3.匙は投げられた
第1話
「私、学校に行きます」
それはある日の午後。探偵事務所でいつもの通り欠学をきめていた結夢は急にそんな事を言い出した。
「どうしたんスか急にそんな」
「全くだよ。結夢ちゃんったら」
「単位が……計算上そろそろマズイです」
そう言いカバンから取り出したノートの表紙には、『学年別単位概算表(怠学用)』と記されている。サボりガチ勢だ。
「これで割り出した欠席の上限だと、単位取得不可能でも平均5回までの欠席なら補習や認定考査を受けて合格すれば許されます。
しかも教科の単位数によって欠席上限は変わるので、本来明日は休める予定でした」
「その脳が別のベクトルに向かないかねぇ」
螭子ですら呆れるとはよっぽどである。
「でも今日ちゃんと登校した湊から連絡があって、今日抜き打ちテストがあって、その補習で欠席上限が下方修正されたので休めなくなったんです」
「本来休むのを前提にしちゃいけないよ?」
ダラけるのが大好きな螭子ですらそう言うのだ、明日はきっと大荒れだろう。
探偵さんはそんな事を思いながら、いつもの通りホットミルクを啜って息を
その晩、結夢は眠れずに天蓋付きベッドの中で寝返りを打っては目を開いて天井を見上げていた。
結夢の通う第二高校ってワルばっかりだった……なんて事を結夢は数日の間ですっかり忘れていたのだ。
数日サボっていた故に、彼らのあたりは相当に厳しいものだろうと覚悟せざるを得なかったから、結夢はベッドの上で眠れずにブルブル震えていたのである。
やっぱりサボってしまおうか……いやサボったら単位が取れない……ワルにつるまれるのも嫌だしなぁ……。
結夢の頭の中でグルグル思考は堂々巡りし、結夢はとうとう一睡もしないまま朝を迎えてしまったのだった。これが彼女にとって人生上初めての【オール】である。
「行くしかないか……」
考えがどこかモヤッとしたまま、結夢はその重い頭を無理矢理に首で持ち上げ、そのまま自分の部屋を後にすると、寝間着姿で茶の間まで出てきた。そこにはまだ出勤する前の夢乃が、朝ご飯を片手間に新聞を読んでいたところだった。
「おはよう結夢。今日は午後から雨だって」
「嫌だなぁ。ローファーじゃ濡れちゃう」
「指定靴なんだから仕様がないでしょう。駄弁ってないでご飯食べちゃいなさいな」
「ふぁ〜い」
今朝はどうやら火を使うのが面倒だったらしく、食卓に並べられていたのはトーストとハム3枚、レタスにヨーグルトというラインナップである。
手抜きだがそれなりにバランスは考えているのだろう、ヨーグルトにはパインとミカンが和えられているのが見えた。
「今日は私帰って来るの遅いから、夕ご飯の支度は頼むわよ結夢」
「えー私?お父さんだっているでしょ?」
「粒飼さんはダメよ。料理下手だもの」
結局私がやるしかないのか、と結夢は諦念に駆られ、嫌々だったが夕ご飯は任せといて、と言わざるを得なかった。
そして夢乃が早々に職場へ車で行ってしまって数分、バスに乗って結夢は第二高校へ向かうのであった。
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