第4話

いつもと違う天井が視界に現れて、結夢は今実家にいない事を思い出した。

散々泣いて、それから────。


不明瞭になった昨晩の記憶を必死に漁るが、どうもボンヤリとしていて思い出せない。

と、結夢が起きたのに気付いた夢香里が声を掛けてきた。


「おはよう結夢。泣き疲れたんだね」

「……お祖母ちゃん。私────」

「分かってるさ。昨日は悪かったよ」

「ううん違うの。私……受け入れるよ」


昨日見たものを拒んだところで、自分の本質が変わる訳じゃ無い……結夢はそう思った。

なら、そのも私自身として受け入れた方が気持ちが楽なのでは、とも思ったのだった。


「……昨日の晩遅く夢乃に電話した。一ヶ月、こっちで住まないかい?

夢乃では無理だが、私なら修行をつけられる」

「修行?」

「そう。これから結夢は自分の身を自分自身で護れる様になる必要があるんだよ。

だからね、その為の術を伝授しよう、と夢乃とも相談して決めたんよ」


結夢は祖母の言う事を黙って聴いていた。

自分を自分で護る────至極当然の様に思える言葉だったが、結夢にはそれはある意味での独立とも聞こえるものだった。


「……やっぱり、私もう17だもんね。そろそろ自立とか考えなきゃなのかな」

「そうだねぇ……。確かに多少の事じゃあ、周りに頼れなくなるね」

「────私ね、凄く不安なんだ。分からなかった事が、分かる様になっちゃうのが。

知りたがりのはずなのに、知るのが怖いの。

自分だけで自分を保てるか、もう分かんないんだ…………」




結夢はそこまで言って、夢香里の哀れむ様な目に気付き、また涙しそうになってしまう。

言いたい事は山ほどあったけれど、その時一度に言ってしまえば感情は決壊してしまうかも知れなかった。

結局言わないまま、結夢は夢香里の胸に抱かさった。




「────ボクの聞いた話では、かの大妖怪が天狗にケンカをふっかけるらしいんだ♡」


昏先を上目遣いで見ながら、猩野は相変わらずの笑顔で話す。


「ボクはね、その戦争は無意味だと思うの。だって動機がつまんないもん。復活の狼煙にケンカするくらいなら、大人しく獄中にいる方が楽しいよ、絶対にね」


猩野の考えを、やはり昏先は理解出来なかった。だが探偵は少しばかり反応が違った。

「────何故ここの方が楽しい?」


「だってここ、少なくとも極刑囚以外は衣食住が完備されてて快適だよ?

良い独奏歌断末魔も聴けるし最高!!」

「……なるほど、それは住みやすいね。私もこっちに事務所移そうかな」

「何言ってんだ化猫!!お前気でも触れたみたいに────」


肩を掴んで無理やり振り向かせた昏先。

化猫の目を見て彼は一瞬、脳内が真白に塗ったくられた様な感覚に陥った。

彼の目は……知性を欠いた獣の様に、昏先を獲物としか見ていないのであった。

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