハイ」

二匹のコボルトは、クロウの雷神剣によってあっさりと倒されてしまった。

「この剣やっぱり強いな……、コボルトも一撃だ……」

「さすがSランクの武器だね」

「剣を振るだけで雷が出るのはずるぃょ」

フェイが不満をもらす。

「フェイの魔法だって、変な見た目をのぞけば使えるんじゃない?」

「変じゃない! レジェンドと言って欲しいわ」

「ハイハイ」

そんな話しつつ、四人は坑道の中へ入って行った。


 一行は坑道の入り口から奥へと進んで行った。

道中に雑魚のコボルトが出るも、彼らにあっさりと倒されてしまう。

そうして進むと先の方に大広間があり、その手前で身を隠しつつ中を覗いてみた。

そこには広間の中央には、大型で足の短いコボルトが寝そべっていたのだ。

ボスらしきコボルトを発見した四人は、相談を始めた。

「やっぱりボスかな?」

「そうみたいだね」

「ウチが調べるわ! 健康分析ヘルスアナライズ! ……彼はダックスフントを父にもつコボルト『鉄牙のザッシュ』よ! 腰痛が酷いらしいわ」

「ダックスフント……、しかも雑種って……」

「ダックスフントの遺伝子が強すぎるな……」

「とにかくさ、どう戦う?」

「先に俺が行くよ、戦士が盾役になったほうがいいし」

「待って下さい、先に防御魔法をかけます。聖なる盾ホーリーシールド!」

「ありがと、じゃ行ってくる」


 クロウは『鉄牙のザッシュ』へ向かって行き、彼に斬りかかった。

ザッシュはダックスフントのように胴が長く、足が短い。

彼は立ち上がると、短い足でヨチヨチ歩き出した。

その愛くるしい姿に思わず手を差し伸べてしまいそうになる四人。

だが彼は遠吠えで仲間を呼ぶと、坑道の奥の方からコボルト達が現れ、こちらに襲いかかって来た。

「雑魚が来たよ!」

「ウチに任せて!」

「召喚! ミニゴーレム・チョースケ!」

唇の厚いミニゴーレムが現れた。〝オイッス!〟

「召喚! ミニゴーレム・コージ!」

黒縁メガネの体操選手のようなミニゴーレムが現れた。

「召喚! ミニゴーレム・ブー!」

太ったミニゴーレムが眠っている。

「召喚! ミニゴーレム・チャ!」

さっきのハゲヅラのミニゴーレムが酔っぱらっている。

「召喚! ミニゴーレム・ケン!」

変なおじさんのミニゴーレムが踊っている。

「よし、行け!」

フェイは眠っているブーを叩き起こし、エリーの援護へ向かった。


 クロウは『鉄牙のザッシュ』と戦っているものの、彼は弱くはなかった。

ザッシュは二本足で立つとヨチヨチ歩きだが、前足をついた後に素早く飛びかかってきて、噛みついてくるのだ。

「くそっ! 立ってるとかわいいのに!」

クロウがそう言うと、かわいいと言われたザッシュは、喜んで尻尾を振り始めた。

「……なんだこいつ?」

彼は疑問に思ったが、ザッシュはこちらの隙を見ると、すぐ噛みついてくる。

そのザッシュの攻撃をなんとか躱し、体勢を整えて武器を構える。

ザッシュは再び立ち上がった。攻撃の準備だろうか。

「なんで立ってかわいく見せようとするんだよ!」

クロウがそう言うと、ザッシュは〝ハッハッ〟と舌を出して喜びだした。

(こいつ、かわいいって言われると喜ぶのか?)

そう思ったクロウは、

「はいはいかわいいね~、こっちおいで~」

と言いながら、しゃがんでザッシュを手招きした。

彼はその呼びかけに応じて、後ろ足で立ってヨチヨチ歩きで近づいて来る。

「お手!」

クロウはそう言って雷神剣を前に差し出した。

彼は雷神剣に前足を乗せてしまい、電撃を浴びて〝キャウ~ン〟と倒れてしまった。

(なにこのアホ犬……)

クロウはそう思ったが、倒してしまったのは仕方ない、そう思う事にした。


 その頃には雑魚のコボルト達との戦闘も終わったらしい。

「そっち大丈夫だった?」

エリーが聞いてきた。

「なんかアホな犬だったよ……」

クロウは呆れながら答えた。

「なにそれ? でもまあ勝ったからいいか」

そうしていると倒れたザッシュの姿は消え去り、そこに二つの装備が残った。

クロウがそれを拾い上げて調べると、Bランクの『詐欺師の短剣』と『美白の指輪』だった。

「短剣と指輪だけど、誰か欲しい?」

「あたしが短剣もらうよ」

「じゃあ、ウチは指輪で」

こうしてエリーが短剣、フェイが指輪を受け取ると、彼らは先に進む事にした。


 一行はそれから廃坑の奥へと進み、ついに奪われた鉱石を見つけた。

だがその鉱石は想像より大きく、とても一人で持ち運べるようなものでは無かった。

「これどうやって運んだらいいんだろ? クロウ、一人で持ち上げられる?」

「無理だねぇ、四人がかりでもいけるかどうか、台車かネコみたいなのを持ってくるのかな……?」

「廃坑の中にこれを運ぶようなものあった?」

「そうですね……、坑道といえばトロッコとかあればいいのですが、ここでは見てないですね……」

「ウチのミニゴーレム達に運ばせるわ」

フェイの号令で、五匹のミニゴーレム達は鉱石を持ち上げた。

「へぇ~、便利じゃん」

「フフフ、もっと褒めてもいいのよ」

「調子に乗りそうだから辞めとくよ」

こうして四人は、ミニゴーレム達に鉱石を運んでもらいながら街へと戻った。



 一行はリベルタスの街へ戻り、冒険者ギルドでクエストの報告をして報酬を受け取ると、四人とも職業ランクがEに昇格した。

「お? ランクが上がった」

「ランクが上がると、どうなるのでしょうか?」

「そうね、スキルの上限は職業ランクと同じなの。職業ランクが上がり、適当に冒険していれば、そのうち各種スキルのランクも上がるとおもうわ」

「それにね、受けられるクエのランク上限も一段階上がるから、次からDランクのクエも受けられるよ」

「そうなのですか」

そんな話をしながら冒険者ギルドを出て、四人は酒場へ向かった。


 そして酒場に入り、四人が席に着くと、エリーが喋り出した。

「はい、ここで皆さんに重大な発表がありま~す」

三人はエリーの顔を見つめる。

「今からあたしたちのギルドを作ろうと思います!」

「ギルド?」

「作るんですか?」

「はい、作ります。職業ランクE以上にならないと作れないとのことだったので、やっと条件を満たすことができました」

「ギルドってこの手のゲームによくあるやつ?」

「そうです。まあ簡単な仲良しグループだと思ってください。ギルドを設立するとギルド拠点という家を持てるようになるし、その他にも細かい便利な機能を使うことができるようになります」

「ということで、クロウとリノは参加してくれますか? フェイは強制参加だけど」

「はい、今まで皆さんに色々お世話になっているので、こちらからもお願いします」

リノは頭を下げた。

「俺も参加するよ。皆といると楽しいからね」

「よし、じゃあギルドはこの四人でスタートしよう!」

「皆さん改めてよろしくお願いします」

「俺もよろしくお願いします」

クロウとリノは頭を下げた。

「そして、ギルドマスターになるのはクロウにお願いしようと思う」

「えっ? 俺?」

「もちろんレアなスキル持ってるからです」

「あまり期待されてもなぁ」

「まあ、困ったら皆で助けるから、心配しなくていいよ」

「じゃあさ、ギルドを設立したら何をやればいいんだ?」

「そうだね、まずはギルドの名前を決めて、システムに登録してから、ギルド拠点を借りる、という順でやっていこう」


 エリーは再び話し続ける。

「それではギルドの名前を皆さんに考えてもらって、一番良さそうなものをギルド名にしたいと思います」

「ではフェイから」

「え~? 『空飛ぶ堕天使』」

「飛んでいるのか堕ちているのか分かりませんね。次リノ」

「え……、はい、『木星シュークリーム』というのはどうでしょう」

「でかすぎです。胸やけしそうです。次クロウ」

「ん~、『ちくわ大明神』」

「意味が分かりません、却下。」

「じゃあさ~、リノっちはどうなのよ?」

「え……、『神聖モフモフ帝国』……」

「却下」「変」「ダメです」

「えぇ~、あたしがネーミングセンス無いからみんなを頼りにしてたのに、みんな似たり寄ったりじゃん」

「そんなすぐにポンっと出てこないよ」

「う~ん、じゃあさ、適当な仮の名前のギルド作って、ギルド拠点を借りてから、もう一度考え直そうか? ギルド名はいつでも変更できるし」

三人はその意見に同意した。

「じゃあ、クロウ、お願い。メニューからギルドの項目へ飛んで、ギルド設立を選んでみて」

「分かった、やってみる」

「…………」

「あれ? ギルドの名前が、『ギルド名(仮)』になったんだけど?」

「なんだそりゃ?」

「なんか決定の場所押しても反応しないから、何回か押してみたらこういう感じに」

「う~ん、仮の名前だからまあいいか。じゃ、次ギルド拠点」

「メニューのギルドのところにあったね」

「うん、メンバー少ないから、一番安いやつでいいよ。って言っても、大きい拠点はギルドランク低いから借りられないけどね」

「よし、借りたよ。週あたり千シルバーかかるんだね」

「そのお金はギルド金庫から支払われるから気にしなくても大丈夫。クエこなしていけば、少しづつギルド資金も増えていくからね」

「なるほど」

「じゃあ、ギルド拠点に入ってみようか、場所は?」

「東通り57番地」

「じゃあ、行ってみよう」

四人はその住所の場所へ向かい、ギルド拠点の中に入った。


 ギルド拠点の中に入ると、まず食堂兼広間があった。

左手にはキッチンがあり、その奥は作業場や倉庫になっているようだ。

食堂の奥の方には、二階へと続く階段と、浴室トイレがある。

二階へ上がると、ギルドメンバーの自室が十室用意されていた。

「おぉ、結構雰囲気いいね」

「内装はある程度自由に変えられるよ。家具買うのにお金かかるけど」

「へぇ~」

「二階は個人の部屋だね。後で適当に部屋を割り振ろう」

「うん」

「この台所は?」

「料理作ったりできるよ~。多分リノっちのお仕事」

「そうですね、じゃあせっかくですし、買い物するついでに何か食べるものを買ってきますね」

「いってらっしゃい」


 その後、三人でギルド拠点の家具を移動し、レイアウトを変えたりした。

そうしていると、リノが戻って来た。

「ただいま帰りました」

「食材を買ってきましたので、今から簡単なの作りますね」

「お~、ありがとう」

リノは手早く紅茶とサンドウィッチを作り、全員に配ると、皆でおいしく食べた。

「そういえばですね、前にいただいた銃を調べてみたのですけど」

「どうだった?」

「『ベレッタ92』でした。弾は9x19mmパラベラム弾を使用、装弾数10、世界各国の警察や軍隊で使われていて、映画でもよくみかける拳銃です」

そうい言うとリノは、手慣れた動きで銃の動作を確認しだした。

「リノ、なんでそんなに銃を使い慣れてるの……?」

「あ、はい、このゲームをやる前は、銃を使って戦うゲームをやっていたので、自然と詳しくなってしまいました。」

再びリノは手慣れた動きで銃を動作を確認すると、銃を解体し始めた。

(((このメイドさん、プロだ……)))

三人はそう思った。


 そんな話をしていると、今日はもう遅くなったので、四人はそれぞれの部屋を割り振ってから休む事にしたのだ。

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