ゆらゆらとうごいて、定まらないもの

雑草文学

祭囃子と池

 苔むした桜の木の太い枝から一筋の糸が垂れていた。

 その糸の先端に枯葉が一葉だけ引っ付いていた。

 糸には前日の雨の名残か、

 雫が数滴付着していて、

 それが木漏れ日にあたって、

 そよ風が吹いた拍子に煌めいた。


 隣に白樫しらかしがある。

 その隣にはくぬぎがある。

 大きなけやきが練馬の名木という字の入った標柱の奥に、

 堂々と立っていた。


 遠くから祭囃子まつりばやしの太鼓の音色が聞こえた。


 太鼓の音の中心を探して森を歩いているうち、

 池に出た。

 すすきが僅かな風に揺れていた。


 先程から引っ切り無しに鳥が喚き立てていた。

 名も知らぬ鳥であった。


 どこからか虫の声が聞こえた。

 名も知らぬ虫であった。


 池には朱塗りの社があった。

 涼やかな水音が聞こえ、

 どこかに湧水のあることを知った。

 池の波紋を追ってやっと、

 水の湧き出ているところにたどり着いた。


 池の周りはほとんど木陰である。

 僅かな木漏れ日だけが熱い。

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