第4話
探偵は口元にずる賢そうな笑みを浮かべながら、衣繍邸のエントランスをゆっくりと一周歩いて、再びその中央へ歩み出た。
「監禁、失踪、呪殺……そして偽装。一見関連の無い事件達はすべて、ある真実を秘匿する為、仕組まれた巧妙な罠だったのです」
「どういう事かしら?納得のいく説明をして頂戴、探偵さん」
「良いでしょう。犯人の為に、事件の全容、そしてこの私立探偵のした推理をお教えしようではありませんか!」
探偵は言うと玄関の方をちらと見て、
「……それで良いね、結夢さん」
と言うと、扉が静かに開いて、志々見と麻梨の手を引いた結夢が宅へ入って来て、無言で頷いた。
私ははじめ、この事件たちは無関係だと思っていた、とさきほども言いました。
ですが、すべての事件は犯人によって繋がっています。このお宅で起こった事件の犯人はただ一人なのですから。
まずそれぞれの事件を整理しましょう。
一つ目に、依頼された事件である猫の呪殺。これは結夢さんが、私の探偵事務所に直接依頼に来られたものです。内容としては、飼い猫28匹が突然苦しみ出して死んでしまった。これは呪殺である、そうに違いない、と。
二つ目は失踪。このお宅に来てすぐ感じた違和感の正体はこれです。本来、素養ある従者であれば、主人より先に挨拶に現れるはずですが、志々見さんと麻梨さんは見習いであるせいか、私に最初に挨拶しに来られたのは主人である夢乃さんでした。……この家には少なくとも一人、本来いるはずの教育係がいないのです。それが誰なのかは、三つ目の事件、監禁を疑った事ではっきりしました。
監禁されているのは執事の
四つ目、最後の事件は偽装です。これら三つの事件を秘匿する為、犯人ないし犯人に脅された方がせざるを得なかった、最もタチの悪いものです。
その嘘があった事で、私は最後まで頭を悩ませました。事件がこれで解決するものかと、疑念が拭いきれなかったのですから。
でも、もう謎は解けました。私に迷いはありませんよ。
結乃さん、嘘を吐いたのは貴女だ。
旦那はいない、というのは真っ赤な嘘で、本当はいるんです。その旦那さんこそ、今結夢さんの部屋で監禁されている粒飼さんだ!!
探偵の推理が一頻り終わって、ややしばらくの静寂の後、けたたましく笑い声が響いた。
少女の声帯からは到底出そうもない、気味の悪い低い嗤い声だったのである。
「ケケッ、ケケケケケケケケケケ!!!
バレちゃやむを得ないなぁ、なぁ?
探偵さんよォ、お見事な推理だったぜ!?
だが残念、この生娘の体は貰った!!
ケヒャヒャヒャ、アヒャヒャヒャ!??」
およそ人間とは思えぬ跳躍力で、結夢の体軀は吹き抜けのエントランスを軽々と飛び越して二階へ上がった。
「クッ、結夢さんは憑依されていたのか!!
この下郎め、結夢さんを返せッッ!!」
やむを得ない、と探偵は変化を解く。
青年が消え、代わりに現れた猫に結乃は卒倒した。志々見も麻梨も、結乃を支えながらも猫に畏怖の目を向けていた。
「……貴女方のお嬢様は取り返す。約束だ」
猫が言葉を喋ったので、結局二人も気を失ってしまった。慣れてこそいるが、探偵としてはやはり寂しいものがある。
背中の毛を逆立て、猫はブクブクと膨れ上がる。一気に人よりやや大きめの獅子の様な姿になると、探偵は邸宅の石造りの床を一蹴りし、二階へ飛び登った。
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