第7話

夢乃が立ち去った後、探偵は結夢に一つ問うた。


「学校をサボったんだね?」

「……はい」

「のっぴきならない事情があるのかい」

「どうしても事件が頭から離れなくて」


探偵はそこまで聞いて自らの顎を撫で始めた。考えている時のクセである。


「……組織犯罪だと思うんだ。危険過ぎる」

「今回の肋骨の事件ですか?」

「ああ。関連した人物の素性から考えるに、昏先の奴も同じ推理に至っているはずさ」

「そんなに危険ですか」

「間違いなくね。タチも悪い」

「探偵さん、なんか届いてるっスよ」


新澤が話を割って段ボール箱を持って来た。

冷凍便で郵送されてきたという。


「オレなんも頼んでないんで、螭子ちゃんかなぁ、って。

でも聞いてみたら違うみたいなんスよ。だから探偵さんが何か頼んだのかなぁ、って」

「いや…………」


そう言う探偵さんは、言葉を返すより先に手が段ボール箱に伸びていた。


「あれ……もしかしてオレ達には秘密の何かだったりするっスか?」

「違うな…………」


探偵さんはそう言い、箱を開いた。

中からドライアイスが溶けたモヤが溢れ出す。


結夢が箱の中を覗き込んで悲鳴を挙げる。

その箱から姿を覗かせているのは制服。

結夢の高校のものだったのである。




警察を呼んだから昏先が来るのかと思っていたら違う人だった。


「警視庁怪事件捜査課の皇酉おうとり祀葉まつばです。昏先がお世話になってるね」

「貴方が皇酉課長でしたか。探偵のカネコです」


……アレ、探偵さん今しれっと偽名を使わなかったか?

結夢は目を皿の様にしてしまったが、彼女がそれを指摘する前に皇酉が笑い始めた。


「どうしました?カネコなんて珍しくもないでしょうに」

「いや、カネコは珍しい。


皇酉の目が太陽の如く爛々らんらんと光る。

まさか、と思った時には皇酉は自らの正体を明かした。


「私は火の鳥、永久の存在、鳳凰という種」


髪の毛が煌々と火をおこした。

その姿たるや、人と言うより最早。


「神…………」

「人間の君の感覚では私と神は近いのかも知れないね。けれど残念。私は無神論者だ」


火が収まり、皇酉は化猫と握手した。


「何年振りかな、君とこうして会うのは」

「ざっと30年って所ですかね」


どちらも若々しいハリのある声、見た目をしているのに、会話はジジイのそれである。

これが妖怪なのだろう…………。

結夢は畏怖を通り越して空白になった脳ミソを洗い直すかの様に、皇酉に問う。


「探偵さんと知り合いなんですか?」

「私の元後輩なんだ、この探偵さんは」


腑に落ちない。何故探偵さんは警察を辞めたんだろうか。

前から気にはなっていたが、その理由を詮索する機会は無かった。


「後でまた話せませんか」

「構わんよ。私に出来る話なら、ね」

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