第五話 さあ光速を超えよう!

 土曜の夜8時、三谷の自宅前に集合する面々。皆、赤いマッハの周りに集まっていた。

 元々のメンバーは、三谷朱人、トッシー・トリニティ、黒田星子、綾川知子の四人。例の怪しいメッセージに反応して集まったのは星子と知子の担任教師である田中義一郎。そして、同じクラスの夕凪春彦ゆうなぎはるひこ正宗明継まさむねあきつぐ、そして女子生徒の有原羽里ありはらはり相生香織あいおいかおりの五人だった。


「おっぱい星人がこんなに来るとは思わなかったぞ」


 黒いライダージャケットを着ている知子が話し始める。隣にいる星子は相変わらずボーっとしていた。


「一応説明しといてやる。今夜集まってもらったのは、このマッハを走らせようって計画を実行するためだ。ギー先生が大型二輪免許持ってる情報があったから誘ってみたんだが、何で外野がこんなにいる?」

「あー、それは私が全員に一括送信しちゃったからじゃないかな。ああいうの苦手なんだよね。文章は知子ちゃんが書いたんだよ。もう恥ずかしいんだから」

「お前かよ。自分の恥をクラス中にさらしたな。この馬鹿者が」

 

 ケタケタ笑う知子に赤面している星子。その場にいた面々は、普通にしゃべる星子を初めて見たかもしれない。


「僕が来たのは、星子さんが何か事件に巻き込まれてるんじゃないかって心配だったからだ」


 爽やかイケメンの春彦はやはり爽やかイケメンらしい爽やかな正義漢だった。


「僕は、小説のネタというか、一生の思い出にできたらなーって思ったんだ。自分が体験するのは無理でも、その幸運な人のアヘ顔を描写したかった」


 何とも怪しい作家風な意見を述べる明継。そして羽里は顔を真っ赤に染め両手を震わせていた。


「星子ちゃんの胸は誰にも渡さない……。私が死守します」


「プッ、相変わらずだよね。男よりも巨乳好きだなんてあきれてものが言えないよ。あ、あたしはただの見物人だから。空気だと思って」


 ケラケラと笑いながら自分は非関係者だと主張する香織。しかし、その眼は興味津々、面白いことは見逃さないぞという気迫に溢れていた。


「そうだ、一応皆に質問する。大型二輪免許を持っているのはギー先生だけ。他にはいないな」


 三谷の質問に皆が頷く。


「では説明しよう。ギー先生はこのマッハでこの先にある直線道路を全開で走り抜けてほしい。中間に1000mの計測点を設置してあるからその間を平均時速200キロ以上でだ。心配するな。こいつは0~100km/hの加速が4秒を切る化け物だ。アクセルを開け続ける度胸さえあれば問題はない。それで今夜の生贄……もとい、ヒロインは星子だ。彼女をリアシートに乗せて満喫しろ。何を満喫するかはギー先生に任せる。次元駆動系の魔術回路は計測開始点で自動で発動し、計測終了点で停止するよう設定してある。ややこしい話は抜き、全開で駆け抜けろ」

「わかりました。星子さんを乗せて全開で走り抜けるんですね」

「ああそうだ」


 三谷の言葉に頷く義一郎だった。ヘルメットを被り手袋をつける。キーを差し込みイグニッションをオンにする。

 赤いマッハは淡く赤色の光を帯びて発光している。

 サイドスタンドを蹴り上げシートにまたがる義一郎。キック一発でエンジンは始動した。三本のマフラーからはパンパンという破裂音と白煙を噴き上げる。義一郎がアクセルをあおるとそれにつれてエンジンの回転も上がる。レスポンスは最高に良い。

 フルフェイスのヘルメットを被った星子がマッハのリアシートにまたがる。珍しい星子のジーンズ姿が義一郎の胸を打つ。

「星子さん。しっかりとつかまって。両ひざで僕の腰をグリップしてください」

「こうかな」

「そんな感じ。じゃあ行きますよ」


 ギアをローに入れマッハがスタートする。その場で八の字に旋回し向こうへと走っていくマッハ。そのスムーズな挙動を見ていた知子がぼそりつぶやく。


「ギーの奴やるじゃねえか。あんなきれいな八の字は初めて見たぜ」


 懐中電灯を振る三谷の合図でマッハが全開加速を始めた。ローで若干フロントを浮かせたが体重移動で強引に抑え込み、セカンドへとつなぐ。猛烈な白煙が後方に吐き出されマッハはさらに加速した。

 ノートパソコンに表示される速度を読み取っているのはトリニティだった。


「時速120、140、160、すごい加速です。180、200、まだ加速している」


 マッハが計測開始点に差し掛かる。


「時速220キロ。次元駆動開始します」


 瞬間マッハは虹色の光に包まれた。その虹色の光は直線的な光線となり瞬間的に計測終了点まで移動していた。マッハはそのまま走り去りゆっくりと減速していった。

 その場にいた全員は目撃した。それはマッハの後を追う残像。マッハは確かに光速を超えていたのだ。


「ミミ先生、区間タイム計測できました。0.00000289秒です。これは光速の113.793%です」

「はははは。素晴らしい。科学と魔術が融合した結果だ。光速は超えられるのだ」


 その場にいた皆が歓声を上げていた。明継は必死にメモを取っていた。

 戻ってきたマッハはガタガタと振動しエンジンの火は消えてしまった。クラッチを切り惰性で走るがやがて停止した。


「よく分かりませんが、光に包まれて、元に戻ったらエンジンがバラバラに爆発するみたいになって、止まっちゃいました。スミマセン」

「ふむ、やはり高次元パワーには耐えられなかったか。仕方がないな」

「ミミ先生。これ修理できる?」

「ああ問題ないぞ。2ストだからな。修理自体は楽だよ」

「私、来年大型二輪取るよ(注)。そしたら貸してくれるかな」

「ああ構わん。修理する際には魔術回路は外しておこう」


 ヘルメットを取った星子に羽里が駆け寄った。


「星子ちゃん大丈夫? 変な事されなかった?」


「我々は英雄になどなれん。所詮は血塗られた悪霊なのだ」


「悪霊って、ああはは……セミラミスのセリフかな」


 妄想全開の星子も絶好調だったようだ。


[おしまい]


(注)大型二輪免許は18歳以上でないと取得できません。

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