第3話

「……天梨あめなしさん?」

「へへへ……急にトイレに走ってったからどうしたのかなって。わたし保健委員だから」


2Cの中でも大人しい部類に入る彼女。

天梨あめなし干那ひなが結夢の後を追い掛けて来たのだ。


「あぁごめんね?急に催しただけだから」

「……嘘はダメだよ結夢ちゃん」

「へっ!?」


天梨は個室の戸をすり抜けて、にっこりした顔だけを結夢に覗かせた。

突然の事で整理が追い付かなかった結夢は、さらっととんでもない事を言ってしまう。


「天梨さん幽霊だったの!?」

「違う違う!よ・う・か・い!!結夢ちゃんならの知り合い多いでしょ?わたしも似た様なものだよ」


天梨は穏やかな笑顔を見せているが、顔だけが頑丈そうな戸を貫通して出て来ているその光景はあまりに突飛であり、結夢からすれば『よもや高校にまで妖怪がいたとは』という驚きとおののきで体が満たされる感覚であった。


「……ねぇ結夢ちゃん。もうちょっとしたら8時30になるんだけどさ、9時になったらわたしとゲームしてくれないかな。紅胆先生の予言で、多分2Cは滅茶苦茶になるだろうし」

「……何、ゲームって。滅茶苦茶ってどういう事なの?」

「全部を教えたら面白くないじゃん。小説とかRPGとかもそうでしょ?自分の目で確かめれば良いよ、そんなの。

ゲームはゲームだよ。とっても簡単な、ね」




時を同じくして新澤探偵事務所。スマホで推しアイドルの曲を聴いていた螭子は、唯一通知音を切っていない友達からのSOSに、その曲が少し途切れたので気付いた。


「結夢ちゃん……予言ってまさか……」

「そのまさか、それはくだんだね」

「何勝手に覗いてんの、探偵さんのエッチ」


メールの内容を覗き見した探偵さんがあっという間に結論を導き出して、螭子はとても不服そうにムスッとした。


「……でも変だな。まるで予言とは別の件で追われてる様な文章だ。相当焦っている」

「第二高校に、そんなに妖怪が?」

「まだ分からない。けれど、確かめに行く価値はありそうだね」


探偵さんは変化し、青年の姿に化ける。


「人の姿はこれしか持ち合わせがないからなぁ。誰か、私の代わりに行ってくれないか」

「え、んじゃ私が行きたい!!見た目1番若いし、高校生って言ってもバレないでしょ」


とてもキラキラした目で探偵に擦り寄っておねだりする螭子。根負けして探偵は承諾してしまうのだった。


数分後。


「一度着てみたかったんだぁ!第二高校の制服、胸元のエンブレムとか袖の刺繍とか可愛いし」


かなり似合っていたものだから、思わず探偵と新澤は顔を見合わせてアイコンタクトする。


(違和感無さすぎっスね)

(全くだ。年齢不詳だな螭子は)


「……それじゃお二人さん。事務所は任せた!螭子ちゃんは決戦の地へ行ってくるぜ」


妙なテンションで初登校に臨む螭子。

その背中を事務所の二人は心配そうに見守るのであった……。

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