第5話
「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!
手前の脚じゃ俺様には追いつけねぇよ!
こちとら伊達に妖怪やってねぇんだなァ!」
「貴様のその言葉、そのまま返すぞ」
「ッッ!?手前ェ、いつの間に!!」
民家の屋根伝いに走って逃走していた結夢(妖怪に憑依されている)だったが、化猫としての本領を発揮した探偵に回り込まれ、呆気なく追い込まれてしまったのだった。
「お前……さてはクダギツネだな。何故少女の体に憑依した?貴様が欲しいのは青年の、しかも貴族の血を流す者の体だろう?」
クダギツネ……管狐。
竹筒に入るほどの小さな体軀を持つ妖。その地域によって伝承はまちまちだが、75匹に増えるとか、飼うと裕福になるとか、様々な言い伝えが残る。
狐憑きの一種とも言われ、飼い主の命に従って憑依して依り代を病にしたり、金品の強奪なども行う事が出来る。
そんなヤツが、妖怪が憑くのを忌み嫌うはずの少女の肉体を操るなど、探偵としては甚だ疑問であった。
彼女から、妖を使役出来るほどの霊力を感じなかったからである。
「残念たがな探偵さんよォ。現代じゃ、男どもは良質な依り代にゃならねぇ。働き詰めた体なんぞに、美味い
「だからと言って依り代にして良い理由にはならんぞ。人に害を与えちゃならん」
「それが出来るならとっくにしてるさ!!」
管狐が叫ぶ。化猫は微動だにしない。
と、管狐が吐血した。厳密には結夢の体が、だが。
「この娘は諦めろ。手遅れなんだよ、この娘は俺様の妖気に当てられて病に罹った。
そう長くは……ないだろうな」
青褪めた顔で、勝気に化猫を見る管狐。
その目に映る生気は、しかし朧げであった。
「つくづく俺様は馬鹿だよ。俺様自体、もう相当老いぼれだってのにサ……。
この娘を見て、昔の血が騒いだんだ。とても幸せそうでよ……壊したくなっちまった。
でももう、どうでも良くなっちまったさな。
この娘は……あのお方の……」
結夢が倒れ、目を重そうに閉じる。
「待て!まさかお前……!!」
「…………」
返事は無い。もう彼は、ただの屍になったのである。最悪な事に、彼女を道連れにして、という結末であった。
「……解決、とはいかないな……」
探偵は彼女の亡骸を抱き抱えて、一人探偵事務所へと戻った。
「……ようやくお帰りかい、ご主人」
「まだ依頼は解決していないからもう一度出るけれど。いつもすまないね、
「すまないと思ってるなら給料弾んでよ」
「それは別問題。
「……今月の給料」
「はいはい、前向きに考えとくよ」
むすっとして、しかし素直に電話を掛ける少女・
『血』によって暴風雨を降らす事も可能らしいが、本人はその力を使いたくないという。
彼女はある事件の起こったのをきっかけに探偵事務所で事務としてバイトするようになったうちの一人である。話に上がった新澤も同様にバイトであるが、螭子とはまた経緯が異なっており、やはり探偵の解決する事件の共通項は一般のそれとは類いが違う様である。
「はいはい、どんな用事っスか先輩?」
「先輩呼びはやめてくれ。……この娘の蘇生手術を頼まれてくれないか」
「良いっスよ、先輩の為なら何でも!」
「だから先輩って呼んでくれるな……。
まぁ良い、くれぐれも頼んだよ」
「あいよ!」
探偵は新澤に結夢を預けると、いつもの椅子に腰掛けてホットミルクを啜るのであった。
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