第6話

結夢は護身術の訓練の始まった夜から、ちまちまと日記をつけ始めた。特段意味も無かったが、これまでに起こった事、これから起きるだろう事、そういうものの整理には使えるかも、というのが動機であった。


夢香里の訓練は思っていたより過酷ではなく、精神統一が基本的なものであった。


「心は定形が無い。だからどんな形にでも創り変えられるんだ。自分の心をこう、風呂敷みたいにもね────」


祖母は昔から変わった人だと思っていた。

が、よもや人ですらないとは思ってもいなかった。

彼女──箕杜夢香里の正体は妖怪である。

そう、結夢の中には妖の血も流れているのだ。どうも結夢はクォーターらしい。


それ故に結夢の周りには妖怪が集まりやすく、生まれ持った霊力も高い。そして何より日本人では少ない瞳の色をしている。


「……結夢の眼は『へえぜる色』だ。けれどね、それはただの『へえぜる』じゃあない。

たった一つ、衣繍の血筋でしか伝わらない、心を変える力の象徴なんだ……」




結夢は日記を書きながら、遠く本州の夢乃、探偵さん、螭子や新澤、昏先…………多くの人を思った。

皆、今頃どうしているだろう。

それを思うと、寂しくなって仕方なくなってしまった。


「特訓が終わったら、私本州に帰るね」

「……そう言うのは分かってたよ。友達が恋しくなったんだね」

「うん。私、どうしても気になっちゃって。でも帰るのはしっかり修行は終わらせてから、って最初から決めてた」


結夢はそう言うと、修行用の道着に着替えて祖母に頼んだ。


「私に、もう1つ上の修行をして欲しいの。護る為に、戦い方も教えて欲しい」


夢香里は結夢の決意に満ちた目に口元を綻ばせた。


「……言っておくけれど、私のやる気に火を付けたんだから生半可な戦いは赦さないよ。手を抜けばいつでも、命を奪いに行くからね」


夢香里と結夢はこうして、家族でありながら師弟としての関係も持つ事になった。

その頃本州で起こった事も知らず、結夢は更に深い闇へと巻き込まれていく……。


(第一章・了)

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