第3話

その頃、新澤探偵事務所。

化猫と新澤は先の高校での事件について、昏先も交えて話をしていた。

「……やはり、あの高校に件がいたのか」

「そして高校が壊される予言をして、奴は教室から姿を消したらしい。その後職員室でコーヒーを一杯飲んで退室した後、行方が分からなくなった」

「死んだのか」

「だろうな」


件はサトリと同じく予言が出来る妖怪である。だがサトリと違って1回ポッキリであり、しかも予言すると件は死んでしまう。

更に大抵の予言は吉凶でいうなら凶ばかり、あまり件を良く思わない者も多いのである。


「見事に的中させて逝ったのか」

「アイツは不憫だよ、能力を行使しただけなのに地獄送りになるなんてさ。けど何でまた、こんな突然現れたもんだか」


それまでの事例に則るなら、彼は未曾有の事件がある時に予言を行うのが常であった。

予言の内容だってその事件に関連するものだったし、最期は事件に巻き込まれる形で逝去していた。

その事を考えると、今回の逝き方はあまりに不自然で異質だったのだ。


「……それこそ未曾有の死に様だな」

「違いないな……俺はもう一度地獄に行って来ようと思うんだが、どうだ」

「……私も行くのか?なんで私なんだ?」

「この事態を理解可能かも知れない天才が、獄中で暇を持て余してるのさ」




「あぁ、また来てくれたんだ蒼羽くん♡」

「……紹介は不要か?」

「あぁ。無間地獄ここに収監されるレベルの犯罪者なら嫌でも覚えるさ。

脱獄・窃盗の常習犯で妖怪殺しの猩野しょうの頁火ようか、だよね」

「へぇ、ボク有名なんだぁ!なんか嬉しいなぁ……!!」

「まぁ見ての通り精神異常者だ、イライラするとは思うが大目に見てやってくれ」


己は普通の探偵でないと自負する化猫の目にも、その犯罪者は異常に見えた。

もじゃもじゃになった色素の薄い天然パーマ、朱色にも赤褐色にも見える不思議な目、笑顔を崩さない口元、何よりズタズタになった女性用囚人服、柔らかそうな肌……。

データベースを参考にする限りでは、猩野というこの犯罪者は男性であるはずなのだが、どう見ても女性の様にしか見えなかった。


「……変化でもしてるのか?」

「いいや、コイツは違う。元から人のナリをしてる。だが妖怪だ。本来ならここまでの妖力を持たない────はずだがな」

「ボクは生まれつきこうだった訳じゃないよ?地獄送りになる前だから……もう何百年も前になるのかな────」


「回想に耽る前に本題だ猩野。件についてだが、もちろん知ってるよな?」

「知ってるよ、彼は嫌われ者だったけれど、心根は良い奴だったね」

「そうだな……。アイツがまた死んだ」

「どんな大事件を予言したの!?ねぇねぇ、ボクと蒼羽くんの仲じゃないか、教えてよ」

「それなんだが……アイツの務める第二高校が壊れる、としか予言しなかったんだ」


昏先がそう言った途端に、猩野の笑顔が一瞬だがかげった様に化猫は感じた。


「……ふぅん。何十年振りだろ」

「100と60年くらいか。あの時予言で死んだのはアイツだけだったな」

「『蝦夷地の名前が北海道になる』だっけ。当たった時は凄いなぁって思ったけど、そんな予言の為に命を棄てなきゃならないなんて不憫だなぁ」

「……アイツの予言には必ず裏がある。お前ほどの天才なら解ってると思ったが」

「……今回の高校についてもそう思ってるんだね」

「もちろんだとも」


昏先には断言出来るだけの確信があった。

これまでの件の予言に関する資料をかき集め、上司の皇酉の手も借り統計したのだ。

そしてそこから導き出される真実は。


「……奴が死人の出ない予言をする時、別の重大な事もほぼ同時に起こる。160年前には連続して江戸大地震、近畿でも起こった後、東海と江戸でも地震が起こった」

「……未曾有の大災害が起こるかも、って事を言いたいのかな?」

「災害だけじゃない。災害があまりに続いたせいで江戸時代が終わったと論ずる学者もいる。件の予言は良きにしろ悪きにしろ、何がしか大確変の前哨戦って事だ」



「例えば────大きな戦争とか……?」



猩野が告げた意見は、異常者のそれでなく。

至極真面目な知識人としてのものだった。

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