4.犬も歩けば郷に帰る
第1話
帰郷と聞いて、皆さんはどんな景色を思い浮かべるだろうか。
田園の
それとも灰色のビルディングで埋もれた風景だろうか?
結夢の祖母が住む地は【北海道・千歳市】である。国際空港もあるくらいだから知らない人はそんなにいないはずだ。
そこから少し北へ走れば県庁所在地の札幌だし、南へ向かえば港がある苫小牧市だ。
そう、ここはかなり交通の便がいい都市である。
そんな場所へ結夢は、開通してまだ日の浅い新幹線に乗って行く事となった。
夢乃が奮発して買ってくれたのである。さすがはハードワーカー、といったところだ。
『あなたが母さん……お祖母ちゃんの家に行きたいって言うの初めてだし。
せっかくなら良い旅を、って思うじゃない』
娘想いの良い母親と取るか、保護の過ぎる甘い母親と取るかは各々に委ねるとして。
兎にも角にも、結夢は今その新幹線に乗っている。昼少し過ぎに東京を発つ、はやぶさ21号だ。
結夢が座る席の車窓に映るのは高層ビル、だったものが次第に田園が目立ち、そしてフカフカの雪とどんどん変わっていく。
長いトンネルを潜り抜け、北海道に到着したのは4時30分を少し過ぎた頃だった。
ふと『来たい』と思った北の地は防寒着を着ているにも関わらず寒く、針葉樹の多さと相まって異国情緒の様なものを感じた。
偶然見かけた公衆電話から夢乃に電話を掛けると、彼女は車で移動中の様だった。
『……着いたの?』
「うん。今は函館にいるの」
『呉々も気をつけて頂戴ね。冬の
「はい。とりあえずこの後5時の電車に乗って向こうには9時に着くんだけど……」
『なら明日にしなさい。補導される時間になっちゃうじゃない』
もはや『さすが』以外の言葉が出てこない。
高校生の外出可能時間もきっちり把握しているとは。移動中で詰められる仕事だってあるだろうに、ここまでの時間を割いてくれるのはやはり良い母親なのかも知れない。
『……兎に角。ジャンパーの胸ポケットを確認しなさい』
言われた通りチャックを開けて見ると、そこには
『ホテル代にしなさい。お釣りはきっちり、返して貰いますからね』
「……ありがとう」
細やかな心遣いは職場でも話題らしく、ベテランながら低姿勢、真摯であり続けるその様をとある同僚は『日本の淑女』と比喩したとか何とか。
『……そろそろ着くから、切るわね』
「はい。気を付けてね」
『あなたもね、結夢』
「……はい!」
その日はとりあえず、函館市内のホテルに1泊する事にした。
翌日、ホテルを出た結夢は電車に乗り南千歳駅に降り立った。
近くにはアウトレットモールが鎮座しており、服などを見たくなる衝動を抑えて、札幌行の電車へ乗り込むのであった。
そして千歳駅からタクシーに乗り継ぎ、結夢はとうとう祖母の住むマンションまでやって来たのである。
両隣、真上・真下、祖母の部屋の周りに住人はいない。505号室のインターホンを押し、その人が応対するのをじっと待った。
『……はい』
「
『はい』
「……衣繍結夢です。衣繍夢乃の娘の」
途端、ドアが開いてその人は現れた。
「いらっしゃい結夢。来るのは知ってたよ」
その人は結夢がまだ幼い頃から、ずっと彼女を、彼女の母をも見守ってきた人物。
結夢の祖母、箕杜夢香里であった。
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