勇者一行は眠れない その2
また別の日。とある村で勇者一行が宿をとっていた。
「黒魔術師くん、まだ起きてる?」
「ぱっちりです」
「眠れないね」
「今回は誰が原因だ?」
武道家が黒魔術師を見てにやりと笑った。
「私じゃないですよ。ていうか今回は割と普通にみんなHP減ってたじゃないですか」
「ああ、宿屋に入る直前まではな」
「なんだったんでしょうね、あの白魔術師さんの直前の回復魔法」
勇者が思い出したように言う。
「な、勇ちゃんもそう思うだろ? 村に入ってホッとしたところでちょっと待ってくださいとか言うからなんだと思ったら全員のHPをわざわざ魔法で回復させて、これでよし、って。どうせすぐ宿屋で全回復するんだからそこで回復させる意味無くないか?」
「あれなんですよ。魔術師には魔術師なりの矜持ってものがあるんです」
黒魔術師が擁護に回る。
「きょうじ? なんだそりゃ」
「ほら、自分の力で仲間のHPが回復するのって白魔術師の誇りじゃないですか。それでいったら宿屋なんて白魔術師にとってはチートすぎて逆に仇みたいなもんですよ」
「そんなもんかねえ」
武道家がぼんやりと天井を見た。
……
「なんか眠れる魔法でもあったら便利なのにな」
「なんなら使いましょうか?」
「え? 黒ちゃん、もう催眠魔法覚えてたっけ?」
「はい、こないだのレベルアップで降ってきました」
「なんだよ、早く言ってくれよもう、パーティーだろお?」
「普通にウインドウに表示されるじゃないですか」
「そんじゃあさっそく。勇ちゃんからどうぞ」
「えっ!? 僕は嫌ですよ」
「そう? じゃあ黒ちゃん、自分で実践してみてよ」
「私だって嫌です」
「よし分かった。俺が実験台になろうじゃないか。よし、黒ちゃん来い!」
「いやいや、ステータス異常を防ぐブレスレット握りながら言う台詞じゃないですから。ていうかそんな貴重なアイテムをなんで武道家さんが持ってるんですか? ふつう回復系のキャラに装備させるものじゃないんですか?」
「じゃあ誰でも良いから睡眠魔法かけてみてよ」
「急に投げやりに。武道家さんも知ってるでしょう? あれ、寝起きの気分最悪なの」
「どうしてなのあれ?」
「眠りの種類が違うんです。レム睡眠とノンレム睡眠てあるじゃないですか。それが催眠魔法だとレムレム睡眠っていって瞬間的にガクンって落ちるんです。それが原因みたいです」
「起きた後に軽く頭痛とかするんだよな」
「僕はめまいもしますよ」
「敵にダメージを与える魔法ですから。白魔術師が安眠魔法でも開発してくれればいいんでしょうけれど」
「白ちゃんにお願いしてみるか?」
「ご自由にどうぞ」
……
「でも死んで生き返るよりはマシですけどね」
「あー……」
勇者のぼそっという呟きに黒魔術師が弱々しく同意した。
「なに、勇ちゃん、さっきの続き?」
武道家はベッドの上で半身を起こす。
「はい。あればっかりはほんと慣れませんよ」
「あれな。なんつうんだろう、体中がぞわぞわするっていうの?」
「一瞬、あれここどこ? って混乱して、その直後に死ぬ間際の光景がフラッシュバックしたりするんですよ」
「戦闘中に生き返って、その状態で戦えって無理あるよなあ」
「しかも僕なんて最初のころ生き返るたびに持ち金が半分になってましたからね」
「でた、勇者あるある」
勇者と武道家は盛り上がる。
「死ぬのもそうですけど、生き返るのもまた怖いですよね」
「やっぱあれなんじゃないかな。ダメなんじゃないか?」
「何がです?」
「生き返るとかそういうの。倫理的にさ」
「普通に自然の摂理に反してますからね」
「だよな、黒ちゃん先生?」
「まあ、そうですね……」
武道家から先生と呼ばれた黒魔術師は気の無い返事をした。
「ん? どうした、とうとう眠くなったか?」
「そうじゃないですけど」
「あれ? そういえば黒魔術師さんていままで死んだことありましたっけ?」
素で地雷を踏むのは勇者である。
「……無いですけど」
「マジで!? 黒ちゃん一回も死んだことないの?」
「すみません。黒魔術師さんHPが少ないっていうイメージしか無かったから」
「しか無かったって。死なないって良いことじゃないですか別に」
「いやあ、あれは良いぞお。死んでから生き返るって、まさに奇跡をこの身で体感できるからなあ」
「どっちなんですか」
「黒魔術師さん、いっぺん死んでみます?」
「勇者の台詞じゃありません」
「残念だなあ。黒ちゃんにもあの感激を味わわせてあげたい……。ね、死の」
「イヤです!」
「死にましょう!」
「イヤですって!!」
ドン!!
「隣の部屋の白魔術師さん、めっちゃキレてます……」
「シー。これ以上怒らせたら本気で生き返れなくなりますよ……」
勇者たちの宿泊はまだまだ続く……。
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