その十九 ほのかの秘密~ルスカside~暁side~

【ルスカside】


 ほのかは声にならない声で泣く。寒い夜風にワシはほのかと一旦病院内へと戻った。

ほのかとアカツキは父親が違う。それは分かったのだが、何故三嶋がアカツキを執拗に殴るのか。

それは、ほのかに関係しているのではないかと、ワシは考えた。


「ほのか……」


 ワシは頭を撫でてやりながら、ほのかが泣き止むまで待つ。

もしかしたら、ほのか自身も理由を知っているのではないだろうか。


 戻って来ないワシらを心配したのだろう、ママさんも病院入口までやってくる。


「ほのか」

「うう……お母さん!」


 ママさんを見つけるとほのかは一目散にママさんの懐へと飛び込んで行く。

ワシはこの二人、そしてアカツキも含め何処と無く妙に仲が良い気がした。


 ワームが現れた時、多くの人が避難したという。

しかし、アカツキ達は避難することがなかった。

ゴブリンの時もそうだ。

ママさんを助けに行く時、ほのかもついてきた。

足手まといになるほのかを避難させることも出来たはずである。

アカツキは反対することなく、一緒にママさん救出に向かったのだ。


 まるで自分達しか信用していないかのように。


「あの……」


 アカツキを見ていたはずの、弥生がやってきて声をかけてきた。

もしや、と思ったがどうやらアカツキは目を覚ましたという。


 ワシらは急ぎ病室へと戻っていく。ママさんが先頭に扉を開くと「あーちゃーん!」と、抱きつきにかかる。

さすがに病人相手にそれはどうかと思ったワシは、ママさんのスカートの裾を掴み止めようと試みた。

アカツキも、傷口が開きかねんと思ったのかママさんの顔を鷲掴みする。


 ワシが掴んで引っ張ったのとアカツキがママさんを固定したことで、スカートがずり落ちて薄い青色の下着が露になっていた。


 いつもの雰囲気が、まるで追及するなと言っているようでワシはこれ以上聞くことが出来なかった。


「三田村さん、ありがとう。それと、ごめん」


 瞼の傷の事を謝るアカツキを気にしないでと一蹴する。


「ほのかも心配かけたな」


 ほのかの頬を撫でるアカツキの目はとても優しく穏やかである。

しかし、今となっては自分らだけの世界にいるようで……少し気持ちの悪さを感じていた。


「ルスカ」


 ワシはアカツキに呼ばれて、丸いすの上に登る。

アカツキはワシの頭を撫でながら小声で「今度話してやるから」と耳元で囁いた。


 今はこれで良しとしておこう。


 アカツキにはアカツキの考えがある。そして、ワシの力が必要な時は遠慮なく言って欲しい。

そのときは喜んで力を貸してやると心に決めた。


 アカツキが入院してから、大変だった。ママさんは「あーちゃんの入院費を稼がなきゃ」と昼も夜も働きづめで、一度「倒れるのじゃ」と注意したが聞く耳を持たなかった。

弥生も学園で事情を聞かれたらしいが、アカツキの意向もあり詳細は話さないでいたみたいだ。


 ほのかは朝昼晩とワシと二人きりで寂しそうであったが、朝昼と学校に行き夜は見舞いに来ているワシと家に帰るという生活を繰り返していた。


「またパンなのじゃ……」


 アカツキの入院で食事が大幅に変わる。ほとんどが、パンや買ってきた弁当であったが、夜は弥生の家で食べさせてもらうことが出来たのが救いだった。


 入院から十日が経ち朝、ほのかが学校に行った後、ワシはようやく三嶋 結と二人きりで会うことが出来た。


 ほのかが学校に行っている間、ワシはずっと機会を伺っていた。

アカツキには済まないと思っておる。

だが、ワシはどうしても許せない。


 だから殺す。


 ワシは、ほのかと二人きりになり一緒に風呂に入った時、ほのかの太ももの付け根にあるソレに気づいた。

予想はついておった。

ほのかを守るため。

“羽”が発現すれば、報告義務が課せられる。

しかし、ほのかはまだ十一歳。

いや、発現当時はもっと幼かったのだろう。


 そう、ほのかにも“羽”が発現していたのだ。“羽”の種類は“蜻蛉”。

稀少な第二世代だったのだ。


 ほのかの留守を狙って木場という男がやって来て、色々と話をしてくれた。

話の内容は、ほぼワシの憶測通りだった。


 ほのかの発現のきっかけは、例のアカツキの父親が原因。

ほのかに何があったのかは、詳しくは聞かなかったがよっぽどのことなのだろう。


 アカツキの父親。アカツキが殺したと嘘の報告をした男。ほのかに発現のきっかけを与え、三嶋 結の兄の仇。


 不可抗力だったらしい。アカツキが学校から戻ると父親は、ほのかの足元に血溜まりの中で倒れていたという。

そして、他に目撃したのは兄の仇と狙っていた三嶋 結。


 本来ほのかは学園に行かなくてはならない。それも稀少な第二世代として。

免除に年齢の上限はあっても下限はない。

このままだと、ほのかは学園に行きワームや魔物と戦わなくてはいけない。


 何より“真封”で殺人をしてしまったのだ。ほのかには厳しい制約や罰が待っていた。


 アカツキは目撃した三嶋に、殺人は自分がしたことに、そして、ほのかの“羽”の発現を黙っていて欲しいと頼んだのだ。


 三嶋は条件として、アカツキに無慈悲な暴力に耐えるようにという奇妙な条件を出した。

今となっては分からないが、理由はアカツキが耐えられなくなり本性を現して、ほのかを売ると思っていたのだろう。


 初めは一、二発程度が一向に本性を見せなずエスカレートしていったのだ。

アカツキにアカツキの父親をダブらせて。


 アカツキはアカツキ。アカツキの父親はアカツキの父親。

二人は違うのだと、最後まで気づかずに。


「のう、三嶋 結」


 ワシは足元に転がるに話かける。

返事はなく、地面を赤く染めていくのみ。



◇◇◇



【暁side】


「本日昼頃、路上でバタフライの急襲部隊第二隊隊長である三嶋結さんの遺体が見つかりました。目撃者はおらず首を捻切られいることから魔物の仕業とみられ……」


 ようやく体が動くようになった俺は、個室から大部屋へと移動したのだが、隣のベッドの人のテレビを見て驚く。

一瞬ほのかかルスカを思い浮かべるがすぐに頭を振ってかき消す。


 ルスカにはまだ話をしていない。それで、ほのかがとも思ったがほのかの“真封”では、首を捻切るなんて無理だ。


 やはり魔物のせいかと、俺は人一人死んだのにどこかホッとしていた。


「アカツキ、来たのじゃー」


 いつもの時間にルスカが見舞いにくる。その表情はいつもと変わらずルスカを隣に座らせると馬渕が見舞いに持ってきてくれたリンゴを剥いてやる。


 隣ではまだニュースの続きをやっているのだが、ルスカは気にも止めていないようだ。


「寝てなくてよいのか?」


 心配そうに俺を見てくるルスカに俺は優しく撫でて大丈夫と言ってやる。

違うよな、ルスカ。お前じゃないよなと、問うような目で。


 それから三日ほどして、警察を伴ってバタフライの人間が俺に話を聞きに来た。

もちろん、あれだけ俺が殴られる目撃者がいたのだ、疑われても仕方ないのだが俺は動けない。

すぐに疑いは晴れて俺の所に話を聞きに来ることはなくなった。


 俺の見舞いには毎日、三田村も来てくれた。俺に代わりほのかやルスカの面倒も見てくれた上に、入院で行けない学園の話をしてくれた。


 俺が抜けても馬渕の成績はそれほど変わらず、気にするなと言われたが俺の役目が無意味だと言われているようで少し寂しい。


 更に時は過ぎて、俺は退院が決まり手続きを行っていた。入院費は痛いが母さんの頑張りで滞ることなく、支払え終えた。

母さんに礼を言うと、添い寝一週間でいいと言われて丁重にお断りした。


 平日ではあったが、三田村やほのかも学校を休んでルスカと迎えに来てくれた。


 学園に戻れば色々聞かれると思ったが、そんなことはなく平穏な日々が続く。

ワームの出現もあるものの、三嶋が落とした評判を挽回するべく、バタフライの奮起により、アッサリと片付けられる。


 そして、約三年の月日は流れ、俺は今日学園を卒業するのだった……



一章、完。

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Cross point~世界を追い出された幼女(ロリ)賢者と最弱の真封(まほう)使い~ 怪じーん @kaijiin

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