第一章

1.人を呪わばあなかしこ

第2話

「……やぁこんにちはお嬢さん。この探偵事務所に来るような人には見えないが、相当お悩みの様だね?」

「……呪殺」

「うん?」

「探偵さんは、呪殺って信じますか」


依頼人……私、衣繍いぬい結夢ゆゆはこの街一番、いや日本でも指折りのワルが集う高校の【マジメ枠】であった。

もちろん最初からここに来るつもりは無く、相談を散々たらい回しにされた挙句ここへたどり着いたのである。


「……そりゃあ、また大層な話だねぇ。一体どうして、呪って殺す程の怨恨が?」

「それが解らないからここに来てるんです!探偵さん、依頼料は弾みますから、この変な事件を解決して下さい!!怖くてここ数日まともに眠れて無いんです!」

「……?」


何故か探偵の帽子の中がモゾモゾ動いた。

探偵の口元はいつか映画で見た笑う猫の様にニタァ、と歪む。

「良いねぇ。その事件私が調べよう。その様子だとこの探偵事務所についてみたいだし、お代はつけとくよ」

「?」


この時探偵が言った『全然知らない』の意味を私は、やはり全く解らないのだった。




「さて、ここが君の家か。この規模だと家と言うか城じゃないかな。お堀のある一般家庭って世界でもそんなに多く無いと思うよ」

「え、そうなんです?」


依頼人である衣繍結夢は常識に疎いらしい。

探偵としては好都合だったが、人として対面した時に話が通じないのは辛い所である。


「で、この事件はどういったもので?」

「だから呪殺です。うちの飼い猫28匹が皆、みんな死んでしまったんです……!!」

「28匹?随分とまぁ沢山飼っていたんだね」

「私、あの子達が苦しんでいたのに何も出来なくて、それで……」

「皆まで言わなくても良い。この事件は私が解決する。猫ちゃん達もきっと、犯人が暴かれる事で心置きなく逝けるだろう?」


結夢は泣き止まなかったが、頷いて応えた。


「……お邪魔します」

「お客様?……ごめんなさい、今は少し」

「お客ではありません、私は探偵です」


あれ、いつのまにか声が変わっている。

それに気付いた結夢が顔を挙げると、そこに小さな猫はおらず、180センチはあろうかという青年が立っていた。

落ち着いた色調の装いと振る舞いに、思わずカッコいいと思わざるを得ない。

と、青年がちらりと結夢を見て、文字通り目の色を焦茶からターコイズブルーに変えた。

その目は間違いなく探偵さんのものだ。

探偵さんは化け猫だから、変化の術も使えるらしい。


探偵さんが結夢の母・夢乃ゆのと話している間、結夢は自室に戻ってクローゼットを開ける。

するとそこに、タオルで目を、ガムテープで口を、太めの麻縄で両手両足を拘束された男性が一人いるのだ。


「……謎を解ける方が一人、おいで下さったんです。貴方の好きにはさせません事よ。

……私の愛しいお父様♡」


男性の耳元で囁き、結夢は扉を閉めた。

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